尻軽男は愛されたい

田原摩耶

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メンヘラ

05

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 まさか、俺ではなく相馬が追い払われるとは。
 愛斗が日頃恋人より友人を優先させるようなやつだと知っているからこそ、驚いた。
 少なくとも、相馬は特にだ。大体こいつらは一緒にいることが多い、だから今回も俺が追い返されるものかと思っていただけに。
「あ、俺?」と一瞬驚いたように目を丸くする相馬だったが、すぐにいつもの能天気な笑顔を浮かべる。

「あーわかった。古賀、お前もしかして俺に妬いて」
「さっさと行け」
「なんだよ。木江がいるから俺は邪魔だって? つれねえな。古賀の馬鹿! 馬鹿古賀!」

 駄々こねる相馬に対して愛斗の仏頂面は変わらない。それどころか心底面倒臭そうに舌打ちする愛斗。
 もしかしなくともあれだ、これは俺を取り合ってる二人の図ではないか。これだから人気者は困る。
 が、このままでは埒が明かないので助け舟を出してやることにした。

「つーか別に相馬いてもよくね? それとも、なに。やましいことでもあんのか?」

 これはちょっとした意地悪のつもりだったが、どうやら愛斗には効果覿面のようだ。ただでさえ穏やかではない愛斗の顔がみるみる内に渋いことになっていく。
 まじで嫌なときのやつじゃん。

「俺は相馬に言ってんだよ。いちいち口挟んでくんじゃねえよ」
「なんだよ、口がついてんだから挟んでもいいだろ」
「ああ?」

「おいおい、朝っぱらから痴話喧嘩やめろって」

 そう顔を突き合わせる俺たちの間に入り、相馬は愛斗の肩を掴んで止める。
 何故か今度は俺と愛斗を宥める相馬という図になってしまっていた。どう考えても愛斗のせいだ。いや、茶化す相馬のせいでもあるか。

 深くため息を吐いた愛斗はそのまま真っ直ぐにこちらを睨んできた。

「お前と二人で話したいことがある。……これでいいだろ」

 言われたから言いました感を隠すつもりはないようだ。俺から視線を外した愛斗は短く吐き捨てる。
 最初からそう素直になればいいものを。そう少し頬が弛んだが、いや待て。……ちょっと心当たりがありすぎるな。

 ――まさか、相馬とのことがバレたのか?
 いやまさかな、と思いながら相馬をチラリと見れば、相馬は全くこちらを見ようともせず「おお、古賀もそういうこと言うんだな」と的外れなことを言ってた。
 こいつのこれも演技なのか、ただ本当に何も考えていないだけなのか判断しにくいので困る。

「わかったらさっさと行け」
「わかった。わかったからんなに睨むなって。……んじゃーな木江、また学校でな」
「……おー」

 愛斗に睨まれ、相馬は手を振りながらそのまま先を歩いていく。すぐ途中で別の友人と合流してる相馬の後ろ姿を見送りつつ、渋った割に今度はあっさりと身を引く相馬に一層あいつの謎が深まった。


 そんで相馬が立ち去った後。
 お望み通り俺と愛斗の二人きりの状況が出来上がったわけだが。

 登校中の同じ制服姿の人間は人の顔を見るなり道を変えてくれるおかげで邪魔が入ることはない、が、ムードがあるとは言えない。
 正直俺としては色々愛斗に言いたいことは山ほどあるが、こうしてこいつの顔を見てるとそれだけでいくつかの文句は自然消化されていくので不思議だ。だとしても土下座させたい面ではあるが。

「お前、相馬と仲よかったっけ」
「まあ、同じクラスだし。つか、二人っきりってここでいいわけ?」
「いい、別に。長話するつもりはねえし」
「はあ?」
「てか、お前学校来てねえだろ」
「行ってるし。つか、相馬と学校の話したくて呼び止めたのかよ」

 他に言うことねえのかよ、と焦ったくなって愛斗の腹を殴ろうとして、そのまま腕を掴まれた。硬くて力強い手に少し心臓が反応した。思わず目の前の愛斗を凝視したら、愛斗はそのまま無言で手を離す。
 なんでだよ、抱き締めろよ。「ごめん、寂しい思いさせて」とか言って機嫌取りの一つくらいしろよ。
 実際されたら顔面の形変えさせたくはなるだろうけど、しろよ。

「……なんだよ」
「昨日、学校休んだろ」
「は? ……あー」

 いや行ったわ、って言いかけて、思い出した。
 此花に会いに行ったのは放課後だ。
「いや、てかなんで知ってんの」と詰めれば、しまったと言わんばかりに愛斗は顔を顰める。なんでだよ。

「もしかして、心配した?」
「……」
「俺が凹んでんじゃねーかって? 心配して教室まで会いに来てくれたわけ?」
「……」

 チッ、と舌打ちして人に背中を向けようとする愛斗の正面に回り込む。逃すか、と「言えよ」と胸を叩けば、愛斗にそのまま首根っこを掴まれて引き剥がされる。

「いいんだよ、そんなことはどうでも」

 よくねーし。全然よくねーし。
 全然根に持ってやるからな、と念を送りながらも俺は大人なので折れてやることにした。愛斗のやつ、素直に謝ることができねえからな。
 ふん、と腕組んでほくそ笑んでやれば愛斗は「うぜえ」と吐き捨てる。うぜえくはないだろ。
 
「で、なんだよ。話って」
「……」

 ちら、と辺りを見渡す愛斗。なんだ?と釣られて辺りを見渡したとき、いきなり愛斗に腕を掴まれる。
「なに、いきなり乱暴か?」と顔を上げたとき、そのまま近づいて来る愛斗の顔。まじか、と一瞬固まった時。

「……あんま相馬に近付くな」

 増えてきた通行人とその喧騒の中、やけに愛斗の声がハッキリと聞こえた。
 キスされんじゃないかと思ったが、全然違った。俺に耳打ちした愛斗はすぐに俺から手を離す。
 キスじゃねえのかよ、と落胆するよりもその告げられた内容の咀嚼に時間がかかった。

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