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第三章
08
しおりを挟む馬鹿馬鹿しいやり取り。
真似事のような応酬を繰り返してるだけで頭がおかしくなりそうだった。
それでも着実に出歩ける範囲は増えていく。鎖も長くなっていき、選択肢が増えていく。
それでもまだだ。念には念を入れなければならない。
俺の頭の中には如何にしてこの男に兄が味わった屈辱を晴らさせることを考えることでいっぱいだった。
いつものようにベッドの中で目を閉じていると、花戸が部屋へと入ってくる気配がした。
起きてもよかったが、瞼を開くタイミングを失ってしまい結局狸寝入りのような形になってしまう。
近づいて来る足音はベッドの側で止まり、それから微かにベッドが軋む。花戸がベッドに潜り込んできたようだ。
「……っ」
寝込みを襲われることは別に初めてではない。
けれど、なんとなく緊張した。薄い瞼越し、花戸が顔を覗き込んでいるのを感じる。
そっと唇になにかが触れたと思えば、そのまま撫でるように頬に何かが触れる。指、だろうか。
ぴくりと無意識に反応してしまい、花戸の指が離れた。それから間も無くして規則正しい寝息が聞こえて来る。
「……、……」
しない、のか?
この男が?
正気か?それとも体調不良かは知らないが、この部屋に入ってくるときは大抵俺を抱く時か食事を与えにきたときだけだっただけに戸惑う。
かと言って目を開く勇気もなく、俺は寝返りを打つフリをして花戸に背中を向けた。
「……」
惑わされるな。油断をするな。
そう自分に言い聞かせながらも神経を張り巡らせている内に眠りに落ちてしまったようだ。
次に目を覚ました時には隣に花戸の気配はなかった。けれど、ほんのりとした熱がそこに残っていた。
遠くから聞こえて来るのはシャワーの音。
どうやら朝風呂でも浴びているようだ。良いご身分だ。口の中で毒づきつつ、俺は重たい瞼をこじ開けてそのまま体を起こした。
また、花戸との一日が始まる。
曜日感覚はとうに失っていた。それでも端的に入ってくるニュースの情報などを頭の中に叩き込み、大体何曜日くらいだと理解するようにはなっていた。
ここに来て既に一月は経っていた。両親もいい加減花戸の家に入り浸り過ぎではないかと心配してもおかしくない。学校だって、いくら兄のことがあったとはいえ心配くらいはするはずだ。
今日は休日。部屋の扉を開けば花戸がキッチン立っていた。
「間人君」
「……兄さん、おはよう」
「おはよう。まだ寝ぼけ眼だね」
「……ああ」
「朝食、今日は僕が準備するから顔を洗ってきておいで」
分かった、と答える代わりに頷く。
腹立たしいことにこの男を兄さんと呼ぶのにも慣れてきた。とはいえ言葉が突っかからずに出るようになっただけで抵抗はある。この抵抗がなくなったらいよいよだが。
休日、花戸が『許可』した日は手錠と足枷が外され、部屋の中であれば自由に行き来することができるようになった。
こうして花戸が料理してる最中、俺はこの家の間取りについて調べていた。
学生の一人暮らしにしては持て余した4LDK。その内の一部屋は俺が閉じ込められている。そして他三つの部屋らしき扉を見つけたが、それぞれの扉には鍵がかかっていた。
浴室や洗面台を見たところ殆ど日常的に使われてる形跡はなく、俺が使う分の備品が置かれているくらいだ。
質素だったリビングも、俺と花戸がよく居ることが多くなってからかいくらか物が増えたくらいだ。それまでは最低限のソファーやテーブル、冷蔵庫があるくらいだったが、今はテレビやクッションが増えている。そしてそれは花戸自ら用意していた。
洗面台でさっぱりしたあと、リビングへと戻ればテーブルには二人分の朝食が置かれていた。
焼かれたパンの匂いに空腹が刺激される。
「有り合わせでごめんね。買い物が間に合ってなくて」
「……別になんでもいい」
「気を遣わせちゃっかな? ありがとう、間人君」
相変わらず会話が噛み合っている気はしないが、それよりも花戸の言葉が引っかかった。
確かに毎回知らぬ間に冷蔵庫には食材が足されていたが、花戸も忙しかったのか。
そんなことをぼんやりと考えながら、とにかく頭に栄養を持っていくことにする。
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待ってました!!
この先どんな展開になるのかすごくたのしみにしてます!!😺
花戸がサイコパスで鬼畜すぎて、、人間じゃない!!!最高ですᐠ続き楽しみにしてます!更新頑張ってください!!
サイコパス攻めとブラコン受けいいですね〜👍