尻軽男は愛されたい

田原摩耶

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噛ませ犬

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 目の前には壁。そして背後には相馬。
 こんな嫌な陣形があっただろうか。少なくとも俺にとっては間違いなく今がそれだ。
 背後から覆いかぶさってくるように下半身に伸びてくる相馬の手。筋肉質な腕は俺の腰を抱き、腹部を弄る。

「……やだって、相馬」
「なんで?」
「だから、この体勢……」

「嫌い?」と尋ねられ、小さく頷き返せば相馬は「んじゃこのままヤるわ」と笑う。
 この野郎。まじで。

「性格悪……っ」
「木江ほどじゃねえけど。……ほら、大人しくしろって」
「く、そ……っ」

 調子に乗りやがって。抱かせてやってんのは俺なのに、なんで気付けば相馬に追い詰められてんだ。
 舌打ちすれば、「臍曲げんなよ」とクスクス笑いながら相馬は俺の後頭部を撫でる。大きな掌はそのまま片手で人の頭を鷲掴み、そして。

「暴れたらうっかり手が滑るだろ?」

 こいつ、と青ざめるのと目の前の壁に頭を押し付けられるのは同時だった。
 乱暴にベルトを引き抜かれたと思いきや、そのままスラックスを足元まで落とされる。パンツだけになった人のケツを撫で、相馬は小さく笑う。

「処女じゃねーんだから、今更ぶんなよ。……それとも俺のためにやってんのか? それ」
「……んなわけねーだろ、馬鹿相馬」
「そうか、そりゃ残念だ」

 お前そういうのが好きなのか?と思ったが、今まで俺はこいつの性的嗜好など一切聞かされてなかった。だって全然興味なさそうだったし。
 けど、こいつの態度・言動はどう考えても俺と相性最悪である。間違いない。つか、相手が相馬だから余計。

「一発出したらやめてやるよ、この体勢」

 クソサド野郎が、と背後の相馬を睨むこともできなかった。
 落ちてくる声。その声は今まで聞いたことのない声だった。

 誰にでも二面性だの秘めたる部分はあるとはよく言ったものだが、それにしても限度というものがあるのではないか。

「ベラベラよく喋るな……ヤる時うるせぇ男はモテねえぞ」
「そりゃありがてえご享受だな。……お前もその舌、うっかり噛まねえように気をつけろよ」
「……っ、余計なお世話だっての……」

 そのまま尻を撫でるように相馬は俺の下着を脱がしていく。寒いのに、熱い。背後の相馬の視線が下半身に絡みつくみたいで落ち着かない。
 今更自分に羞恥心などあるのかと思っていたが、割りと普通にあったらしい。見えないからこそ余計相馬の一挙一動を全神経で追いかけてしまう。

 骨張った指が直に尻たぶに触れる。感触を確かめるように直接揉まれ、そのまま谷間を広げられて息を飲んだ。

「お、尻の穴締まった」
「……いちいちそういうこと言わなくていいんだよ」
「照れてんのか? 耳まで赤くなってんな」
「……っ、相馬……」
「木江、お前にも恥じらいとかあるのか」
「人のことなんだと思って……っ、ぅ……」

 膨れた肛門の縁を撫でられ、ひくりと喉が震える。唾液で濡れた指先はそのまま口をこじ開けるように中へと入ってきた。
 長くて、男っぽい指。今まで意識してきてなかった友人の男の指を今更思い知らされている。
 やっぱこいつ、指ごっつ……。つか、長えし。

「ここに挿れるの、俺で何人目?」

 そしてこのデリカシーのなさ。ここまでくると安心すら覚える。

「いちいち考えるわけ、ねえだろ……っ、馬鹿……っ」
「んだよ、馬鹿は言い過ぎだろ。……んじゃま、俺のは頭にしっかり入れておけよ。木江」

 そんなこと言われなくても嫌でも覚えてるに決まってんだろ。
 俺は背後の相馬を睨みつけ、笑った。

「……自惚れんな」

 そう返すことはちょっとした嫌がらせのようなものだった。相馬は、は、と短く息を吐くようにして笑い、そのまま尻の穴に性器を押し付けてくる。

「なに、もっと丁寧に慣らしてくんねえの?」
「別に初めてじゃねえんならいいだろ」
「……っ、余裕なくなっちゃったんだ?」
「お前がさっさと挿れろって顔してたから」
「人の、せいに……っ、ん、ぅ……」

 ぬるりと先走りを塗り込むように亀頭が尻の穴に擦り付けられる。熱、つか、でけー。トイレで何回か見たことあったけど、勃起してるときと正常時ではやっぱり比べ物になんねえわ。
 そのままぐぷ、と音を立ててケツの穴広げるように頭埋め込んでくる相馬。その大きさと熱に背筋が震えた。自然と呼吸が浅くなる。鼓動の間隔も、一緒に。

「っ、は、そ、うま……っ、ぅ、あ……っ」
「処女扱うときみたいに優しくした方が良いか?」

 チンポ数センチ挿れといて、このタイミングでわざわざ聞いてくるかよ。普通。
 わざわざ人の顔を覗き込んでくる相馬にムカついて、俺は相馬の唇に噛みつく。

「いって……っ」
「……っ、いいから、さっさと腰振れ……」

 天井からぶら下がった電灯はチカチカと点滅を繰り返す。唇の端を赤くした相馬は舌で舐め取り、そして「後で泣いても知らねえから」と笑って着ていたジャージを脱ぎ捨てた。せめて畳んで汚れないようにしとけ、という俺の心優しい忠告はすぐに勃起チンポに掻き消されることになった。
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