どうしょういむ

田原摩耶

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性悪双子と強制的に仲直りさせられる。三日目。

全部お前のためです※

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 酷い、酷い時間だった。
 あの二人に心身追い詰められ、堪えられるほどの頑丈な身体ではない。気付いたときにはベッドに寝かされていて、見慣れた燕斗の部屋の天井を見て緊張する。

「く、ぅ……っ」

 帰らなければ、と起き上がろうとして、酷い頭痛に再びベッドの上で蹲る。そんなとき、部屋の扉が開く音が聞こえた。
 静かに開かれる扉。誰がやってきたのかなんて、考えなくとも分かっていた。

「……美甘」

 ――燕斗だ。
 部屋の出入り口から顔を逸したまま、枕にしがみつく。絶対にその声には答えてやりたくなかったのだ。
 なのに、

「美甘、具合はどうだ」

 わざわざ俺の正面へと回り込んだ燕斗は言いながら俺の頬に触れてきた。そして、そのまま前髪を掬うように額に触れる。

「っ、いい、わけないだろ……」
「朝ご飯は美甘の分もある。……胃に優しいやつだ。薬まだだったろ? 食べられそうなら降りてこい」

 命令かよ、と燕斗を睨んだとき、額に触れていた指先がそのまま頬から顎下へとするりと落ちてきた。

「な、んだよ……」
「俺はまだお前のことは許していないからな」
「――っ、」

 はあ?と思わず声が出そうになった。
 それだけを言って燕斗は自分の部屋を出ていくのだ。
 目の前の扉が閉まるのを見つめたまま、暫く俺は口を開いたまま動くことができなかった。

 ――なんだ、あいつ。
 まるで俺の方が加害者だとでも言いたげな口振りといい、あの目といい、それはこっちの台詞だ!と言い返してやりたかった。
 が、その後のことを考えるとただひたすらに億劫な気分でもあった。

「……なんなんだよ、あいつ」

 燕斗の考えてることが分からないなんて、別に今に始まったことではない。なんなら、今も昔もあいつはわけがわからない。
 確かに燕斗から逃げようとしたのは俺だけど、そうなる原因を作ったのはお前だよな?と言ってやりたかったが、そんなことしたらどんな目に遭わされるか分からない。

「……馬鹿燕斗」

 俺だってお前のことなんて許してない。
 ずぐずぐと割れるような痛みに耐えられず、俺は先に薬を飲むことにする。そのまま水だけを押し流し、胃が落ち着くまで暫くそのまま俺はベッドの上、座り込んでいた。
 サイドボードのデジタル時計を確認すれば、未だ昼前だ。長い間眠っていた気がしていただけに、まだ午前中だという事実に驚く。

 そんなことをしていると、再び燕斗の部屋の扉が乱暴に開かれた。何度燕斗やおばさんに注意されても治らない、その雑な開け方は間違いない、宋都だ。

「よ。やーーっと起きたか美甘」

 おっせえぞ、なんて言いながらズカズカと部屋の中に入ってくる宋都に最悪だ、と顔をしかめる。落ち着き始めていた頭が再び痛くなってきた。

「……宋都」
「燕斗のやつからなんか言われた?」

 ベッドの隣にどかりと腰を下ろしてきた宋都。そのまま腰に手を回され、今朝のことが蘇り、慌てて俺はその腕を振り外した。

「言われた。……お前が余計なことを言うから」
「あーあれか、電話のやつ? だってあれがカマ掛けとか思わねえじゃん」

 悪びれもせず「ま、お前の自業自得だろ?」と人のつむじを押してくる宋都の手から逃げようとバタつくが、宋都は解放してくれない。
 それどころか、そのままずるずると俺の身体を抱えて自分の膝に座らせようとするのだ。

「おいっ、お、降ろせって……っ」
「それよか美甘、あのことは言ってねえだろうな」
「……あのこと?」

 心当たりがありすぎる。
 顔をあげ、宋都を覗き込もうとしたときだ。伸びてきた手が人の股ぐらを弄り、そのままスウェット越しにぎゅっとケツの穴を押し上げられ、「ひっ」と息を飲む。
 そのまま宋都はぐりぐりとそこを布越しに押さえつけてくるのだ。

「初めては俺が貰ったってこと」
「い、言えるわけ……ないだろ……っ!」
「はっ、だよなぁ? けど、燕斗のやつは妙に勘いいから面倒なんだよな」
「お、お前な……」

 宋都が自己中野郎というのは今更ではあったが、だとしてもだ。
 いっそのことバラした方がいいのではないか?なんてそんな思考が過ぎったとき、宋都はそのまま燕斗のサイドボードを開ける。そして。

「だから、慣らしていこうぜ」

 どういう意味だ、と聞き返すよりも先に、サイドボードの戸棚の奥からごろりと出てくるそれに言葉を失った。
 男性器を象ったそのシリコン製の玩具を手にした宋都はそのまま一緒に取り出したローションをディルドに垂らす。

「お、おま、おまえっ、それ」
「あ? バイブのがよかった?」
「ぃ、いやだ……っ、どっちもやだ……!」
「文句言ってんじゃねえよ。言っとくけど、お前のためでもあるんだからな」

 どこが俺のためだ!
 慌てて足をバタつかせ、宋都の腕から抜け出そうとするがこの男、微塵も俺を解放する気はないようだ。慣れた手付きでスウェットを脱がされ、足首まで落ちていくそれを無視したまま宋都は下着の上から俺の下半身を握り締めるのだ。
 哀れなほど縮こまったそこを柔らかく圧迫され、嫌な汗がじんわりと滲む。

「さ、宋都……」
「震えんなよ、美甘。別になんもしねえって」

 じゃあその手に持ってるのはなんなのだ。
 もう片方の手で俺の下着をずらした宋都は、そのまま未だ熱を持っていたそこにもローションを塗り込むのだ。
 柔らかくなった入口の縁からその奥まで、滑るように挿入される宋都の指に息を飲む。

「っ、ぅ、や……っ」
「おい、あんまエロい声出すなよ。うっかり勃つだろ」
「お、お前……っ、ん、ぅ……っ!」
「ほら、じっとしてろ。……腰、そのまま持ち上げてろよ」

 入念に塗り込まれた潤滑油。そこに先程のディルドの亀頭部分を押し付けられれば、少し力を加えるだけでそれはずぶりと沈んでいく。
 内側から強制的にこじ開けられていく感覚は、最早恐怖に近かった。

「っ、は、ぅ……っ!」

 いつぞやの宋都のものよりかはましではあるが、それでもケツの穴に収まる異物感は拭えない。ドクドクと鼓動が加速し、根本の取っ掛かりの部分まで深くねじ込まれたそれに俺は動けなくなる。

「っ、さ、さんと、……っ、これ、いやだ……」
「嫌だじゃねえんだよ、これで今の内にケツの穴緩くしてけ?」
「……っ、ぅ、あ……」
「それともなんだ? 玩具はつまんねえ?」

 そんなわけないだろ、と言うよりも先にうっすらと性器の形に膨らんだ腹部を宋都に撫でられ、腹の中で擦れるディルドに堪らず飛び上がる。

「っ、さ、んと……っ、やめ……っ」
「は、……思ったよりも悪くねえじゃん。今度は俺らのサイズに近いもん用意してやるよ」
「……っ!」

 なんてことを言うのだ、と顔が熱くなる俺を見て、宋都は笑いながら服を戻していくのだ。中にディルドが収まったまま動けない俺の代わりにスウェットをずり上げた宋都。
 下着の中、歩く度に濡れた音が下半身で響くようで怖かった。そんな俺を見て宋都は笑う。

「それじゃ、行くか」
「ま、え……行くって……」
「朝飯、まだだったんだろ?」

「行くぞ」と、宋都に腰を抱かれるまま立ち上がらせられた瞬間、中の玩具に前立腺を圧迫され、堪らず腰が抜けそうになる。そんな俺の腕を掴み、「何やってんだ、美甘」と宋都は眉を寄せるのだ。

「なんだ、一人じゃ歩けねえって? 抱っこしてやろうか?」
「い、らな……っ、ごはん、いらない……」
「嘘こけ、さっきからきゅるきゅる腹鳴ってただろ」
「き、気のせい……それ、宋都の……っ」
「良いから来いって」
「ぅ、あや……っ!」

 ぐ、と腕を掴まれ、無理矢理立ち上がらせられた瞬間、そのまま回された腕にわざと下腹部を押され、全身が震えた。しっかりと根本まで収まったそれは少し歩くだけでも異物感を発揮し、正直それどころではない。
 それなのに、この悪魔は。

「今の内にその感覚にたくさん慣れとけよ。そっちのがお前のためだからな」

 耳元で囁かれる言葉に気が遠くなる。
 貧血のような気分のまま、俺は半ば宋都に持ち上げられるような形で階段を降りるハメになったのだ。



 ケツの中の異物は歩く度に腹の中で擦れるようだった。それでも、最初よりは徐々に馴染んでいっているのが分かって余計に嫌だった。

 ――慈光家・二階廊下。
 宋都に玩具突っ込まれたまま無理矢理部屋から連れ出されたところでまともに歩けるはずなどなかった。

「ふ、ぐ……」
「おいおい、すっ転ぶなよ」

 一歩踏み出すのも精一杯な俺を見下ろし、笑う宋都。どう見ても楽しんでいる顔をしている。本当にこいつはどこまでも性格が悪い。

「ぬ、抜けよじゃあ……っ!」
「すぐ抜いちゃ意味ねえだろ」

 他人事だと思いやがって、こいつ。
 足を滑らせないように手すりにしがみ付きながらもなんとか階段までやってきたが、一歩降りるごとに下半身にやってくるであろう刺激を想像して思わず足が竦んでしまう。
 手すりにしがみ付いたまま動けなくなる俺を見て、宋都は「仕方ねえな」と俺の腰を掴んだ。そして次の瞬間、ケツへと伸びてきた宋都の手にそのまま肛門を蓋していたディルドをぐり、と押し上げられる。

「ひ、う゛……っ!」

 腹の奥に当たる先端部。その刺激に耐えられず、堪らず腰を抜かしてしまいそうになる俺。そんな俺の腰をぐっと抱き寄せた宋都はそのまま耳朶に顔を寄せる。

「っぶねーなあ、なんだ? 抱っこしてほしいのかよ」
「んなわけ、ない……だろ……ッ!」

 あんまりな言いぐさに思わず反論すれば、宋都は「本当かよ」と笑う。耳元で笑われる都度、吐息が直に吹きかかってこそばゆい。
 こんな抱きしめられるような体勢、誰かに見られたらと思えば気が気ではなかった。
 離れろよ、と宋都の胸を震える手で押し返せば宋都は「おっと」とだけ呟き、あっさりと俺から手を離すのだ。

「そうかよ。じゃ、俺は先下降りとくからな」

 そう、そのまま俺の横を抜けて階段を下りていく宋都。そんな宋都に、「え」と思わず間抜けな声が漏れ出てしまう。そして、さっさと降りて行っていた宋都はこちらを振り返る。

「俺の助けは必要ねえんだもんな」
「い、言ったけど、けど……」
「じゃ、精々頑張れよ。……あ、逃げたりでもしたら罰ゲームな」

 宋都の口から出た『罰ゲーム』という単語に血の気が引いた。一般的にもろくな意味はない単語ではあるが、俺達の場合は特別最悪な意味合いを含んでいた。
 とは言えど、この状況自体が『罰ゲーム』のようなものなのだが。
 
「う、あ、待って……お、おいてくなって……ッ、さ、宋都……っ!」

 そのまま軽い足取りで一階まで降りていく宋都。今度こそ奴は最後までこちらを振り返ることはなった。
 ――あいつ、まじで置いていきやがった。

「う、く……」

 なんで俺がこんな目に遭わなければならないのか。それでも、罰ゲームと聞いたら身体は逆らえなくなってしまうのだ。
 自然と浅くなる呼吸を奥歯噛みしめ、内側からの快感を押し殺しながら一歩、また一歩とそろそろと降りていく。瞬間、つるりと足が滑った。

「……っ!!」

 まずい、と血の気が引いたときだ。傾く身体のバランスを慌てて取ろうとするが、間に合わなかった。階段から転落、なんてことにはならなかったが、受け身に失敗してそのまま階段で尻餅をついてしまう。

「い゛、ぅ゛……ッ!!」

 尻餅の衝撃がもろにケツの中の玩具に伝わり、その拍子に下着の中で性器が大きく震えるのを感じた。

「っふ……~~ッ!」

 そのまま座り込んだまま、俺はあまりの刺激と尻餅とよる鈍痛と情けなさでなんだか泣きそうになっていた。
 ケツが、ケツの中も焼けるように熱い。
 立ち上がることもできないまま固まっていたときだった。一階から扉が開く音が聞こえて、そのままバタバタと足音が近付いてくる。

「……美甘?!」

 そして、現れたのは燕斗だった。
 俺がドタバタしていたのが聞こえたのかもしれない。何事かと目を丸くした燕斗は、そのまま蹲って立ち上がれない俺の元へすぐ駆け寄ってきた。

「え、んと」
「どうした、立ち眩みか?」

 珍しく心配してくる燕斗はそのまま俺の身体を支えた。問いに対して首を横に振れば、燕斗は俺の下半身の違和感に気付いたようだ。
 予期せぬ快感に耐えきれず、スウェットの下で膨らんでいた性器に目を向けた燕斗。そのまま燕斗にウエストのゴムを引っ張られ、手が入ってくる。

「ぁ、や……っ、め」

 こんなところで、と止める暇もなかった。そのまま先走りで濡れた下着越しに肛門を撫でていた燕斗の指が“栓”ち触れた瞬間、びくりと全身が跳ね上がる。

「あいつ……そういうことか」
「う、あ」

 どうやらこの異物に気付いたらしい。舌打ちした燕斗はすぐにスウェットから腕を抜く。
 そして、代わりに俺の脇の下に腕を入れてくるのだ。そのままずるりと上半身を持ち上げられるよう、燕斗に抱き抱える身体。何事かとすぐ顔を上げれば、鼻先には燕斗の顔があった。
 そして、先程の心配の色はどこにいったのやら、いつもの冷たい目をした燕斗が俺を見つめ返す。

「待って、燕斗、なに」
「そんな顔で皆のいるところにいくつもりだったのか」
「だって、」
「俺が許すわけないだろ」

 宋都が、と言い返すよりも先にそのままニ階へと引きずり戻される身体。
「待って、えんと」このまま逃げたと思われたら、宋都に『罰ゲーム』をされてしまう。
 そう慌てて燕斗の腕にしがみついて止めようとしたときだ。

「一旦それを処理するのが先だよ。……こっちに来るんだ、美甘」

 怒ってる人間のつくる笑顔というのは、何故こうも余計恐ろしく見えるのだろうか。
 笑ってない目で見詰められれば逃げることなどできなかった。
『それ』がなにを示しているのか、俺は分かってしまったからこそ余計なのかもしれない。




 ――慈光家便所。

「っ、ぁ、え、んと……っ」
「足を閉じるな、美甘」
「ゃ、じ、ぶんでする……っ、じぶんで、やるから……っ!」

 綺麗に掃除が行き届いた広い便所。
 俺が慈光家の中で唯一落ち着ける場所だったが、今は目の前にいる燕斗のお陰でなにもかも台無しだった。

 問答無用で履いていたスウェットの中に手を突っ込まれ、躊躇なく人の下着の中にまで指を滑り込ませてくる燕斗にただ震える。
 そして、俺のケツに触れた燕斗はその割れ目の奥にずっぽしと収まったそれを探り当て、露骨に溜息を吐いた。

「宋都のやつ、手加減を知らないのか」
「……っ、ぁ、く、ひ……っ」

 それをお前が言うのか、というツッコミは喉奥から溢れる喘ぎ声によって掻き消された。
 ディルドの底を掴まれ、そのままゆっくりと引き抜かれていく異物。その人体の形を作り変える気しか感じさせられない歪な風船のようなフォルムによって内臓を押し上げられ、吐き気が込み上げる。

「っ、ぁ、あ、えんと……っ」
「ちゃんと息を吐け。……止めるな。呼吸の仕方くらいは分かるだろ?」
「っ、は、……っふ……」

 一思いに一気に抜かれた方がましかもしれない。
 ぐにゅ、と粘膜を圧迫させながら腹の中、這い擦るようにして出口に向かってくるディルド。その形に合わせて、肛門が限界ぎちぎちまで広げられ、目の前が赤く染まる。

「っう゛、ぅ……ッ」
「そのまま……力を抜くんだ、美甘。……そうだ」
「ぇ、んと……っ、ん、ぅ……ッ」
「………………」

 俺の後頭部に手を回した燕斗は、そのまま俺の頭を撫でながら呼吸を促す。そして、なだらかな膨らみに中を刺激されながらもディルドを引き抜かれ、ようやく圧迫感から開放された俺は目の前の燕斗にしがみつく。
 それを避けるわけでもなく、燕斗は受け止めて、そして俺を抱き締めてくれた。
 ――その手に、つい先程まで俺のケツに収まってたディルドを手にしたまま。

「……随分と可愛げがないサイズだな。あいつ、美甘のケツを壊す気か?」
「燕斗……っ、ひ、」
「……美甘のケツがゆるくなったらどうするつもりだ、宋都のやつ」

 言いながら、ぽっかりと口を開けたまま感覚が失せていた俺のケツの穴に手を伸ばす燕斗。苛ついたように燕斗は指をねじ込んでくる。
 あまりにも当たり前のように指を数本ねじ込んでくる燕斗に驚いて、思わず目の前の燕斗の胸にしがみつけば「締りには問題ないようだね」と燕斗が耳元で囁くのだ。

「っ、えんと、ぬ、ぬいて……っ、ゆび……」
「駄目だ、我慢しろ美甘。……これは、お前のためなんだ。このままオムツで生活するハメになってもいいなら構わないけど」
「ぉ、むつ」
「ああ、おむつだ。……俺は構わないけどね、美甘の下の世話をするのは」

 考えただけでぞっとした。それだけは嫌だと首を横に振れば、燕斗はこちらを見下ろしたまま柔らかく笑った。

「……じゃあ大人しくするんだ、美甘」

 こんなことを言われて抗える人間がいるというのか。この年からオムツ生活はしたくない俺は今、燕斗に逆らうことなどできなかった。
 そんな脅しがなくても逆らえたかどうかは怪しいが、今そんなことは良いのだ。

「美甘、下を脱いで便器の上に座るんだ」

「ちゃんと、俺にアナルが見えるようにな」この男、アナルという言葉を発することに躊躇すら見せない。
 目の前の洋式便器と燕斗を交互に見る。燕斗は笑顔を浮かべたまま、『早くしろ』という無言の圧をかけてきた。
 全部俺のためのことだ、そう言い聞かせながら俺は「はひ」と履いていたスウェットを燕斗の前で脱ぐ羽目になったのだ。

 燕斗に言われるがまま、便座の蓋の上に腰をかけた俺はそのまま腰を持ち上げ、足を広げる。
 そして、こちらを見下ろしてくる男をちらりと見あげた。

「え、えんと……こう?」
「違う。もっと開くんだよ。俺に、奥まで見えるように」

 しっかりとな、と伸びてきた手に腿を掴まれ、ぐい、と大きく更に股を開かされる。
 拍子に散々柔らかくなっていた括約筋が左右に引っ張られ、燕斗に向かって口を開くのがわかった。

「ひ、ぅ……ッ」
「何勝手に足を閉じてるんだ? 俺は開けと言ったはずだけどな」

 恥ずかしさよりも恐怖の方が強い。
 今までとしていることは変わらないが、宋都に犯された後、処女ではなくなったそこをまじまじと見られるだけで全てバレてしまうのではないか――そんな恐怖が俺の思考を鈍らせる。

「っ、ぁ、う、や……っ、燕斗……っ、ゆ、ゆるして、も……ッ」
「許す? ……なに言ってるんだ。別に俺は怒ってないけど」
「う、そ……っ、んん……ッ!」

 同時に、広がった肛門に燕斗の指が一気に二本入ってくる。先程の無機質な感触とは違う、硬く乾いた指先。

「ぁ、う……ッ!」

 拒む方法すらも俺にはもう分からなかった。息をするように根本までぐっぽりと燕斗の指を飲み込んだ肛門を、そのまま燕斗に中をかき回される。

「ぁ、……っ、ひ、ぃ゛……ッ」
「いや……そうだな、少し嘘吐いていたかもしれない。――怒ってるかもな、さっさと俺を呼ばないお前にもな」
「ぇ、えんと……ッ」
「随分と柔らかくなったな。まるで非処女みたいだな、美甘」

 不意に囁かれる燕斗の言葉に、どくんと心音が大きく響く。さらりと目元にかかる前髪の下、じっとこちらを覗き込む二つの目に心臓が停まるかと思った。

 それも、ほんの一瞬だった。

「っ、ぅ、あ、く……ッ!」
「膝、自分で持ってろよ、美甘。少しでも俺に悪いと思ってるならな」
「きゅ、ふ……ッ!」

 考える頭もなかった。
 囁かれるがまま、燕斗が動きやすいように膝裏を抱えたまま、俺はただ燕斗の指責めを奥歯を噛み締めて堪えた。
 容赦なく長い指は張り出た前立腺を愛撫し、責め立てる。その度に脳の奥もどろどろに溶かされ、便座の上、膝を抱えたまま俺は体を震わせた。

「ゅ、び……ッ! ぎ、ひ……ッ!」
「中まで震えてるな、美甘。俺の指は美味しい?」
「っ、わ、かんにゃ、……ぁ゛……ッ、ひ、ぅ゛……ッ!」
「嘘吐け。こんなに中、ケツ全体で俺の指に吸い付いてきて何言ってるんだ」
「ッん、ひぅ……ッ!」

 前立腺を柔らかく引っ掻かれ、そのまま執拗に責め立ててくる燕斗に止めてくれ、と首を横に振って止めようとすれば、止めるどころか燕斗は俺の腿を掴み、更に執拗に追い立てた。
 
 下手したらリビングに聞こえてしまうのではないか。そう必死に声を抑えようとするが、食いしばった歯の奥から息が漏れる。

「っ、ぅ、や、ッ、ひ……ッぇ、えんと……ッ」
「……」
「ぅ゛、む゛……ッ!」

 何故無言なのか、とツッコミかけた矢先のことだった。唇を塞がれ、そのまま噛み付くようにキスをされる。

「ふー……っ、ぅ゛……ッ! む、ぐ……ッ!」

 熱い舌を咥えさせられ、俺の舌ごと根本からしゃぶりつかれた。
 緊張とストレス、過度の快感のあまり酸素が薄くなり、頭がぼーっとしてくる。
 いつの間にかにゆるく頭を擡げていたそこの先っぽに熱が集まり、長い指で中を引っ掻き回される度に腰が震えた。熱い。やばい。

「っ、う゛、んん゛っ!」

 与えられ続ける刺激に堪えられるほどの持久力も俺にはない。何回か長い指で前立腺を揉まれた次の瞬間、大きく下半身が震え、ぎゅっと爪先に力が入った。
 瞬間、頭の中が真っ白になる。
 舌同士、濡れた表面を擦り合わせように執拗に絡め取られながらも中を責め立てられ続け、まともにしていれる人間がいるなら教えてもらいたいくらいだ。
 



 それから何度燕斗にイカされたのか俺は覚えていない。
 便座の上から動けずにいる俺を見下ろしたまま、燕斗はゆっくりと指を引き抜く。
 そして、直接触られていないのに絶頂の余韻で頭を軽く持ち上げたままピクピク震える亀頭から垂れる先走りを優しく拭うのだ。

「はー……っ、ふ、……っ」
「……美甘」

 名前を呼ばれ、びくりと体が震える。
 顔を上げれば、ただこちらを見下ろしていた燕斗と視線がぶつかった。そこにいつもの優しい笑みもない。

「ぉ、怒らないで……えんと……っ」

 燕斗のやつが怒ってるのは明らかだ。
 震えを堪えることもできず、そう懇願する俺に燕斗はそのまま空いた手で俺の頭を撫でるのだ。そして、頭を撫でるように燕斗は俺を抱きしめる。

「お前が悪いんだ、美甘。……俺は別に、お前を好きで怒ってるわけじゃない」
「ほ、んとに……?」
「ああ、ただお前が俺のしてほしくないことばかりをするから悪いんだよ」
「ご、め……」

 ごめんなさい、と口にするよりも先に、髪を掻き上げられる。そして明るくなった視界の中、真っ直ぐにこちらを覗き込んでくる燕斗が写り込んだ。
 ――キス、される。
 そう直感した次の瞬間、視界は影で暗くなった。

「っ、ん、ぅ……っ」
「……っ、美甘……」

 先程の捕食みたいなキスじゃなくて、優しく触れるだけのキスに体が震えた。
 俺にはもう、燕斗が何考えているのかわからない。怒ってるくせに、こうして優しく触れてくることもだ。

 固まっていると、いきなり便所の扉が叩かれる。その音にびっくりして飛び上がりそうになった矢先だった。

『おい、漏れそうなんだけど!』

 扉越し、聞こえてきたのは宋都の声だった。
 燕斗は俺から唇を離し、そして扉を睨みつける。

「少しくらい待てないのか」
『あ? ……あー、はいはい』

 そして燕斗の返事になにかを察したらしい。呆れたように笑いながら宋都はそのままドスドスと足音を立てながら扉から離れていく。

 ――そうだ、宋都との約束。
 まさかまた後からなにか言われるのではないか。そう青ざめる俺の気を知ってから知らずか、震える俺の髪を撫でていた燕斗は何故か名残惜しそうに俺から手を離す。

「ご飯、まだだったよな。……行こうか」

 人に八つ当たりをすることで少しは気が晴れたのかもしれない。
 先程よりも柔らかくなった燕斗の笑みに安堵するものの、胸の奥の蟠りは確かに残ったまま俺は燕斗に頷き返すことしかできなかった。



 こんな目に遭わされて飯の味などするわけがない。

 リビングにはおばさんと宋都がいて、宋都のやつは燕斗に引きずられてやってきた俺を見て無言でこちらを見ていた。
 その目がすごく嫌で、俺はリビングにいる間ろくに顔を上げることはできなかった。

 それから飯を貰って、薬を飲んで、また燕斗に付き添われて燕斗の部屋へと戻る。

「……っ、は、ぁ、……っ、燕斗……」
「具合はどう? 熱は……微熱っぽいな」
「ん、……ぅ……」
「今日はゆっくり内で休むといい。学校には連絡しておくから。俺も休んで美甘といるし」

 その燕斗の言葉にぎょっとする。
 冗談じゃない、一日もここにいたら治るもんも治らない。

「だ、……っ、大丈夫、……これくらい」

 それに、これくらいなら少し休めば治る。
 そう分かっていたからこそ燕斗に詰め寄れば、腰を支えていた燕斗の手に臀部を思いっきり揉まれ、「ぃ゛っ」と声が漏れた。

「っ、な、なに」
「腰、全然力入っていないくせに」
「それは、お前が……っぁ……」

 お前が、変なことばかりするからだ。

「俺が、なに?」

 尻の肉をぐにぐにと柔らかく揉んでいた指が開いた割れ目の奥、閉じかけていたそこを撫でてきて「ひぅ」と汗が滲む。

「っ、燕斗、やめ……も、……っ」

 また汗を掻くようなことはしたくない。そう、懇願するように燕斗の胸にしがみつけば、燕斗はなにかを考えるように目を細める。
 そして。

「……っ、ぅ……」

 伸びてきた手に顎を掴まれ、顔を持ち上げられる。くしゃくしゃに乱れた前髪を梳くように掻き上げられ、普段は遮られていた視界いっぱいに広がる燕斗の顔に目のやり場に困る。

「え、んと」
「……分かった、今日は何もしないから」

「だから、そんなにビクビクしないで」と小さく呟く燕斗に思わず耳を疑った。

 何もしないだって?こいつが?
 ――現在進行形で俺に触れてくるこいつが?

 目を丸くしたまま固まる俺に、燕斗は「ほら」とぱっと俺から手を離し、そして片手を挙げる。

「……ぅ、そだ」
「嘘じゃない」
「どうして……」
「言ってるだろ。俺は別に美甘を苦しめたいわけじゃないって」

 嘘だ、と喉元まで出かかったが、それよりも先に燕斗に抱き締められ、心臓が止まりそうになった。鼻先に当たる燕斗の胸、包み込まれるような体温に副作用の睡魔も合わさって意識がどろりと溶けていくような感覚に陥る。

「……お前は昔から体力がなかったからな。少しくらい休ませないと、このままじゃ本当に倒れそうだし」
「休まない、平気……」
「また縛られたいのか、お前は」

 燕斗の言葉に「ひ」と声が漏れた。この男は本気で縛り兼ねない。つい先程俺を心配したばかりの口でさらりととんでもないことを言ってくる燕斗が恐ろしくて、思わず燕斗から離れようと身を攀じれば「冗談だよ」と燕斗は俺を更に抱き締めるのだ。

 ――嘘だ、今のは絶対本気のやつだった。

「とにかく、今日は休むんだ。母さんには俺から言っておくから……いい?」

 嫌だと言ったところで縛るんだろ、と観念した俺はただ頷いた。燕斗は「よし」と頷き返し、そしてそのまま部屋を出ていくのだ。
 パタンと閉まる扉、俺は燕斗のベッドに寝転んだまま、首筋にそっと触れる。
 熱が籠もったように体が熱くてダルい。

 ――本当は早くサダに会って、改めて燕斗のことについて謝りたかったのにな。

 あんな別れ方になってしまったんだ、余計心配させてるのではないのかと思うとただただ深いため息が出た。

 けれど、ああなった燕斗を止めることなど俺には出来ない。

 さっさと薬が効いてくれて動けるようになればいいのに。
 どこもかしこも火照ったように疼く中、俺は何度目かのため息を吐いたあと諦めて布団にもぐり、休むことにした。
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田原摩耶
BL
非王道/受けにはデロ甘な鬼の堅物真面目眼鏡風紀委員長×攻めの前では猫被ってるデレデレ他にはスーパードライな元ヤン総長トラウマ持ちチャラ男固定CP寄りのがっつり肉体的総受け

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

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