どうしょういむ

田原摩耶

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同床異夢

第三者

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 階段を降り、リビングの扉を開く。
 テレビも点けず、薄暗い部屋の中。ソファーに座っていたその背中に向かって「サダ」と声をかければ、ゆっくりとサダはこちらを振り返った。

「……美甘、どうした?」
「あのさ……サダと話したくて」

 そう切り出せば、サダの表情が僅かに固くなる。

「サダ、そっち座っていいか」
「良いに決まってるだろ。……座らせてもらってるのは俺の方だ」

 そう、ソファーの脇に寄るサダの隣に腰をかける。

「それで、話ってなんだ?」
「んと……その、色々考えたんだ。……あいつらとのこととか、サダとのこと、とか」
「…………そうか」
「俺、これからもサダと一緒にいたい。……ちゃんと、その、恋人……として」

 階段で降りてリビングに来るまでにあんなに頭の中でシミュレーションしたのに、いざ口にすると上手く喋られないのだから不思議だ。
 それでも、サダは俺を急かすことも笑うことなく、ただじっとこちらを見詰め、次の言葉を待ってくれた。

「だから、ちゃんとあいつらと『こういう関係』やめる。あいつらも説得する」
「……どうやって?」
「ど、どうやってって……えと、話し合って……とか……」

 言いながら、あいつらが話し合いどうこうで大人しくなりそうなやつとは思えなかった。今の燕斗はともかく、宋都は大人しく『はい』というタイプではない。

「美甘、悪い……俺は責めてるわけじゃないんだ。お前があいつらとの関係を真剣に考えてくれたのは嬉しいし、伝わってる。…… けど、話し合いは無理だ。対面で顔を合わせた時点で何されるか分かったもんじゃない」
「さ、サダ……」
「なあ、俺の話を聞いてくれないか。……美甘」

 肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。こんな真剣な顔をしたサダを断ることなど出来なかった。
 サダは「ありがとう」と頷く。

「お前は今日はあそこに帰ったらだめだ。……それと、そのこともあいつらに連絡なんてしなくていい」
「……っ、え」
「俺が話す」
「さ、サダが……?」
「こういうのは第三者を挟めた方がいい。……お前とあいつらだけじゃ、言い包められて終わりだろうからな。それで話しつけて、もしそれでも何か言ってきたりここに押しかけてくるんなら警察呼ぶってあいつらにも伝えておく」

 サダの目は本気だった。
 正直、サダの言い分は分かるし、一対一であいつらと話しても毎回流されて有耶無耶になってしまうのも事実だ。だからこそ、本気であいつらとの関係を終わらせるためにはサダの介入が必要だというのも分かった。
 これは、俺には必要なことだった。その結果がどうなろうとも、停滞していた俺達の関係に『大きな変化』が起きることには間違いないだろう。

「明後日、美甘のご両親も帰ってくるんだよな」
「あ、ああ」
「……ご両親にも伝えておいた方がいい。少なくとも、またあいつらの家に預けられないようにするくらいハッキリな」
「そ、れは……そうなるのか」
「できそうか? ……難しいようなら、俺が言うけど」
「そ、それくらい大丈夫だ! ……うん」

 オバサンにはお世話になったし、気まずくなるかもしれないが、元々燕斗のことはあったから多少なりとも納得はしてくれるだろう。

「……美甘、今夜は俺も傍にいるから」
「え……」
「い、いや、あいつらが来ないか見張っておくって意味だから。悪い……その、気は遣わないでくれ」

 驚く俺に、サダはばつが悪そうにする。やはり押し掛けてるという意識があるのだろう。だとしてもだ。

「気くらい遣わせてくれ。……初めてなんだ、あいつら以外が俺んち来てくれて、泊まってくれるの」
「……っ、美甘……いいのか?」
「い、嫌なわけない。てか、俺だってサダんち泊まったんだからオアイコだろ? ……い、いや、俺のはそれこそ押し掛けだったけども」

 ごにょごにょと口篭れば、サダは「ありがとう」と呟く。その顔は照れてるような、複雑な表情だった。

「……こんなことならもっもちゃんと準備とかしとくんだったな。……俺も手ぶらだし」
「お、俺の服、着るか?」
「気持ちは嬉しいけど、多分美甘の服はキツイな」
「……そ、そうか……そうだよな」

 お互いの服着るなんて恋人らしいのではないのか、とドキドキしたのだけど、現実的な問題があった。
 ……というか、そうか。あのときはまさか俺とサダがこんな関係になるなんて露ほども思わなかったんだよな。

「まあその、今晩はお邪魔させてもらうけど……もう一度聞くけど、俺の家に来る気はないのか?」
「……やっぱり、サダんちに迷惑かけそうだし、それならここのがいい、と思った」
「そうか。……分かった」

 そう携帯端末を取り出し、どこかにメッセージを送るサダ。
 何してるのかと思ってみてると「今日友達の家泊まるって伝えてきた」とサダは呟く。

「ともだち……」
「いや、その……恋人って言ったら、多分うるさそうだから」
「うるさい? ……あ」

 聞き返したあと、なんだか顔を赤くしたサダにハッとした。
 そうか、世間一般的に恋人同士が泊まるとあーだこーだがあれやこれしてると思われてしまうってことなのか。サダがそんなやつではないと分かってても、サダの表情から察してしまった俺はつられて顔に熱が集まるのを感じた。

「美甘、俺は美甘が嫌がることはしないから」
「お、おう……」

 そんな俺に慌てて念押しするサダに、余計ドキドキしてしまった。
 今夜はサダと二人きりになるのか。こんなことを考えるのは不謹慎なのかもしれないが、それでもやはり、こんな形でもサダが泊まってくれるのは嬉しく感じた。
 ――これからのことを考えなければ、本当は今夜はサダと何して遊ぶかとか、オールしようとか、そんなことだけを考えたかった。
 けども、現実はそう上手くはいかない。

「……それじゃ、美甘。スマホ借りていいか?」

 サダが泊まってくれるのは『万が一』のためで、これから俺がするのは幼馴染たちとの絶縁だ。けれど、これが上手く行った先にある未来のことを考えれば、乗り越えなければならない壁でもある。
 俺は「ああ」と端末をサダに手渡した。
 ここはもうサダに任せるしかないのだ。
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