アダルトな大人

田原摩耶

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土砂降り注ぐイイオトコ

各所大ダメージ

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「司、お前勘違いしてるぞ!」

 この際だ、紀平さんたちがいる前でハッキリさせる必要がある。いや、別に、二人きりが怖いとかではないからな、違うぞ。

「俺がすっ、好きな人は一人だけだし、その、お前と付き合うとかそういうあれはないっつーか」
「でも俺が好きなんだろ?」
「いや、ちが」
「好きなんだろ?」

 こうなったらとヤケクソになったのが裏目に出たようで表情そのものに変化はないものの司の周りが明らかに瘴気のようなものが滲んでる。

「…原田さん」

 やばい、この目はやばい、断ったりしたらなにされるかわかったものではない。

「ぅ、俺……っ」

 しかしここで流されたらどうせろくではないことになるだろうし、けれど、けれど。

「俺は――」
「司君」

 ええい、と口を開いた時だった。
 ぽん、と頭に置かれた手に驚いて顔を上げれば紀平さんが俺と司の間に立つ。

「かなたんの事好きなのはよくわかったけどさ、かなたん困ってるよ?」
「…困ってる?」
「かなたんは店長が好きって言ってんだから諦めなよ。じゃないと、嫌われちゃうよ」

「ね」と笑い掛けられ、ボケッとしていた俺も慌てて頷き返す。

「そうだぞ、司…!俺は、ええと、その………「皆さん、ここにいるんですか?」…店長一筋だからっ!……え?」

 なんか今ここにはいないはずのやつの声が聞こえたような気がしたんだけど。
 いや気のせいだ、だってだって笹山がいるわけ…。
 と、軽く現実逃避した時。出入口の方からガシャーンと何かが落ちる音がする。

 まさか、と振り返ったそこには。

「あ…す、すみません……お取り込み中……」

 どうやら丁度今来たらしい笹山が、ケーキを皿ごとひっくり返してたようで。
 まさか聞かれてはいないだろうかと思ったがめっちゃ青褪めてる様子からして聞かれていたらしい。
 同様青褪める俺の隣、引っくり返ったケーキに青褪める紀平さんと充満する生クリーム臭に青褪める四川。司はいつも通りだった。色々台無しである。

「笹山…っ、あの」
「…すみません、すぐに片付けますので」

 誤解なんだ、と言い掛けたとき、そそくさと出ていこうとする笹山。
 誤解というか誤解ではないけど、事実だけど、あくまでもフリだ。そう言いたいのに、それを言ってしまえば全てが台無しになってしまう。
 一人決め兼ねていると、

「待って、透!」

 紀平さんが笹山を引き止めてくれる。
 もしかして、迷っている俺のために、と感動するも束の間。

「もう一個…もう一個ないの…?」

 ケーキかよ!どんだけ食いたいんだよ!

「すみません、ないです…」

 ほら笹山もめっちゃそこかよって顔してんじゃねーかよ!

「俺…拭くもの取ってきます」

 今度こそ、生クリーム臭い脱衣室を出ていく笹山。
 いても立ってもいられなかった。俺に何をフォロー出来るのかわからない、それでも、あんな顔をした笹山を一人にすることは出来なかった。

「笹山!」

 俺は司の手を振り払い、笹山の後を追いかける。


「原田さん…!」
「ケーキ…」
「なんだこの展開…」
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