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私、聖女になりますので
2.哀れにも神に気に入られてしまったので
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「私も、教皇様……とお呼びした方が良いでしょうか」
「アンジェリカ様でしたらそうですね……ミシェルと、僕の名前を呼んでいただいても良いですよ」
教皇という立場は、この国ではソレイユ国王と同等の立ち位置だ。
おいそれと名前を呼ぶなんて、恐れ多いとアンジェリカは考えた。
「いえ、今は教皇様と呼ばせてください」
「そうですか、それは少々寂しいですね」
ミシェルが寂しげに微笑むのを横目に見ながら、アンジェリカは気持ちを落ち着かせるために、出されたハーブティーに口をつけた。
「美味しい……」
飲むだけですうっと心が落ち着く喉越しと、嫌味のないすっきりとした味わい。
アンジェリカは間違いなく、この味を知っていた。
夢の中でしか飲んだことがないはずなのに、身体にはしっくり馴染んでいったから。
「さて、アンジェリカ様の様子が少し落ち着いたところで……早速本題に入りましょうか」
「本題……」
アンジェリカには、心当たりがたくさんありすぎた。
一体どれを本題としてミシェルが持ってくるのか、アンジェリカは緊張しながら待った。
「哀れにも神に気に入られ、人生をやり直しさせられている、今のあなたの状況についてです」
それが、自分が話をしたい内容とドンピシャだったので、アンジェリカはすぐさま安堵のため息をついた。
「どうしました?」
「安心したわ」
「安心?」
「私も、同じことを話したいと思っていたの」
それから、アンジェリカは2回程大きく深呼吸をしてから、凛とした声で尋ねた。
「教皇様は、何を知っているのですか?」
「あなたが、2回目の人生を歩まされていることは、知っています」
(ここで、私はこの人を信用しても良いのだろうか……?)
アンジェリカに不安が募っていく。
「私の事を、信じられないようですね」
「それは……」
アンジェリカ自身ですら、まだ飲み込み切れていない状況だ。
他人の方が自分の状況を知っていると言われて、簡単に「はいそうですか」と言える程、アンジェリカの心臓は図太くはない。
「私があなたの味方かどうかが不安なのですか?」
「それも、あります」
「他には?」
「…………他…………」
「そう。他に引っ掛かりがあるから、すぐに本題に入るのを躊躇ってる。そうではないのですか?」
(確かに、そうかもしれない……)
アンジェリカは、納得した。
「良いですよ。あなたが今抱えている引っ掛かり部分を全て、僕に話してください」
「あなたが、自称神ではないんですか?」
「……はい?」
「私は、あなたと全く同じ顔の人と、雲の上で話をしました。その人は、自分のことを神だと名乗りました。あなたは、その人ですか?」
「違いますよ」
ミシェルは即答した。
あまりにもそれがあっさりしていたので、アンジェリカはおかしくなって、乾いたような笑い声を出してしまった。
「そ、そうですよね……そもそも雲の上で話すなんて、それこそ夢の話」
「それは、本当ですよ」
「なんですって……?」
「はい」
アンジェリカは、今度こそ自分の耳を疑った。
「雲の上、ですよ? 物理的にあり得ない、ですよね」
「ですが、あなたは確かに雲の上に行きましたし、僕の顔を勝手に使っている神ともちゃんと話をしています。もちろん、肉体ではなく魂が……ですがね」
「どうして、あなたがそんな事を知っているの?」
「そうですね……どう言えば伝わるのか、真剣に考えているのですが……」
(つまり、そこまで考えなくては伝わらないという、難しい仕組みなのかしら……?)
「簡単に言いますと、神が勝手に僕の中に映像を送ってきて『はい、こんな人生を歩んできた子、可哀想だからもう1回人生やり直しさせちゃった、世話よろしく~』って言い逃げされた、というのが正しいでしょうか」
「い、言い逃げ……」
(しそう。あの雰囲気なら)
アンジェリカはまたもや納得してしまった。
「はい。神とは、不確かで気まぐれな存在ですからね。本当に、いい迷惑です」
(な、何故かしら……教皇様が怒っているように見えるのは……)
顔は、ほとんど変わらず笑顔なのに、声のトーンがミシェルの微妙な感情の変化をアンジェリカに伝えた。
「…………ちなみに、教皇様の中に映像を送る……というのは?」
人の中に映像を送るという文章の意味が、アンジェリカには理解できなかった。
「すみません、わかりづらかったですね。それこそ、夢に近いかもしれませんね」
「夢、ですか……」
「僕が祈りを捧げていたり、眠っている時に急に目の前に場面が見えるのです。僕が見せられたのは、ちょうどあなたが、あの神と対話をしている場面ですね。怨霊になりたい……という言葉は、なかなか印象深かったですね」
それは、アンジェリカが夢の中で発言した言葉だと思っていたものだった
「……それじゃあ……そのきっかけになった出来事もすべて本当ということ?」
「はい。あなたは確かに1度、ソレイユ国の王子妃となり、そして……」
「分かったわ! もう、言わなくて良い」
(夢ではなかったのね。私は、確かにあの性悪の手によって殺された……)
アンジェリカは、ここでようやく自分に起きた状況を正式に理解した。
過去に戻り、その現実が1度は白紙に戻ったということを。
(だとしても、もし何もしなければこのままだとまた同じ未来になってしまう……それは、絶対嫌よ……!)
同じ失敗を繰り返す。
それは絶対、避けなければならない。
先ほど、自分を抱きしめてくれたおしろい臭い母親を、アンジェリカは思い出した。
あまり母親らしいことはしてくれなかったとは言え、最後はアンジェリカのために命乞いをしてくれた母親と、寂しい思いをしていた私にずっと寄り添ってくれていたコレットをこのまま死なせることはあってはならないと、アンジェリカは決意した。
「だから怨霊になりたかったのに……」
「それをさせたくないから、わざわざ神は禁忌の術を使ったのですよ」
「禁忌?」
「時を戻すなんて、本当に余程の緊急事態でなければ使ってはならないのが神の世界の掟なんですよ」
ミシェルの声に、ほんの少し怒りが混じっていることにアンジェリカは気づいた。
「それを破ると、どうなるの?」
「それは……」
その時だった。ミシェルは急に真顔になってから、アンジェリカと壁の前に立った。
「申し訳ありません。1度お話を中断しても宜しいですか?」
「なんで……」
「あなたに2度目の人生を神が与えてしまった代償が、始まったんですよ」
「それってどういう……」
その瞬間、白い壁から突如として黒くて大きな、得体の知れない生き物のようなものがにょろにょろっと飛び出してきた。
びっしりと、たくさんの目がついており、それらが全て、アンジェリカと教皇を見ていた。
「きゃあああああ!!!」
見た事のない、巨大な化け物を見て、アンジェリカはこれまで出したこともないような大声をあげてしまった。
「アンジェリカ様でしたらそうですね……ミシェルと、僕の名前を呼んでいただいても良いですよ」
教皇という立場は、この国ではソレイユ国王と同等の立ち位置だ。
おいそれと名前を呼ぶなんて、恐れ多いとアンジェリカは考えた。
「いえ、今は教皇様と呼ばせてください」
「そうですか、それは少々寂しいですね」
ミシェルが寂しげに微笑むのを横目に見ながら、アンジェリカは気持ちを落ち着かせるために、出されたハーブティーに口をつけた。
「美味しい……」
飲むだけですうっと心が落ち着く喉越しと、嫌味のないすっきりとした味わい。
アンジェリカは間違いなく、この味を知っていた。
夢の中でしか飲んだことがないはずなのに、身体にはしっくり馴染んでいったから。
「さて、アンジェリカ様の様子が少し落ち着いたところで……早速本題に入りましょうか」
「本題……」
アンジェリカには、心当たりがたくさんありすぎた。
一体どれを本題としてミシェルが持ってくるのか、アンジェリカは緊張しながら待った。
「哀れにも神に気に入られ、人生をやり直しさせられている、今のあなたの状況についてです」
それが、自分が話をしたい内容とドンピシャだったので、アンジェリカはすぐさま安堵のため息をついた。
「どうしました?」
「安心したわ」
「安心?」
「私も、同じことを話したいと思っていたの」
それから、アンジェリカは2回程大きく深呼吸をしてから、凛とした声で尋ねた。
「教皇様は、何を知っているのですか?」
「あなたが、2回目の人生を歩まされていることは、知っています」
(ここで、私はこの人を信用しても良いのだろうか……?)
アンジェリカに不安が募っていく。
「私の事を、信じられないようですね」
「それは……」
アンジェリカ自身ですら、まだ飲み込み切れていない状況だ。
他人の方が自分の状況を知っていると言われて、簡単に「はいそうですか」と言える程、アンジェリカの心臓は図太くはない。
「私があなたの味方かどうかが不安なのですか?」
「それも、あります」
「他には?」
「…………他…………」
「そう。他に引っ掛かりがあるから、すぐに本題に入るのを躊躇ってる。そうではないのですか?」
(確かに、そうかもしれない……)
アンジェリカは、納得した。
「良いですよ。あなたが今抱えている引っ掛かり部分を全て、僕に話してください」
「あなたが、自称神ではないんですか?」
「……はい?」
「私は、あなたと全く同じ顔の人と、雲の上で話をしました。その人は、自分のことを神だと名乗りました。あなたは、その人ですか?」
「違いますよ」
ミシェルは即答した。
あまりにもそれがあっさりしていたので、アンジェリカはおかしくなって、乾いたような笑い声を出してしまった。
「そ、そうですよね……そもそも雲の上で話すなんて、それこそ夢の話」
「それは、本当ですよ」
「なんですって……?」
「はい」
アンジェリカは、今度こそ自分の耳を疑った。
「雲の上、ですよ? 物理的にあり得ない、ですよね」
「ですが、あなたは確かに雲の上に行きましたし、僕の顔を勝手に使っている神ともちゃんと話をしています。もちろん、肉体ではなく魂が……ですがね」
「どうして、あなたがそんな事を知っているの?」
「そうですね……どう言えば伝わるのか、真剣に考えているのですが……」
(つまり、そこまで考えなくては伝わらないという、難しい仕組みなのかしら……?)
「簡単に言いますと、神が勝手に僕の中に映像を送ってきて『はい、こんな人生を歩んできた子、可哀想だからもう1回人生やり直しさせちゃった、世話よろしく~』って言い逃げされた、というのが正しいでしょうか」
「い、言い逃げ……」
(しそう。あの雰囲気なら)
アンジェリカはまたもや納得してしまった。
「はい。神とは、不確かで気まぐれな存在ですからね。本当に、いい迷惑です」
(な、何故かしら……教皇様が怒っているように見えるのは……)
顔は、ほとんど変わらず笑顔なのに、声のトーンがミシェルの微妙な感情の変化をアンジェリカに伝えた。
「…………ちなみに、教皇様の中に映像を送る……というのは?」
人の中に映像を送るという文章の意味が、アンジェリカには理解できなかった。
「すみません、わかりづらかったですね。それこそ、夢に近いかもしれませんね」
「夢、ですか……」
「僕が祈りを捧げていたり、眠っている時に急に目の前に場面が見えるのです。僕が見せられたのは、ちょうどあなたが、あの神と対話をしている場面ですね。怨霊になりたい……という言葉は、なかなか印象深かったですね」
それは、アンジェリカが夢の中で発言した言葉だと思っていたものだった
「……それじゃあ……そのきっかけになった出来事もすべて本当ということ?」
「はい。あなたは確かに1度、ソレイユ国の王子妃となり、そして……」
「分かったわ! もう、言わなくて良い」
(夢ではなかったのね。私は、確かにあの性悪の手によって殺された……)
アンジェリカは、ここでようやく自分に起きた状況を正式に理解した。
過去に戻り、その現実が1度は白紙に戻ったということを。
(だとしても、もし何もしなければこのままだとまた同じ未来になってしまう……それは、絶対嫌よ……!)
同じ失敗を繰り返す。
それは絶対、避けなければならない。
先ほど、自分を抱きしめてくれたおしろい臭い母親を、アンジェリカは思い出した。
あまり母親らしいことはしてくれなかったとは言え、最後はアンジェリカのために命乞いをしてくれた母親と、寂しい思いをしていた私にずっと寄り添ってくれていたコレットをこのまま死なせることはあってはならないと、アンジェリカは決意した。
「だから怨霊になりたかったのに……」
「それをさせたくないから、わざわざ神は禁忌の術を使ったのですよ」
「禁忌?」
「時を戻すなんて、本当に余程の緊急事態でなければ使ってはならないのが神の世界の掟なんですよ」
ミシェルの声に、ほんの少し怒りが混じっていることにアンジェリカは気づいた。
「それを破ると、どうなるの?」
「それは……」
その時だった。ミシェルは急に真顔になってから、アンジェリカと壁の前に立った。
「申し訳ありません。1度お話を中断しても宜しいですか?」
「なんで……」
「あなたに2度目の人生を神が与えてしまった代償が、始まったんですよ」
「それってどういう……」
その瞬間、白い壁から突如として黒くて大きな、得体の知れない生き物のようなものがにょろにょろっと飛び出してきた。
びっしりと、たくさんの目がついており、それらが全て、アンジェリカと教皇を見ていた。
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見た事のない、巨大な化け物を見て、アンジェリカはこれまで出したこともないような大声をあげてしまった。
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