俺も異世界のガチャから出た件で

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第十三話 完璧の必要性

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「いやぁ~、酷いバトルだったねぇ~……」
 観客席で悟たちを出迎えたミッキーは、片方の耳を手で押さえながら言った。彼も例の歌声にやられたらしい。
「ホント、酷い相手だった。特に、あの女……」
 ネココにとってはアサレアの方が頭に来てるのか、眉をヒクヒクとさせている。しっぽしかない半端者呼ばわりされたのが気に食わないらしい。
「たまにいるよねぇ~、ああいう人」
 頭の後ろで手を組んで、モアはしっぽを椅子にして足を浮かせた。彼女も似たような扱いを受けたが、こちらはネココほど気にはしていない。
「……帰ろうか」
 少し間をおいてから、ミッキーが帰社を促す。何か言いたかったのかもしれないが、やめたような表情だった。

 帰り道、ミッキーは急に用事があると言いだし、モアとネココを先に行かせ、悟と街の中をぶらついた。
「何処に行くんですか?」
「さ~て、何処に行こうか」
「用事があるんじゃ……」
 ミッキーは猫に翼が生えた生き物を見つけると、口笛を吹いて呼び寄せようとしたが、逃げられてしまった。
「用事というか、ちょっと話しておこうと思ってね。彼女たちのことを」
「ネココとモアですか?」
「ああ。二人はね、他種族と人間のハーフなんだ。だから、しっぽだけ生えていたりする。そのことで、元いた世界でも疎まれていたようだけど、こっちでも歓迎されない傾向にあってね」
 悟は少し意外に思えた。様々な世界から雑多な生き物が召喚されてるマ国において、ハーフというだけで疎外されるのは考えにくかったからだ。
「向こうの世界には向こうの事情がある、それは私にも理解しきれない。ただ、この世界における差別は別のたちの悪さがあるんだ。サトル君、進化の条件を覚えてるかい?」
「進化するには、同じ種族で同じ能力を持った同一型ユニットで……って、まさか……」
「他種族との混血は、同じ種族と認識されない。種族的なハーフは進化素材には成りえないんだ。つまり、進化目的のトレード市場では無価値とされる」
 無価値と言われれば可哀想にもなるが、進化素材にされないメリットがあるとも云える。
「彼女たちを召喚したのが、進化素材を欲している人でなければ、ハーフであることが問題になることもなかったかもしれない。だが、よりにもよって進化屋と呼ばれているオルトドンティウム大市場の経営者、ブラウリオのユニットとして召喚されてしまった。彼はね、進化素材用としてユニットをオークションにかけたり、高額トレードに出したりする男なんだよ。そんな彼にとって彼女たちはハズレだったわけさ」
「ハズレ、ですか……」
「ああ。ガチャに投資した金額が無駄になったと、彼女たちに八つ当たりしたそうだよ。刃向えば強化素材にすると言って、その現場を見せつけてね」
「そんな奴がいると聴くと、進化禁止法が成立すればよかった気もしますね」
「そうだねぇ……。逆に、そんな奴が親族にいるから、ディオニシオは反対派にまわったんだろう。禁止法が成立すれば、進化目的のトレードがメインのオルトドンティウム大市場は破綻する。あの大市場にはディオニシオも絡んでいるからね、自分の利益を守るためには法案を潰すしかなかったのさ」
「なっ……」
 そのディオニシオに明日、悟は会うことになっている。このタイミングで聴かされると、どんな顔をして会えばいいのかわからなくなる。間接的であれ、ネココたちを苦しめる要因となっていた人物に……。
「人間なんて、そんなものだよ。みんな、自分の利益を守ろうと必死なのさ。だからって、許せることばかりじゃないけど、許せないからって全てを敵にしていては、生きづらくなるだけさ」
 ミッキーは悟の肩に手を置いて首を振った。
「彼らに嫌悪感を抱く君の感情は正しいのかもしれない。でも、常に100%の正しさを求めて生きれるように、人間はできていないと私は思うんだ。社畜病を理解を広めるにしても、心の奥底から社畜病の根絶を望む人の手で、それが行えればベストだろう。だけどね、世に広められる人間に、そんな人がいないとしたら? そこで諦めるのか、それとも広めることを優先するのか……。幾つも選択肢はあるだろう。ディオニシオ氏を使い、広めようとするのはベストではないかもしれない。でも、ベターではあるんだ」
 悟は不思議と肩の力が抜けていった。何かに対する怒りが、スッと消えていくようだった。
「君と同じ名前の同僚は、完璧主義者のきらいがあってね……。こういうケースでも、妥協しないタイプだった。後で知ったんだが、完璧主義者というのは、あの手の病気を発症しやすい傾向にあるそうだよ。私が聴いた情報が間違っていなければね」
「完璧主義者ですか……」
 悟はマ国に来る前のことを思い出した。
 それは雪国の冬、彼がスキー場でアルバイトをしていた日になる。
 あるスキー客がリフトから飛び降りたことがあった。リフトに乗ってすぐだったので、怪我などはなかったが、すぐにまた乗りに戻って来た。友達を見かけたから、その友達と一緒に乗りたくて、飛び降りたのだという。
 悟はリフトの回数券を切る仕事をしていた。その客は1回分切って乗った後に飛び降りているので、戻って来た際に再び切ろうとしたところ、相手が「2回、切るのか!?」と怒りだした。
 先輩のバイトは大目に見てやれといい、待ってる客は早くしろと怒鳴る。本来であれば、それ以前に飛び降りを注意しなくてはいけない。
 周りがあれこれ言う中、その客は悟の制止を振り切って、無理にリフトに乗ろうとして転倒し、リフトの座席が客の頭に衝突する寸前で、悟はリフトの非常停止ボタンを押す羽目となった。
 就業時間後、悟が帰ろうとしたところで、先の客が友達を引き連れて待ち構えていた。逆恨みによる暴行目的だった。人数的に不利なケンカが始まり、相手を何人か倒したところで、悟はドラム缶の中に叩きこまれて蓋をされている。
 そのときに「こんな所……」と思った途端、マ国に召喚されている。
 後で聴いたところによると、召喚されるのは何かに入った状態で、今いる世界を離れたいと思った人だけらしい。
 ここに来て以来、悟は戻ることを考えずに暮らしてきた。前の世界では、家族とぶつかっていたこともあり、自分がいない方がと思えたからだ。
 どちらかというと白黒ハッキリさせたい傾向が悟にはあるが、先の一件からは徐々に“いい加減”になってきてはいた。
「サトル君?」
 呼ばれたことで、物思いにふけっていた自分に気づき、悟はハッと我に返った。
「すみません、ちょっと昔を思い出してました」
「そうか、私はてっきり何かに我慢ならなくなったのかと思ったよ」
 ミッキーの言う何かとは、ディオニシオのことや、その親族のブラウリオのことを指すのだろう。確かに、好ましくない点もあるが、今は目的を果たすのが最優先だと思い直す。
 そう思えたのは、社畜病患者と『感覚共有』したせいかもしれない。
「会社の目的は理解しています。今は、その為に力を尽くすだけです」
「そう言ってもらえると助かるよ。だけどまぁ、ほどほどにね。頑張り過ぎは体によくない。手を抜いていいとは言わないが、何でもかんでも完璧を目指す必要はないんだ。結果として完璧になれば、それに越したことはないけど」
「はい……」
 完璧主義者が目指す完璧は、その人が自己満足する為の完璧でしかないのかもしれない。誰も気にかけていない点まで、こうあるべきだと自分で狭めているのだから。故に、多くの人が満足し得る結果、妥協できる結果であれば、及第点として受け入れられる寛容さが必要な気がした。
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