上 下
162 / 164
7.妊娠がわかってから

真実を見せる鏡作戦ってところね

しおりを挟む
「ちょっと、そこのチンアナゴ。こっちいらっしゃい」

 何故、と言おうとしたが、アレクサンドラなんかとの口喧嘩でリーゼとの時間を無駄にはしたくなかったエドヴィン王子は、アレクサンドラが座っているのとは、反対側のリーゼの隣に座った。
 リーゼの細い肩を抱き寄せたい欲、はかろうじて抑えた。

「チンアナゴ」
「もう、俺のこと名前で呼ぶ気ないだろ」
「その板をリーゼ様の顔の前で持って」
「人の話を聞け。それにこの板はなんだ」

 ニーナもそれはとてもとても気になっていた。

「それは、やってみてのお楽しみ……」

 そうして、エドヴィン王子が言われた通り、ガラス板をリーゼの顔の前にくるように持った。

「これでいいのか?一体どうして……。……リーゼ嬢?」

 エドヴィン王子は、リーゼがガラス板をじーっと見つめていることに気づいた。

「どうした?リーゼ嬢?」

 エドヴィン王子は戸惑ったが、アレクサンドラはこの世で最も美しいであろうドヤ顔を披露した。

「作戦成功ね」
「アレクサンドラ様、これは……」
「真実を見せる鏡作戦ってところね」

 ニーナも、リーゼの背後に行き、極力リーゼと同じ視線の高さでガラスの板を見るようにした。

「なるほどそういうことですね」

 ニーナが見たもの。
 それは、かつてニーナが遊びでリーぜのメガネをかけた時に見えたぼやけた鏡。
 つまり逆を言えば、リーゼがメガネをかけている状態で見えているであろう鏡がそこにあった。
 リーぜが、メガネをかけていない状態で
 まさに、リーゼのありのままの姿が、ようやくリーぜの前に現れた瞬間。

「これが、私?」
「そうよ、リーゼ様。感想は?」
「綺麗……まるで、すみれの花畑のよう……」

 普通の人が自分の事をそんなこと言っていたら、少なくともニーナは「何を言ってんだ」と全力でドン引きしたことだろう。
 だが、ここにいる全員は、ダーリンを除けば皆、この事実を知らないリーぜに振り回された者ばかり。
 ああ、やっとここまで来られた……という安堵の表情を、特にエドヴィン王子が浮かべていた。うっすら涙すら光っている。

「そうでしょう?リーゼ様。あなたは、私とは違う美しさを持っているのよ。ほらチンアナゴ、もうちょっとリーゼ様に近寄りなさい」

 リーぜとエドヴィン王子、それぞれへの語り口が違うのは、もうそう言うものとしてニーナは受け取っていた。
 リーぜはそれに気付かないくらい、自分の顔を見るのに没頭していたようだった。

「リーゼ様、ほら。殿下とリーゼ様のお顔が見えるでしょう?感想は?」
「わ、悪くないと思います……でも……アレクサンドラ様のような華がないと」
「そう言うと思ったわ。隊長」
「なんでしょう、アレクサンドラ様」
「今すぐ、リーぜ様にドレスを着せてちょうだい」
「1番良いものを選んで参ります」
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜

松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】 (ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』 ※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています! 【あらすじ】 架空の国、ジュエリトス王国。 人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。 国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。 そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。 数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた! 仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。 さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す! まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います! 恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり) 応援よろしくお願いします😊 2023.8.28 カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。 本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨

【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。 だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。 そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。 これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。 「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」 (小説家になろう、カクヨミでも掲載中)

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

処理中です...