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しおりを挟む誰々が俺に気があるだとか、誰々が連絡先知りたがってるとか。取り敢えず繋がっておくだけ繋がって、大聖との楽しかった記憶を上塗りするみたいにたくさん遊んで思い出を作ろうとした。
最初は面白がっていた周囲も次第に俺がいることにも慣れ、色目を隠そうともせず擦り寄ってきて、俺はその剥き身でぶつけられる好意を……好意に……。
「ぉ゛え゛……ッ!」
……結論から言えば、自傷行為はただの自傷行為だ。そこからなにかが昇華されるわけでもない。確かに一時的な快楽物質により満たされはするだろうが、朝が来る頃には毎回俺は何をやってるのだろうかという虚無感とそんな俺を好きだという相手に対する嫌悪感で満身創痍となっていた。
「それは明日真が相手選ばなさすぎるからじゃん」
「……それは否定できない」
「イケメンなのに遊ぶの下手すぎんだろ。俺がオススメの子教えてやるよ」
「ありがとう、香春」
取り出したスマホを香春に手渡し、そのまま連絡先も教えてもらう。というか香春にレクチャーされる日が来るなんて。
リップサービスでもなんでもよかった。一人でいればいるほど自己嫌悪の時間が増してしまう、それを紛らわすためにはやはり人と接するしかいないのだ。
「そういえばさ、明日真はこの間話してたアレはどうなん?」
「アレってなんだ?」
「男」
「…………」
――男。
どうしても大聖の顔が過り気が滅入る。
正直、周りには女みたいな顔をした男もいるし、あからさまに好意を向けてくる男もいる。怖くはないといえば嘘にはなるが、そうか、男か。と考えた。
「俺の知り合いでかわいー野郎がいるんだけど、お前のことが好きなんだって。いけそうなら試しに会ってみたらどう? 見た目だけならまじ性別わかんねえから」
「……ふーん」
「やっぱ興味なしな感じ?」
「いや、……可愛いなら、まあ」
大聖とは真逆にいるようなタイプには違いないだろう。試してみるのもありではないか。「お前、なかなか最低なこと言うようになったじゃん」と嬉しそうに笑う香春に、やっぱり全然褒められた気がしないまま俺は件の可愛い男子と会うことになった。
その子は他校らしい。香春に見せてもらった写真からしても確かに顔のレベルは高い。
「お前、こんな子とどこで知り合ったんだよ」と香春に聞いたが、やつはニヤニヤと笑いながら「まあまあ」と濁すばかりだ。
最初はメッセージのやり取りして、それから早速すぐに会うことになる。
香春は「じゃあ俺は帰るから、後で感想教えてくれよな」なんて言いながらカフェを出る。
やっぱり、会うってなったらそういうことになるのだろうか。少なからず相手はそのつもりかもしれないし。
男同士でやるなんて、できるのか。俺は。
「……キモ、先走りすぎだろ」
待ち合わせの時間まで少しある。カフェを出て、そのままコンビニでも寄ろうかとしたときだ。
――既に日の落ちた駅前。
行き交う人々の中に、一際目立つ男を見つけた。周りよりも頭一個分ほど抜けたアッシュパープルの頭。それから最後に会ったときより少しだけ伸びた髪。
「……っ、」
――最悪だ。なんであいつがここにいるんだ。
丁度駅から降りてきたらしいやつは、両脇に似たような派手な女を引き連れてアクビをしていた。こちらには全く気づく気配もない。怠そうな顔をして両脇から話しかけてくる女達を無視してスマホいじってる。
最後に大聖と会ったのは、一ヶ月ほど前に俺の家に押しかけてきたとき以来だ。
あのとき俺が拒絶したからか知らないが、ぱたりと大聖を見かけなくなった。
噂だけは聞いたが、多分あいつに避けられていたのだという気はしていた。俺も避けていたし、お互い様だ。
なら別にこんなにコソコソする必要なんてない。そもそも未だ自分が大聖のことを気にしていることに嫌気が差した。
……取り敢えず、あの子が来たらさっさとここを離れるか。
そう思いながら端末を取り出したとき。ちょんちょんと肩を叩かれる。
振り返れば、思ったよりも傍に人の顔があって驚いた。
「……っ!」
「明日真君」
長い睫毛に縁取られた大きな目。さらっさらの黒髪に、中性的な甘めな顔立ち。けれどその声は少し低めで、そのギャップに余計視線を奪われた。
いつの日か香春に見せてもらった写真そのままの子がそこにいた。というか、思ってたよりも背が高い。あまり見かけない制服に身を包んだ彼を見詰めたまま「糺君」とその名前を口にすれば、糺君は微笑む。
「あはっ、よかった。気付いてもらえなかったらどうしようかと思った」
言いながら腕にしがみついてくる糺君。
頭の中ではもっと小さい子かと思ってただけに、なんだか頭がバグってしまいそうだ。ていうか、力、強。
「……よく気付いたね、俺だって」
「そりゃ明日真君、遠目からでも目立つもん。こんな脚長い人いないし」
「そりゃどうも」
「……それにしても、ふふ、嬉しいなあ。こうして明日真君と話せるなんて。香春に感謝しないと」
ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべる糺君。ドサクサに紛れてくっついてくる糺君から逃れることはできなかった。糺君にされるがまま手を握られ、そのままきゅっと細い指を絡められる。
この子、すごいグイグイくるタイプだ。
「だって、明日真君、ずっと高嶺の花だったのにさ。ここ最近色んな人と遊んでるって聞いて驚いちゃった。それに、俺とも遊んでくれるなんて嬉しいなあ」
「……そうだな、ちょっと心変わりがあって」
「へえ、そうなんだ。いいじゃん、心変わり。……取り敢えずどっか入らない? 明日真君と行きたい店あったんだよね」
「……あ、ああ、任せる」
なんか、緊張してきた。
普段女の子相手のときは自分から提案することが多かったから、自分がエスコートされる側になると変な汗が出てくるのだ。
というか、糺君の距離感が近すぎるのもあるのかもしれないが。
「あの、糺君、手……」
「ん? 嫌だった?」
「嫌じゃないけど……」
「じゃあ繋いじゃお。皆に明日真君のこと自慢したいし」
……これじゃあ本当にデートしてるみたいだ。
今になって怖気づいてしまいそうだ。早めにその気はないと伝えた方がいいかもしれない。
そうだ、どこかゆっくりできる場所で、糺君には素直に話した方がいいな。
なんて思いながらも、恋人繋ぎのまま歩いていく糺君に引っ張られる形で移動する。
糺君が可愛いから余計目立ってる気がする。なんて思ったときだ。
「なんだ、お前女遊びやめてとうとう男に手ぇ出したのか?」
駅ナカの通路ど真ん中、飛んできた野次に俺は立ち止まった。
正直こんな下品な野次を自分に掛けられたという自覚すらしたくなかったが、その声につい反応してしまったのだ。
「明日真君?」と目を丸くしてこちらを振り返る糺君。
「ごめん、気のせいだった」と再び足を進めようとした矢先だ。
「気のせいじゃねえだろ、何他人のフリしてんだ」
「明日真」といきなり伸びてきた手に肩を掴まれ、半ば強引に振り向かされるのだ。
目の前には最も会いたくなかった男がそこにいた。
「俺のことは泣くほど嫌がったくせに、良いご身分じゃねえか」
そう、「明日真君だ」「隣の子かわい~」ときゃいきゃいはしゃぐ女子たちを両脇に固め、冷ややかに笑う大聖。そんなやつを前に、俺は最悪だ、と口の中で呟いた。
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