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楽園はすぐそばに?

2.悲劇とやらが好きなのは、人間として生まれた定めなのかもしれない

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別に今どき珍しい話ではない。
ドラマや漫画、アニメの他にリアリティー溢れるドキュメンタリーでも似たり寄ったりの設定が垂れ流されている。
そういう悲劇とやらが好きなのは、人間として生まれた定めなのかもしれない。
でなければシェイクスピアが、この時代まで読み継がれる事は無かっただろう。
どんなに悲劇が嫌いと言う人間がいたとしても、需要が無ければ供給もされない。
供給源である泉が大量にあっても、人間の住む地までの水路を確保しようと思わなければ今この手に持っているように、マグカップに一定量の水が得られないのと同じことだ。

そして私は、今この「死ぬストーリー」が大好きな人たちにとっての、開拓されたばかりの泉に、残念ながらなってしまったのだ。

宣告されたのは、乳がん。それもステージ4。
何となく胸のあたりに違和感があったのだが、きっとそれはダブルAカップが憧れのDカップになる為に成長しようと疼いているだけなのだと、勝手に妄想を膨らまして、片方の胸の乳首から出てくる血みたいなものも、ところどころ色が変化していくのも「よし、頑張ってDになれよ」と声をかけるだけだ。
私の方こそ、掃除機で頭の中にできた花畑を全て吸い取ってしまいたい。

そんな状態だったので、私の余命宣告とはすなわち、他の命に関わる臓器にも転移してしまった事によるものだ。

悲しい事に転移した場所が最悪だ。
もし、ここ以外の場所の転移だったら、今の時代ちょっとでも長生きすることができたならば、医学の進歩というもので移植手術とか、それ以上の魔法のような方法で完治も期待できたのかもしれないが、ここに関してだけは、例えクローンの技術が発達したとしても、完璧再現される事などあり得ない。

私を悩ます最大の死因は脳への転移なのだから。
あの、奴との交際で得た特典の最大限に利用して、独自に調べた調査によると、脳転移する確率は約半分。
年間で日本人なら数万人も患者が出る、実は全く珍しくもない現象だそうだ。
薬でギリギリまで抑えていたのだが、ごまかしがきかないほど悪化したと分かったのは昨日の朝だ。
たまたまその日が往診の日で無ければ、私は昨日の時点でこの世にはいなかっただろう。
母には連絡がいった。
病気の事を知った日以上に、母は泣いた。
治療費を出してあげられなくてごめんと。
健康に産んであげられなくてごめんと。
今日、これから私はこの家と永遠のさよならをして、残り僅かな人生を病院で静かに暮らすのだ。
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