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√c:ep.1『嘘吐きは三文の得』
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しおりを挟む――食堂、テラス席にて。
二人用の椅子に向かい合い、俺と志摩は昼食を取る。
「それで、会長さんと別れる気にはなった?」
「……志摩、またそんなこと……」
「言いにくいんだったら俺が会長さんに言ってあげるよ。ほら、携帯貸して」
「だ、駄目だってば……」
あれからずっと志摩はこの調子だ。
ただ悪意があって言ってるわけではないと思いたいが、今日ばかりはしぶとい。
「俺は別にただ嫉妬してるわけじゃないからね。理由だってちゃんとある」
「そ、そうなんだ……」
「ちゃんと本気で考えてる? 今まではステータスだとか厄介避けのつもりで付き合ってたかもしれないだろうけど、反転する可能性があるってことだからね」
たまに志摩は本当は俺達の関係が偽装だと知ってるのではないかと思う時がある。
鋭いというか、疑り深いのがそうさせてるだけかもしれないが。
「今だって齋藤のこと放置してるんでしょ? 安心させるための連絡とかきた?」
「それはないけど、今は皆忙しいんだよ。だから……」
「それに、本当に齋藤のこと好きなら巻き込まないように別れるでしょ。それでもそうしないって勝手すぎない? 男として」
男として、ときたか。
むくれた顔のまま運ばれてきたコーラを飲んでる志摩に俺はとうとう何も言えなくなる。
そんな中、「齋藤」とテーブルの下。放りだしていた足にこつんと志摩の膝がぶつかった。
顔を上げれば志摩がじっとこちらを見ていた。怒ったような、拗ねたような目で。
「……恋人がほしいって言うなら俺と付き合えばいいじゃん」
「………………」
「なんで黙ってんの」
「い、いや……その……急だなって思って」
「急じゃないでしょ、別に。……齋藤は誰と一緒にいるのが一番幸せかちゃんと考えたことある?」
少なくとも、今まで志摩に色々振り回されてきていた身としては素直に応えられない問ではあった。
今のは、告白された……ということなのだろうか。一応。
視線をすぐ離せば長閑な青空、そしてチュンチュンと囀る鳥たちのいるテラス席だからこそ余計なんとなく告白された気にならない。そもそも、普通に回りに人がいるんだが。
一連のやり取りを聞かれていなかっただけでもよしとしておこう。
「齋藤」
「……志摩の気持ちは嬉しいけど、その、俺の一存では決められないよ」
「別れるのに一存もクソもないでしょ」
「そ、それはそうかもしれないけど……俺達は俺達の事情があるんだ」
ここまで言えば最早答えを言ってしまってるようなものだ。
じと、とこちらを見つめていた志摩だったが、俺が必死に目を逸らしてると諦めたらしい。
「一存ねえ」と呟き、それからコーラを飲み干した。
それに、俺と芳川会長の恋人契約に関わるのは俺達二人だけではない。
――阿賀松伊織。
全てはあの男の気まぐれによって左右される。
「……志摩、心配してくれるのは嬉しいよ。ありがとう」
「はいはい、心のこもってないお礼ありがとうございます」
「志摩」
「……後で泣きついたって知らないから」
志摩に全部打ち明けられたら、と思うことがある。それはそれで志摩と付き合うことになってしまうのではないかとも思ったが、このまま志摩を騙し続けるのも正直胸が痛い。
「わかってるよ」と頷き返せば、今度は志摩は何も言わなかった。
ふん、とそっぽ向いたまま志摩はスマホを弄りだした。少し突き放されたようで寂しかったが、俺も急いで残っていたベジタブルバーガーに齧り付くことにした。
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