69 / 92
土砂降り注ぐイイオトコ
形から入る人々
しおりを挟む
「え…何やってんのお前…」
「う、うわぁ…四川君…」
「四川貴様…」
「やめろ!そんな目で見んじゃねえ!」
どっからどう見ても四川であるが、なんなんだこいつは。怖いくらい似合っているのが逆に物悲しい。
『四川ー台詞台詞ー』とどこからともなく聞こえてくる野次(というより紀平さんの声)にハッとする怪人フォーリバーもとい四川。
「と……とにかく!残念なことに俺達にもそこのアホが必要なんだよ!」
そうずびしと指された指。それはどう見ても俺に向けられていて。
「アホって……もしかして俺か?!」
「えらいねカナちゃん!よく自分だってわかったね!」
馬鹿にされているような気がしないでもないが、今はそれどころではない。
「冗談じゃねえ!なんで俺がお前らに協力しなきゃなんねえんだよ!」
「おい、もう忘れてんのかよ馬鹿。別に協力してもらわなくてもいいんだぜ?」
「は?…って、うわ!」
笑う四川(自称怪人フォーリバー)にどういう意味かと戸惑った矢先のことだった。
いきなり腰に腕を回されたかと思えば、次の瞬間体が宙に浮かぶ。デジャブ。
「カナちゃん!」
「原田!」
「残念だったなぁ、ま、頭脳派は頭脳派らしくクロスワードパズルでもやってろ!」
そう、人を荷物か何かのように担いだ怪人フォーリバーは店長たちに向かって吐き捨てる。恐ろしいくらい適役すぎて店長たちも返す言葉を無くしている。
気持ちは分からないでもないが、この展開はあれだ。やばいのではないだろうか。
「離せ、このっ」
そのまま通路を歩き出す昼間はしがないアルバイト、しかし真の姿は夜な夜な人を食い荒らす怪人フォーリバーこと四川の腕を引っ掻く。
「暴れんな、落とすぞこの馬鹿!」
馬鹿とはなんだ馬鹿とは!
でも落ちたくないので慌てて手を引っ込めたその時だ。
「なんの騒ぎで……って、原田さん!……と、え?!阿奈!?うわ、お前…その格好…」
騒ぎを聞き駆け付けたようだ。不安そうに覗き込んでくる笹山は真っ赤な露出狂を見るなり青褪めた。無理もない。
そんな笹山の登場に、怪人フォーリバーは忌々しそうに舌打ちをする。
「チッ…来やがったな……行くぞ!暴れんなよ!」
その言葉と同時に走り出す怪人フォーリバー。
そんなことされたら担がれている俺にもろ衝撃が来るわけで。
「うおわああああ!!」
「カナちゃん!カナちゃーん!どうせならもっと可愛い悲鳴上げて!」
「うるせええええ!」
そんな器用な真似出来るか!そう言葉に鳴らない悲鳴を上げながら、俺はそのまま連れ去られることになった。
◆ ◆ ◆
通路奥の空き部屋前。
「ふぎゅっ!」
扉が開かれたかと思いきや思いっきり投げ飛ばされる。
幸いソファーがクッション代わりになったものの此処最近俺に対する扱いが雑すぎる。
もう少し丁寧に扱えと言いたかったが四川に優しさを求めてしまうこと自体が愚問だと薄々感じ始めていた俺は一先ず体勢を立て直そうとした矢先だ。
背後から伸し掛かってきた四川に思いっきり頭を押さえつけられ、腕を拘束される。
あ、やばい、この体勢はやばい、まじで動けない。
「て、てめえ、どういうつもりだ…!」
「はあ?んなこと一々言わなくてもわかんだろうが」
「何言って……っ」
なんとかやつの下から這い出ようと藻掻くがあまりにも分が悪すぎる。
軋むソファー。動こうとすればするほど四川の指が腕に食い込んでしまう。それどころか。
「腹減ってんだよ、食わせろよ」
「そ、そういう設定なのか…?」
「設定とか言うんじゃねえ!」
あ、やばい触れてはいけないところに触れてしまったようだ。思いっきり腰を掴み上げられ、上半身が反り返る。
「てめえは黙って言う事聞いておけばいいんだよ」
抱き竦められるように背中にやつの体が密着して、耳元すぐ傍から聞こえてくるその声に全身が緊張する。
フォーリバーの台詞なのか四川の言葉なのか分からなかったがどちらにせよ根性がややひん曲がってる四川のものには変わりない。
「っ、や、な…ッ」
腰から胸元に掛けて這わされる四川の掌。体をまさぐるその慣れない革手袋の感触に逆に体が竦みそうになる。
ソファーの上、四川の手を退けようと身を捩ったそのときだった。
「おい、何をやってる」
ババーン!という感じで扉が開かれたと思えば聞き覚えのある冷たい声。
ああ、よかった、人選的には正直あまり会いたくない部類の人間ではあるがとにかく助かった、思いながら、声のする方に目を向けた。
「こ、この声はつか……さァ?!」
思わず声が裏返ってしまう。
だってそうだろう。俺の中ではわりかし地味なイメージだった司がどこぞの特撮悪役幹部みたいな全身黒ずくめの軍服になってるなんて。
「フォーリバー、それは保護対象だと言っておいたはずだ。…捕獲以上の真似は許可していない」
「つ、司、お前、お前もか…ッ」
最早どっかのSMの人みたいになっているがなんかもう、この茶番に司まで関わってるというだけで生きた心地がしないわけだが。
「ときか…じゃねえ…ツッカーサー司令官…」
マッ●ーサー元帥みたいに言うな。
「四川も司も、どうしたんだよ…ヤケクソになったのか?!」
「四川じゃねえっつってんだろ!」
「司じゃない。ツッカーサーだ」
「どっちでもいいわもう!」
なんなんだその無駄なキャラ意識は!お前らさてはわりかしイメプ好きか?!その割には名前以外なんも変わってねーけど!
「こ、こんなことして許されると思ってんのかよ…ッ!」
「許してもらえないだろうね」
「……!!」
背後、入口付近から聞こえてきたその軽薄な声に全身が強張る。ツッカーサーもとい司はゆっくりとその声のする方へと目を向ける。
そして。
「…首領キヒラー」
ポツリと呟かれたその捻りもクソもねえそのネーミングセンスにまさか紀平さんまで?!と戦慄した矢先のことだった。
「ま、せっかくなんだし気楽に行こうよ」
現れた紀平さんは全身レーザーでも武装服でも鞭装備でもなければ最後に別れた時と変わらぬ姿だった。
よかった普通だったと思ったがよく考えたらよくねえわ!素の姿で頭首は逆にこえーわ!
「う、うわぁ…四川君…」
「四川貴様…」
「やめろ!そんな目で見んじゃねえ!」
どっからどう見ても四川であるが、なんなんだこいつは。怖いくらい似合っているのが逆に物悲しい。
『四川ー台詞台詞ー』とどこからともなく聞こえてくる野次(というより紀平さんの声)にハッとする怪人フォーリバーもとい四川。
「と……とにかく!残念なことに俺達にもそこのアホが必要なんだよ!」
そうずびしと指された指。それはどう見ても俺に向けられていて。
「アホって……もしかして俺か?!」
「えらいねカナちゃん!よく自分だってわかったね!」
馬鹿にされているような気がしないでもないが、今はそれどころではない。
「冗談じゃねえ!なんで俺がお前らに協力しなきゃなんねえんだよ!」
「おい、もう忘れてんのかよ馬鹿。別に協力してもらわなくてもいいんだぜ?」
「は?…って、うわ!」
笑う四川(自称怪人フォーリバー)にどういう意味かと戸惑った矢先のことだった。
いきなり腰に腕を回されたかと思えば、次の瞬間体が宙に浮かぶ。デジャブ。
「カナちゃん!」
「原田!」
「残念だったなぁ、ま、頭脳派は頭脳派らしくクロスワードパズルでもやってろ!」
そう、人を荷物か何かのように担いだ怪人フォーリバーは店長たちに向かって吐き捨てる。恐ろしいくらい適役すぎて店長たちも返す言葉を無くしている。
気持ちは分からないでもないが、この展開はあれだ。やばいのではないだろうか。
「離せ、このっ」
そのまま通路を歩き出す昼間はしがないアルバイト、しかし真の姿は夜な夜な人を食い荒らす怪人フォーリバーこと四川の腕を引っ掻く。
「暴れんな、落とすぞこの馬鹿!」
馬鹿とはなんだ馬鹿とは!
でも落ちたくないので慌てて手を引っ込めたその時だ。
「なんの騒ぎで……って、原田さん!……と、え?!阿奈!?うわ、お前…その格好…」
騒ぎを聞き駆け付けたようだ。不安そうに覗き込んでくる笹山は真っ赤な露出狂を見るなり青褪めた。無理もない。
そんな笹山の登場に、怪人フォーリバーは忌々しそうに舌打ちをする。
「チッ…来やがったな……行くぞ!暴れんなよ!」
その言葉と同時に走り出す怪人フォーリバー。
そんなことされたら担がれている俺にもろ衝撃が来るわけで。
「うおわああああ!!」
「カナちゃん!カナちゃーん!どうせならもっと可愛い悲鳴上げて!」
「うるせええええ!」
そんな器用な真似出来るか!そう言葉に鳴らない悲鳴を上げながら、俺はそのまま連れ去られることになった。
◆ ◆ ◆
通路奥の空き部屋前。
「ふぎゅっ!」
扉が開かれたかと思いきや思いっきり投げ飛ばされる。
幸いソファーがクッション代わりになったものの此処最近俺に対する扱いが雑すぎる。
もう少し丁寧に扱えと言いたかったが四川に優しさを求めてしまうこと自体が愚問だと薄々感じ始めていた俺は一先ず体勢を立て直そうとした矢先だ。
背後から伸し掛かってきた四川に思いっきり頭を押さえつけられ、腕を拘束される。
あ、やばい、この体勢はやばい、まじで動けない。
「て、てめえ、どういうつもりだ…!」
「はあ?んなこと一々言わなくてもわかんだろうが」
「何言って……っ」
なんとかやつの下から這い出ようと藻掻くがあまりにも分が悪すぎる。
軋むソファー。動こうとすればするほど四川の指が腕に食い込んでしまう。それどころか。
「腹減ってんだよ、食わせろよ」
「そ、そういう設定なのか…?」
「設定とか言うんじゃねえ!」
あ、やばい触れてはいけないところに触れてしまったようだ。思いっきり腰を掴み上げられ、上半身が反り返る。
「てめえは黙って言う事聞いておけばいいんだよ」
抱き竦められるように背中にやつの体が密着して、耳元すぐ傍から聞こえてくるその声に全身が緊張する。
フォーリバーの台詞なのか四川の言葉なのか分からなかったがどちらにせよ根性がややひん曲がってる四川のものには変わりない。
「っ、や、な…ッ」
腰から胸元に掛けて這わされる四川の掌。体をまさぐるその慣れない革手袋の感触に逆に体が竦みそうになる。
ソファーの上、四川の手を退けようと身を捩ったそのときだった。
「おい、何をやってる」
ババーン!という感じで扉が開かれたと思えば聞き覚えのある冷たい声。
ああ、よかった、人選的には正直あまり会いたくない部類の人間ではあるがとにかく助かった、思いながら、声のする方に目を向けた。
「こ、この声はつか……さァ?!」
思わず声が裏返ってしまう。
だってそうだろう。俺の中ではわりかし地味なイメージだった司がどこぞの特撮悪役幹部みたいな全身黒ずくめの軍服になってるなんて。
「フォーリバー、それは保護対象だと言っておいたはずだ。…捕獲以上の真似は許可していない」
「つ、司、お前、お前もか…ッ」
最早どっかのSMの人みたいになっているがなんかもう、この茶番に司まで関わってるというだけで生きた心地がしないわけだが。
「ときか…じゃねえ…ツッカーサー司令官…」
マッ●ーサー元帥みたいに言うな。
「四川も司も、どうしたんだよ…ヤケクソになったのか?!」
「四川じゃねえっつってんだろ!」
「司じゃない。ツッカーサーだ」
「どっちでもいいわもう!」
なんなんだその無駄なキャラ意識は!お前らさてはわりかしイメプ好きか?!その割には名前以外なんも変わってねーけど!
「こ、こんなことして許されると思ってんのかよ…ッ!」
「許してもらえないだろうね」
「……!!」
背後、入口付近から聞こえてきたその軽薄な声に全身が強張る。ツッカーサーもとい司はゆっくりとその声のする方へと目を向ける。
そして。
「…首領キヒラー」
ポツリと呟かれたその捻りもクソもねえそのネーミングセンスにまさか紀平さんまで?!と戦慄した矢先のことだった。
「ま、せっかくなんだし気楽に行こうよ」
現れた紀平さんは全身レーザーでも武装服でも鞭装備でもなければ最後に別れた時と変わらぬ姿だった。
よかった普通だったと思ったがよく考えたらよくねえわ!素の姿で頭首は逆にこえーわ!
42
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる