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CASE.08『デート・オア・デッド』

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 寝て、起きたら隣ではナハトが目を瞑っていた。寝ているのかと暫く眺めていたら起きてたらしい、「なに見てんの」とキスをされ、また変な空気になりそうになったところで「俺、シャワー浴びてきます!」となんとか風呂へ逃げることができた。
 まだ腹の中にナハトのものが収まってるようだ。むずむずする。

 ……結局、最後までしてしまった。
 今度こそ流されてはダメだと思ったのに、俺は。
 また落ち込みかけたが、油断するとナハトとの行為が蘇ってそれどころではなくなってしまう。
 結果的にナハトに助けられてはいるのかもしれない。
 けど、ナハトのいう俺らしいとはなんなんだ。

「……」

 あまり深く考えるのはやめておこう。多分、迷宮入りしてしまうだろうから。




 熱めのシャワーで汗諸々を流し、さっぱりした気分で風呂を出れば、リビングにはナハトがいた。手元のタブレットで何やら色々見てるようだ。お仕事のことだろうか、と思えば普通に漫画を読んでいた。

「ナハトさん……あの、今日お休みなんですか?」
「今は、って感じ。このあと呼び出しかかったらすぐにでも出かけるけど、もうちょい一緒にいられると思う」
「! そ、そうですか……」
「それってどういう反応?」
「ナハトさんが一緒にいられて嬉しいで……す」
「何、その間」

 やはり、ナハトさんには隠し事や誤魔化しは聞かない。
 観念し、俺はナハトの隣に腰を下ろす。濡れた髪から落ちかける雫を慌てて被っていたタオルで拭い、そのまま視線を自分の膝に落とした。

「あの、もしかして……他の監視役の方がその、色々俺の後始末に追われて離れられないからナハトさんが代理なのではと考えてしまって……」
「まあ、正解」
「え゛」
「……なんて。俺も待機中ってだけ。それと、あいつ――無雲だっけ? あいつも今ボスと“面談中”だから」
「……っ」

 無雲さん――もとい、スライさん。

「良平。あいつのこと、何か聞いた?」
「え? えと、能力とか……少しだけですが」
「……それだけ?」
「えと、本人からはそれくらいですかね……?」
「ふうん」
「あの、それが何か……」
「別に」

 嘘だ。今の質問と反応は絶対に他に何かがある時のやつじゃないか。
 ナハトさん、と思わず前のめりになろうとして、ナハトは手にしていたタブレットをテーブルに避難させる。

「他の男に興味を持つなって言わなかったっけ? 俺」
「きょ、興味ではないです! ……それに、今のはナハトさんから無雲さんの話題を出してましたので」
「何その反応、生意気」
「な、生意気でもいいです。……無雲さん、何かあったんですか?」
「……」

 じっと俺をまっすぐに見つめていたと思いきや、すぐにぷい、とそっぽ向くナハト。どうやら言うつもりはないらしい。守秘義務もあるしナハトはその辺の公私混同はしないタイプだ。分かりきってはいたし、そんなナハトの真面目な部分も好ましく思っていたが……寂しくはある。不安もある。

「聞きたいなら本人の口から聞けばいい。……それか、ボスから直接」
「む、無茶です……」
「そうだね。アンタは暫く謹慎だから。まあ、あいつがお前の見張りに復帰できたらの話だろうし」

 そう笑うナハトはどことなく楽しそうだ。

「……それにしても、あいつが『無雲』だったとはね。確かに、正体不明の方が良かったかも」

 確かに、ナハトは一度無雲の別の顔と面識はあった。――あまり良くはない出会いではあるが。

「ナハトさんもお話ししたんですか?」
「少しだけ。色々。引き継ぎ不足だったアンタのことを主に」
「……っ、お、俺のこと、ですか……」
「『今までどうやってあの子のこと止めてたんです?』だって」

 色々思い出して首から上に熱が集まった。

「正直、あいつの能力があって助かった。寧ろ、俺がほしいくらいだね」
「……ナハトさんにもほしいものがあるんですね……」
「アンタが暴走した時用に」
「う、す、すみません……」

 チクチクと刺される度に顔を上げられなくなる。他に無雲から何を聞いたのか気になったが、恐ろしいと言う気持ちの方が大きかった。


 それから暫くナハトと一緒にだらりと過ごすことになる。少しでも俺が部屋から出ようとする度に飛んできた拘束用の縄で縛られて寝室まで引き摺り込まれては足腰が立たなくなるまでナハトに泣かされる羽目になるため、その内扉から出ることを諦めた。あと玄関に近寄らないようにもなった。
 ナハトが用意した食事を食べて、体が鈍ってしまわないように適度に運動しつつ、今後のことも考えた。

 紅音の無事だけでも分かれば大分違うのだろうが、ナハトには紅音のことを聞けるような雰囲気ではない。一緒にいる時のナハトは優しくはあったし、俺のことを慰めてくれたりもした。けど、今回の件に口出そうものなら目つきが変わるし「は?また何か企んでんの?」と自白剤を打たれかねないのでここは大人しくしておくしかない。
 そう、ナハトや兄さんが許してくれるまでだ。
 そして、この部屋から出られるようになったら……皆に改めて謝りに行こう。その時持っていく菓子折りの下調べをしつつ、俺はナハトとの時間を過ごすことにした。

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