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第二部 高校生編
デブ『俺ってぽっちゃりかな?』俺(冗談なのかマジなのか判断を迷って黙る)
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嫌な現実というのは目を逸らしても入ってくるものだ。
最終的にはどうしたって向き合わなきゃいけない。
目を逸らしている時点で認識している。
そんなわけで洗濯機をぶん回しながら夕飯を加熱しつつ宿題の雑魚問を捌く。
加熱が終わった後でテーブルへもっていき、上に乗ったゴミを払って夕食を置く。
バラバラになって落ちていったので、後であの辺りは掃除しておこう。
「なじみー、夕飯できたぞー」
はーいと元気のいい返事が風呂場から。
ひとまずの後始末はティッシュでなんとかなったが、結局風呂に入らないと少々気持ち悪い。
なじみが出たら入れ替わりで俺も入るつもりだ。
一つ鼻を噛んだら、ティッシュがなくなってしまった。
空箱は明日にでも処理するとして、まずは夕飯を食べておこう。
作り置きのおかずとご飯を適当に並べただけだが、なじみの作る料理は手が込んでいて、作り置きでも十分うまい。
唯一の不満は目の前になじみ本人がいない事だが。
*
まあそんな風に後始末をして翌日。
渡辺は登校してきた瞬間からかなり鋭い眼光でこちらを睨みつけてきた。
とはいえそれ自体は別にどうでもいいので無視していたが、一つ気になることがある。
盗聴器なのだが、テーブルの上に置いてあったはずのものがなくなっていたのだ。
あの時は全部の出入り口に鍵がかかっていたし、そうでなくとも二人ともリビングにいた。
であるなら回収は不可能であるはずなのだが、どれだけ探しても見つからなかった。
なじみには盗聴器のことは言っていないし知らせるつもりもないので、なじみの目を盗むような形でしか捜索できなかった。
それに時間的な事もあって諦めたのだが、今日はさっさと帰り、なじみが帰ってくるまでに盗聴器の発見をしなくてはならない。
とはいえ今日の放課後は図書委員の仕事がある。
部活ならまだしも、委員会を無断で休むなど出来ない。大体誰に断りを入れればいいのかわからないし。
そんな水曜日の朝。
「でだ、安心院よ。昨日できなくて残念に思ってた話があるんだ」
「俺にはないね」
「まあそういうなって。お前も男なら興味が出る。絶対にだ!」
「随分勿体付けるな。一応聞いておこうか」
「そういってくれると思ってたぜ、竹馬の友よ!」
「古臭い言い回しだ。で?」
「おう、『図書館の女神』の話だよ」
「図書館の魔女なら」
「それは昨日聞いた。いや聞いてないけど」
「で、その女神さまがなんだって?」
「文芸部にいる二年の先輩なんだけどさ」
「すっげー美人でまるで女神の様、とでも?」
「それだけじゃあないんだな、これが」
「うわ、顔が五月蠅い」
「どういうこと? まあいい。ただ美人なだけならこうまで話さねえよ。美人具合で言えば蝶ヶ崎さんがいるからな」
「美人以外の要素があると?」
「胸だよ」
「は?」
「だから胸だよッ! バスト! おっぱい! 胸部装甲!」
「小声で叫ぶな鬱陶しい」
「美人で爆乳、しかも誰とでもすっげー気さくに話すんだよ。なんというか、全体的にずっと『お姉さん』感があってさ。気さくだけど落ち着いててこれが図書館の静かな空気とベストマッチってわけよ」
「ああそう」
「興味なさげだな~うう~~~ん???」
「今世紀の中で最上級にうざい」
「いやいや俺にはわかる、お前はまるで興味なんてありませんよって面しといてその実しっかり情報収集してるタイプだ。これからお前は自分の人脈使ってその人の事調べ上げるだろうだがしかし!」
「うるさい」
「こりゃ失敬。だがしかし、お前が情報収集を終えた時点で俺は既に王手をかけているだろうと言わせてほしい」
「へー」
「何せ俺は現時点で文芸部に所属しているからだ」
「お前結局文芸部にしたのか」
「おう。有象無象の女子にモテても意味がないってことを、女神さまから学んだのさ」
「一目惚れでもしたか?」
「ああ、最初はそうだった。しかし俺は彼女と話すうちにどんどん内面的な所にひかれていったんだ。落ち着いていながらも気さくで冗談も通じる。優雅な仕草の一つ一つから感じる深い教養。二年でありながら三年の先輩を抑えての副部長になるカリスマ。いやはや心底惚れたよ」
「そうか。で、俺にそれを話した理由は?」
「ふっ・・・読んでてカッコよさそうな本、教えてくれ!」
「そんなことだろうと思ったよ」
「頼むよ~友達だろ~」
「さっきの竹馬の友ってのもその義理を強調するためか」
「大正解」
「ふむ、そうさな・・・」
雄大の言う図書館の女神というのは、多分微の事だろう。
文芸部で爆乳と言えばあいつぐらいのものだ。むしろあれ以上の代物があってたまるか。
俺としては微の幸せ自体は大いに応援したいところだ。
応援というか、心配している。なにせ素を出せる相手が少なすぎる。
同年代の男子など、俺のほかにいないんじゃないのか、というほどだ。
中学くらいの頃家に行ったことがあるのだが、父親にすら素は出していなかったし、母親もそれを疑問に思っていない風だった。私室に入って鍵をかけてつっかえ棒差し込んで初めて素になった。
それほど他人と距離を置きたがる微は、このままだと多分、というか確実に結婚できない。
結婚がそのまま人生の幸せ、なんて古臭い考えを持っているつもりはないが、伴侶の存在が幸福にどれほど影響するか俺は良く知っている。
エゴでしかないが、まともな恋愛相手の一人ぐらい見つけてほしいのだ。
「文芸部ってことはかなり色々読み込んでるだろうな・・・だとすればマイナーどころ、それも他人と共有したくなるような強烈な奴が望ましい」
「おお・・・なんかそれっぽいぞ」
「さらに恋愛に結び付けたいなら明るめの話が良いな・・・よし、西住千春の『大和工務店』シリーズの四巻当たりだ」
「ありがとう心の友よ!」
まあ、それっぽい事適当に並べたが、単に微が前に好きだといっていただけだ。
ちなみに大和工務店シリーズ自体は胸糞な話が多い。だからこそ感動路線の四巻が際立つというわけだ。
有志が二次創作で社歌を作っている程度には沼な作品だ。
そんなわけで、シリーズ全巻読まないといけないのだが、読書嫌いのこいつにできるだろうか。
シリーズものな時点でそれは前提だけども。
*
まあ、放課後図書館に借りに来いと言っておいた。
ちょうど今日の放課後は俺が図書委員の当番だから、と。
今日は一日中気を張っていたから疲れた。
何せ渡辺の野郎、ずっとこっちを睨んでたからな。
それで授業中に当てられて盛大に間違えてたが、あれは笑えた。それを俺の所為だと言わんばかりに睨みつけてきたのだけは解せぬ。
そんなわけで放課後の俺は日誌を適当に埋めて、『大和工務店第四巻 迷子放送は孤独なままで』を手元にキープして椅子にだらしなくもたれていた。
なんだか前回もこんな感じだったな。
一番だらしないタイミングで微が来たんだっけ。
「あら、それは・・・私の好きな奴じゃない」
そう、ちょうどこんな感じで。
「ああ・・・微」
「ねえ、安心院君もまた読んだのでしょう? 感想聞かせてくださいな」
経緯を説明しようとしたら食い気味にかぶせられてしまった。
本当に同好の士に飢えていたんだな。
「そうだな、俺としては終わり方が一番好きかな」
「分かるわ。あの感じ、とてもじゃないけど他の本にはないもの」
「なんでもないはずの挨拶が全部持って行ったもんな。ぞわっとしたわ」
当然、俺は抑えている。
しかし結構昔の話だったので、微としては盛り返すのに躊躇いもあったのだろう。
時間経過しても好きでいられるのは、本当の名作だけだ。
「あそこ鳥肌立ったのわかるわ。私が好きなのはドアの前に座り込んでいる当たりね」
「ほう、なかなか渋い所を突くね」
本の話でドンドン盛り上がっていく。
渡辺の対応でささくれだった精神が癒されるようだ。
なじみは嫁だが、その色香の所為でたまに厄介ごとを誘い込むからな。
その点、微には対等な友人として接することが出来るので本当に気楽だ。
一応言っておくとなじみが疎ましいなど天地がひっくり返ってもありはしない。
「おいおい、そりゃ流石に無粋ってもんじゃないか?」
「何言ってるの、真摯じゃないと失礼じゃない」
「明け透けっていうんだぜ、それは」
しかし盛り上がればそれだけ意味不明な脱線話も増えるというもので。
今やネット小説の感想欄への書き込み方議論まで飛んでいた。
俺が多少オブラートに包む派、微が言葉のナイフで滅多刺しにする派だ。
「OKわかった。この話は一旦中止だ。なにせ平行線過ぎる」
「そうね、同感だわ」
「あそうだ。ちょっとお茶飲んでいいか?」
「あら、ここは図書館よ?」
「そうなんだけどさ、見逃して」
「ふふ、今回だけよ?」
「助かる」
カバンから取り出した水筒を呷る。
多少余っているが、この調子なら夕飯に回して終わりだな。
「ねえ、私も飲んでいいかしら?」
「おや、ここは図書館だぜ?」
「見逃して」
「はいはい、今回だけだよ」
「ありがと」
同じやり取りを茶番のように繰り返して、微が自分の水筒を取り出す。
しかしどうやらその水筒に中身は残っていなかったようだ。
「ありゃま、下に給水機があったが、そこまで飲みに行くかい?」
「ついてきてくれる?」
「図書委員の業務を放り出すほどの事じゃねえな」
「んー・・・ねえ、安心院君の水筒、まだ中身余ってる?」
「水筒? 多少余ってるが、それが?」
「くれない?」
「んー・・・いいよ。ホレ」
カバンから再度自分の水筒を取り出して微に渡す。
しかし受け取ってからしばらくしても微は飲みだす様子はない。
「どうした? なにか変なもんでもくっついてたか?」
「いや、別に、その、そういうわけじゃなくて」
「そうか」
とはいえ躊躇っていた理由はあるはずだ。
青のりでもくっついてたか? そんなもん食べた覚えはないが。
口臭が移っててそれが鼻についたとか? ありえそうだな。
特に聞かれて誤魔化した当たりが一番それっぽい。
ハゲに『俺ってハゲてる?』と聞かれたら俺だって似たような誤魔化しをするだろう。
間接キスに動揺するような年でもあるまいし、それが一番妥当な所か。
何やら決意したかのような表情で茶を飲む微を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
最終的にはどうしたって向き合わなきゃいけない。
目を逸らしている時点で認識している。
そんなわけで洗濯機をぶん回しながら夕飯を加熱しつつ宿題の雑魚問を捌く。
加熱が終わった後でテーブルへもっていき、上に乗ったゴミを払って夕食を置く。
バラバラになって落ちていったので、後であの辺りは掃除しておこう。
「なじみー、夕飯できたぞー」
はーいと元気のいい返事が風呂場から。
ひとまずの後始末はティッシュでなんとかなったが、結局風呂に入らないと少々気持ち悪い。
なじみが出たら入れ替わりで俺も入るつもりだ。
一つ鼻を噛んだら、ティッシュがなくなってしまった。
空箱は明日にでも処理するとして、まずは夕飯を食べておこう。
作り置きのおかずとご飯を適当に並べただけだが、なじみの作る料理は手が込んでいて、作り置きでも十分うまい。
唯一の不満は目の前になじみ本人がいない事だが。
*
まあそんな風に後始末をして翌日。
渡辺は登校してきた瞬間からかなり鋭い眼光でこちらを睨みつけてきた。
とはいえそれ自体は別にどうでもいいので無視していたが、一つ気になることがある。
盗聴器なのだが、テーブルの上に置いてあったはずのものがなくなっていたのだ。
あの時は全部の出入り口に鍵がかかっていたし、そうでなくとも二人ともリビングにいた。
であるなら回収は不可能であるはずなのだが、どれだけ探しても見つからなかった。
なじみには盗聴器のことは言っていないし知らせるつもりもないので、なじみの目を盗むような形でしか捜索できなかった。
それに時間的な事もあって諦めたのだが、今日はさっさと帰り、なじみが帰ってくるまでに盗聴器の発見をしなくてはならない。
とはいえ今日の放課後は図書委員の仕事がある。
部活ならまだしも、委員会を無断で休むなど出来ない。大体誰に断りを入れればいいのかわからないし。
そんな水曜日の朝。
「でだ、安心院よ。昨日できなくて残念に思ってた話があるんだ」
「俺にはないね」
「まあそういうなって。お前も男なら興味が出る。絶対にだ!」
「随分勿体付けるな。一応聞いておこうか」
「そういってくれると思ってたぜ、竹馬の友よ!」
「古臭い言い回しだ。で?」
「おう、『図書館の女神』の話だよ」
「図書館の魔女なら」
「それは昨日聞いた。いや聞いてないけど」
「で、その女神さまがなんだって?」
「文芸部にいる二年の先輩なんだけどさ」
「すっげー美人でまるで女神の様、とでも?」
「それだけじゃあないんだな、これが」
「うわ、顔が五月蠅い」
「どういうこと? まあいい。ただ美人なだけならこうまで話さねえよ。美人具合で言えば蝶ヶ崎さんがいるからな」
「美人以外の要素があると?」
「胸だよ」
「は?」
「だから胸だよッ! バスト! おっぱい! 胸部装甲!」
「小声で叫ぶな鬱陶しい」
「美人で爆乳、しかも誰とでもすっげー気さくに話すんだよ。なんというか、全体的にずっと『お姉さん』感があってさ。気さくだけど落ち着いててこれが図書館の静かな空気とベストマッチってわけよ」
「ああそう」
「興味なさげだな~うう~~~ん???」
「今世紀の中で最上級にうざい」
「いやいや俺にはわかる、お前はまるで興味なんてありませんよって面しといてその実しっかり情報収集してるタイプだ。これからお前は自分の人脈使ってその人の事調べ上げるだろうだがしかし!」
「うるさい」
「こりゃ失敬。だがしかし、お前が情報収集を終えた時点で俺は既に王手をかけているだろうと言わせてほしい」
「へー」
「何せ俺は現時点で文芸部に所属しているからだ」
「お前結局文芸部にしたのか」
「おう。有象無象の女子にモテても意味がないってことを、女神さまから学んだのさ」
「一目惚れでもしたか?」
「ああ、最初はそうだった。しかし俺は彼女と話すうちにどんどん内面的な所にひかれていったんだ。落ち着いていながらも気さくで冗談も通じる。優雅な仕草の一つ一つから感じる深い教養。二年でありながら三年の先輩を抑えての副部長になるカリスマ。いやはや心底惚れたよ」
「そうか。で、俺にそれを話した理由は?」
「ふっ・・・読んでてカッコよさそうな本、教えてくれ!」
「そんなことだろうと思ったよ」
「頼むよ~友達だろ~」
「さっきの竹馬の友ってのもその義理を強調するためか」
「大正解」
「ふむ、そうさな・・・」
雄大の言う図書館の女神というのは、多分微の事だろう。
文芸部で爆乳と言えばあいつぐらいのものだ。むしろあれ以上の代物があってたまるか。
俺としては微の幸せ自体は大いに応援したいところだ。
応援というか、心配している。なにせ素を出せる相手が少なすぎる。
同年代の男子など、俺のほかにいないんじゃないのか、というほどだ。
中学くらいの頃家に行ったことがあるのだが、父親にすら素は出していなかったし、母親もそれを疑問に思っていない風だった。私室に入って鍵をかけてつっかえ棒差し込んで初めて素になった。
それほど他人と距離を置きたがる微は、このままだと多分、というか確実に結婚できない。
結婚がそのまま人生の幸せ、なんて古臭い考えを持っているつもりはないが、伴侶の存在が幸福にどれほど影響するか俺は良く知っている。
エゴでしかないが、まともな恋愛相手の一人ぐらい見つけてほしいのだ。
「文芸部ってことはかなり色々読み込んでるだろうな・・・だとすればマイナーどころ、それも他人と共有したくなるような強烈な奴が望ましい」
「おお・・・なんかそれっぽいぞ」
「さらに恋愛に結び付けたいなら明るめの話が良いな・・・よし、西住千春の『大和工務店』シリーズの四巻当たりだ」
「ありがとう心の友よ!」
まあ、それっぽい事適当に並べたが、単に微が前に好きだといっていただけだ。
ちなみに大和工務店シリーズ自体は胸糞な話が多い。だからこそ感動路線の四巻が際立つというわけだ。
有志が二次創作で社歌を作っている程度には沼な作品だ。
そんなわけで、シリーズ全巻読まないといけないのだが、読書嫌いのこいつにできるだろうか。
シリーズものな時点でそれは前提だけども。
*
まあ、放課後図書館に借りに来いと言っておいた。
ちょうど今日の放課後は俺が図書委員の当番だから、と。
今日は一日中気を張っていたから疲れた。
何せ渡辺の野郎、ずっとこっちを睨んでたからな。
それで授業中に当てられて盛大に間違えてたが、あれは笑えた。それを俺の所為だと言わんばかりに睨みつけてきたのだけは解せぬ。
そんなわけで放課後の俺は日誌を適当に埋めて、『大和工務店第四巻 迷子放送は孤独なままで』を手元にキープして椅子にだらしなくもたれていた。
なんだか前回もこんな感じだったな。
一番だらしないタイミングで微が来たんだっけ。
「あら、それは・・・私の好きな奴じゃない」
そう、ちょうどこんな感じで。
「ああ・・・微」
「ねえ、安心院君もまた読んだのでしょう? 感想聞かせてくださいな」
経緯を説明しようとしたら食い気味にかぶせられてしまった。
本当に同好の士に飢えていたんだな。
「そうだな、俺としては終わり方が一番好きかな」
「分かるわ。あの感じ、とてもじゃないけど他の本にはないもの」
「なんでもないはずの挨拶が全部持って行ったもんな。ぞわっとしたわ」
当然、俺は抑えている。
しかし結構昔の話だったので、微としては盛り返すのに躊躇いもあったのだろう。
時間経過しても好きでいられるのは、本当の名作だけだ。
「あそこ鳥肌立ったのわかるわ。私が好きなのはドアの前に座り込んでいる当たりね」
「ほう、なかなか渋い所を突くね」
本の話でドンドン盛り上がっていく。
渡辺の対応でささくれだった精神が癒されるようだ。
なじみは嫁だが、その色香の所為でたまに厄介ごとを誘い込むからな。
その点、微には対等な友人として接することが出来るので本当に気楽だ。
一応言っておくとなじみが疎ましいなど天地がひっくり返ってもありはしない。
「おいおい、そりゃ流石に無粋ってもんじゃないか?」
「何言ってるの、真摯じゃないと失礼じゃない」
「明け透けっていうんだぜ、それは」
しかし盛り上がればそれだけ意味不明な脱線話も増えるというもので。
今やネット小説の感想欄への書き込み方議論まで飛んでいた。
俺が多少オブラートに包む派、微が言葉のナイフで滅多刺しにする派だ。
「OKわかった。この話は一旦中止だ。なにせ平行線過ぎる」
「そうね、同感だわ」
「あそうだ。ちょっとお茶飲んでいいか?」
「あら、ここは図書館よ?」
「そうなんだけどさ、見逃して」
「ふふ、今回だけよ?」
「助かる」
カバンから取り出した水筒を呷る。
多少余っているが、この調子なら夕飯に回して終わりだな。
「ねえ、私も飲んでいいかしら?」
「おや、ここは図書館だぜ?」
「見逃して」
「はいはい、今回だけだよ」
「ありがと」
同じやり取りを茶番のように繰り返して、微が自分の水筒を取り出す。
しかしどうやらその水筒に中身は残っていなかったようだ。
「ありゃま、下に給水機があったが、そこまで飲みに行くかい?」
「ついてきてくれる?」
「図書委員の業務を放り出すほどの事じゃねえな」
「んー・・・ねえ、安心院君の水筒、まだ中身余ってる?」
「水筒? 多少余ってるが、それが?」
「くれない?」
「んー・・・いいよ。ホレ」
カバンから再度自分の水筒を取り出して微に渡す。
しかし受け取ってからしばらくしても微は飲みだす様子はない。
「どうした? なにか変なもんでもくっついてたか?」
「いや、別に、その、そういうわけじゃなくて」
「そうか」
とはいえ躊躇っていた理由はあるはずだ。
青のりでもくっついてたか? そんなもん食べた覚えはないが。
口臭が移っててそれが鼻についたとか? ありえそうだな。
特に聞かれて誤魔化した当たりが一番それっぽい。
ハゲに『俺ってハゲてる?』と聞かれたら俺だって似たような誤魔化しをするだろう。
間接キスに動揺するような年でもあるまいし、それが一番妥当な所か。
何やら決意したかのような表情で茶を飲む微を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
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