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土砂降り注ぐイイオトコ
機械仕掛けのネズミ
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司を追い掛けてやってきた先は、店長室だった。
「司…っ!」
無駄に足の速い司を最後まで捕まえることは敵わなかった。
バーン!と勢い良く扉を開く司。店長室には、店長が一人いた。
「…時川か」
「…店長」
まるで予め司がやってくることを予期していたかのような落ち着きを見せる店長。
なんだこの空気は。司のやつ、何を言い出すつもりなのかとハラハラしていると……。
「原田さんを下さい」
両親に結婚の承諾を得にきた彼氏か?!
「つ、司さん?!」
「時川、いつも言っているが物事には順序というものがあってだな。…聞くが、それは犯人を捕まえてからというルールだったはずだが?」
「それならもう捕まえました。現行犯逮捕です」
「っ、おい、司、お前…」
落ち着け、早まるな。と目線で送るが、何を勘違いしてるのか司はウインクを返してきた。いやそうじゃねえから、そうじゃねえよ。
「犯人は…原田さんのところの元使用人で間違いないです」
「…ほう」
「言質も取ってます」
と、言うなりどこからかボイスレコーダーを取り出す司。
というかお前またそのボイスレコーダー使ってたのか、怖すぎだろ。
「……なるほど、流石ただの脳筋ではないということだな。そこは褒めてやろう、時川」
純粋にでかした司という気持ちになれないのは俺の立場のせいかもしれない。
店長も店長でなんでそんなに落ち着いてるんだ。俺の貞操はどうでもいいのか?
そう、不安になった矢先のことだった。
「だがな、詰が甘いぞ」
パチン、と指を鳴らした店長は何もないはずの壁に向かって「中谷!」とその名前を呼んだ。
瞬間。
「ッ!」
壁だったその一部から壁紙が剥がれ、現れた翔太が司を羽交い締めする!てか待て!お前は忍びか?!
「悪いね、司君。…僕は君に個人的な怨みが山ほどある!」
「しょ、翔太…!」
「く……ッ!こんな真似をして………怖気づいたんですか、店長。そんなに原田さんが俺に取られるのが嫌なのか」
「…………フッ、どうだろうな」
笑う店長は、そのままゆっくりと距離を詰めてくる。なんとなく緊張して後ずされば、背後に壁がぶつかった。
視界が陰る。顔を上げれば、憎たらしいほど整ったその中性的な顔が優しい目でこちらをじっと見下ろしてくるのだ。
「あ、あの、店長……」
「あっ、な、何やってるんですか店長!!話が違うじゃありませんか!!」
「中谷、貴様は少し黙ってろ」
「うぐぐ…」
この二人の間で一体どんな交渉が交わされたというのか。
動けなくなる俺に構わず、店長はそっと俺の頬に触れる。しなやかなその指先は、優しく輪郭をなぞった。
「て、んちょう………」
「犯人は捕まったと言ったな。…が、もしも単独ではなかったらどうする?」
「へ?」
囁きかけられたその言葉に、つい俺は声をあげた。
「で、でも、向坂さんは自分がやったって………」
「もしそれも嘘だったら、という話だ。……実はさっき監視カメラの映像を調べていたのだが」
「…えっ?!」
まさかトイレに監視カメラはないだろうな。
青褪めるが、あくまで店長の態度は落ち着いていた。
「内容はともかく、時間帯だ。お前と時川がタライに見舞われた時間帯と四川がタライに見舞われた時間帯。その間隔が明らかに短い。…………とても単独では動いてるとは思えない」
「……もう一人って、ことは…他にも使用人が……?」
「分からん、が、試してみる価値はあるんではないか」
試す。
そう、店長の指先がふに、と唇をなぞる。そのまま軽く顔を持ち上げられた、その時だった。
頭上、天井裏からガタリと音が響く。その音に、その場にいた全員が天井裏を見上げた。
「っ、店長!」
「ほう、ネズミがお出ましだ。……中谷、行け!」
「店長さん僕の使い方荒くないですかっ?!」
言うなり、司から手を離した翔太は近場にあった箒を持ち直し、そのまま思いっきり天井を突いた。ドン、と音を立て、それっきり音は聞こえなくなる。
それも束の間、音は離れた天井から聞こえてきた。
「……二人いるんなら、全員とっ捕まえてやればいいんだろ。…………楽勝だろ」
言うなり、翔太から逃げ出した司はそのまま店長室から飛び出した。
相変わらずの足の速さとフットワークの軽さ。
「お、おい司……!!」
「全く、これだから人の話は最後まで聞けと………」
「て、店長……いいんですか?司放っておいて……」
司のことも気掛かりだが、このまま本当に二人目まで司が捕まえたら今度こそ煮るなり焼くなりされてしまう。
全く笑えない俺に、店長はこちらを見る。
「良いわけないだろう」
そう、一言。
その低い声に、少しだけ、ほんの少しだけぎくりとしたときだった。天井の一部を取り外していた翔太。その穴から、がたりと何かが落ちてきた。
「っ、こ、これって……」
最初は本当にネズミかと思ったが、違う。手のひらサイズの黒いソレには四輪がついていた。
それを拾い上げた翔太は、ホコリを払う。それは、四駆のようにも見えた。
「それは……?」
「天井裏に何かしらあるだろうなと思い、予め用意していたネズミだ。…まさかここで使う機会になるとは思わなかったがこれで、少しは時川のやつの気は反らせることはできるだろう」
「本当店長さんって姑息な真似がよく似合いますよね」
「一連の行動を盗聴して把握した上でわざわざカメラ搭載型ラジコン用意してきた貴様が何を言う」
言いながら、リモコンを手にした店長は満足げに鼻を鳴らした。
ちょっと待て、話が見えない。もしかしてさっきの天井裏の物音はこいつのせいというのか。
だとしたら司はただのラジコンを犯人だと思ってたわけで、本当はグルなんていない……?
だったらまじでやばいんじゃないか。
冷や汗ダラダラの俺を他所に、ラジコンをガチャガチャ操作していた翔太はその中から何かを取り出す。
「あ、でも面白いもの映ってますよ、これ」
それはUSBメモリのようだ。取り出したタブレットに差し込み操作を始める翔太。
その手元を覗き込めば、どうやら天井裏の映像のようだ。画面いっぱいに薄暗い映像が映し出されている。
「ほら、見てここ」
「これって、向坂さん?」
「そうそう、んでここか向坂さんが天井裏から引きずり降ろされてるところで…………ほら、この後だよ」
翔太が指差す場所をじっと目を拵えて見てると、明らかにその影は動いて見えた。
それは、向坂さんと対して変わらない大きさで……。
「……誰かいる?」
「うん。暗くて分かりにくいけど、間違いないみたいだね」
「しかし、いつからうちの店の天井裏はこんなに有効活用されてるんだ………」
「言ってる場合ではありませんよ、店長さん。僕たちも動かなければ、こうしてる場合にも時川君は……」
と、翔太が言い掛けた矢先だった。
ガタガタガタッ!と天井裏で何かが這いずる音が聞こえてきた。
「…………」
「…………」
「…………」
……本当にあいつの行動力は素晴らしい。
見習いたくないがな。
「そ、そうだな。…中谷、貴様はその映像を更に解析をしてくれ。そして、その人影とやらの動向を突き止めろ」
「そんなの朝飯前ですよ」
頼もしいが、そのスキルはどこで身につけているのだこいつは。
と、不意に店長と視線が絡み合う。
「原田、お前は…………俺と来い」
「わ……分かりました」
断る理由もない。少しだけ胸の奥がざわついたが、このまま一人でいたところで不安は大きくなるばかりだ。怖気づく暇があるなら動くのが性に合っている。
俺は店長と一緒に店長室を後にした。
「司…っ!」
無駄に足の速い司を最後まで捕まえることは敵わなかった。
バーン!と勢い良く扉を開く司。店長室には、店長が一人いた。
「…時川か」
「…店長」
まるで予め司がやってくることを予期していたかのような落ち着きを見せる店長。
なんだこの空気は。司のやつ、何を言い出すつもりなのかとハラハラしていると……。
「原田さんを下さい」
両親に結婚の承諾を得にきた彼氏か?!
「つ、司さん?!」
「時川、いつも言っているが物事には順序というものがあってだな。…聞くが、それは犯人を捕まえてからというルールだったはずだが?」
「それならもう捕まえました。現行犯逮捕です」
「っ、おい、司、お前…」
落ち着け、早まるな。と目線で送るが、何を勘違いしてるのか司はウインクを返してきた。いやそうじゃねえから、そうじゃねえよ。
「犯人は…原田さんのところの元使用人で間違いないです」
「…ほう」
「言質も取ってます」
と、言うなりどこからかボイスレコーダーを取り出す司。
というかお前またそのボイスレコーダー使ってたのか、怖すぎだろ。
「……なるほど、流石ただの脳筋ではないということだな。そこは褒めてやろう、時川」
純粋にでかした司という気持ちになれないのは俺の立場のせいかもしれない。
店長も店長でなんでそんなに落ち着いてるんだ。俺の貞操はどうでもいいのか?
そう、不安になった矢先のことだった。
「だがな、詰が甘いぞ」
パチン、と指を鳴らした店長は何もないはずの壁に向かって「中谷!」とその名前を呼んだ。
瞬間。
「ッ!」
壁だったその一部から壁紙が剥がれ、現れた翔太が司を羽交い締めする!てか待て!お前は忍びか?!
「悪いね、司君。…僕は君に個人的な怨みが山ほどある!」
「しょ、翔太…!」
「く……ッ!こんな真似をして………怖気づいたんですか、店長。そんなに原田さんが俺に取られるのが嫌なのか」
「…………フッ、どうだろうな」
笑う店長は、そのままゆっくりと距離を詰めてくる。なんとなく緊張して後ずされば、背後に壁がぶつかった。
視界が陰る。顔を上げれば、憎たらしいほど整ったその中性的な顔が優しい目でこちらをじっと見下ろしてくるのだ。
「あ、あの、店長……」
「あっ、な、何やってるんですか店長!!話が違うじゃありませんか!!」
「中谷、貴様は少し黙ってろ」
「うぐぐ…」
この二人の間で一体どんな交渉が交わされたというのか。
動けなくなる俺に構わず、店長はそっと俺の頬に触れる。しなやかなその指先は、優しく輪郭をなぞった。
「て、んちょう………」
「犯人は捕まったと言ったな。…が、もしも単独ではなかったらどうする?」
「へ?」
囁きかけられたその言葉に、つい俺は声をあげた。
「で、でも、向坂さんは自分がやったって………」
「もしそれも嘘だったら、という話だ。……実はさっき監視カメラの映像を調べていたのだが」
「…えっ?!」
まさかトイレに監視カメラはないだろうな。
青褪めるが、あくまで店長の態度は落ち着いていた。
「内容はともかく、時間帯だ。お前と時川がタライに見舞われた時間帯と四川がタライに見舞われた時間帯。その間隔が明らかに短い。…………とても単独では動いてるとは思えない」
「……もう一人って、ことは…他にも使用人が……?」
「分からん、が、試してみる価値はあるんではないか」
試す。
そう、店長の指先がふに、と唇をなぞる。そのまま軽く顔を持ち上げられた、その時だった。
頭上、天井裏からガタリと音が響く。その音に、その場にいた全員が天井裏を見上げた。
「っ、店長!」
「ほう、ネズミがお出ましだ。……中谷、行け!」
「店長さん僕の使い方荒くないですかっ?!」
言うなり、司から手を離した翔太は近場にあった箒を持ち直し、そのまま思いっきり天井を突いた。ドン、と音を立て、それっきり音は聞こえなくなる。
それも束の間、音は離れた天井から聞こえてきた。
「……二人いるんなら、全員とっ捕まえてやればいいんだろ。…………楽勝だろ」
言うなり、翔太から逃げ出した司はそのまま店長室から飛び出した。
相変わらずの足の速さとフットワークの軽さ。
「お、おい司……!!」
「全く、これだから人の話は最後まで聞けと………」
「て、店長……いいんですか?司放っておいて……」
司のことも気掛かりだが、このまま本当に二人目まで司が捕まえたら今度こそ煮るなり焼くなりされてしまう。
全く笑えない俺に、店長はこちらを見る。
「良いわけないだろう」
そう、一言。
その低い声に、少しだけ、ほんの少しだけぎくりとしたときだった。天井の一部を取り外していた翔太。その穴から、がたりと何かが落ちてきた。
「っ、こ、これって……」
最初は本当にネズミかと思ったが、違う。手のひらサイズの黒いソレには四輪がついていた。
それを拾い上げた翔太は、ホコリを払う。それは、四駆のようにも見えた。
「それは……?」
「天井裏に何かしらあるだろうなと思い、予め用意していたネズミだ。…まさかここで使う機会になるとは思わなかったがこれで、少しは時川のやつの気は反らせることはできるだろう」
「本当店長さんって姑息な真似がよく似合いますよね」
「一連の行動を盗聴して把握した上でわざわざカメラ搭載型ラジコン用意してきた貴様が何を言う」
言いながら、リモコンを手にした店長は満足げに鼻を鳴らした。
ちょっと待て、話が見えない。もしかしてさっきの天井裏の物音はこいつのせいというのか。
だとしたら司はただのラジコンを犯人だと思ってたわけで、本当はグルなんていない……?
だったらまじでやばいんじゃないか。
冷や汗ダラダラの俺を他所に、ラジコンをガチャガチャ操作していた翔太はその中から何かを取り出す。
「あ、でも面白いもの映ってますよ、これ」
それはUSBメモリのようだ。取り出したタブレットに差し込み操作を始める翔太。
その手元を覗き込めば、どうやら天井裏の映像のようだ。画面いっぱいに薄暗い映像が映し出されている。
「ほら、見てここ」
「これって、向坂さん?」
「そうそう、んでここか向坂さんが天井裏から引きずり降ろされてるところで…………ほら、この後だよ」
翔太が指差す場所をじっと目を拵えて見てると、明らかにその影は動いて見えた。
それは、向坂さんと対して変わらない大きさで……。
「……誰かいる?」
「うん。暗くて分かりにくいけど、間違いないみたいだね」
「しかし、いつからうちの店の天井裏はこんなに有効活用されてるんだ………」
「言ってる場合ではありませんよ、店長さん。僕たちも動かなければ、こうしてる場合にも時川君は……」
と、翔太が言い掛けた矢先だった。
ガタガタガタッ!と天井裏で何かが這いずる音が聞こえてきた。
「…………」
「…………」
「…………」
……本当にあいつの行動力は素晴らしい。
見習いたくないがな。
「そ、そうだな。…中谷、貴様はその映像を更に解析をしてくれ。そして、その人影とやらの動向を突き止めろ」
「そんなの朝飯前ですよ」
頼もしいが、そのスキルはどこで身につけているのだこいつは。
と、不意に店長と視線が絡み合う。
「原田、お前は…………俺と来い」
「わ……分かりました」
断る理由もない。少しだけ胸の奥がざわついたが、このまま一人でいたところで不安は大きくなるばかりだ。怖気づく暇があるなら動くのが性に合っている。
俺は店長と一緒に店長室を後にした。
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