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CASE.07『同業者にご注意』
24※【嫉妬/誘い受け(勘違い)】
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兄の一言により、ナハト、ノクシャスが出て行った後。部屋の中には兄と俺の二人だけが残ることになった。
早かれ遅かれこうなることは分かっていたはずだけど、やはりいざその時が来ると緊張してしまう。
「あの、兄さん……」
「そうだな、色々俺に聞きたいことがあるんだろう?」
俺の視線に気付いた兄は、「俺も同じだ、良平」と微笑むのだ。俺の頭の中でも覗き見たというのか、その言葉と笑顔にぎくりとした。
「一先ずお前が言ったように彼らは捕縛し、現在は眠らせている。準備が整い次第、話を聞かせてもらうことになるだろうな」
兄の言葉に、ECLIPSEの皆の無事が分かって「よかった」と思わず口からぽろりと溢れてしまう。そんな俺の言葉に「よかった、と来たか」と兄は目を細めた。
しまった、と慌てて口を抑えたときにはもう遅い。兄は真っ直ぐにこちらを見据える。
「次はお前の番だぞ、良平。――その安堵の理由を聞かせてもらおうか」
「わ、わかり……ました」
ここまできたら腹を括るしかない。
俺は深呼吸をし、兄――この会社のトップである男と対峙することとなった。
カノンから聞いたまま、ECLIPSEの事情を兄へと説明する。ベッドに腰をかけたまま、兄は黙って俺の話を聞いていた。
けれど、話している間その硬い表情が変わることはなかった。
「だからその、確かに今回のスパイ行為は許されないかもしれないけど……」
「できることなら見逃してやってほしい」
「……!」
「それとも、お前のことだ。再雇用して安定した収入を得られるようにしてやってほしい、か?」
俺の思考を先回りしてくる兄に驚いた。
サディークのように思考を読み取ってるわけでもない。どうして、と顔をあげれば、兄はなんとも言い難い顔をして俺を優しく見つめるのだ。
「お前は本当に昔から優しい子だった。――ああ、心配になるほどな」
その言葉には咎めるような意が含まれているのが分かったからこそ、俺は余計なにも言い返すことができなかった。
「その故郷の状況については彼らが目を覚まし次第詳細を確認しよう。必要があれば実際に視察に向かわせる。そこまでするほど追い詰められているというのなら、とっくに金額では解決できるような状況ではない可能性もあるからな」
もしかして、許してもらえないのではないのだろうか。サディークたちにああ言った手前、もう俺の知っている兄ではなかったらと不安になっていたところに出てきた兄の言葉に思わず俺は顔をあげる。
「兄さん……! ありがとうございます!」
やはり兄さんは兄さんだ。ちゃんと気にかけてくれる兄の言葉が嬉しくて思わず飛びつきそうになるのを堪える。
そんな俺に、兄は「まだ話は終わってないぞ、良平」と苦笑を漏らした。そしてすぐ、レヴェナントの顔に戻るのだ。
「今回の件に関して、彼らの行為はこちらの信用を大きく傷つけた。いくらそこに目的があろうと、やったことには変わりがない」
「は、はい……」
「デッドエンドとサディーク、二人は曲がりなりにもうちの社員だった。そして洗脳されたわけでもなく自分の意志で自ら我々を裏切った」
「……俺が言いたいことがわかるか? 良平」そう問い掛けてくる兄は優しい口調だが、経営者でもある兄として何も思わないはずはないと分かっていた。兄の言葉に、俺は思わず言葉に詰まってしまう。
「一度失った信用を取り戻すのは難しい。それも、信用と信頼によって成り立っているこの会社では特に許されざる行為だ」
「……兄さん」
「最初から全て事情を話してくれていれば改善の余地はあっただろうが……そこまで手が回っていなかったのも事実だ」
そこまで言って、兄は「すまない、お前に聞かせる話ではなかったな」と小さく咳払いをする。
デッドエンドのことを気にしているのだろう、と思った。事の発端といえば、濡れ衣での不当解雇によりデッドエンドが恨みを募らせたことが大きなトリガーにもなってる。
話を聞く限り、それまではデッドエンドもここまで無鉄砲ではなかったらしいし……。
「どちらにせよ事情聴取は行うが、以前のまま復帰するのは難しいと思っておくんだな」
「……わかりました」
少なくとも当時を知らない俺からしてみればなにも言えた立場ではない。
それでも少しでもこんな危険な稼ぎ方をせずに済むのなら、と思ったが――やはり難しいのだろうか。
そう項垂れていると、兄にそっと頭を撫でられる。
「そんな顔をするな。うちの会社では、という話だ。
――まあ、それも彼らの態度次第だがな」
そう静かに付け足す兄に俺はがばりと顔を上げた。
このまま彼らが許されない可能性も考えていたが、兄は兄なりに考えてくれているのだ。従業員たちのことも、皆のことも。
「ありがとう、兄さん」と思わず抱きつきそうになり一度堪えたが、やはりいてもたってもいられなくてそっと兄の体に凭れかかれば、兄は小さく笑って俺を抱き締めた。
「いや、お前のお陰だよ――良平」
「兄さん……?」
「お前がこうして申し出て来なければ、俺はただのスパイとして処理していただけだった。……初心を思い出させてくれたのはお前だ、良平」
「……そう、かな」
「ああ、そうだよ。……が、今回は肝を冷やした。今度からはせめて一言言っておいてくれ、自分一人で突っ走るのも禁止だ」
「お前になにかがあれば、俺はここにお前を連れてきた意味がなくなる」そう抱き締める兄の腕に力が入る。スーツ越しでもわかる、何年も鍛え上げた腕は力強く、俺を離そうとしない。
「ごめんなさい、兄さん」とそのまま兄に凭れかかったまま、もう一度ごめんなさい、と呟いた。
兄だけではない、ナハトさんもノクシャスさん……一応モルグさんも、ここに来てこうして心配してくれる人ができたという事実がなんだか現実味がなく感じた。
そうか、俺のことを想ってくれてる人がいるのか。今までだったらあまり気にしなかったのに、不思議だ。
そんなことを思いながら、俺は兄の腕の中で目を閉じた。
「そういえば、良平」
「……うん?」
「話は変わるんだが、……以前話していた続きだ」
そのことについて聞きそびれていたな、と小さく咳払いする兄に釣られて顔を上げる。
なにか話していただろうか、と思い返してみるが色々ありすぎて心当たりしかない。
「話って?」
「――言っていただろう、好きな相手が出来たと」
兄の言葉を理解するのに少々時間がかかってしまったが、自白剤を飲まされたとき、確かに兄にそんなことを言っていたことを思い出した。それから怒涛のように色んなことがあったお陰ですっかり記憶の隅へと追いやっていたのだ。
――俺の馬鹿、いくら自白剤飲まされたからといって兄さんになんてことを言ってしまったんだ。
「に、兄さん……それは、その」
「あのときは状況が状況だったお陰できちんとした話は聞けなかったが、……確かイニシャルはNかMと言っていたな。一応聞いておくが、俺が知っている人物で間違いないのか?」
「あ、えと……」
どうしよう。言葉に詰まれば詰まるほど、肩を掴む兄の手が食い込んでる気がしてならない。
「に、兄さん、痛いよ……っ」
「あ、悪い。……そうだな、俺も大人げなかった」
「良平だってもう社会人だ、いつまでも子供じゃないんだしな」と珍しくごにょごにょと口ごもる兄。こんな歯切れの悪い兄は初めて見たかもしれない。
余程気になっていたのかもしれない。確かに、イニシャルだけ聞かされていたらそりゃ嫌でも気なるかもしれない。
だとすれば、これ以上兄を焦らすわけにもいかない。
「兄さん、あの、俺……」
腹を括った俺はベッドの上に正座する。そのまま兄に向き直ったとき、「ストップ」と兄に口を塞がれた。
「もご……っ!」
「悪い良平、俺から聞いておいてなんだが、やっぱりまた後でゆっくり聞こう。……この件が全て片付いた後な」
「もご……?」
「思ったよりも支障が出そうでな」
「お兄ちゃんの我儘だ、頼む」兄が自分のことをお兄ちゃんと呼ぶなんて、何年ぶりだろうか。あまりにも懐かしくなると同時に、ばつが悪そうな兄の顔を見てると頷くしかなかった。
俺も俺で命拾いした気分ではあったが、ただ先延ばしされただけ根本的にはなにも片付いていない。が、それはそれでよかったかもしれない。
それから早速ECLIPSEたちの様子を見に行くという兄を見送り、入れ違いになるようにナハトとノクシャスが部屋へと戻ってきた。
「おい良平、立てるか? ボスからお前を部屋に連れて行くようにと命令があった」
「つーわけで帰るぞ」とノクシャス。その隣にいたナハトが「なんでお前が言うの」とぼそりと吐き捨てた。
「ああ? なんださっきからお前はボソボソと」
「こいつの面倒だったら俺一人で十分だって言ってんだよ」
「そりゃこっちのセリフだ。……むしろ、お前は捕まえてきたやつらの事情聴取に回れよ。いつもだったらそういうの喜んで行くくせに」
「今回の担当は俺じゃないし」
「んだ、こいつ……」
部屋から出ていく前と険悪さは変わっていないどころかやや空気は悪化してるように感じてならない。
「まあまあ」と二人を宥めつつも、何故か二人に挟まれた状態のまま俺は社員寮の自室へと囚われた宇宙人のような体勢で連行されるのであった。
――社員寮、自室前。
「すみません、わざわざ送って頂いて……」
「当たり前だろ、それが俺の役目なんだし」
「ナハトさん……」
「俺“たち”な」
「あ?」
「あ、ふ、二人とも……」
なんで今日に限ってこんなに二人とも機嫌が悪いのだ。……いや、俺のせいか。思い当たる節がありすぎるだけに何も言えない。
相変わらず今にも掴み合いになりそうな雰囲気すらある二人にどうすればいいのかと右往左往していたときだった。不意にナハトがぴくりと反応し、それから連絡用の端末を起動させるのだ。
メッセージの内容を確認したナハトは大きな舌打ちをする。ノクシャスは笑った。
「お? お呼び出しか?」
「なに嬉しそうな顔してんだよ」
「してねえよ、さっさと行ったらどうだ」
否定しながらも、そう促すノクシャスの顔には悪い笑顔が浮かんでいた。嬉しそうに見えるかどうかはともかく、楽しそうなのは分かる。
それにしても、やっぱりナハトは忙しいようだ。もう仕事に行かなくちゃならないのかと思うとどうしても寂しさが勝った。
「ぁ……ナハトさん、お仕事頑張ってください」
「……別に、アンタに言われなくても最初からそのつもりだし」
「ナハトさん……」
相変わらず素っ気ないな。そういうところもストイックでかっこいいのだが、寂しくないといえば嘘になる。
つい項垂れそうになったとき、そろりと伸びてきたナハトの指先が頭に触れた。そして思いの外優しい手付きで頭を撫でられ飛び上がりそうになった。
「……っ!」
「…………じゃ」
そのままキスでもされるのではないだろうか、と思ったが、流石にノクシャスの前だからだろうか。俺に顔を寄せたナハトはすぐに離れる。そして、そのまま俺に背を向けた次の瞬間には影ごとナハトの姿は消えていた。
「な、なんだあいつ……って、うわ、おい! どうした、顔真っ赤だぞ」
「い、いえ……なんでも……」
先程までのあれやこれやそれなどが一気に蘇り、ナハトが立ち去ったあとも余韻で顔がぽかぽかしてしまう。
皆ピリついてるし大変な時期なのだ、一因でもある俺がこんな風では駄目だ!と自分の頬を往復ビンタすれば、「今度は急になんだ?」とノクシャスにぎょっとされた。
「す、すみません、自分に喝を……」
「せめて一言言え、ビビるだろうが急に叩き出したら」
「ごめんなさい……」
違う意味でも頬が熱くなってきた。
ノクシャスの言う通りだ。冷静にならなければ、とぶつぶつと自分に言い聞かせていると、ふとノクシャスがこちらを見ていることに気付いた。
なんだ、今度はなにもしていないのに。
「ど、どうしたんですか?」とどぎまぎしながら尋ねれば、ノクシャスの視線が更に鋭さを増す。
「まさか、お前がこの前言ってた好きなやつって……」
――まずい、このタイミングでその件について突っ込まれるのはまずい。
主に、俺が。
「そ、その件に関しては……」
今更恥ずかしくなってしまい、もうどんな顔をしたらいいのか俺には分からなかった。
そんなときだった。いきなり伸びてきた手に肩を掴まれる。気付けば背中には硬い壁があり、目の前には約壁のようなノクシャスの体があった。頭上から全身へとすっぽりと覆い被さる影に迫られ、つい後退ってしまう。が、背後は壁だ。
「っ、の、ノクシャスさん……?」
「おかしいとは思ってたんだよなぁ。……ナハトの野郎、なんだかお前には妙に優しくなったし、俺のこと仇みてえな目で見てきやがるし」
「そ、それは……その、す、すみません……」
「なんでお前が謝んだよ」
次第に、降り注いでくるノクシャスの声が低くなっていくのがわかった。
なんとかノクシャスの腕の中から抜け出そうとするが、筋肉で覆われたノクシャスの腕一本に壁に押し付けられただけで、全身に根が張ったみたいに身動きすら取ることはできなかった。
「ぁ、その」と無意識の内に声が震える。
緊張や恥ずかしさもあったが、それ以上に先程よりも明らかにノクシャスの機嫌が悪くなっているのが肌で分かったからこそ言葉に迷う。
口籠る俺をじっと見下ろしたまま、ノクシャスは唇を開いた。
「――あいつと付き合ってんのか?」
目の前にはノクシャス、背後には壁。
――デジャヴだ。
前回は通信が入ったお陰でなんとかあやふやになったのだが、今回もそう上手くいくとは限らない。
それどころか、最早確信持って問い詰めてくるノクシャスに全身から冷や汗がだらだらと滲む。
「い、いえ、そういうわけではなくて! その、俺が一方的に慕ってるというか……っ!」
「でも、あいつのあの様子――あいつもお前のこと気に入ってんだろ」
「ぇ、あ……そ、それは……」
指摘され、更に首から上に血液が集まってくるのが分かった。気に入っていない、わけない。それで貫けばまだ誤魔化しようがあったはずなのに、その感情にやましさのようなものがある分、言葉がスムーズに出てこなかった。
そんな俺に、ノクシャスは苛ついたように舌打ちをする。
「……面白くねえな」
「ノクシャスさん? って、うわ、わ! ノクシャスさん?!」
そう言うなりいきなりノクシャスに腰を掴まれたかと思うと軽々と抱き抱えられてしまう。いきなり高くなる視界に驚き、思わずノクシャスを見上げた。けれど、ノクシャスはこちらを見ていない。
そのまま俺の部屋のロックを解除したノクシャスはリビングを抜け、そのまま奥にある扉の方まで歩いていくのだ。
――そっちは寝室だ。
「ぁ、あの、ノクシャスさん……っ!」
まさか、まさかいつもの流れなのか……?!
ノクシャス相手に力で勝てないし、かと言ってノクシャスを拒否して変な空気になるのも気まずいし……。
と頭の中でわーわーもう一人の俺と会議をしていたときだ。そのままベッドの側までやってきたノクシャスは足を止める。そして、抱きかかえていた俺の体をそっとベッドに寝かしてくれるのだ。
ま、まさかこのまま……とガチガチに緊張して固まっていたときだった。落ちかけていた布団を拾い上げたノクシャスは、そのまま俺に被せるのだ。
「……おら、さっさと寝ろ」
「あ……」
「お前みてーな体力雑魚、そんな簡単に復活しねえからな。……疲れてんだろ」
ぽふ、と胸の上を布団ごしに柔らかく叩かれる。向けられるその眼差しの優しさに、俺は自分がとんでもない勘違いで思い上がった人間だということを突き付けられてしまう。
俺は、俺はなんと心が汚れきってるのだ。
凄まじい勢いでやってくる自己嫌悪の波、それとともにやってくるノクシャスの気遣いに対する感謝に俺の心は大忙しだった。
「……ぁ、ありがとうございます」
もぞ、と布団から顔を出して、そのままベッドから離れようとしていたノクシャスに声をかける。俺のほうを振り返ったノクシャスは「おう」とだけ応えた。
俺が眠ってる間、そのままリビングで警護を続けるのだろう。
疲れてるのならノクシャスだって同じなはずだ。――俺よりも、ずっと一日忙しかっただろうし。
そう思うとなんだか申し訳なさの方が勝った。
だから、俺は咄嗟に出ていこうとしていたノクシャスの背中にもう一度「あのっ」と声をかけた。ノクシャスは足を止める。
「あ……あの、ノクシャスさんは」
「あ?」
「疲れてないんですか?」
「……あんなぁ、俺を誰だと思ってんだ?」
こちらを振り返るノクシャスは呆れたような顔をしていた。けれど怒ってるわけではないようだ。俺はそのまま布団を大きく捲った。
「俺のベッドでよかったら、休んで下さい。……ずっと出ずっぱりだったんですよね」
――別に、変な意味はない。ないはずなのに。
そのまま動きを止めるノクシャスを見て、俺はもしかしてまた余計なことを言ってしまったのだろうかと理解した。
「お……ッ、まえ……なぁ……」
ビキ、とノクシャスの額に青筋が浮かぶのを見て息を飲む。
肺に溜まった何かを吐き出すように深く溜息を吐くノクシャスだったが、「あの」と俺が声を上げるのとほぼ同時にどかりとベッドに腰を下ろす。その重みの反動に浮き上がりそうになったのも束の間、起き上がろうとした体の上、ノクシャスは覆い被さってきた。
「の、くしゃすさん……?」
「……お前、それ、わざとだよな」
股の間に差し込まれる膝の頭によって足を割り開かれる。寝間着越し、下腹部を柔らかく押し上げられれば流石の俺も気付いた。自分の発言の意図とは別に伝わってしまっているのだと。
「っ、ノクシャスさ……っ、ぅ、んむ……っ」
慌てて撤回しようとするよりも先に、顎を捉えられ、噛み付くように唇を重ねられてしまう。
伸ばした手首を掴まれたまま、頭の上で束ねるかのようにいとも簡単にノクシャスの手によって封じこまれてしまうのだ。
「っ、は、……っ、待っ、んむ……っ、ふ……っ!」
「お前……っ、いつもそうだよな。……わざと煽ってんのか? それ」
「ぅ、ちが、ん……っ! ほ、本当に、そんなつもりは――……ッ」
なかったんです、と言いかけるよりも先に、伸びてきた太くて長い舌に舌ごと絡め取られ、言葉ごと封じこまれた。
包み込まれるように舌全体で絡め取られ、咥内から溢れそうになるほどの唾液をたっぷりと飲まされれば全身が熱くなった。
「ん゛ぅ、う゛……~~ッ」
後頭部をがっしりと掴まれたまま、喉の奥、舌の付け根までずっぽりと伸ばされた舌によって捕食され、文字通り犯される。先程までの穏やかな空気は一変し、覆いかぶさってくるノクシャスに頭をがっちりと掴まれたまま歯の裏側から喉ちんこまで舐られ、ノクシャスでいっぱいにされるのだ。
「テメェは……ッ、どんだけ人が我慢してると思ってんだ? ああ?」
「っご、めんなひゃ……っ」
「それとも、お前の『好き』と『こういうことをする相手』ってのはちげえのかよ。……なあ、良平」
「っ、ん゛……ッ! ふ、ぅ」
引き抜かれた舌に唇から頬まで舐められ、堪らず目の前のノクシャスにしがみついてしまう。
本当にそういう意図はなかったが、俺が悪いのか。止めなければならないのに、そのまま顎を掴まれ黙らせるように口の中にねじ込まれるノクシャスの指を咥えさせられる。
「っ、ふ、ぅ゛」
「……っ、それとも、なんだ? 俺がそんなに優しいやつに見えたのか? ……なぁ」
「ん゛、ん゛んぅ~~ッ!」
口の中、滲む唾液を掻き分け舌を引っ張られる。ノクシャスの指から逃れようとすれば、今度は左耳に這わされるノクシャスの舌に全身が震えた。
「っふ、……っ、ぅ……っ」
「……っ、はー……っ、くそ、人の気も知らねえで……ッ」
苛ついたように耳を噛まれ、耳朶の凹凸から穴まで這わされる舌。ぐちゅぐちゅと頭の中で響く音に、まるで脳まで犯されてるような錯覚を覚えた。
開かされた下半身。熱くなっていた下半身に重なるように押し付けられる硬い感触に、全身がびくりと跳ね上がる。恐る恐る視線を布団の中に向ければ、こちらからも見て分かるくらい大きくテントを張ったノクシャスの性器に全身が一気に熱くなった。
「の、くひゃ、ふひゃ……っ」
ひりつく喉。咄嗟にベッドから這い出ようとするのも束の間、再び腰を掴まれ、強制的にベッドの中へと引きずり込まれる。そして、大きく開かれた股の間に膝立ちになったノクシャスはそのまま浮いた下半身に衣類越し、勃起した性器を押し付けてくるのだ。服の上から肛門を撫でるみたいにいやらしく腰を擦りつけられ、堪らず体が震える。
よくない、これは、本当に――。
「ぁ、……っふ、ぅ……っ!」
ぐに、とノクシャスの硬い掌に尻全体を揉まれ、そのまま肛門を大きく広げられてしまえばあっという間に全神経が下半身、こじ開けられた肛門へと集中する。
まずい、と思うのに、声をあげようとすればするほど口の中から分泌された唾液が唇の端からとろとろと溢れるばかりで、それどころか更に唇を重ねてきたノクシャスにそのまま噛み付くように舌を吸われれば、もうなにも考えることはできなかった。
「……っふ、ぅ、」
「は……っ、くそ、イライラする……なんで、あいつなんだよ……ッ」
「ん、っ、ふー……っ! ぅ、んむ……っ!」
「は、……っ、良平……ッ」
シミが滲む下着ごと履いていた寝間着を引き剥がされ、丸出しになった下半身。先程の洗浄ですでに柔らかくなっていた肛門に気付いたらしいノクシャスは更に苛ついたように舌打ちをし、そのまま肛門に太い指をねじ込んでくるのだ。
「んう゛ぅ……っ! っ、ふ、ぅ……っ!」
「こんな体で、あいつ一人で満足できんのかよ。……なあ、良平」
普通の人よりも節々が太い指数本で肛門を拡げられ、中の奥の奥まで粘膜を刺激される。前立腺をこりこりと指の腹で刺激されるだけで内腿は痺れ、全身の神経が更に尖っていくのがわかった。
朦朧としてくる意識の中、腹の中を出入りするノクシャスの指に犯され、俺はノクシャスの腕にしがみつくのが精一杯だった。
我慢、できるはずだ。はずなのに。
ねちねちと前立腺を揉まれる度に思考が塗り潰され、全身の熱が増す。ノクシャスの言葉に応える隙きも余裕も、俺にはなかった。
まずい、これはまずい。だって、こんなの。
「……っ、ぁ、や、の、くしゃすさ……っ、ひ、ぅ゛……っ!」
がっしりと抱き締められた腕の中、容赦なくノクシャスの指に責め立てられる。ぐっぽりと開いた肛門を押し広げられ、追加される指に乱雑に中をかき回されれば頭の中は真っ白になり、目の前のノクシャスにしがみつくのが精一杯だった。
「……っ、は……っ、名前で呼ぶんじゃねえ」
「ひ……――っ! ぅ……あ、ぁ……ッ!」
「クソ……っ、良平……」
「ん、む……っ」
噛み付くように唇を塞がれ、舌を擦り合わされる。長くて肉厚なノクシャスの舌に舌まで食べられそうになりながらも、「ん、ん」とノクシャスの胸を押し返そうと試みた。
そんな俺に顔をしかめたノクシャスは、そのまま苛ついたように前立腺を指で引っ掛くのだ。
瞬間、頭の中が真っ白になる。
「っは、ぁ、……っ、んむ、……ッ! ふ、――」
指責めに耐えきれず、あっという間に限界まで問い詰められてしまえば逃げることなどできなかった。
「っ、ぅ、く、んんぅ……っ!!」
上手く快感を逃すこともできず、ノクシャスの指を締め付けたままその腕の中で呆気なく絶頂を迎える。
頭を擡げた性器からは透明の先走りだけがとろとろと流れ、絶頂の余韻でかくかくと痙攣する下半身を一瞥したノクシャスは笑った。ヴィランらしい、凶悪な笑みだ。
「は……っ、こんなに簡単に俺の指咥えれるようになったとはな」
「っ、ん、の、くしゃすさ……っ、ぅ」
「すっかり性器じゃねえか、お前のここ」
『ここ』と指でぐるりと内壁を円を描くように撫でられ、びくんと大きく下腹部が震えた。
「あ、ぁ」と呼吸が漏れ、絶頂を迎えたばかりの体が予感に震える。待って下さい、と続けるよりも先に更に奥へと伸びるノクシャスの指に背筋が大きく震えた。
「っ、ん、ぅ、う……っ!」
「中、テメェから絡みついてんの分かってんのか?」
「ち、が、そんなこと……っ、ひ、ぅ……っ!」
「違わねえよ。好きでもねえやつに襲われて、なに反応してんだよ」
「っ、あ、ぁ、ひ……っんむ……っ!」
それは誤解だ。俺は、ノクシャスのことも好きだ。確かに、ナハトのそれとはまた違うかもしれないけど。
そう言いたいのに、言葉を遮るかのように唇を塞がれ、後頭部を押さえつけられてしまえばその先の言葉を口にすることはできなかった。
体を抱き締められたままイッたばかりのそこに追い打ちをかけるように更に執拗に前立腺を愛撫され、膀胱を圧迫され続けて耐えられるほど強靭な理性などなかった。
「っ、ふ、ぅ」
くぐもった声とともに頭を擡げかけていたところから勢いよく放出される体液。ノクシャスの腹部を汚すそれを見て、ノクシャスは笑う。
そして小刻みに痙攣する下半身から指を引き抜かれた瞬間、体から力が抜けるようだった。足を閉じることもできず、呼吸を整えるので精一杯な俺を見下ろしたままノクシャスはぐっぽりと口を開いたままの肛門を撫でた。
「は―っ、ぁ……っ、んん、ぅ……っ!」
「人の気も知らねえで、随分と挑発してくれたじゃねえか」
「っ、ご、めんなしゃ……」
「…………許さねえよ」
「……っ、ぁ、んんぅ……っ」
こうしてキスされるのも何度目だろうか。怒ってるというよりも、なんだかノクシャスが悲しそうに見えてしまうのだ。
俺だって知ってる、ノクシャスは面倒見のいい優しい人だって。そんなノクシャスにこんな真似をさせたのだと思うと申し訳なくなる反面、そこまで思ってくれているのかと場違いな喜びを覚えてしまう。
……これ、多分良くないよな。
「っん、の、くしゃすさん……」
俺よりも一回りはサイズの違うノクシャスの太腿に触れる。硬い筋肉で覆われ、筋張ったそこに伸ばした指をそのままするりとノクシャスの下半身へと伸ばせば、ノクシャスの目が開いた。
良平、と薄く開いた唇から牙が覗くのが見える。
そのまま俺は良平のベルトを緩め、そのままテント張ったパンツの下からノクシャスのものを取り出した。
……相変わらず凶悪だ。
今にもはちきれんばかりに隆起したノクシャスのものに恐る恐る指を伸ばせば、びっしりとまとわりつくように浮かび上がる筋からドクドクと血液が流れるのが伝わってくる。そのままカリの部分にするりと手を伸ばせば、苛ついたようにノクシャスは俺の手首を掴んだ。
「おい……っ」
「……っ、ノクシャスは、勘違いしてます……」
「ああ? ……勘違いだと?」
「は、い……っ、勘違いです」
インナーの下、びくりと腹筋が跳ねる。俺はノクシャスに自ら体を寄せ、そしてそのまま手の中でびきびきと更にのた打つように勃起してるノクシャスの性器を撫でた。
初見時は凡そ俺の付いてるものと同じ部位なのかと見間違えるほどのグロテスクさと恐怖を覚えたが、今となっては一番ノクシャスの感情が顕著に出る部分だ。
ふーっふーっと息を荒くするノクシャスを見上げたまま、顔を寄せる。
「……っ、ノクシャスさんは、俺にとって『好きでもないやつ』ではないので」
「……ッ、良平……」
「確かに、種類は違うかも、しれませんけど……っ、ん、ぅ、……っ俺は、ノクシャスさんのこと――」
その先を言葉にすることはできなかった。額に青筋を浮かべたノクシャスに腕を掴まれたまま抱き締められる。あ、と声を上げる暇もなかった。股の間、口を開いたままひくついていた肛門に宛行われる熱の感触に息を飲んだ。
そして、次の瞬間――。
「っ、ぉ゛、く、ぅう゛……――~~ッ!!」
ずるりと、体内の粘膜を引きずる勢いで脳天まで串刺しにされたような衝撃が走る。
深く、根本まで一気にねじ込まれるノクシャスの性器に頭の中、脳味噌がひっくり返ったみたいになにも考えられなくなった。
ただ、結合部から伝わってくるノクシャスの熱、鼓動だけが生々しくて。
深く息を吐くノクシャスに体を強く抱き締められたまま、更に唇を塞がれる。
「ッ、ん゛、む……っ! う゛、んんん~~ッ!!」
やばい、やばい、これ。
喉まで届いてるのではないかと錯覚してしまいそうなほどの衝撃に一瞬意識が飛びそうになったのも束の間のことだった。ドクドクと脈打つ性器は、そのままずるりと引き抜かれそうになったと思えば再び奥の天井を亀頭で突き上げられる。
「っふッ、ぅ゛、ん゛ッ、ぅんん゛……ッ!」
「良平……っ、良平」
「っ、ぉ゛ッ、ごッ」
熱の籠もった声で名前を呼ばれる度に腹の奥の性器の存在感は増していくようだった。ノクシャスの腕に抱き締められたまま、体の奥の奥まで貪る勢いで肉壁ごとこじ開けられていく。
指の比にならないほどの太い性器で臍の裏側、膀胱、そして前立腺ごと押し潰すように何度も出入りしてくる。
「待っで、ぐだ、ざ……っぁ゛ッ! ひ、ぐッ! ッ、で……るっ、出る、ぅ、でちゃ……――ッ!」
目の前のノクシャスにしがみつく。ノクシャスは俺を見下ろしたまま、逃げようとする俺の腰を逆に押さえつけてそのまま腰を打ち付けるのだ。
拳ほどあるのではないかと思うほどの亀頭は肉壁を掻き分け、そして体の奥深く、閉じていた口をこじ開ける。そのまま最奥を押し上げられた瞬間、頭を擡げていた性器から勢いよく体液が吹き出した。
「ぉ゛ッ、お……ッ!」
「……っ、は、……テメェはいちいち……っ」
射精、とも違う。じんじんと熱の溜まった性器をただ見つめることしかできなかった俺を見て、興奮したようにノクシャスは呻くのだ。そして、腹の中のものが先程よりもまた一回り大きくなり汗が滲む。
待って下さい、と声をあげる暇もなく、苛ついたように舌打ちをしたノクシャスは再びピストンを再開させるのだ。ガクガクと震える腿を指のあとがしっかりと食い込むほどの力で掴まれ、根本まで深く腰を打ち付けるノクシャスに俺はただしがみつくことが精一杯だった。
「ん゛っ、ぅ、ふ……っ、ぅ゛ッ! んんぅ!」
これはまずい、自分がイッているのかどうかもわからなくなる。
ベッドの上、体を抱き締められたまま腰を打ち付けられる度に開かれたままの内腿は痙攣しっぱなしだった。
「っは、ぁ゛、のくしゃすさ、ぁ゛ッ! んぐ!」
「……っ、はー……ッ、クソ、なんでよりによって……っ」
「んぅ゛ッ! ふ、ぅ、ぁ゛、また……ッ! ぁ゛、くる、なんか、ァ゛……っ!!」
どろりとした熱が溢れる。空に等しい睾丸は勃起する度に痛みを覚えたが、その熱すら脳を焼き付く興奮になるのだ。息苦しさも圧迫感も本来ならば苦痛と呼ばれるその感覚すらも全てが充足感に変換されていくのだから脳内麻薬というものは恐ろしい。
あれほどノクシャスとのセックスが怖かったのに、今は。
感情ごとぶつけられるようなノクシャスの激しい抽挿にただ呑まれそうになり、それ以上に俺の中で気持ちよくなってくれているノクシャスを見ていると幸福感すら覚えてしまう。
大きな手のひらに汗で額に張り付いていた前髪を掻き上げられ、キスをするように舐められる。こそばゆさに目を細めたのも束の間、目の前の男が俺よりも苦しそうな顔をしてることに気付いた。
「……ッ、さっさと、やめろよ、俺のこと好きになれよ」
「っ、ん、ぅ゛」
「――っ、良平」
吐き出される言葉は縋るような響きすらあった。
結合部から伝わってくる鼓動に全身の血液が熱を増す。そして、唇を舐めたノクシャスはそのまま俺にキスした。
「――ッ、ふ、ぅ゛……っ」
瞬間、みっちりと奥の奥まで収まった状態で動きを止めたノクシャス。粘膜伝い、どくんと脈打ったノクシャスの性器が勢いよく射精するのを生で感じた。
「ぅ゛……っ、んんう゛……ッ!」
どくどくと流れ込んでくる。逆流する勢いでどろりとした熱に満たされていく腹部に意識が蕩けそうになった。ノクシャスにくっついたまま、そのまま脱力する俺を抱き締めたノクシャスは深く息を吐いた。
「……っ、は……良平」
射精後の余韻に浸るように、収まったままのノクシャスが俺を抱き締めたまま名前を呼ぶのだ。
体の中、萎える暇もなくノクシャスのものがあっという間に硬くなっているのを感じながら俺はそれに応えようとするが、肉体と精神は連動しているとも限らない。
思いの外俺の肉体には限界がきていたようだ。
その背中に手を伸ばすこともできないまま、俺はノクシャスの腕の中で気絶した。
早かれ遅かれこうなることは分かっていたはずだけど、やはりいざその時が来ると緊張してしまう。
「あの、兄さん……」
「そうだな、色々俺に聞きたいことがあるんだろう?」
俺の視線に気付いた兄は、「俺も同じだ、良平」と微笑むのだ。俺の頭の中でも覗き見たというのか、その言葉と笑顔にぎくりとした。
「一先ずお前が言ったように彼らは捕縛し、現在は眠らせている。準備が整い次第、話を聞かせてもらうことになるだろうな」
兄の言葉に、ECLIPSEの皆の無事が分かって「よかった」と思わず口からぽろりと溢れてしまう。そんな俺の言葉に「よかった、と来たか」と兄は目を細めた。
しまった、と慌てて口を抑えたときにはもう遅い。兄は真っ直ぐにこちらを見据える。
「次はお前の番だぞ、良平。――その安堵の理由を聞かせてもらおうか」
「わ、わかり……ました」
ここまできたら腹を括るしかない。
俺は深呼吸をし、兄――この会社のトップである男と対峙することとなった。
カノンから聞いたまま、ECLIPSEの事情を兄へと説明する。ベッドに腰をかけたまま、兄は黙って俺の話を聞いていた。
けれど、話している間その硬い表情が変わることはなかった。
「だからその、確かに今回のスパイ行為は許されないかもしれないけど……」
「できることなら見逃してやってほしい」
「……!」
「それとも、お前のことだ。再雇用して安定した収入を得られるようにしてやってほしい、か?」
俺の思考を先回りしてくる兄に驚いた。
サディークのように思考を読み取ってるわけでもない。どうして、と顔をあげれば、兄はなんとも言い難い顔をして俺を優しく見つめるのだ。
「お前は本当に昔から優しい子だった。――ああ、心配になるほどな」
その言葉には咎めるような意が含まれているのが分かったからこそ、俺は余計なにも言い返すことができなかった。
「その故郷の状況については彼らが目を覚まし次第詳細を確認しよう。必要があれば実際に視察に向かわせる。そこまでするほど追い詰められているというのなら、とっくに金額では解決できるような状況ではない可能性もあるからな」
もしかして、許してもらえないのではないのだろうか。サディークたちにああ言った手前、もう俺の知っている兄ではなかったらと不安になっていたところに出てきた兄の言葉に思わず俺は顔をあげる。
「兄さん……! ありがとうございます!」
やはり兄さんは兄さんだ。ちゃんと気にかけてくれる兄の言葉が嬉しくて思わず飛びつきそうになるのを堪える。
そんな俺に、兄は「まだ話は終わってないぞ、良平」と苦笑を漏らした。そしてすぐ、レヴェナントの顔に戻るのだ。
「今回の件に関して、彼らの行為はこちらの信用を大きく傷つけた。いくらそこに目的があろうと、やったことには変わりがない」
「は、はい……」
「デッドエンドとサディーク、二人は曲がりなりにもうちの社員だった。そして洗脳されたわけでもなく自分の意志で自ら我々を裏切った」
「……俺が言いたいことがわかるか? 良平」そう問い掛けてくる兄は優しい口調だが、経営者でもある兄として何も思わないはずはないと分かっていた。兄の言葉に、俺は思わず言葉に詰まってしまう。
「一度失った信用を取り戻すのは難しい。それも、信用と信頼によって成り立っているこの会社では特に許されざる行為だ」
「……兄さん」
「最初から全て事情を話してくれていれば改善の余地はあっただろうが……そこまで手が回っていなかったのも事実だ」
そこまで言って、兄は「すまない、お前に聞かせる話ではなかったな」と小さく咳払いをする。
デッドエンドのことを気にしているのだろう、と思った。事の発端といえば、濡れ衣での不当解雇によりデッドエンドが恨みを募らせたことが大きなトリガーにもなってる。
話を聞く限り、それまではデッドエンドもここまで無鉄砲ではなかったらしいし……。
「どちらにせよ事情聴取は行うが、以前のまま復帰するのは難しいと思っておくんだな」
「……わかりました」
少なくとも当時を知らない俺からしてみればなにも言えた立場ではない。
それでも少しでもこんな危険な稼ぎ方をせずに済むのなら、と思ったが――やはり難しいのだろうか。
そう項垂れていると、兄にそっと頭を撫でられる。
「そんな顔をするな。うちの会社では、という話だ。
――まあ、それも彼らの態度次第だがな」
そう静かに付け足す兄に俺はがばりと顔を上げた。
このまま彼らが許されない可能性も考えていたが、兄は兄なりに考えてくれているのだ。従業員たちのことも、皆のことも。
「ありがとう、兄さん」と思わず抱きつきそうになり一度堪えたが、やはりいてもたってもいられなくてそっと兄の体に凭れかかれば、兄は小さく笑って俺を抱き締めた。
「いや、お前のお陰だよ――良平」
「兄さん……?」
「お前がこうして申し出て来なければ、俺はただのスパイとして処理していただけだった。……初心を思い出させてくれたのはお前だ、良平」
「……そう、かな」
「ああ、そうだよ。……が、今回は肝を冷やした。今度からはせめて一言言っておいてくれ、自分一人で突っ走るのも禁止だ」
「お前になにかがあれば、俺はここにお前を連れてきた意味がなくなる」そう抱き締める兄の腕に力が入る。スーツ越しでもわかる、何年も鍛え上げた腕は力強く、俺を離そうとしない。
「ごめんなさい、兄さん」とそのまま兄に凭れかかったまま、もう一度ごめんなさい、と呟いた。
兄だけではない、ナハトさんもノクシャスさん……一応モルグさんも、ここに来てこうして心配してくれる人ができたという事実がなんだか現実味がなく感じた。
そうか、俺のことを想ってくれてる人がいるのか。今までだったらあまり気にしなかったのに、不思議だ。
そんなことを思いながら、俺は兄の腕の中で目を閉じた。
「そういえば、良平」
「……うん?」
「話は変わるんだが、……以前話していた続きだ」
そのことについて聞きそびれていたな、と小さく咳払いする兄に釣られて顔を上げる。
なにか話していただろうか、と思い返してみるが色々ありすぎて心当たりしかない。
「話って?」
「――言っていただろう、好きな相手が出来たと」
兄の言葉を理解するのに少々時間がかかってしまったが、自白剤を飲まされたとき、確かに兄にそんなことを言っていたことを思い出した。それから怒涛のように色んなことがあったお陰ですっかり記憶の隅へと追いやっていたのだ。
――俺の馬鹿、いくら自白剤飲まされたからといって兄さんになんてことを言ってしまったんだ。
「に、兄さん……それは、その」
「あのときは状況が状況だったお陰できちんとした話は聞けなかったが、……確かイニシャルはNかMと言っていたな。一応聞いておくが、俺が知っている人物で間違いないのか?」
「あ、えと……」
どうしよう。言葉に詰まれば詰まるほど、肩を掴む兄の手が食い込んでる気がしてならない。
「に、兄さん、痛いよ……っ」
「あ、悪い。……そうだな、俺も大人げなかった」
「良平だってもう社会人だ、いつまでも子供じゃないんだしな」と珍しくごにょごにょと口ごもる兄。こんな歯切れの悪い兄は初めて見たかもしれない。
余程気になっていたのかもしれない。確かに、イニシャルだけ聞かされていたらそりゃ嫌でも気なるかもしれない。
だとすれば、これ以上兄を焦らすわけにもいかない。
「兄さん、あの、俺……」
腹を括った俺はベッドの上に正座する。そのまま兄に向き直ったとき、「ストップ」と兄に口を塞がれた。
「もご……っ!」
「悪い良平、俺から聞いておいてなんだが、やっぱりまた後でゆっくり聞こう。……この件が全て片付いた後な」
「もご……?」
「思ったよりも支障が出そうでな」
「お兄ちゃんの我儘だ、頼む」兄が自分のことをお兄ちゃんと呼ぶなんて、何年ぶりだろうか。あまりにも懐かしくなると同時に、ばつが悪そうな兄の顔を見てると頷くしかなかった。
俺も俺で命拾いした気分ではあったが、ただ先延ばしされただけ根本的にはなにも片付いていない。が、それはそれでよかったかもしれない。
それから早速ECLIPSEたちの様子を見に行くという兄を見送り、入れ違いになるようにナハトとノクシャスが部屋へと戻ってきた。
「おい良平、立てるか? ボスからお前を部屋に連れて行くようにと命令があった」
「つーわけで帰るぞ」とノクシャス。その隣にいたナハトが「なんでお前が言うの」とぼそりと吐き捨てた。
「ああ? なんださっきからお前はボソボソと」
「こいつの面倒だったら俺一人で十分だって言ってんだよ」
「そりゃこっちのセリフだ。……むしろ、お前は捕まえてきたやつらの事情聴取に回れよ。いつもだったらそういうの喜んで行くくせに」
「今回の担当は俺じゃないし」
「んだ、こいつ……」
部屋から出ていく前と険悪さは変わっていないどころかやや空気は悪化してるように感じてならない。
「まあまあ」と二人を宥めつつも、何故か二人に挟まれた状態のまま俺は社員寮の自室へと囚われた宇宙人のような体勢で連行されるのであった。
――社員寮、自室前。
「すみません、わざわざ送って頂いて……」
「当たり前だろ、それが俺の役目なんだし」
「ナハトさん……」
「俺“たち”な」
「あ?」
「あ、ふ、二人とも……」
なんで今日に限ってこんなに二人とも機嫌が悪いのだ。……いや、俺のせいか。思い当たる節がありすぎるだけに何も言えない。
相変わらず今にも掴み合いになりそうな雰囲気すらある二人にどうすればいいのかと右往左往していたときだった。不意にナハトがぴくりと反応し、それから連絡用の端末を起動させるのだ。
メッセージの内容を確認したナハトは大きな舌打ちをする。ノクシャスは笑った。
「お? お呼び出しか?」
「なに嬉しそうな顔してんだよ」
「してねえよ、さっさと行ったらどうだ」
否定しながらも、そう促すノクシャスの顔には悪い笑顔が浮かんでいた。嬉しそうに見えるかどうかはともかく、楽しそうなのは分かる。
それにしても、やっぱりナハトは忙しいようだ。もう仕事に行かなくちゃならないのかと思うとどうしても寂しさが勝った。
「ぁ……ナハトさん、お仕事頑張ってください」
「……別に、アンタに言われなくても最初からそのつもりだし」
「ナハトさん……」
相変わらず素っ気ないな。そういうところもストイックでかっこいいのだが、寂しくないといえば嘘になる。
つい項垂れそうになったとき、そろりと伸びてきたナハトの指先が頭に触れた。そして思いの外優しい手付きで頭を撫でられ飛び上がりそうになった。
「……っ!」
「…………じゃ」
そのままキスでもされるのではないだろうか、と思ったが、流石にノクシャスの前だからだろうか。俺に顔を寄せたナハトはすぐに離れる。そして、そのまま俺に背を向けた次の瞬間には影ごとナハトの姿は消えていた。
「な、なんだあいつ……って、うわ、おい! どうした、顔真っ赤だぞ」
「い、いえ……なんでも……」
先程までのあれやこれやそれなどが一気に蘇り、ナハトが立ち去ったあとも余韻で顔がぽかぽかしてしまう。
皆ピリついてるし大変な時期なのだ、一因でもある俺がこんな風では駄目だ!と自分の頬を往復ビンタすれば、「今度は急になんだ?」とノクシャスにぎょっとされた。
「す、すみません、自分に喝を……」
「せめて一言言え、ビビるだろうが急に叩き出したら」
「ごめんなさい……」
違う意味でも頬が熱くなってきた。
ノクシャスの言う通りだ。冷静にならなければ、とぶつぶつと自分に言い聞かせていると、ふとノクシャスがこちらを見ていることに気付いた。
なんだ、今度はなにもしていないのに。
「ど、どうしたんですか?」とどぎまぎしながら尋ねれば、ノクシャスの視線が更に鋭さを増す。
「まさか、お前がこの前言ってた好きなやつって……」
――まずい、このタイミングでその件について突っ込まれるのはまずい。
主に、俺が。
「そ、その件に関しては……」
今更恥ずかしくなってしまい、もうどんな顔をしたらいいのか俺には分からなかった。
そんなときだった。いきなり伸びてきた手に肩を掴まれる。気付けば背中には硬い壁があり、目の前には約壁のようなノクシャスの体があった。頭上から全身へとすっぽりと覆い被さる影に迫られ、つい後退ってしまう。が、背後は壁だ。
「っ、の、ノクシャスさん……?」
「おかしいとは思ってたんだよなぁ。……ナハトの野郎、なんだかお前には妙に優しくなったし、俺のこと仇みてえな目で見てきやがるし」
「そ、それは……その、す、すみません……」
「なんでお前が謝んだよ」
次第に、降り注いでくるノクシャスの声が低くなっていくのがわかった。
なんとかノクシャスの腕の中から抜け出そうとするが、筋肉で覆われたノクシャスの腕一本に壁に押し付けられただけで、全身に根が張ったみたいに身動きすら取ることはできなかった。
「ぁ、その」と無意識の内に声が震える。
緊張や恥ずかしさもあったが、それ以上に先程よりも明らかにノクシャスの機嫌が悪くなっているのが肌で分かったからこそ言葉に迷う。
口籠る俺をじっと見下ろしたまま、ノクシャスは唇を開いた。
「――あいつと付き合ってんのか?」
目の前にはノクシャス、背後には壁。
――デジャヴだ。
前回は通信が入ったお陰でなんとかあやふやになったのだが、今回もそう上手くいくとは限らない。
それどころか、最早確信持って問い詰めてくるノクシャスに全身から冷や汗がだらだらと滲む。
「い、いえ、そういうわけではなくて! その、俺が一方的に慕ってるというか……っ!」
「でも、あいつのあの様子――あいつもお前のこと気に入ってんだろ」
「ぇ、あ……そ、それは……」
指摘され、更に首から上に血液が集まってくるのが分かった。気に入っていない、わけない。それで貫けばまだ誤魔化しようがあったはずなのに、その感情にやましさのようなものがある分、言葉がスムーズに出てこなかった。
そんな俺に、ノクシャスは苛ついたように舌打ちをする。
「……面白くねえな」
「ノクシャスさん? って、うわ、わ! ノクシャスさん?!」
そう言うなりいきなりノクシャスに腰を掴まれたかと思うと軽々と抱き抱えられてしまう。いきなり高くなる視界に驚き、思わずノクシャスを見上げた。けれど、ノクシャスはこちらを見ていない。
そのまま俺の部屋のロックを解除したノクシャスはリビングを抜け、そのまま奥にある扉の方まで歩いていくのだ。
――そっちは寝室だ。
「ぁ、あの、ノクシャスさん……っ!」
まさか、まさかいつもの流れなのか……?!
ノクシャス相手に力で勝てないし、かと言ってノクシャスを拒否して変な空気になるのも気まずいし……。
と頭の中でわーわーもう一人の俺と会議をしていたときだ。そのままベッドの側までやってきたノクシャスは足を止める。そして、抱きかかえていた俺の体をそっとベッドに寝かしてくれるのだ。
ま、まさかこのまま……とガチガチに緊張して固まっていたときだった。落ちかけていた布団を拾い上げたノクシャスは、そのまま俺に被せるのだ。
「……おら、さっさと寝ろ」
「あ……」
「お前みてーな体力雑魚、そんな簡単に復活しねえからな。……疲れてんだろ」
ぽふ、と胸の上を布団ごしに柔らかく叩かれる。向けられるその眼差しの優しさに、俺は自分がとんでもない勘違いで思い上がった人間だということを突き付けられてしまう。
俺は、俺はなんと心が汚れきってるのだ。
凄まじい勢いでやってくる自己嫌悪の波、それとともにやってくるノクシャスの気遣いに対する感謝に俺の心は大忙しだった。
「……ぁ、ありがとうございます」
もぞ、と布団から顔を出して、そのままベッドから離れようとしていたノクシャスに声をかける。俺のほうを振り返ったノクシャスは「おう」とだけ応えた。
俺が眠ってる間、そのままリビングで警護を続けるのだろう。
疲れてるのならノクシャスだって同じなはずだ。――俺よりも、ずっと一日忙しかっただろうし。
そう思うとなんだか申し訳なさの方が勝った。
だから、俺は咄嗟に出ていこうとしていたノクシャスの背中にもう一度「あのっ」と声をかけた。ノクシャスは足を止める。
「あ……あの、ノクシャスさんは」
「あ?」
「疲れてないんですか?」
「……あんなぁ、俺を誰だと思ってんだ?」
こちらを振り返るノクシャスは呆れたような顔をしていた。けれど怒ってるわけではないようだ。俺はそのまま布団を大きく捲った。
「俺のベッドでよかったら、休んで下さい。……ずっと出ずっぱりだったんですよね」
――別に、変な意味はない。ないはずなのに。
そのまま動きを止めるノクシャスを見て、俺はもしかしてまた余計なことを言ってしまったのだろうかと理解した。
「お……ッ、まえ……なぁ……」
ビキ、とノクシャスの額に青筋が浮かぶのを見て息を飲む。
肺に溜まった何かを吐き出すように深く溜息を吐くノクシャスだったが、「あの」と俺が声を上げるのとほぼ同時にどかりとベッドに腰を下ろす。その重みの反動に浮き上がりそうになったのも束の間、起き上がろうとした体の上、ノクシャスは覆い被さってきた。
「の、くしゃすさん……?」
「……お前、それ、わざとだよな」
股の間に差し込まれる膝の頭によって足を割り開かれる。寝間着越し、下腹部を柔らかく押し上げられれば流石の俺も気付いた。自分の発言の意図とは別に伝わってしまっているのだと。
「っ、ノクシャスさ……っ、ぅ、んむ……っ」
慌てて撤回しようとするよりも先に、顎を捉えられ、噛み付くように唇を重ねられてしまう。
伸ばした手首を掴まれたまま、頭の上で束ねるかのようにいとも簡単にノクシャスの手によって封じこまれてしまうのだ。
「っ、は、……っ、待っ、んむ……っ、ふ……っ!」
「お前……っ、いつもそうだよな。……わざと煽ってんのか? それ」
「ぅ、ちが、ん……っ! ほ、本当に、そんなつもりは――……ッ」
なかったんです、と言いかけるよりも先に、伸びてきた太くて長い舌に舌ごと絡め取られ、言葉ごと封じこまれた。
包み込まれるように舌全体で絡め取られ、咥内から溢れそうになるほどの唾液をたっぷりと飲まされれば全身が熱くなった。
「ん゛ぅ、う゛……~~ッ」
後頭部をがっしりと掴まれたまま、喉の奥、舌の付け根までずっぽりと伸ばされた舌によって捕食され、文字通り犯される。先程までの穏やかな空気は一変し、覆いかぶさってくるノクシャスに頭をがっちりと掴まれたまま歯の裏側から喉ちんこまで舐られ、ノクシャスでいっぱいにされるのだ。
「テメェは……ッ、どんだけ人が我慢してると思ってんだ? ああ?」
「っご、めんなひゃ……っ」
「それとも、お前の『好き』と『こういうことをする相手』ってのはちげえのかよ。……なあ、良平」
「っ、ん゛……ッ! ふ、ぅ」
引き抜かれた舌に唇から頬まで舐められ、堪らず目の前のノクシャスにしがみついてしまう。
本当にそういう意図はなかったが、俺が悪いのか。止めなければならないのに、そのまま顎を掴まれ黙らせるように口の中にねじ込まれるノクシャスの指を咥えさせられる。
「っ、ふ、ぅ゛」
「……っ、それとも、なんだ? 俺がそんなに優しいやつに見えたのか? ……なぁ」
「ん゛、ん゛んぅ~~ッ!」
口の中、滲む唾液を掻き分け舌を引っ張られる。ノクシャスの指から逃れようとすれば、今度は左耳に這わされるノクシャスの舌に全身が震えた。
「っふ、……っ、ぅ……っ」
「……っ、はー……っ、くそ、人の気も知らねえで……ッ」
苛ついたように耳を噛まれ、耳朶の凹凸から穴まで這わされる舌。ぐちゅぐちゅと頭の中で響く音に、まるで脳まで犯されてるような錯覚を覚えた。
開かされた下半身。熱くなっていた下半身に重なるように押し付けられる硬い感触に、全身がびくりと跳ね上がる。恐る恐る視線を布団の中に向ければ、こちらからも見て分かるくらい大きくテントを張ったノクシャスの性器に全身が一気に熱くなった。
「の、くひゃ、ふひゃ……っ」
ひりつく喉。咄嗟にベッドから這い出ようとするのも束の間、再び腰を掴まれ、強制的にベッドの中へと引きずり込まれる。そして、大きく開かれた股の間に膝立ちになったノクシャスはそのまま浮いた下半身に衣類越し、勃起した性器を押し付けてくるのだ。服の上から肛門を撫でるみたいにいやらしく腰を擦りつけられ、堪らず体が震える。
よくない、これは、本当に――。
「ぁ、……っふ、ぅ……っ!」
ぐに、とノクシャスの硬い掌に尻全体を揉まれ、そのまま肛門を大きく広げられてしまえばあっという間に全神経が下半身、こじ開けられた肛門へと集中する。
まずい、と思うのに、声をあげようとすればするほど口の中から分泌された唾液が唇の端からとろとろと溢れるばかりで、それどころか更に唇を重ねてきたノクシャスにそのまま噛み付くように舌を吸われれば、もうなにも考えることはできなかった。
「……っふ、ぅ、」
「は……っ、くそ、イライラする……なんで、あいつなんだよ……ッ」
「ん、っ、ふー……っ! ぅ、んむ……っ!」
「は、……っ、良平……ッ」
シミが滲む下着ごと履いていた寝間着を引き剥がされ、丸出しになった下半身。先程の洗浄ですでに柔らかくなっていた肛門に気付いたらしいノクシャスは更に苛ついたように舌打ちをし、そのまま肛門に太い指をねじ込んでくるのだ。
「んう゛ぅ……っ! っ、ふ、ぅ……っ!」
「こんな体で、あいつ一人で満足できんのかよ。……なあ、良平」
普通の人よりも節々が太い指数本で肛門を拡げられ、中の奥の奥まで粘膜を刺激される。前立腺をこりこりと指の腹で刺激されるだけで内腿は痺れ、全身の神経が更に尖っていくのがわかった。
朦朧としてくる意識の中、腹の中を出入りするノクシャスの指に犯され、俺はノクシャスの腕にしがみつくのが精一杯だった。
我慢、できるはずだ。はずなのに。
ねちねちと前立腺を揉まれる度に思考が塗り潰され、全身の熱が増す。ノクシャスの言葉に応える隙きも余裕も、俺にはなかった。
まずい、これはまずい。だって、こんなの。
「……っ、ぁ、や、の、くしゃすさ……っ、ひ、ぅ゛……っ!」
がっしりと抱き締められた腕の中、容赦なくノクシャスの指に責め立てられる。ぐっぽりと開いた肛門を押し広げられ、追加される指に乱雑に中をかき回されれば頭の中は真っ白になり、目の前のノクシャスにしがみつくのが精一杯だった。
「……っ、は……っ、名前で呼ぶんじゃねえ」
「ひ……――っ! ぅ……あ、ぁ……ッ!」
「クソ……っ、良平……」
「ん、む……っ」
噛み付くように唇を塞がれ、舌を擦り合わされる。長くて肉厚なノクシャスの舌に舌まで食べられそうになりながらも、「ん、ん」とノクシャスの胸を押し返そうと試みた。
そんな俺に顔をしかめたノクシャスは、そのまま苛ついたように前立腺を指で引っ掛くのだ。
瞬間、頭の中が真っ白になる。
「っは、ぁ、……っ、んむ、……ッ! ふ、――」
指責めに耐えきれず、あっという間に限界まで問い詰められてしまえば逃げることなどできなかった。
「っ、ぅ、く、んんぅ……っ!!」
上手く快感を逃すこともできず、ノクシャスの指を締め付けたままその腕の中で呆気なく絶頂を迎える。
頭を擡げた性器からは透明の先走りだけがとろとろと流れ、絶頂の余韻でかくかくと痙攣する下半身を一瞥したノクシャスは笑った。ヴィランらしい、凶悪な笑みだ。
「は……っ、こんなに簡単に俺の指咥えれるようになったとはな」
「っ、ん、の、くしゃすさ……っ、ぅ」
「すっかり性器じゃねえか、お前のここ」
『ここ』と指でぐるりと内壁を円を描くように撫でられ、びくんと大きく下腹部が震えた。
「あ、ぁ」と呼吸が漏れ、絶頂を迎えたばかりの体が予感に震える。待って下さい、と続けるよりも先に更に奥へと伸びるノクシャスの指に背筋が大きく震えた。
「っ、ん、ぅ、う……っ!」
「中、テメェから絡みついてんの分かってんのか?」
「ち、が、そんなこと……っ、ひ、ぅ……っ!」
「違わねえよ。好きでもねえやつに襲われて、なに反応してんだよ」
「っ、あ、ぁ、ひ……っんむ……っ!」
それは誤解だ。俺は、ノクシャスのことも好きだ。確かに、ナハトのそれとはまた違うかもしれないけど。
そう言いたいのに、言葉を遮るかのように唇を塞がれ、後頭部を押さえつけられてしまえばその先の言葉を口にすることはできなかった。
体を抱き締められたままイッたばかりのそこに追い打ちをかけるように更に執拗に前立腺を愛撫され、膀胱を圧迫され続けて耐えられるほど強靭な理性などなかった。
「っ、ふ、ぅ」
くぐもった声とともに頭を擡げかけていたところから勢いよく放出される体液。ノクシャスの腹部を汚すそれを見て、ノクシャスは笑う。
そして小刻みに痙攣する下半身から指を引き抜かれた瞬間、体から力が抜けるようだった。足を閉じることもできず、呼吸を整えるので精一杯な俺を見下ろしたままノクシャスはぐっぽりと口を開いたままの肛門を撫でた。
「は―っ、ぁ……っ、んん、ぅ……っ!」
「人の気も知らねえで、随分と挑発してくれたじゃねえか」
「っ、ご、めんなしゃ……」
「…………許さねえよ」
「……っ、ぁ、んんぅ……っ」
こうしてキスされるのも何度目だろうか。怒ってるというよりも、なんだかノクシャスが悲しそうに見えてしまうのだ。
俺だって知ってる、ノクシャスは面倒見のいい優しい人だって。そんなノクシャスにこんな真似をさせたのだと思うと申し訳なくなる反面、そこまで思ってくれているのかと場違いな喜びを覚えてしまう。
……これ、多分良くないよな。
「っん、の、くしゃすさん……」
俺よりも一回りはサイズの違うノクシャスの太腿に触れる。硬い筋肉で覆われ、筋張ったそこに伸ばした指をそのままするりとノクシャスの下半身へと伸ばせば、ノクシャスの目が開いた。
良平、と薄く開いた唇から牙が覗くのが見える。
そのまま俺は良平のベルトを緩め、そのままテント張ったパンツの下からノクシャスのものを取り出した。
……相変わらず凶悪だ。
今にもはちきれんばかりに隆起したノクシャスのものに恐る恐る指を伸ばせば、びっしりとまとわりつくように浮かび上がる筋からドクドクと血液が流れるのが伝わってくる。そのままカリの部分にするりと手を伸ばせば、苛ついたようにノクシャスは俺の手首を掴んだ。
「おい……っ」
「……っ、ノクシャスは、勘違いしてます……」
「ああ? ……勘違いだと?」
「は、い……っ、勘違いです」
インナーの下、びくりと腹筋が跳ねる。俺はノクシャスに自ら体を寄せ、そしてそのまま手の中でびきびきと更にのた打つように勃起してるノクシャスの性器を撫でた。
初見時は凡そ俺の付いてるものと同じ部位なのかと見間違えるほどのグロテスクさと恐怖を覚えたが、今となっては一番ノクシャスの感情が顕著に出る部分だ。
ふーっふーっと息を荒くするノクシャスを見上げたまま、顔を寄せる。
「……っ、ノクシャスさんは、俺にとって『好きでもないやつ』ではないので」
「……ッ、良平……」
「確かに、種類は違うかも、しれませんけど……っ、ん、ぅ、……っ俺は、ノクシャスさんのこと――」
その先を言葉にすることはできなかった。額に青筋を浮かべたノクシャスに腕を掴まれたまま抱き締められる。あ、と声を上げる暇もなかった。股の間、口を開いたままひくついていた肛門に宛行われる熱の感触に息を飲んだ。
そして、次の瞬間――。
「っ、ぉ゛、く、ぅう゛……――~~ッ!!」
ずるりと、体内の粘膜を引きずる勢いで脳天まで串刺しにされたような衝撃が走る。
深く、根本まで一気にねじ込まれるノクシャスの性器に頭の中、脳味噌がひっくり返ったみたいになにも考えられなくなった。
ただ、結合部から伝わってくるノクシャスの熱、鼓動だけが生々しくて。
深く息を吐くノクシャスに体を強く抱き締められたまま、更に唇を塞がれる。
「ッ、ん゛、む……っ! う゛、んんん~~ッ!!」
やばい、やばい、これ。
喉まで届いてるのではないかと錯覚してしまいそうなほどの衝撃に一瞬意識が飛びそうになったのも束の間のことだった。ドクドクと脈打つ性器は、そのままずるりと引き抜かれそうになったと思えば再び奥の天井を亀頭で突き上げられる。
「っふッ、ぅ゛、ん゛ッ、ぅんん゛……ッ!」
「良平……っ、良平」
「っ、ぉ゛ッ、ごッ」
熱の籠もった声で名前を呼ばれる度に腹の奥の性器の存在感は増していくようだった。ノクシャスの腕に抱き締められたまま、体の奥の奥まで貪る勢いで肉壁ごとこじ開けられていく。
指の比にならないほどの太い性器で臍の裏側、膀胱、そして前立腺ごと押し潰すように何度も出入りしてくる。
「待っで、ぐだ、ざ……っぁ゛ッ! ひ、ぐッ! ッ、で……るっ、出る、ぅ、でちゃ……――ッ!」
目の前のノクシャスにしがみつく。ノクシャスは俺を見下ろしたまま、逃げようとする俺の腰を逆に押さえつけてそのまま腰を打ち付けるのだ。
拳ほどあるのではないかと思うほどの亀頭は肉壁を掻き分け、そして体の奥深く、閉じていた口をこじ開ける。そのまま最奥を押し上げられた瞬間、頭を擡げていた性器から勢いよく体液が吹き出した。
「ぉ゛ッ、お……ッ!」
「……っ、は、……テメェはいちいち……っ」
射精、とも違う。じんじんと熱の溜まった性器をただ見つめることしかできなかった俺を見て、興奮したようにノクシャスは呻くのだ。そして、腹の中のものが先程よりもまた一回り大きくなり汗が滲む。
待って下さい、と声をあげる暇もなく、苛ついたように舌打ちをしたノクシャスは再びピストンを再開させるのだ。ガクガクと震える腿を指のあとがしっかりと食い込むほどの力で掴まれ、根本まで深く腰を打ち付けるノクシャスに俺はただしがみつくことが精一杯だった。
「ん゛っ、ぅ、ふ……っ、ぅ゛ッ! んんぅ!」
これはまずい、自分がイッているのかどうかもわからなくなる。
ベッドの上、体を抱き締められたまま腰を打ち付けられる度に開かれたままの内腿は痙攣しっぱなしだった。
「っは、ぁ゛、のくしゃすさ、ぁ゛ッ! んぐ!」
「……っ、はー……ッ、クソ、なんでよりによって……っ」
「んぅ゛ッ! ふ、ぅ、ぁ゛、また……ッ! ぁ゛、くる、なんか、ァ゛……っ!!」
どろりとした熱が溢れる。空に等しい睾丸は勃起する度に痛みを覚えたが、その熱すら脳を焼き付く興奮になるのだ。息苦しさも圧迫感も本来ならば苦痛と呼ばれるその感覚すらも全てが充足感に変換されていくのだから脳内麻薬というものは恐ろしい。
あれほどノクシャスとのセックスが怖かったのに、今は。
感情ごとぶつけられるようなノクシャスの激しい抽挿にただ呑まれそうになり、それ以上に俺の中で気持ちよくなってくれているノクシャスを見ていると幸福感すら覚えてしまう。
大きな手のひらに汗で額に張り付いていた前髪を掻き上げられ、キスをするように舐められる。こそばゆさに目を細めたのも束の間、目の前の男が俺よりも苦しそうな顔をしてることに気付いた。
「……ッ、さっさと、やめろよ、俺のこと好きになれよ」
「っ、ん、ぅ゛」
「――っ、良平」
吐き出される言葉は縋るような響きすらあった。
結合部から伝わってくる鼓動に全身の血液が熱を増す。そして、唇を舐めたノクシャスはそのまま俺にキスした。
「――ッ、ふ、ぅ゛……っ」
瞬間、みっちりと奥の奥まで収まった状態で動きを止めたノクシャス。粘膜伝い、どくんと脈打ったノクシャスの性器が勢いよく射精するのを生で感じた。
「ぅ゛……っ、んんう゛……ッ!」
どくどくと流れ込んでくる。逆流する勢いでどろりとした熱に満たされていく腹部に意識が蕩けそうになった。ノクシャスにくっついたまま、そのまま脱力する俺を抱き締めたノクシャスは深く息を吐いた。
「……っ、は……良平」
射精後の余韻に浸るように、収まったままのノクシャスが俺を抱き締めたまま名前を呼ぶのだ。
体の中、萎える暇もなくノクシャスのものがあっという間に硬くなっているのを感じながら俺はそれに応えようとするが、肉体と精神は連動しているとも限らない。
思いの外俺の肉体には限界がきていたようだ。
その背中に手を伸ばすこともできないまま、俺はノクシャスの腕の中で気絶した。
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