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よいこの御主人様倶楽部
求:優しさ
しおりを挟む次に目を覚ましたのは、どこからか漂ってくる良い匂いに反応して鳴った自分の腹の音に叩き起こされた。
汗を含んでやや冷たくなったシャツが気持ち悪ぃ。飯食って風呂に入りたい。
そんなことをぐちゃぐちゃ考えながら寝ぼけ眼で自室を出る。
「原田さん、もう平気なんですか?」
……あれ、なんか笹山の幻覚が見えてきた。
あれか、一家に一台笹山が欲しいと夜な夜な考えていたのがここまでメンタルに影響してきたとでもいうのか。
なんて考えてたところ、パタパタと駆け寄ってきた笹山に頬をぺたりと撫でられ一気に目が覚めた。
「……っ、笹山……?! なんでお前ここに……」
「え、熱が出過ぎて記憶喪失まで……?!」
「馬鹿、寝ぼけてんだろ普通に」
「……って、四川、なんでテメェが俺んちいんだよ!」
「おい、ガチか分かりにくいボケやめろ!!」
ギャンギャンと吠える四川に寝起き脳味噌をシェイクされて記憶が段々形を取り戻してきた。
そうだ、確か俺風邪ひいて……。
「……原田さん、記憶喪失ってまじ?」
「つ、かさ……っう……」
「熱は大分下がってるみたいですが……念のため体温計持ってきますね」
「あ、ああ……」
そういや寝る前になんかこいつらがやってきたところまでは思い出した。それから申し訳なさと恥ずかしさと『だとしてもなんで四川がいんだ?』というツッコミも。
手際の良い笹山にソファーに座らせられ、そのまま体温計を脇の下に挟められる。
普段は翔太と二人がけのテーブルにはこいつらが寛いでいたであろう痕跡が残ってた。おい誰だ、どさくさに紛れて人の秘蔵コレクションAVを棚から抜き取ってきたやつは。
「……笹山、測り終わった」
「どうでしたか?」
「36.8……」
「原田さんって平熱高い方ですか?」
大体その辺りだ。無言で頷き返せば、「そうでしたか」と笹山はほっとしたように笑った。
「水、用意してますね。食事も準備してあるので、食べられそうなら言って下さい」
「ああ、ありが……」
と、と言う前にきゅるるるとなんとも悲痛な声をあげる腹の虫。
笹山はくすくす笑い、「すぐに準備しますね」と再びリビングの方へと戻った。
……なんというか、俺や翔太よりもうちの持て余したキッチンに似合う男だと思った。
笹山が離れた一瞬を狙ったかのように隣に司、そして反対側に四川が腰を下ろす。いや、狭えよ。
「原田さん、気分は?」
「ん、まあ大分平気……ってか、お前ら何人のコレクション棚弄ってんだよ……」
「あんなに堂々と棚に並べてるやつが悪いだろうが」
「婦警、保育士、ナース……これ全部こいつの趣味。こいつが勝手に物色してた」
「おい時川テメ、一人だけ許されようとしてんじゃねえよ!」
……まあ、良いチョイスだ。どれも俺の秘蔵の品であることには変わりないので少し満足げになってしまったが、待て。そういう問題か?ダメだ、頭がふわふわして考えられねえ。怒りが湧いて来ねえ。
「……んだよ、まだ調子悪いのかよ」
「病み上がりだからな。……笹山、それ俺が原田さんに飲ます」
「あ、ありがとうございます時川さん。……あとこれ、中谷さんが用意してくれた薬も置いておきますね。二錠どうぞ」
「あ゛り゛がと゛う゛」
これが人のぬくもりというやつか。
笹山はともかく普段好き勝手してくる連中が普段よりも優しいせいかむず痒さも拭えないが、今は『なんか、悪くねえな』という妙な悦が芽生え始めていた。
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もう司っていう存在の全てが最高すぎて
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そして!今回もお話がとっても面白かったです!!
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これからもよろしくお願いします!!!🙇🏻♀️⸒⸒
マジでこの話好きです!!!!!🤦♀️✨
司がかなたの事を好きすぎて変に暴走してるのが最高すぎて…ほんとに神です。
最推しは司ですが、店長も四川も捨て難いです……
とりあえず、全員最高でめっちゃくちゃに好きです!!!
この作品を生んでくれてありがとうございます!