ヒーロー志望でしたが、手違いで三食宿付きヴィラン派遣会社に永久就職(?)することになりました。

田原摩耶

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CASE.08『デート・オア・デッド』

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「えーっと、その、それでですね……」
「で、そのまま墓穴掘っちまったと」
「そ……その通りです」

 一通り説明をすれば、ノクシャスは眉間の皺を深くする。俺にも段々わかってきた、この顔は『またか』って顔だと。

「けどまあ、お前の言うことには一理あるけどよ。……そもそも、お前、この間もナハトと出かけてなんか問題起こしたばっかじゃなかったか?」

 てっきり怒鳴られるのではないかとビクビク怯えていたが、思ったよりもノクシャスは冷静だった。そりゃあもう、痛いところを突いてくるほど。

「……敵襲というか、ハプニングが少々」
「んで? 今回も懲りずに出かけるつもりかよ」
「う、その、会社にいると仕事のことを思い出してしまうかなと……やっぱり難しいですかね」
「難しいもなにも、俺からしてみれば『余計な仕事を増やしてんじゃねえ』だけどな」
「そ、そうですよね……」

 がっくりと肩を落とす。いや、落ち込んでる場合ではない。紅音にああ言った手前、また別の方法を探すしかない。

 社内で落ち着ける空間探す?
 ……どっかの施設には本物と見紛うようなバーチャルシアターがあるという話も社員たちの会話から聞いたこともあるが、それを活かせば少しは現実から遠ざけることもできるのか……?

 なんて、うんうん一人で考え込んでると、ふとノクシャスがじとりとこちらを見てることに気づいた。

「そもそもあいつはなんて言ってるんだよ」
「え?」
「あいつ……ナハトだよ」

 まさかここでナハトさんの名前が出てくるなんて。
 一瞬言葉に遅れた俺に全てを悟ったようだ。ノクシャスは目を見開く。

「おま、まさか言ってねえのか」
「え、えーと……まあ……」

 ナハトはナハトで忙しい時期だろうし、そもそも逐一報告しては「なんで俺に報告するんだよ」と鬱陶しがられるのではないか……などと言い訳じみた言葉を並べてはみるが、正直なところ絶対怒られるだろう。そう分かってたからこそその選択肢をそっと避けていた節はあった。

「予言してやろうか。ぜってーあいつブチ切れるぞ」
「そ、それは……」
「しかもあいつがトリッドのこと目の敵にしてるの、まさか忘れたわけじゃないだろうな」
「で、ですけど、一応仕事ですし……」
「仕事なぁ……」

 そう、別になにもやましいことはないのだ。けれど、ナハトに隠れてトリッドと会うことに謎の後ろめたさを覚えてる自分もいた。
 ……浮気してるわけではないのに。

 俺が縮み込まっているのを暫く眺めていたノクシャスだったが、やがて口を開く。

「……仕方ねえ、俺も協力してやるよ。その『デート』に」
「え……?」
「知り合いが経営してる遊園地がある」

「仕事がねえ奴らに飯食わせるためにうちの社員をスタッフとして雇ってんだ。安全性も高いし話もつけやすい。新参者のあいつには言わなきゃバレねえよ」思ってもいなかったノクシャスからの提案に、俺は慌てて立ち上がる。そして腰を折り頭を下げた。

「あ、ありがとうございます! ノクシャスさん!」
「その代わり、俺も同行する」
「の、ノクシャスさんが……?」
「あー……安心しろ、邪魔はしねえし見つからねえようにする」

「ナハト程じゃねえが俺だって隠れるぐらいはできるからな」と少しだけ得意げなノクシャス。
 渡りに船、とはまさにこのことだろう。けれど、このまま全部ノクシャスに甘えてしまっていいのかという躊躇いもあった。

「い、いいんですか……?」
「元よりあいつの監督責任は俺にもあるからな。……それに、お前ら二人だけにして何かあったときどうするつもりだ」
「ありがとうございます……っ! でも、ノクシャスさんお忙しいんじゃ……」
「だからそのついでだ」
「……ついで?」
「下手にチョロチョロされるより目の届くところにいてもらった方がありがてぇって意味」
「の、ノクシャスさん……」

 ありがとうございます、ともう一度頭を下げれば、「その代わり、あいつことは頼んだぞ」とノクシャスは小さく付け足した。
 その一言に思わず顔をあげれば、ノクシャスは顔を反らしたままボリボリと前髪を掻き上げる。

「……クソ、ボスになんて説明すりゃ良いんだ?」

 今すぐ抱き着いて感謝の意を伝えたいところだが、ノクシャス本人はそれどころではなさそうなのでぐっと堪えた。
 仕事とは関係ない、とは言ったが、これは俺の任務でもある。ノクシャスに任せられた任務だ。
 期待に応えられるように頑張らなければ、と人知れず心を燃やしつつ、俺はノクシャスさんに感謝のXXXLサイズのピザを注文することにした。それも一瞬でノクシャスさんの口に消えたのは言うまでもない。



 ノクシャスから遊園地のことは聞いたあと、俺もネットで色々調べた。
『パニッシュメント・デス・パーク』、通称パニパ。もしくはPNP。
 邪悪の化身であるマスコットキャラ・アビズ丸が女子の中では人気が高いだとか、家族連れから若者に人気だとかそんな地上の遊園地と相違ない内容が掲載されていたが、なんとしても目玉は実際に処刑や拷問を体験できること!……らしい。
 この時点で俺はページを閉じかけたのだが、ノクシャスさんやうちの会社とも関わりがあるのならきっと良いところもあるはずだという思いでなんとか耐えた。

 ノクシャスさんは「見た目だけだ、派手なのは。実際中は女子供向けのテーマパークだからな」と言っていたが、あくまでもヴィラン限定だということを忘れていた。
 ……いや、俺もここにきて暫く経つ。いい加減この地下世界にも慣れなければ。

 ということで念入りにページを調べたあと、口コミサイトやSNSで検索して評判を調べてみる。
 ノクシャスの言った通り、ファミリー層や学生からの評判が多かった。血みどろの液体被った笑顔の子供の写真を見たときは失神しそうになったが、どうやらそういうアトラクションのようだ。

 ……なら大丈夫か。
 と思ったとき、ふと気になるコメントを見かけた。

『PNP最近客層変わった?』
『パニパって昔から変な噂あるじゃん。よく皆行けるね。』
『パニパ行った友達が帰ってこないんだが……』

 どれも別々のアカウントだし、どうやら一般ヴィランの投稿だったがなんだか不穏なものを感じた。
 ネットで検索したときもちらほらと黒い噂も見かけたが、よくあるデマや印象操作の投稿かもしれない。実際、大方は楽しんでる声の方が多かった。
 それに、テレビで特集されるような有名なテーマパークだ。信用……できるのか?というか、ヴィランに人気っていうのなら黒い噂は本当だった方が良いのか?
 そんなことをぐるぐると考えながらも、時間を縫って当日までに念入りにノクシャスと打ち合わせをした。
 ノクシャスに思い切って噂のことも尋ねたが、ノクシャスは「お前はそんなことは気にしなくていい」としか言ってくれないのだ。

「とにかく、目的はお前とトリッドを遊ばせることだ。そうだろ?」

 なんて、逆に説得までされる始末だった。
 確かにその通りだ、と丸め込まれつつも、とにかく俺は紅音との休日を過ごすことに集中した。

 そして数日後、作戦決行日はやってきた。

 紅音に会いに行く前、ノクシャスが俺の部屋へとやってきた。

「準備は大丈夫か、忘れ物は?」
「は、はい。問題ありません」
「……って、ガチガチじゃねえか。ちゃんとシミュレーションしてるから大丈夫とか言ってなかったか?」
「ええと、その、シミュレーションに力を入れすぎてしまって」
「……まさか、眠れなかったとか言わねえよな」

 ワントーン落ちるノクシャスの声。
 恐る恐る頷き返せば、ノクシャスは呆れたように息を吐いた。

「ガキかよ」
「う、俺もそう思います……こんなにドキドキして眠れなかったの、小学校の遠足以来です」
「そりゃ良かったな。テメェはただでさえ生身なんだから、あんま無茶な真似すんじゃねえよ」
「は、はい……!」

 あくまで今回の主役は紅音であり、俺は付き添いなのだ。
 取り敢えず、乗り物系には気をつけないとな……と思いつつ、着替えと支度を済ませた俺はふと連絡用端末にメッセージが入ってることに気づいた。

 ――無雲だ。

「あ? なんだ?」
「えと、一応今日の表向きの護衛が無雲さんになってるみたいで……」
「無雲……あー、あいつの後釜か」

 今日はノクシャスは表向き特別任務扱いとなっていて、俺の護衛は無雲ということになっていた。

「あの、念の為ノクシャスさんもいるってこと、無雲さんに伝えた方がいいでしょうか」
「必要ねえだろ。やることは一緒だ。それに、本当に腕利きの野郎なら即気付くだろ」

 そうボトルに入ったコーラを一気にがぶ飲みしたノクシャスはそのまま空になったそれを捻り潰し、ダストボックスへと投げ入れる。
 ノクシャスはどうやらあまり無雲のことは信用していないらしい。ナハトも疑っていたが、やはり素性がはっきりしない相手は信用できない、ということなのだろうか。

 とまあ、そんな会話を交えつつ、俺は準備のため先に出るノクシャスを見送り、その後紅音との待ち合わせ場所でもある社員寮のフロントへと向かうことにした。

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