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CASE.07『同業者にご注意』
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長い間眠っていたような気がする。
というか、なんで眠っていたのかも覚えていない。なんだっけ、と思いながら瞼を持ち上げたとき。
「んぅ……」
「あ、善家君起きた~?」
「ぅ、わ……っ!!」
「あは、凄い飛び跳ねたね~。けど、まだ無理して動かない方がいいよぉ。君の体は生身なんだし」
「も、モルグさん……?」
俺はどこかの研究室のベッドに寝かされていた。膝上にかけられたブランケットはモルグが用意してくれたのだろうか。
デスクでなにやら作業していたらしいモルグは立ち上がり、そして椅子にかかっていた白衣を羽織る。
「あれ? もしかして覚えてない? 君、洗浄してる間に気絶しちゃったの」
そのままベッドのところまでやってきたモルグ。この部屋にはモルグに似た甘い、それでいて薬品特有の独特な匂いがした。
その香りに気を失う前の出来事が蘇った。
――あれ、夢じゃなかったのか。
「す、すみません……俺……」
「寧ろよく保ったねえ。僕としてもいいサンプル取れたから気にしないでねぇ」
「さ、サンプル……?」
「もう安心して? 一応その体に残ってた誰かさんたちの精液も植物粘質物もぜーんぶ洗い流しておいたから」
顔が熱くなるのもつかの間、さらっと口にするモルグに冷や汗が滲んだ。そして、にっこりと微笑むモルグはそのまま凍りつく俺にトドメを刺す。
「ぁ、えと……」
「データ照合した結果、彼とノクシャスの元コバンザメ君――デッドエンド君のものと合致したんだけど?」
「あ、あの、それは……」
「それと、一応体中に残ってた擦り傷キスマその他諸々も目立たないように治しておいたよ~。括約筋と肛門内部の裂傷も目立ったからそこの粘膜修復しておいたから、これでもう日常生活には支障でないはずだね」
「ぁ、ありがとうございます……」
バレてしまった、モルグ相手に隠し通せるとは思わなかったけど。
どう説明するかで頭の中はいっぱいになり、後半のモルグの言葉は最早なにも入ってこなかったが確かに全身がかなり楽になっていた。
あのときのあれが夢では無いとしたら、まだ違和感は残っているはずなのにそれも感じない。
「それで? なにがあったの?」
このまま有耶無耶になってバレなかったことにはならないだろうか、と強く願ったが、そんな俺の願いもあっさりと捨てられる。
そして、ベッドに腰をかけたモルグはそのままこちらを覗き込んでくるのだ。いつもと変わらないにこにこ笑顔で。
「も、モルグさん……」
「あは、そんなに震えないで大丈夫だよ。少なくとも、僕もボスたちもみーんな君には直接手を出したりはしないから」
『君には』の部分が不穏すぎるのだ。
その時のことを考えたらサディークを庇うだとか、ECLIPSEの皆を見逃してもらうことも不可能だろう。それだけは避けなければならない。
「モルグさんっ」と慌てて俺は起き上がった。
「っ、このことは、兄には秘密にしててください……」
そう頭を下げれば、モルグは穏やかな表情のままこちらを見る。けれど、笑みを浮かべた口元とは裏腹にこちらをじっと見るその眼は鋭い。
――探られている。
「どうして? 合意だったってこと?」
「ご、合意か否かって言われたら難しいですけど……」
「もしもしボス?」
「わー! も、モルグさん待ってください!」
慌てて連絡端末を起動させるモルグの腕にしがみつけば、「なーんてね」とモルグは笑った。そして俺の頭を優しく撫でるのだ。
「……取り敢えず、僕になら本当のこと話せそう?」
「それとも、ボスが帰ってきてからの方がいい?」あまりにも両極端な二択ではあるが、いきなり兄に体液諸々の説明するには心の準備ができていない。
「と、取り敢えず……モルグさんにお話させてほしいです」
冷や汗が止まらない俺に、「うん、わかった」とモルグは笑った。
「……ということがあって、その、サディークさんは確かに悪いことをしたんですが、それはスラムの子どもたちのためでもあるというか……」
「なるほどね~、だから善家君は助けたいんだねぇ」
「はい……」
「だから乱暴なことされても許してるのぉ?」
歯に衣を着せぬモルグの言葉に思わず俺はギクリとした。それを言われてしまえばなんと言えばいいのか困ってしまう。
「え、ゃ、そ、それは……っ、その、成り行きというか……」
「随分と手荒な真似されてたみたいだったけどねぇ、それでも庇うんだ?」
「も、モルグさん……」
やはり、モルグはサディークたちのことをよく思っていないということなのだろうか。それも無理もないと思うが、ここで俺が言い負けてしまえばサディークやカノンにも申し訳ない。
必死に言葉を探していると、「なんかさ」とモルグは考えるように天井を見上げる。
「僕も善家君の気持ちは分かるけど、なーんかきな臭いよねえ。やり方がさ」
「それってどういう――」
「取り敢えず、一旦彼やトリッド君にも話を聞くのが懸命だねえ。……それに、気になることもあるし」
顎の下を撫で、モルグは小さく呟いた。その言葉を俺は聞き逃さなかった。
「気になること、ですか?」どういうことだろうかと聞き返せば、にこりと笑ったモルグは「あ、こっちの話ね~」と手をひらひらさせる。躱されてしまった。
完全にサディークたちを擁護できたわけではないが、一旦保留となっただけでもマシ……と思うことにしよう。
そして、本題はここからだ。
きゅっと膝の頭を掴み、俺はベッドの隣に腰をかけてくるモルグへと向き直る。
「モルグさん、それで、あの……怪我のことは兄に秘密にしてもらえませんか?」
そう頭を下げれば、モルグの表情は先程よりも困ったようなものになった。
「うーん……まあ僕も君にはお世話になってるし、お願いはなるべく聞いてあげたいけどさ」
「モルグさん……っ」
「だめだめ、そんなしょんぼりしたって」
「モルグさん……」
「だ~~め、だめでーーす」
必死に縋りつこうとするが、ひょいと簡単に体を避けられる。そんな攻防をしたのち、そのままつーんと知らん顔してそっぽ向くモルグ。この先はなにも受け入れるつもりはないという顔である。
「そんな……」と項垂れた時、ちらりとこちらを見たモルグは声を上げた。
「っ、あー、もうわかったわかった。そんな目で僕を見ないで」
ほら、と体を抱き締められる。まるで駄々っ子をあやすかの如く背中を撫でられると、なんだか恥ずかしかったが酷く安心してしまうのも事実だった。
「今回はボスには怪我の詳細は伏せておくけど、僕が彼らを庇う必要はないと判断したときは保証はできないよ?」
それでもいいの?と耳元で囁かれる。そこ言葉だけでも俺にとっては救いのようなものだ。
「はいっ」と慌てて顔をあげ、頷き返す。
「ありがとうございます、モルグさん……っ!」
そう改めてお礼を口にすれば、モルグは「善家君には敵わないなあ」と笑った。
取り敢えず、目下の心配事の一つはなくなった。そう胸を撫でおろす。
今気になることといえば。
「そういえばトリッドは……」
「ああ、そろそろ意識戻ってる頃合いかな。お話するのは僕は専門外だからねえ、任せてたんだけど」
そう言いかけたときだった、そっと俺から体を離したモルグはそのまま白衣のポケットから連絡用の端末を取り出した。
「噂をすれば、ってやつかな」そう端末を操作しながら立ち上がるモルグ。どうやらトリッドを見ていた職員からのようだ。
俺をベッドに残したまま、立ち上がったモルグはそのまま通話を繋げる。
「どしたのー? ……はーい、りょーかい、すぐ向かうね」
その通話時間は数十秒ほどだった。あっさりと通信を終えたモルグはそのまま端末を白衣へと戻し、ゆっくりとこちらを振り返る。
「新入りの彼、目を覚ましたみたいだね」
「本当ですか? け、怪我とかは……」
「擦り傷程度。なんなら君よりも全然軽症だったからねえ。バイタルにも問題なさそうだって。……ただ、」
「た、ただ……?」
「すごいお腹空かせているみたいだから様子見に行くついでに食事届けてくるよ~」
神妙な顔をするモルグに何かあったのだろうか、と思わず腰を浮かせる俺は思わず脱力した。そして、その言葉に安心する。
「お、俺も一緒に……っ!」
「残念だけど善家君、君はまだここで休んでおいてねえ」
気絶する前の紅音の様子もあった分気になったのだが、モルグに「一応君も今回の件に関しては参考人でもあるから」としっかり釘を刺されてしまう。
それを言われてしまえばもうぐうの音も出ない。
「う……は、はい」
「聞き分けの良い子だねえ」
項垂れる俺の頭を撫で、モルグはそのまま耳に触れる。
「色々気になるかもしれないけど、そんな不安そうな顔をしないでも大丈夫だよ。本当に彼らが君の信じてるような人物だっていうなら」
「モルグさん……」
慰めてくれているのだろうか。
顔を上げれば、にこりと笑ったモルグはそのままゆっくりと立ち上がった。耳を撫でていた指が離れ、ほんのりとした熱だけが耳朶に残る。
「じゃ、お留守番よろしくねえ」
そして手をひらひらと振りながら、モルグは部屋の扉から出ていった。モルグが出たあと自動で閉まった扉は当たり前のようにロックがかかっていて、俺が近付いてもうんともすんとも言わなかった。
こうなってしまえば仕方ない。
とにかく、モルグたちを信じて待つとしよう。
……サディークさんも、大丈夫かな。
色々心配事は尽きなかったが、そう祈ることが精一杯だった。
モルグが出ていったあとの部屋の中、どうしたものかと俺はベッドに寝転がったり起き上がったりしていた。
ここからでは外の様子は分からないし、かと言って勝手に動いたらモルグにも迷惑がかかりそうだし……。
分かっては居ても、なんだかそわそわしてしまう。
今サディークたちは事情聴取をされているのだろうか、とか。デッドエンドたちはどうなったのか、とか。
そんなことばかりを悶々と考えている内にうつらうつらとしてしまう。
駄目だ、皆が大変なときに俺が寝てばっかでは。と必死に眠気と格闘していたときだった。
「あのさあ、寝るならベッドで寝たら?」
何度目か瞬きをしたときだった。部屋の隅、先程までなかったはずの黒い影が見えたと思った次の瞬間、聞こえてきたその声にぎょっとした。
「な、ナハトさん……?!」
「なに、俺がいて問題ある?」
「い、いえ……」
俺はもしかして夢でも見ているのだろうか。そこには仮面を嵌めたヴィラン姿のナハトが壁にもたれかかって足を組んでいた。
頬をつねれば、痛い。――夢ではない。本物のナハトさんだ。
「あの、いつ戻られたんですか? っていうか、俺、寝て……」
「今。……ていうか寝るなら寝るでハッキリしたら? 俺が帰ってきたのも気付かないとか相当だけど」
「す、すみません……」
「別にいい。寧ろ、じっと大人しくグースカ寝てられてた方が俺も安心する」
そうか、ほんのちょっと目を瞑っていたつもりだったのだが意識が飛んでたらしい。
恥ずかしいところを見られてしまったな、と俯いたとき、ベッドが軋む。気付けばすぐ隣にはナハトが腰をかけていた。
そして仮面を外したナハトはそのままじろりと俺を睨むのだ。
どう見ても怒っている顔だった。
普段から怒ってるようなところもあるが、それでもそれとは比にならない。正直心当たりがありすぎて、俺はナハトの目を直視することはできなかった。
「な、ナハトさ――」
とにかく、事情を説明しておくべきなのだろうか、と口を開いたときだった。
いきなり目の前のナハトに腕を掴まれる。「わ、わ」とバランス崩しかけたところをそのままナハトの腕の中、捕らえられてしまった。
「っ、な、ナハトさん……っ?!」
「アンタさ……ほんっっと、自分のことなんだと思ってんの?」
すぐ耳元、至近距離。吹きかかる吐息に、いつもとは違う少しだけ焦ったような声に、心臓がどくんと跳ねた。
――ナハトに抱き締められている。
そう理解したとき、全身の体温が一気に上がったような気がした。
ナハトさん、と言いかけたとき、そのままむにっと頬をつねられた。相当手加減してくれてるのか痛みはないが、我慢ならないといった顔でナハトはそのまま俺の両頬をもちのようにむにむにと引っ張り「ねえ」と目尻を釣り上げるのだ。
これは相当怒ってる顔だ。
「ご、ごめんにゃひゃい」
「ごめんで済むなら俺達がわざわざ招集かけられることはなかったし、ノクシャスのやつ一人で済んだの。……っ、はあ、くそ、安生のやつ……ムカつく」
「にゃ、にゃひゃとひゃん――」
本当に心配してくれたのだろう。確かに、今回の件はナハトは聞かれされてなかったはずだ。
そのときのナハトのことを考えると申し訳なると同時に、心配してくれた事実に喜んでしまう不謹慎な自分もいた。
ごめんなさい、とぐにぐに頬を引き伸ばされながらも謝ったときだ。ぱっと俺の頬から手を離したナハトはそのままぽすりと肩口に顔を埋めてくる。
「――ノクシャスのやつからアンタが泥棒猫連中のアジトに人質にされたって聞いたとき、心臓停まるかと思った」
「っ、……そ、れは……」
「安生からも聞いた。けどあれはアイツの独断だし、そもそも俺からしてみたらそんな場所に連れて行ったノクシャスのやつも許せないんだけど。……ねえ、わかってる?」
「し、心配かけて……ごめんなさい」
むすりとしたままナハトは無言で俺を見上げた。なんだか猫に擦り寄られているような気分だった。嬉しくて、けれどどうしたらいいのかわからない。心臓が痛くて、どこを見たらいいのかわからない。
そんな俺を見上げたまま、ナハトは無言でようやく形が戻りかけていた頬をまたむにっとつねるのだ。
「い、いひゃ……」
これ以上は頬が伸びてしまう。許してください、と何度目かの謝罪を口にしようとしたとき、目の前で影が動いた。
ひりひりとしていた頬に手を添えられたまま、軽く唇になにかが柔らかい感触が押し付けられる。長い睫毛がぶつかり、目の前が黒で塗り潰された。
「……っ、な、はとさん」
「むかつく。……本当に」
「ん、う」
ナハトにキスされている。
ちゅ、と角度を変えて重ねられる唇の熱は、あっという間に全身へと伝播した。行き場をなくしていた手をナハトに握られ、重ねられる。濡れた舌に柔らかく唇を舐められ、胸がきゅっと締め付けられた。
じゃれつくようなキスだった。柔らかく噛み付かれ、覆いかぶさってくるナハトにそのままベッドの上に押し倒されそうになる。
「ん、ぅ……っ、ぁ、……っ、ま、なは――」
ナハトさん、これ以上は俺がまずいです。
そう言いかけたときだった、ぴくりとナハトの肩が反応した。
そして次の瞬間、自動扉が開く。
「おい良平、無事か――って、あ? なにやってんだお前ら」
「……別になんも、てかノックくらいしろこの脳筋馬鹿」
「うるせえな、いちいち余計なんだよ一言……っておい、なんでこいつはベッドから転がり落ちてんだ?」
「知らない。寝相悪かったんだろ」
「……………………」
ナハトさん、すごい。
ノクシャスが入ってくる寸でのところでベッドから転がされた俺は、ナハトの耳の良さと臨機応変さ、そして先程までの熱の余韻すら感じさせないままノクシャスと対峙するナハトに心の中で拍手した。
俺はそんなに急には切り替えられないだろう。これがプロというやつなのか。
「ていうか、こいつになんの用?」
「ああ? 別になんでもいいだろ。……つーか、お前こそなんでここにいんだよ」
「俺はこいつの見張りにきただけ」
「ならもう帰っていいぞ。俺が代わる」
言いながら部屋の中に入ってきたノクシャスはナハトを睨む。そんなノクシャスの態度が癪に障ったようだ、「は?なんで」とナハトのこめかみがぴくりと反応するのを見て、俺は慌てて起き上がった。
「あ、あの……お二人とも、もしかして喧嘩してますか?」
「してない」
「してねえよ」
「は、はいっ! す、すみません……」
ハモってるし。
……じゃあなんなんだ、この空気の悪さは。
二人が仲がよろしくないというのは散々知ってるが、なんだか今日は一段とそう感じる。いつもならいるはずのクッション材でもあるモルグが居ないからそう感じるだけなのかもしれないが。
「あ、あの……ノクシャスさん、ナハトさん。デッドエンドさんたちはどうなったんですか?」
気になって尋ねれば、二人の視線がこちらを向く。デッドエンドの名前を出した途端、ノクシャスの眉間の皺が更に深くなったのを俺は見逃さなかった。
「どうもこうも、逃してたらノコノコお前の様子見になんて来れねえよ」
「……そーいうこと」
「ってことは……皆さん捕まったんですか?」
「俺を誰だと思ってんの?」
驚く俺にそう笑って応えたのはナハトだった。流石だ、とついドキドキする俺の横、ノクシャスは「はいはい」と面倒臭そうに足を組み変える。
「うっかり殺しかけてたやつがなに言ってんだか」
「あの金髪頭がうるさかったから黙らせようとしただけ」
「え、金髪って……」
あの中に金髪頭はデッドエンドしかいない。なにかあったのか、と思わずナハトを見れば、ナハトは叱られた子供のようにふい、と顔を逸らすのだ。
「どっかの誰かさんが部下の調教ちゃんとしてないのが悪い。代わりに俺が上下関係叩き込んでやっただけだし」
「な、なにしたんですか……?」
「別に。ボスに言われた通り死なない程度に締め上げた」
「そ、それは……」
本当になにがあったんだ。ノクシャスもノクシャスで否定しない辺りが妙に引っかかったが、それよりもだ。
「じゃあ、皆さんは皆捕まってるんですか?」
「そういうこと」
「……そうですか」
一先ずは無事を祈ることしかできないが、兄のことだ。俺との約束は守ってくれると思いたい。
「なにほっとしてんの?」
「え! い、いや……その……」
「あのときも妙にあいつらに肩入れしていたみたいだし――もしかして、アンタ」
そう、ナハトが言いかけたときだった。再び部屋の自動ドアが開く。
そして、そこから現れた人物を見てナハトもノクシャスも慌てて姿勢を正す。
「ボス」とナハトが呟けば、ボス――もとい兄は別れたときと同じ姿のままこちらを見て「やあ」と微笑んだ。
「ナハトもノクシャスもここにいたのか。……疲れただろうから休んでいいと言ったのに、悪いね、良平の面倒を見てくれて」
「兄さん」
ECLIPSEのアジトで別れたとき、話はあとから聞くと兄は言っていた。
ということはもしかしてその時がきたということなのだろうか。俺も慌ててベッドの上で正座すれば、兄は「良平」と手で止めるのだ。
「お前が言いたいことは分かってる。……その前に、ノクシャス、ナハト。二人とも、悪いが席を外してもらって構わないかな?」
兄の一言に空気が変わるのが分かった。
というか、なんで眠っていたのかも覚えていない。なんだっけ、と思いながら瞼を持ち上げたとき。
「んぅ……」
「あ、善家君起きた~?」
「ぅ、わ……っ!!」
「あは、凄い飛び跳ねたね~。けど、まだ無理して動かない方がいいよぉ。君の体は生身なんだし」
「も、モルグさん……?」
俺はどこかの研究室のベッドに寝かされていた。膝上にかけられたブランケットはモルグが用意してくれたのだろうか。
デスクでなにやら作業していたらしいモルグは立ち上がり、そして椅子にかかっていた白衣を羽織る。
「あれ? もしかして覚えてない? 君、洗浄してる間に気絶しちゃったの」
そのままベッドのところまでやってきたモルグ。この部屋にはモルグに似た甘い、それでいて薬品特有の独特な匂いがした。
その香りに気を失う前の出来事が蘇った。
――あれ、夢じゃなかったのか。
「す、すみません……俺……」
「寧ろよく保ったねえ。僕としてもいいサンプル取れたから気にしないでねぇ」
「さ、サンプル……?」
「もう安心して? 一応その体に残ってた誰かさんたちの精液も植物粘質物もぜーんぶ洗い流しておいたから」
顔が熱くなるのもつかの間、さらっと口にするモルグに冷や汗が滲んだ。そして、にっこりと微笑むモルグはそのまま凍りつく俺にトドメを刺す。
「ぁ、えと……」
「データ照合した結果、彼とノクシャスの元コバンザメ君――デッドエンド君のものと合致したんだけど?」
「あ、あの、それは……」
「それと、一応体中に残ってた擦り傷キスマその他諸々も目立たないように治しておいたよ~。括約筋と肛門内部の裂傷も目立ったからそこの粘膜修復しておいたから、これでもう日常生活には支障でないはずだね」
「ぁ、ありがとうございます……」
バレてしまった、モルグ相手に隠し通せるとは思わなかったけど。
どう説明するかで頭の中はいっぱいになり、後半のモルグの言葉は最早なにも入ってこなかったが確かに全身がかなり楽になっていた。
あのときのあれが夢では無いとしたら、まだ違和感は残っているはずなのにそれも感じない。
「それで? なにがあったの?」
このまま有耶無耶になってバレなかったことにはならないだろうか、と強く願ったが、そんな俺の願いもあっさりと捨てられる。
そして、ベッドに腰をかけたモルグはそのままこちらを覗き込んでくるのだ。いつもと変わらないにこにこ笑顔で。
「も、モルグさん……」
「あは、そんなに震えないで大丈夫だよ。少なくとも、僕もボスたちもみーんな君には直接手を出したりはしないから」
『君には』の部分が不穏すぎるのだ。
その時のことを考えたらサディークを庇うだとか、ECLIPSEの皆を見逃してもらうことも不可能だろう。それだけは避けなければならない。
「モルグさんっ」と慌てて俺は起き上がった。
「っ、このことは、兄には秘密にしててください……」
そう頭を下げれば、モルグは穏やかな表情のままこちらを見る。けれど、笑みを浮かべた口元とは裏腹にこちらをじっと見るその眼は鋭い。
――探られている。
「どうして? 合意だったってこと?」
「ご、合意か否かって言われたら難しいですけど……」
「もしもしボス?」
「わー! も、モルグさん待ってください!」
慌てて連絡端末を起動させるモルグの腕にしがみつけば、「なーんてね」とモルグは笑った。そして俺の頭を優しく撫でるのだ。
「……取り敢えず、僕になら本当のこと話せそう?」
「それとも、ボスが帰ってきてからの方がいい?」あまりにも両極端な二択ではあるが、いきなり兄に体液諸々の説明するには心の準備ができていない。
「と、取り敢えず……モルグさんにお話させてほしいです」
冷や汗が止まらない俺に、「うん、わかった」とモルグは笑った。
「……ということがあって、その、サディークさんは確かに悪いことをしたんですが、それはスラムの子どもたちのためでもあるというか……」
「なるほどね~、だから善家君は助けたいんだねぇ」
「はい……」
「だから乱暴なことされても許してるのぉ?」
歯に衣を着せぬモルグの言葉に思わず俺はギクリとした。それを言われてしまえばなんと言えばいいのか困ってしまう。
「え、ゃ、そ、それは……っ、その、成り行きというか……」
「随分と手荒な真似されてたみたいだったけどねぇ、それでも庇うんだ?」
「も、モルグさん……」
やはり、モルグはサディークたちのことをよく思っていないということなのだろうか。それも無理もないと思うが、ここで俺が言い負けてしまえばサディークやカノンにも申し訳ない。
必死に言葉を探していると、「なんかさ」とモルグは考えるように天井を見上げる。
「僕も善家君の気持ちは分かるけど、なーんかきな臭いよねえ。やり方がさ」
「それってどういう――」
「取り敢えず、一旦彼やトリッド君にも話を聞くのが懸命だねえ。……それに、気になることもあるし」
顎の下を撫で、モルグは小さく呟いた。その言葉を俺は聞き逃さなかった。
「気になること、ですか?」どういうことだろうかと聞き返せば、にこりと笑ったモルグは「あ、こっちの話ね~」と手をひらひらさせる。躱されてしまった。
完全にサディークたちを擁護できたわけではないが、一旦保留となっただけでもマシ……と思うことにしよう。
そして、本題はここからだ。
きゅっと膝の頭を掴み、俺はベッドの隣に腰をかけてくるモルグへと向き直る。
「モルグさん、それで、あの……怪我のことは兄に秘密にしてもらえませんか?」
そう頭を下げれば、モルグの表情は先程よりも困ったようなものになった。
「うーん……まあ僕も君にはお世話になってるし、お願いはなるべく聞いてあげたいけどさ」
「モルグさん……っ」
「だめだめ、そんなしょんぼりしたって」
「モルグさん……」
「だ~~め、だめでーーす」
必死に縋りつこうとするが、ひょいと簡単に体を避けられる。そんな攻防をしたのち、そのままつーんと知らん顔してそっぽ向くモルグ。この先はなにも受け入れるつもりはないという顔である。
「そんな……」と項垂れた時、ちらりとこちらを見たモルグは声を上げた。
「っ、あー、もうわかったわかった。そんな目で僕を見ないで」
ほら、と体を抱き締められる。まるで駄々っ子をあやすかの如く背中を撫でられると、なんだか恥ずかしかったが酷く安心してしまうのも事実だった。
「今回はボスには怪我の詳細は伏せておくけど、僕が彼らを庇う必要はないと判断したときは保証はできないよ?」
それでもいいの?と耳元で囁かれる。そこ言葉だけでも俺にとっては救いのようなものだ。
「はいっ」と慌てて顔をあげ、頷き返す。
「ありがとうございます、モルグさん……っ!」
そう改めてお礼を口にすれば、モルグは「善家君には敵わないなあ」と笑った。
取り敢えず、目下の心配事の一つはなくなった。そう胸を撫でおろす。
今気になることといえば。
「そういえばトリッドは……」
「ああ、そろそろ意識戻ってる頃合いかな。お話するのは僕は専門外だからねえ、任せてたんだけど」
そう言いかけたときだった、そっと俺から体を離したモルグはそのまま白衣のポケットから連絡用の端末を取り出した。
「噂をすれば、ってやつかな」そう端末を操作しながら立ち上がるモルグ。どうやらトリッドを見ていた職員からのようだ。
俺をベッドに残したまま、立ち上がったモルグはそのまま通話を繋げる。
「どしたのー? ……はーい、りょーかい、すぐ向かうね」
その通話時間は数十秒ほどだった。あっさりと通信を終えたモルグはそのまま端末を白衣へと戻し、ゆっくりとこちらを振り返る。
「新入りの彼、目を覚ましたみたいだね」
「本当ですか? け、怪我とかは……」
「擦り傷程度。なんなら君よりも全然軽症だったからねえ。バイタルにも問題なさそうだって。……ただ、」
「た、ただ……?」
「すごいお腹空かせているみたいだから様子見に行くついでに食事届けてくるよ~」
神妙な顔をするモルグに何かあったのだろうか、と思わず腰を浮かせる俺は思わず脱力した。そして、その言葉に安心する。
「お、俺も一緒に……っ!」
「残念だけど善家君、君はまだここで休んでおいてねえ」
気絶する前の紅音の様子もあった分気になったのだが、モルグに「一応君も今回の件に関しては参考人でもあるから」としっかり釘を刺されてしまう。
それを言われてしまえばもうぐうの音も出ない。
「う……は、はい」
「聞き分けの良い子だねえ」
項垂れる俺の頭を撫で、モルグはそのまま耳に触れる。
「色々気になるかもしれないけど、そんな不安そうな顔をしないでも大丈夫だよ。本当に彼らが君の信じてるような人物だっていうなら」
「モルグさん……」
慰めてくれているのだろうか。
顔を上げれば、にこりと笑ったモルグはそのままゆっくりと立ち上がった。耳を撫でていた指が離れ、ほんのりとした熱だけが耳朶に残る。
「じゃ、お留守番よろしくねえ」
そして手をひらひらと振りながら、モルグは部屋の扉から出ていった。モルグが出たあと自動で閉まった扉は当たり前のようにロックがかかっていて、俺が近付いてもうんともすんとも言わなかった。
こうなってしまえば仕方ない。
とにかく、モルグたちを信じて待つとしよう。
……サディークさんも、大丈夫かな。
色々心配事は尽きなかったが、そう祈ることが精一杯だった。
モルグが出ていったあとの部屋の中、どうしたものかと俺はベッドに寝転がったり起き上がったりしていた。
ここからでは外の様子は分からないし、かと言って勝手に動いたらモルグにも迷惑がかかりそうだし……。
分かっては居ても、なんだかそわそわしてしまう。
今サディークたちは事情聴取をされているのだろうか、とか。デッドエンドたちはどうなったのか、とか。
そんなことばかりを悶々と考えている内にうつらうつらとしてしまう。
駄目だ、皆が大変なときに俺が寝てばっかでは。と必死に眠気と格闘していたときだった。
「あのさあ、寝るならベッドで寝たら?」
何度目か瞬きをしたときだった。部屋の隅、先程までなかったはずの黒い影が見えたと思った次の瞬間、聞こえてきたその声にぎょっとした。
「な、ナハトさん……?!」
「なに、俺がいて問題ある?」
「い、いえ……」
俺はもしかして夢でも見ているのだろうか。そこには仮面を嵌めたヴィラン姿のナハトが壁にもたれかかって足を組んでいた。
頬をつねれば、痛い。――夢ではない。本物のナハトさんだ。
「あの、いつ戻られたんですか? っていうか、俺、寝て……」
「今。……ていうか寝るなら寝るでハッキリしたら? 俺が帰ってきたのも気付かないとか相当だけど」
「す、すみません……」
「別にいい。寧ろ、じっと大人しくグースカ寝てられてた方が俺も安心する」
そうか、ほんのちょっと目を瞑っていたつもりだったのだが意識が飛んでたらしい。
恥ずかしいところを見られてしまったな、と俯いたとき、ベッドが軋む。気付けばすぐ隣にはナハトが腰をかけていた。
そして仮面を外したナハトはそのままじろりと俺を睨むのだ。
どう見ても怒っている顔だった。
普段から怒ってるようなところもあるが、それでもそれとは比にならない。正直心当たりがありすぎて、俺はナハトの目を直視することはできなかった。
「な、ナハトさ――」
とにかく、事情を説明しておくべきなのだろうか、と口を開いたときだった。
いきなり目の前のナハトに腕を掴まれる。「わ、わ」とバランス崩しかけたところをそのままナハトの腕の中、捕らえられてしまった。
「っ、な、ナハトさん……っ?!」
「アンタさ……ほんっっと、自分のことなんだと思ってんの?」
すぐ耳元、至近距離。吹きかかる吐息に、いつもとは違う少しだけ焦ったような声に、心臓がどくんと跳ねた。
――ナハトに抱き締められている。
そう理解したとき、全身の体温が一気に上がったような気がした。
ナハトさん、と言いかけたとき、そのままむにっと頬をつねられた。相当手加減してくれてるのか痛みはないが、我慢ならないといった顔でナハトはそのまま俺の両頬をもちのようにむにむにと引っ張り「ねえ」と目尻を釣り上げるのだ。
これは相当怒ってる顔だ。
「ご、ごめんにゃひゃい」
「ごめんで済むなら俺達がわざわざ招集かけられることはなかったし、ノクシャスのやつ一人で済んだの。……っ、はあ、くそ、安生のやつ……ムカつく」
「にゃ、にゃひゃとひゃん――」
本当に心配してくれたのだろう。確かに、今回の件はナハトは聞かれされてなかったはずだ。
そのときのナハトのことを考えると申し訳なると同時に、心配してくれた事実に喜んでしまう不謹慎な自分もいた。
ごめんなさい、とぐにぐに頬を引き伸ばされながらも謝ったときだ。ぱっと俺の頬から手を離したナハトはそのままぽすりと肩口に顔を埋めてくる。
「――ノクシャスのやつからアンタが泥棒猫連中のアジトに人質にされたって聞いたとき、心臓停まるかと思った」
「っ、……そ、れは……」
「安生からも聞いた。けどあれはアイツの独断だし、そもそも俺からしてみたらそんな場所に連れて行ったノクシャスのやつも許せないんだけど。……ねえ、わかってる?」
「し、心配かけて……ごめんなさい」
むすりとしたままナハトは無言で俺を見上げた。なんだか猫に擦り寄られているような気分だった。嬉しくて、けれどどうしたらいいのかわからない。心臓が痛くて、どこを見たらいいのかわからない。
そんな俺を見上げたまま、ナハトは無言でようやく形が戻りかけていた頬をまたむにっとつねるのだ。
「い、いひゃ……」
これ以上は頬が伸びてしまう。許してください、と何度目かの謝罪を口にしようとしたとき、目の前で影が動いた。
ひりひりとしていた頬に手を添えられたまま、軽く唇になにかが柔らかい感触が押し付けられる。長い睫毛がぶつかり、目の前が黒で塗り潰された。
「……っ、な、はとさん」
「むかつく。……本当に」
「ん、う」
ナハトにキスされている。
ちゅ、と角度を変えて重ねられる唇の熱は、あっという間に全身へと伝播した。行き場をなくしていた手をナハトに握られ、重ねられる。濡れた舌に柔らかく唇を舐められ、胸がきゅっと締め付けられた。
じゃれつくようなキスだった。柔らかく噛み付かれ、覆いかぶさってくるナハトにそのままベッドの上に押し倒されそうになる。
「ん、ぅ……っ、ぁ、……っ、ま、なは――」
ナハトさん、これ以上は俺がまずいです。
そう言いかけたときだった、ぴくりとナハトの肩が反応した。
そして次の瞬間、自動扉が開く。
「おい良平、無事か――って、あ? なにやってんだお前ら」
「……別になんも、てかノックくらいしろこの脳筋馬鹿」
「うるせえな、いちいち余計なんだよ一言……っておい、なんでこいつはベッドから転がり落ちてんだ?」
「知らない。寝相悪かったんだろ」
「……………………」
ナハトさん、すごい。
ノクシャスが入ってくる寸でのところでベッドから転がされた俺は、ナハトの耳の良さと臨機応変さ、そして先程までの熱の余韻すら感じさせないままノクシャスと対峙するナハトに心の中で拍手した。
俺はそんなに急には切り替えられないだろう。これがプロというやつなのか。
「ていうか、こいつになんの用?」
「ああ? 別になんでもいいだろ。……つーか、お前こそなんでここにいんだよ」
「俺はこいつの見張りにきただけ」
「ならもう帰っていいぞ。俺が代わる」
言いながら部屋の中に入ってきたノクシャスはナハトを睨む。そんなノクシャスの態度が癪に障ったようだ、「は?なんで」とナハトのこめかみがぴくりと反応するのを見て、俺は慌てて起き上がった。
「あ、あの……お二人とも、もしかして喧嘩してますか?」
「してない」
「してねえよ」
「は、はいっ! す、すみません……」
ハモってるし。
……じゃあなんなんだ、この空気の悪さは。
二人が仲がよろしくないというのは散々知ってるが、なんだか今日は一段とそう感じる。いつもならいるはずのクッション材でもあるモルグが居ないからそう感じるだけなのかもしれないが。
「あ、あの……ノクシャスさん、ナハトさん。デッドエンドさんたちはどうなったんですか?」
気になって尋ねれば、二人の視線がこちらを向く。デッドエンドの名前を出した途端、ノクシャスの眉間の皺が更に深くなったのを俺は見逃さなかった。
「どうもこうも、逃してたらノコノコお前の様子見になんて来れねえよ」
「……そーいうこと」
「ってことは……皆さん捕まったんですか?」
「俺を誰だと思ってんの?」
驚く俺にそう笑って応えたのはナハトだった。流石だ、とついドキドキする俺の横、ノクシャスは「はいはい」と面倒臭そうに足を組み変える。
「うっかり殺しかけてたやつがなに言ってんだか」
「あの金髪頭がうるさかったから黙らせようとしただけ」
「え、金髪って……」
あの中に金髪頭はデッドエンドしかいない。なにかあったのか、と思わずナハトを見れば、ナハトは叱られた子供のようにふい、と顔を逸らすのだ。
「どっかの誰かさんが部下の調教ちゃんとしてないのが悪い。代わりに俺が上下関係叩き込んでやっただけだし」
「な、なにしたんですか……?」
「別に。ボスに言われた通り死なない程度に締め上げた」
「そ、それは……」
本当になにがあったんだ。ノクシャスもノクシャスで否定しない辺りが妙に引っかかったが、それよりもだ。
「じゃあ、皆さんは皆捕まってるんですか?」
「そういうこと」
「……そうですか」
一先ずは無事を祈ることしかできないが、兄のことだ。俺との約束は守ってくれると思いたい。
「なにほっとしてんの?」
「え! い、いや……その……」
「あのときも妙にあいつらに肩入れしていたみたいだし――もしかして、アンタ」
そう、ナハトが言いかけたときだった。再び部屋の自動ドアが開く。
そして、そこから現れた人物を見てナハトもノクシャスも慌てて姿勢を正す。
「ボス」とナハトが呟けば、ボス――もとい兄は別れたときと同じ姿のままこちらを見て「やあ」と微笑んだ。
「ナハトもノクシャスもここにいたのか。……疲れただろうから休んでいいと言ったのに、悪いね、良平の面倒を見てくれて」
「兄さん」
ECLIPSEのアジトで別れたとき、話はあとから聞くと兄は言っていた。
ということはもしかしてその時がきたということなのだろうか。俺も慌ててベッドの上で正座すれば、兄は「良平」と手で止めるのだ。
「お前が言いたいことは分かってる。……その前に、ノクシャス、ナハト。二人とも、悪いが席を外してもらって構わないかな?」
兄の一言に空気が変わるのが分かった。
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