36 / 82
35
しおりを挟む「どうした? 出ないのか」
「……っ、……」
肩に触れる真夜の指が鎖骨を撫でる。こちらを覗き込んでくる瞳に気を取られた瞬間、通話は途切れた。
「会長からだろ? 出りゃよかったのに」
「……分かってる。出損なっただけだ」
そう、出損なっただけなのだ。なんも、やましいことも後ろめたいこともない、はずなのに。
にやにやと笑う真夜の手を払い除けていると、再び電話がかかってきた。
「……っ」
「お、すぐ掛かってきた」
「間隔短すぎんだろ」と笑う真夜の腕から抜け出し、俺はそのままソファーを立つ。
ドクドクと早鐘打つ心臓を必死に落ち着かせながら、なるべく普段通りに俺は電話に出た。
「……はい、愛佐です」
数回咳払いしたのちに通話に出れば、『ああ、愛佐』と聞こえてきた菖蒲さんの声に胸がきゅっと締め付けられる。
『ごめん、何度もかけて。タイミング悪かったかな?』
「いえ、大丈夫です。こちらこそすみません、すぐに出られなくて」
『気にしないで構わないよ。ただ、ちょっと気になってね』
その言葉に俺は思わずソファーにいる真夜をちらりと見た。やつは背もたれに膝を乗せ、にやにやと笑いながらこちらを見てる。目があって手を振ってきた。
『今どこにいる?』
「あ……すみません、今日も、その……部屋にいます」
『ああ、だから教室にはいなかったんだね。……体調が優れない?』
「……っ、……はい」
会長に嘘吐いてしまった。
というか会長、俺に会いに教室まで足を運んできてくれたのか。
嬉しくなる反面、申し訳なさで頭が上がらない。
『そうか』と呟いたきり、菖蒲さんは何かを考え込むように黙り込む。そして。
『……今からそっちに行っても構わないかな』
「え……今から、ですか」
『無理にとは言わないけど……少し心配でね。他に欲しいものがあったら届けるよ』
「い、いえ、大丈夫です」
『それはどっちの?』
「俺の方から会長の元へ伺います。会長の手を煩わせるわけにはいきませんので」
『それは気にしなくていいんだけど……無理してない?』
「無理はしてません」
『……そう? じゃあ昼休み、生徒会室で待ってるよ』
はい、と答えた声は勢いがつき過ぎて少しだけ上擦ってしまう。それからすぐ、通話は切れた。
まだ耳に菖蒲さんの耳障りのいい声が残っているようだ。けれど、普段以上に緊張してしまった。
言わずもがなこの男のせいだろう。
「電話の時声高くなんの。それ、会長相手だから?」
「……煩い」
「煩いはないだろ」
「…………言いすぎた」
「……っふ」
「何ニヤニヤと笑ってるんだ」
「……いや、可愛いなと思って」
「なんだと?」
「な。さっき最初電話かかってきたとき電話出なかったの、なんで?」
「別に理由なんて」
ない、と言いかけたとき。「嘘」と背後から真夜が顔を覗き込んでくる。
いつの間にソファーから移動していたのか。固まる俺の唇をそっとなぞり、やつは口元を歪める。
「後ろめたかったからだろ」
「っ、ちが……っ」
「浮気してると思ったら電話出られなくなっちゃった?」
「ちが、う。俺は菖蒲さんと恋人ではない」
「あ、そ。じゃ、これも問題ないか」
ん、と噛み付くように唇を軽く重ねてくる真夜に驚く暇もなかった。
ぎょっとし、俺は慌てて真夜の胸を押した。が、離れない。そのままどさくさに紛れて頬、耳元、それから首筋へと舌を這わせる真夜。ぢう、と首筋を吸い上げられた瞬間、ぴりっとした痛みが皮膚に走る。
「い……っ! 離れろ、おい……っ」
「おっと、危ね」
「何、して……」
「会長とお話できて元気になったか? 本当、分かりやすいな。愛ちゃんは」
悪びれた様子もなくからりと笑う真夜。
この男は、本当に油断も隙もない。
一応助けてもらった立場ではあるが、こいつの本質は善良とはかけ離れてる。そうだ、呑まれるな。
自分に言い聞かせるようにそのままじり、と距離を取ると、真夜は「露骨過ぎ」と肩を竦める。
「んで、なんだっけ? 生徒会室に行くなら送ってやるよ」
「盗み聞きするな。……いい、一人でも」
「本当に? もし星名が来たら、愛ちゃん一人でいけそ?」
「大丈夫だ、もう」
「ふ、くく……意地っ張り」
言いながら今度は頬を揉まれる。
なんなんだ、この男はベタベタとさっきから。どこか体の一部を触ってないといけないのか。
「そもそも前提としてだな……っ、俺は、ベタベタするのは好きじゃない」
「なら慣れろ。俺はパーソナルスペースクッソ狭いから後が辛いぞ」
お前が我慢したらいいだけだろ。そもそも、Subに尽くすのが好きとか言っていたくせに。
言いたいことは山ほどあったが、楽しそうな真夜を見てるとなんだかバカバカしくなってきた。
それにしても、と俺は先程の菖蒲さんとの通話を思い出す。
菖蒲さんの言ってたきになることってなんだろうか。
心当たりは……あった。ありすぎるほどに。
時計を確認する。
気付けば昼休みまで時間はそれほどない。今から着替えて準備をすることまで考えればギリギリだ。
一向に帰る気配のない真夜を追い返す時間もなさそうだ。俺は早速菖蒲さんに会うための用意をすることにした。
266
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。


男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる