尻軽男は愛されたい

田原摩耶

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噛ませ犬

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 相馬のことだから拒否ってくると思ったけど、案外素直に今度は対面でやり直すことになった。けども、流石に硬いコンクリートの壁と立ちっぱなしは俺の体が死ぬ。あと、普通にこいつ一回がしつこすぎて体力が全て持ってかれた。

 抱き抱えられたまま乳首を噛まれて嬲られて正直、死ぬほどよかった。
 人が来そうになってようやく相馬は止まったが、多分誰もこなかったらずっとやってたかもしれない。それくらい相馬の底なしの体力には度肝抜かれたが、正直どこまで出来るから試したい気持ちもあった。怖いもの見たさではあるが。
 不完全燃焼ではあるが出すもの出してスッキリ――するわけない。
 もやもやむずむずとしたものを下半身に残したままの俺とは対照的に相馬は普段と変わらない。何事もなかったような顔をして着替えた相馬は「いつまで座ってんだよ」と階段の段差から動けなくなってた俺に声をかけてきた。
 普段と代わりないその笑顔が憎たらしく見えるのは気のせいではないだろう。


「……足に力が入んない」
「なに、俺のせい?」
「お前の他に誰がいるんだよ」
「ふーん、そりゃ大変だな」

 全然心が篭ってねえ。
 ごめんくらい言え、とじとりと見上げれば、相馬は何を勘違いしたのかこちらに手を差し出してきた。

「なに」
「ほら、立てないんだろ? 部屋まで連れていってやるよ」
「…………」

 そっち手コキした方の手じゃね?と思いながらも、せっかくなのでその好意に甘えてやることにした。

「変な歩き方」
「誰かさんのせいでな」
「俺のデカかったから?」
「自分で言うな」
「はは、否定はしねえのな」

 何でお前いつも通りなんだよ。少しはもじもじしたり照れたり、いやせめてちょっとくらい申し訳なさそうな顔しろ。
 ムカついた矢先、よろめいた体を相馬に支えられる。

「……どーも」
「キュンとすんなよ」
「してねえっての……っ、誰がお前みたいなアホ相馬に」

 相馬は「だよな」と笑い、そのまま肩を抱かれるみたいにしてエレベーター乗り場まで引きずられる。

 そして相馬に支えられたまま乗り込んだエレベーターの箱内。「何階?」と聞いてくる相馬の代わりに腕を伸ばしてボタンを押した。動き出す機内の中、静かに時間が流れていく。
 非常階段同様電灯が切れかかったそこは薄暗く、視界全体がチカチカと明滅するのがやや鬱陶しい。
 いい加減電灯交換しろよ、なんて思いながら天井を眺めていた時。

「木江って、なにも言わないんだな」

 エレベーターの壁にもたれかかったまま相馬はこちらを見ていた。

「なにそれ、俺が無口ってこと?」

 言ってる意味がわからず聞き返せば、相馬は「ちげーよ」と笑った。

「口止めとか、しなくていいわけ? そういうの」

 こでそようやくその言葉、相馬の笑顔の意味を理解した
 どうやら俺は、相馬に「愛斗に言ってもいいのか」と脅されているらしい。本当、アホなやつだと思う。こいつは。俺と何年一緒にいるんだよ。それとも、分かってて聞いてんのか。

「つか、する必要ねーじゃん」

 愛斗にバレて困ることもないし、やましーこともない。というか、少なくとも愛斗は俺の性格のことを理解してる。つか、知ってる。分からせた。
 それに、そもそもの話だ。口止めなんかして自分から弱味を見せるような真似もしたくない。
 笑い返せば、相馬の顔から笑顔が抜け落ちた――ような気がした。
 それも一瞬のこと。気を取り直した相馬は、「そ。ならいいわ」と俺から顔を逸らした。


 相馬がどういうつもりで聞いてきたのかわからなかったが、俺の返答を聞いて諦めたのか、それとも呆れたのか。それ以上そのことについて触れてくることはなかった。

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