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土砂降り注ぐイイオトコ
現行犯逮捕
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四川の野郎に放置されて暫く。もうそろそろこの際誰でも良いから来てくれ来てくださいお願いしますと心折れそうになっていた時、扉が開いた。
「あれ?かなたんまだここにいたんだ」
「き、紀平さん…!」
人をほったらかしにしておいてどこに行ってたんだと聞きたいところだがここは戻ってきてくれたことだけにでも感謝しよう。
「うわぁ、すごい顔だね。ごめんね?四川のやつてっきり解放してあげたのかなと思ってたんだけどそのままだとは思わなかったよ」
言いながら、エプロンからカッターを取り出した紀平さんは慣れた手付きで俺の縄を切ってくれる。
「赤くなっちゃったね。…ごめんね?痛かったよね?」
ようやく自由になった両腕を、紀平さんに擦られる。労るような優しい手付きがこそばゆくて、俺は少しだけ身じろいだ。
「それにしても、こんなことだろうと思ったよ。全く、あいつも水くらい拭けっての」
そう言って、落ちていたタライを手にする紀平さん。
どういう意味なのだろうか。それよりも、縄を切ってくれたということは…。
「も、もう…俺、戻っていいんですか?」
「本当はこのまま磔ててもいいんだけど、ちょーっと面倒なことになっててね」
「面倒なことですか…?」
「少し来てもらっていいかな」
中途半端に四川に触られた後だ。あまり動きたくなかったが、そう言ってる場合ではなさそうだ。
俺は、紀平さんに言われるがまま部屋を後にした。
「あの、何か……」
店内へと繋がる通路内。
先を歩く紀平さんに遅れを取らないよう、その背中を追い掛けていたときだった。
「佳那汰様ッ!!」
「……っ、へ?」
聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
そして、
「あっ!?こ、向坂さん?!」
こちらに駆け寄ってくるその人に驚いたが、なんとか抱き留めることに成功する。
が、ちょっと待て。なんで向坂がこんなところにいるんだ。
俺の記憶が間違っていなければ向坂さんは兄の側近をやっていたはずだ。
「おーおー、随分と情熱的だねぇ」
「こ、向坂さん…だよな……どうしてここに…」
「佳那汰様、申し訳ございません…」
縄を手にした向坂さんは、そう項垂れる。
その時だった。向坂さんがやってきた通路の奥の方からバタバタと足音が聞こえてくるではないか。罵声のおまけつきで。
「待ちやがれこのタライ野郎!!ぶっ殺す!殺して路地裏に捨ててカラスの餌にしてやる!!」
「四川、それではR18Gの注意喚起をしなくてはならなくなる。落ち着け」
「メス構えてるやつに言われたくねえぇよ!」
「四川…っ!司もっ!」
「ひぃっ!」
どこぞの鬼のような(約一名は無表情だが)約一名は無表情だが)を見るなり、情けない声を上げた向坂さんら俺の背後に隠れる。
って、ちょっと待て。タライ野郎ということはまさか…。
「こ、向坂さん…まさか、向坂さんが…?」
「も、申し訳ございませんでした!」
言うなり、向坂さんは勢い良く土下座をし始めた。
あまりにも精練されたその無駄のない土下座に流石の紀平さんも困ったような顔をする。
「ちょっと君、やめてよこんなところで土下座なんてさぁ」
「そ、そうですよ!頭上げて下さい!」
「どうせなら綺麗に磨かれたフローリングよりもガンガン焼いた鉄板の上でしなよ」
「紀平さん?!」
爽やかに笑ってるがその目が据わってるとかそんなことはさておきだ。
人を放置して行きやがった四川は俺の背に隠れる向坂さんを見るなり、その矛先を俺に向けてくる。
「おい、てめぇこいつと知り合いなのかよ」
「知り合いというか…えっと、おに…兄の部下っていうか……」
「はぁ?!またてめぇの兄貴の仕業かよ!いい加減にしろよ!」
「う゛…ッ」
その通りなのだから何も言えない。
慌てて話題を逸らすため、俺は土下座する向坂さんの前に屈み込んだ。
「こ、向坂さん、どうしたんですか?こんなところまで来て…しかもタライだなんて…」
「佳那汰様は…私めの話を聞いて下さるんですね…なんとお優しい方なんでしょうか…流石未奈人様の弟です…」
目をキラキラと輝かせる向坂さんだったが四川に「早く言えや!」と壁を蹴られて震え上がっていた。可哀想に。
「実は先日、佳那汰様に無礼を働いたものは全員特定し、解雇させました。…その時に、私めも未奈人様にクビを言いつけられたのです。『佳那汰を置いて一人でノコノコ気絶してるとはどういった脳の回路をしてるんだ。気絶してでも佳那汰を守るのが使用人の役目だろう』…と」
「ああ、あの人が言いそうなことだね」
「本当悍ましい思考回路してんなてめぇの兄貴」
「それは…俺も思う…」
「それで…その代わり、佳那汰様に近付く悪い虫を全員始末すれば解雇は撤回してやると未奈人様に申し付けられ、私はここまで来ました」
そしてその始末というのがタライだったということだろう。
どういう思考回路してんのかと思ったが、兄のネジがぶっ飛んだ代わりに釘刺してるような脳味噌よりはましだ。
「悪い虫って…俺達のこと?」
向坂さんの話を静かに聞いていた司だったが、やがて我慢が出来なくなったようだ。
心外だと言わんばかりに首を傾げる司に、向坂さんはいきり立つ。
「だっ、だってどう見たって悪そうな顔してるじゃないですか!それに佳那汰様にあ、あんな、無礼を……!ああ、恐ろしい!ケダモノですかあなた方は!」
「はぁ?勘違いしてんじゃねえよ、てめぇの佳那汰様が誘ってくるからこっちは構ってやってんだよ」
「っなっ?!何言ってんだよ!さらっと捏造してんじゃねえよ!」
「よく言うぜ、あんなにやらしく腰振って誘ってきたくせに」
「うわー!やめろやめろ!あることないこと言い触らしてこれ以上俺を陥れるのはやめろ!お前がそんなこと言うからいつの間にかにそういうキャラと思われてんだからな!」
ちょっと手が触れただけで女の子には怖がられるし、男には色目使ってると思われるし、ただでさえ女の子との距離が縮まらないというのにこれでは逆方向に走ってるようなものだ。
感極まる俺を落ち着かせようと紀平さんは「どうどう」と背中を擦ってくれるが俺は動物ではない。
しかしそんな俺のツッコミを無視して、紀平さんは向坂さんに向き直った。
「それじゃ、一連の事件の犯人は向坂さんってことで間違いないんだね?」
「一連というのは分かりませんが、そこのお二人にタライを仕掛けたのは私で間違いありません」
ということはまさか、司が勝ったということか。
青褪める俺に、司は無表情のまま頷く。心なしかその目は輝いているような気がしないでもない。
「そうと決まれば善は急げだな」
「え」
「店長を捕まえてくる」
「ちょっ、待てって!」
「…なに?」
「いや、その…まさか、本気じゃないよな?」
「……本気って?」
「その、店長の言ってたこと…」
「……」
無表情のまま、じっと俺を見下ろす司。
無言の圧力というのも中々の恐ろしいもので、怒られるのだろうかと思わずぎゅっと目を瞑ったときだった。
「つか……」
さ、と言い終わると同時にチュッと音を立て唇を塞がれる。
それは触れるだけのキスだった。俺が反応するよりも早く、向坂さんから悲鳴が上がる。
「あぁ!一度ならず二度までも、佳那汰様になんてことを!」
「まあ、そういうことだから」
ど、どういうことだ。全くわからないぞ。わからないが、司が退く気はないというのだけはわかった。
固まる俺を置いて、そのまま歩き出す司。このままおとなしく店長のところまで司を行かせたら間違いなく面倒なことになるだろう。
「っ、おい、司、待てよ……!」
そうとなれば、追い掛けてやつを止めるしかない。
俺は、慌てて司の後を追い掛けた。
「は、離して下さいッ!私にはあの男を始末しなければならないという使命が!」
「まあまあそれは置いといてさ、向坂さんに聞きたいことあるんだけどちょっといいかな?」
「ちょ、おい!なんで俺まで!おい!おいコラ!!」
「あれ?かなたんまだここにいたんだ」
「き、紀平さん…!」
人をほったらかしにしておいてどこに行ってたんだと聞きたいところだがここは戻ってきてくれたことだけにでも感謝しよう。
「うわぁ、すごい顔だね。ごめんね?四川のやつてっきり解放してあげたのかなと思ってたんだけどそのままだとは思わなかったよ」
言いながら、エプロンからカッターを取り出した紀平さんは慣れた手付きで俺の縄を切ってくれる。
「赤くなっちゃったね。…ごめんね?痛かったよね?」
ようやく自由になった両腕を、紀平さんに擦られる。労るような優しい手付きがこそばゆくて、俺は少しだけ身じろいだ。
「それにしても、こんなことだろうと思ったよ。全く、あいつも水くらい拭けっての」
そう言って、落ちていたタライを手にする紀平さん。
どういう意味なのだろうか。それよりも、縄を切ってくれたということは…。
「も、もう…俺、戻っていいんですか?」
「本当はこのまま磔ててもいいんだけど、ちょーっと面倒なことになっててね」
「面倒なことですか…?」
「少し来てもらっていいかな」
中途半端に四川に触られた後だ。あまり動きたくなかったが、そう言ってる場合ではなさそうだ。
俺は、紀平さんに言われるがまま部屋を後にした。
「あの、何か……」
店内へと繋がる通路内。
先を歩く紀平さんに遅れを取らないよう、その背中を追い掛けていたときだった。
「佳那汰様ッ!!」
「……っ、へ?」
聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
そして、
「あっ!?こ、向坂さん?!」
こちらに駆け寄ってくるその人に驚いたが、なんとか抱き留めることに成功する。
が、ちょっと待て。なんで向坂がこんなところにいるんだ。
俺の記憶が間違っていなければ向坂さんは兄の側近をやっていたはずだ。
「おーおー、随分と情熱的だねぇ」
「こ、向坂さん…だよな……どうしてここに…」
「佳那汰様、申し訳ございません…」
縄を手にした向坂さんは、そう項垂れる。
その時だった。向坂さんがやってきた通路の奥の方からバタバタと足音が聞こえてくるではないか。罵声のおまけつきで。
「待ちやがれこのタライ野郎!!ぶっ殺す!殺して路地裏に捨ててカラスの餌にしてやる!!」
「四川、それではR18Gの注意喚起をしなくてはならなくなる。落ち着け」
「メス構えてるやつに言われたくねえぇよ!」
「四川…っ!司もっ!」
「ひぃっ!」
どこぞの鬼のような(約一名は無表情だが)約一名は無表情だが)を見るなり、情けない声を上げた向坂さんら俺の背後に隠れる。
って、ちょっと待て。タライ野郎ということはまさか…。
「こ、向坂さん…まさか、向坂さんが…?」
「も、申し訳ございませんでした!」
言うなり、向坂さんは勢い良く土下座をし始めた。
あまりにも精練されたその無駄のない土下座に流石の紀平さんも困ったような顔をする。
「ちょっと君、やめてよこんなところで土下座なんてさぁ」
「そ、そうですよ!頭上げて下さい!」
「どうせなら綺麗に磨かれたフローリングよりもガンガン焼いた鉄板の上でしなよ」
「紀平さん?!」
爽やかに笑ってるがその目が据わってるとかそんなことはさておきだ。
人を放置して行きやがった四川は俺の背に隠れる向坂さんを見るなり、その矛先を俺に向けてくる。
「おい、てめぇこいつと知り合いなのかよ」
「知り合いというか…えっと、おに…兄の部下っていうか……」
「はぁ?!またてめぇの兄貴の仕業かよ!いい加減にしろよ!」
「う゛…ッ」
その通りなのだから何も言えない。
慌てて話題を逸らすため、俺は土下座する向坂さんの前に屈み込んだ。
「こ、向坂さん、どうしたんですか?こんなところまで来て…しかもタライだなんて…」
「佳那汰様は…私めの話を聞いて下さるんですね…なんとお優しい方なんでしょうか…流石未奈人様の弟です…」
目をキラキラと輝かせる向坂さんだったが四川に「早く言えや!」と壁を蹴られて震え上がっていた。可哀想に。
「実は先日、佳那汰様に無礼を働いたものは全員特定し、解雇させました。…その時に、私めも未奈人様にクビを言いつけられたのです。『佳那汰を置いて一人でノコノコ気絶してるとはどういった脳の回路をしてるんだ。気絶してでも佳那汰を守るのが使用人の役目だろう』…と」
「ああ、あの人が言いそうなことだね」
「本当悍ましい思考回路してんなてめぇの兄貴」
「それは…俺も思う…」
「それで…その代わり、佳那汰様に近付く悪い虫を全員始末すれば解雇は撤回してやると未奈人様に申し付けられ、私はここまで来ました」
そしてその始末というのがタライだったということだろう。
どういう思考回路してんのかと思ったが、兄のネジがぶっ飛んだ代わりに釘刺してるような脳味噌よりはましだ。
「悪い虫って…俺達のこと?」
向坂さんの話を静かに聞いていた司だったが、やがて我慢が出来なくなったようだ。
心外だと言わんばかりに首を傾げる司に、向坂さんはいきり立つ。
「だっ、だってどう見たって悪そうな顔してるじゃないですか!それに佳那汰様にあ、あんな、無礼を……!ああ、恐ろしい!ケダモノですかあなた方は!」
「はぁ?勘違いしてんじゃねえよ、てめぇの佳那汰様が誘ってくるからこっちは構ってやってんだよ」
「っなっ?!何言ってんだよ!さらっと捏造してんじゃねえよ!」
「よく言うぜ、あんなにやらしく腰振って誘ってきたくせに」
「うわー!やめろやめろ!あることないこと言い触らしてこれ以上俺を陥れるのはやめろ!お前がそんなこと言うからいつの間にかにそういうキャラと思われてんだからな!」
ちょっと手が触れただけで女の子には怖がられるし、男には色目使ってると思われるし、ただでさえ女の子との距離が縮まらないというのにこれでは逆方向に走ってるようなものだ。
感極まる俺を落ち着かせようと紀平さんは「どうどう」と背中を擦ってくれるが俺は動物ではない。
しかしそんな俺のツッコミを無視して、紀平さんは向坂さんに向き直った。
「それじゃ、一連の事件の犯人は向坂さんってことで間違いないんだね?」
「一連というのは分かりませんが、そこのお二人にタライを仕掛けたのは私で間違いありません」
ということはまさか、司が勝ったということか。
青褪める俺に、司は無表情のまま頷く。心なしかその目は輝いているような気がしないでもない。
「そうと決まれば善は急げだな」
「え」
「店長を捕まえてくる」
「ちょっ、待てって!」
「…なに?」
「いや、その…まさか、本気じゃないよな?」
「……本気って?」
「その、店長の言ってたこと…」
「……」
無表情のまま、じっと俺を見下ろす司。
無言の圧力というのも中々の恐ろしいもので、怒られるのだろうかと思わずぎゅっと目を瞑ったときだった。
「つか……」
さ、と言い終わると同時にチュッと音を立て唇を塞がれる。
それは触れるだけのキスだった。俺が反応するよりも早く、向坂さんから悲鳴が上がる。
「あぁ!一度ならず二度までも、佳那汰様になんてことを!」
「まあ、そういうことだから」
ど、どういうことだ。全くわからないぞ。わからないが、司が退く気はないというのだけはわかった。
固まる俺を置いて、そのまま歩き出す司。このままおとなしく店長のところまで司を行かせたら間違いなく面倒なことになるだろう。
「っ、おい、司、待てよ……!」
そうとなれば、追い掛けてやつを止めるしかない。
俺は、慌てて司の後を追い掛けた。
「は、離して下さいッ!私にはあの男を始末しなければならないという使命が!」
「まあまあそれは置いといてさ、向坂さんに聞きたいことあるんだけどちょっといいかな?」
「ちょ、おい!なんで俺まで!おい!おいコラ!!」
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