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楽園はすぐそばに?

9.君に片思い歴5か月の僕が答えてあげるよ

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もう諦めていたのに。
たった一つ残していた「夢」……世界で大好きな二人を私がどれだけ想っているかを残したあれを遺して旅立つ事を目標に、限界まで登校して勉強して、学べる事は全て学んでそれを「夢」に流し込むだけの為の最後だと思っていた。

「ねえ、君の夢って何?」

ずっと聞かないでいてくれた夢。またあの癖が出てしまっているという事は、聞くか聞かないかまだ迷っているのだろう。
本当は死んだ後の遺言にしたかった「夢」の話。

「小説……書いてたの」
「うん、それは知ってる」

それはそうだろうな。
何故ならあの地下倉庫で二人きりでいる時、ぶつぶつと

「あれは違う」
「この登場人物の参考資料が見つからない」

 と思わず口に出してしまう事も度々あったから。

「まさか、小説を書く事だけが君の夢ってわけじゃないよね」
 観念して私は完璧だとこの時まで信じていたかった、自分の死すら自分自身で納得させるために創り上げた「夢」の話を始めた。

「私の小説をベストセラーにしたいの。死ねばそれが普通の道よりも確実になるから」

人間の感情は単純だから、死んだ人間が最後に書いた物語ってだけで、例え一発屋だとしても、簡単にベストセラーになる。
実際、そういう宣伝がお得意な出版社に事情付きで送った。
主治医に私が死んだ後に連絡をくれと話をしていたことも聞いた。
間違いなく出版される。私の死を無駄にしないでくれる。

「手術の話、すごく嬉しいけど、今とても迷ってる」
「手術を受けたくないって事?死にたいってこと!?たかが小説に君以上の価値なんて」
「ないなんて言わせない」
「雪穂ちゃん……」
「この小説は、死ぬって決められた運命を突きつけられた時から、私の全てになったの。それを否定するのは、私を否定する事と同じよ」
「わかってる」
「わかってないよね。だから、否定することができるんだよね」
「わかってないのは雪穂ちゃんの方だよ」
「え?」
「小説のベストセラー?そんな事の為に僕や君のお母さんの気持ち、ちっとも顧みてくれなかったなんて、悲しすぎて涙も出ないよ」
「どういう意味?」
「雪穂ちゃん、何でそこまで小説のベストセラーなんかにこだわるの?」
「え?」
「君に片思い歴5か月の僕が答えてあげるよ。お母さんの為だろう?」
「どうしてそれを……」

 と言った時、頭の中にイケメンボイス老人が浮かんだ。
ああ、山田氏だな。いつ突き止めたか、もし時間が許すなら徹底的に問い詰めてみたかった。
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