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√c:ep.1『嘘吐きは三文の得』
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志摩と食事を終えたあと、志摩とともに教室へと戻る。それからあっという間に時間は過ぎていき、放課後。
壱畝が他のクラスメイトたちとさっさと教室を出て行ってるのを見て一先ず安堵する。あいつが教室にいると息が詰まるようだ。
思いながら帰宅準備をしていると、隣の志摩が声をかけてきた。
「今日は部屋に戻るの?」
「そのつもりだけど……十勝君は相変わらず忙しそうなの?」
「さあね。ろくに顔を合わせてないから知らないけど、忙しいんじゃない? 昨夜も帰ってこなかったし」
「……そっか」
「なんで齋藤が落ち込んでるの?」
「い、いや……そういうわけじゃないんだけど、大変そうだなと思って……」
「今まで遊んでた分のツケが回ってきたんでしょ。丁度いいんじゃない?」
言いながら「ほら、帰るよ」と志摩は椅子から立ち上がり、俺の肩を叩く。
生徒会の皆、大丈夫かな。せめて何か力になれることがあればいいのだが、と思うが、実際俺にできることなんて大人しくするくらいしかない。
志摩と並んで教室を出た。
それから食堂で食事を取り、志摩に部屋まで送り届けられる。
「本当にこのまま帰るの?」
「え?」
「俺の部屋、来たら良いのに」
「……ごたついてる間は来ない方がいいんじゃなかったっけ?」
「そんなことも言ったっけ? 覚えてないや」
「……」
帰るのが名残惜しいと思ってくれているのだろう。少し考えて、部屋の中を覗く。阿佐美は――部屋にはいないようだ。
「……上がっていく?」
そう少しだけ声を潜めれば、志摩は何故か怪訝そうな顔をした。
「珍しいね、齋藤の方からお誘いなんて」
「別に……昨日も上がっただろ」
「それとは事情が違うじゃん。……齋藤の方から理由もなく誘ってくるなんて、何企んでんだろうね」
志摩が名残惜しそうにしてるから声を掛けてみただけだというのに、それだけでこの言われようだ。含みある笑みを浮かべる志摩に「なら別にいいよ」とそのまま別れようとして、閉めかけた扉を抉じ開けられた。
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「……どうぞ」
「お邪魔しまーす」
上機嫌な志摩を招き入れる。
ここ最近志摩には借りがあるから、というのが大きかっただろう。俺は確かに志摩に対する警戒心を緩めていた。
だから、まさか玄関に踏み入れて早々抱き締められるなんて思いもしなかった。
背後、のしかかってくる体重に驚き、振り返ろうとした矢先すぐ側にあった志摩の顔に驚く。
「し、志摩……っ、ちょっと……!」
「……何? 齋藤も、そのつもりで俺を誘ったんじゃなかったの?」
「そのつもりって……」
「俺の告白、ちょっとは本気にしてくれたと思ったんだけど」
その言葉に昼間のことを思い出す。
あれは軽口の延長線みたいなものじゃなかったのか。青褪める俺を無視して、志摩は項に鼻先を埋める。嗅がれているのだと気付いてさっと血の気が引いた。
「ちょっと……っ、志摩……!」
「俺は本気だよ。……齋藤のためを思って言ってるんだよ」
どこまでが本気なのか。
或いは全部本気なのだろうが、よりによってこんな状態で言うのかと恨めしくも感じた。
反論するために開いた口を唇で塞がれ、くぐもった息が漏れる。――キス、されてる。
壱畝が他のクラスメイトたちとさっさと教室を出て行ってるのを見て一先ず安堵する。あいつが教室にいると息が詰まるようだ。
思いながら帰宅準備をしていると、隣の志摩が声をかけてきた。
「今日は部屋に戻るの?」
「そのつもりだけど……十勝君は相変わらず忙しそうなの?」
「さあね。ろくに顔を合わせてないから知らないけど、忙しいんじゃない? 昨夜も帰ってこなかったし」
「……そっか」
「なんで齋藤が落ち込んでるの?」
「い、いや……そういうわけじゃないんだけど、大変そうだなと思って……」
「今まで遊んでた分のツケが回ってきたんでしょ。丁度いいんじゃない?」
言いながら「ほら、帰るよ」と志摩は椅子から立ち上がり、俺の肩を叩く。
生徒会の皆、大丈夫かな。せめて何か力になれることがあればいいのだが、と思うが、実際俺にできることなんて大人しくするくらいしかない。
志摩と並んで教室を出た。
それから食堂で食事を取り、志摩に部屋まで送り届けられる。
「本当にこのまま帰るの?」
「え?」
「俺の部屋、来たら良いのに」
「……ごたついてる間は来ない方がいいんじゃなかったっけ?」
「そんなことも言ったっけ? 覚えてないや」
「……」
帰るのが名残惜しいと思ってくれているのだろう。少し考えて、部屋の中を覗く。阿佐美は――部屋にはいないようだ。
「……上がっていく?」
そう少しだけ声を潜めれば、志摩は何故か怪訝そうな顔をした。
「珍しいね、齋藤の方からお誘いなんて」
「別に……昨日も上がっただろ」
「それとは事情が違うじゃん。……齋藤の方から理由もなく誘ってくるなんて、何企んでんだろうね」
志摩が名残惜しそうにしてるから声を掛けてみただけだというのに、それだけでこの言われようだ。含みある笑みを浮かべる志摩に「なら別にいいよ」とそのまま別れようとして、閉めかけた扉を抉じ開けられた。
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「……どうぞ」
「お邪魔しまーす」
上機嫌な志摩を招き入れる。
ここ最近志摩には借りがあるから、というのが大きかっただろう。俺は確かに志摩に対する警戒心を緩めていた。
だから、まさか玄関に踏み入れて早々抱き締められるなんて思いもしなかった。
背後、のしかかってくる体重に驚き、振り返ろうとした矢先すぐ側にあった志摩の顔に驚く。
「し、志摩……っ、ちょっと……!」
「……何? 齋藤も、そのつもりで俺を誘ったんじゃなかったの?」
「そのつもりって……」
「俺の告白、ちょっとは本気にしてくれたと思ったんだけど」
その言葉に昼間のことを思い出す。
あれは軽口の延長線みたいなものじゃなかったのか。青褪める俺を無視して、志摩は項に鼻先を埋める。嗅がれているのだと気付いてさっと血の気が引いた。
「ちょっと……っ、志摩……!」
「俺は本気だよ。……齋藤のためを思って言ってるんだよ」
どこまでが本気なのか。
或いは全部本気なのだろうが、よりによってこんな状態で言うのかと恨めしくも感じた。
反論するために開いた口を唇で塞がれ、くぐもった息が漏れる。――キス、されてる。
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