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夏の暑さと君の熱さと
19.君に嫌われたくないから
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そんな経緯で始まった私と彼のお付き合いは、出会った当初はあれだけセクハラをかましてきたのだから、キスから始まる恋のABCなぞすぐに奪われるのではないかと、びくびくすることもあったが、した事と言えばせいぜい手を繋いで歩くだけ。
倉庫に眠っていた、江戸時代に描かれた人には言えないちょっとエッチな本を「後学の為、後学の為」などと誰も聞いてないのに言い訳をしながら読み進め、無駄に知識を得てしまったが、現時点でそこで得た、やはり大人のムーディーな時間にならないと言ってはいけないああいう秘め事に関する知識が必要な状況になったのは皆無だった。
そうこうしている内に、自分の気持ちが恋かどうかは分からなかったのだが、奴といると自分の進みたい「夢」の近道になるのではいかと開き直り、当初は家にかかってきた電話を居留守を使って避けるようにしていたが、メリットを見つけてからは積極的に奴との交流を持つようにした。
「特典がないと付き合わないでしょ」
彼は私でも気づいていなかった私の本質を着実に見抜いて実行に移したのだろうか。
それに気づいた時、天才というのは便利なもんだなと、悪意でも好意でもない、違う種類の感情も徐々に芽生え始めていた。
夏休み中については
「遊んでよ」
と付き合う前に奴が散々ごねてた割には、したことと言えば倉庫で私が本を読む横で、最新機種のパソコンを使い何かをせっせと打ち込んでいた。
「遊ばなくて良いの?」
ちょうど夏休みの課題に取り掛かっていたので、話の流れを上手く利用して早速聞いてみた。
「夏休み、私と遊びたいって言ってなかった?」
「ええと……」
ためらいがちに口元に手を当てて
「その……」
いつもの自信はどこに行ったのだ……と突っ込みたくなるくらいの狼狽を見せたので
「ああ、気にしないで言ってみただけだから」
とっと話を切り替えた。
そんな奴が読んでいる本は、アメリカで書かれた論文とのこと。
中学で習う英単語では到底理解しきれない専門用語が並べられている。
こういうのを見ると、奴が特別だと言われていた人物だと思いだす。
それくらい、二人だけの時間は、私も奴も自分の置かれている普通じゃない状況など微塵も感じさせない、長年連れ添った夫婦のような空気になっていたのだ。
夫婦どころか恋人らしいことは何もしていないが。
この時は、クラスの仲間でいる時に比べて私にちょっかいを出す事もしなくなっていた。
「何でそんなにおとなしいの?」
「君に嫌われたくないから」
あっさり返ってきたその言葉に、私は次にどうつなげていいか分からなくなる。
「やっと振り向いてもらったのに、これ以上嫌いって言われたら、僕死ぬしかないよ」
「それは大げさじゃないかな?」
そもそも、いつ私が振り向いたんだっけ?と今までの仕返しとして聞いてやろうと思ったけど
「振られたら本当に死ぬからね」
と自殺宣言されてしまえば、何も言えなくなる。
いや、そんな事で自殺するとか言わないで欲しいと、諸々の事情故に悲しくなっていたのだが、その事情をこの段階で口にするわけにはいかなかったので
「私ってそんなに愛されてるのね」
と心にも無かったはずだけど、言うと奴が笑顔になる魔法の言葉を言って、自殺という単語をすぐさま忘れさせた。
倉庫に眠っていた、江戸時代に描かれた人には言えないちょっとエッチな本を「後学の為、後学の為」などと誰も聞いてないのに言い訳をしながら読み進め、無駄に知識を得てしまったが、現時点でそこで得た、やはり大人のムーディーな時間にならないと言ってはいけないああいう秘め事に関する知識が必要な状況になったのは皆無だった。
そうこうしている内に、自分の気持ちが恋かどうかは分からなかったのだが、奴といると自分の進みたい「夢」の近道になるのではいかと開き直り、当初は家にかかってきた電話を居留守を使って避けるようにしていたが、メリットを見つけてからは積極的に奴との交流を持つようにした。
「特典がないと付き合わないでしょ」
彼は私でも気づいていなかった私の本質を着実に見抜いて実行に移したのだろうか。
それに気づいた時、天才というのは便利なもんだなと、悪意でも好意でもない、違う種類の感情も徐々に芽生え始めていた。
夏休み中については
「遊んでよ」
と付き合う前に奴が散々ごねてた割には、したことと言えば倉庫で私が本を読む横で、最新機種のパソコンを使い何かをせっせと打ち込んでいた。
「遊ばなくて良いの?」
ちょうど夏休みの課題に取り掛かっていたので、話の流れを上手く利用して早速聞いてみた。
「夏休み、私と遊びたいって言ってなかった?」
「ええと……」
ためらいがちに口元に手を当てて
「その……」
いつもの自信はどこに行ったのだ……と突っ込みたくなるくらいの狼狽を見せたので
「ああ、気にしないで言ってみただけだから」
とっと話を切り替えた。
そんな奴が読んでいる本は、アメリカで書かれた論文とのこと。
中学で習う英単語では到底理解しきれない専門用語が並べられている。
こういうのを見ると、奴が特別だと言われていた人物だと思いだす。
それくらい、二人だけの時間は、私も奴も自分の置かれている普通じゃない状況など微塵も感じさせない、長年連れ添った夫婦のような空気になっていたのだ。
夫婦どころか恋人らしいことは何もしていないが。
この時は、クラスの仲間でいる時に比べて私にちょっかいを出す事もしなくなっていた。
「何でそんなにおとなしいの?」
「君に嫌われたくないから」
あっさり返ってきたその言葉に、私は次にどうつなげていいか分からなくなる。
「やっと振り向いてもらったのに、これ以上嫌いって言われたら、僕死ぬしかないよ」
「それは大げさじゃないかな?」
そもそも、いつ私が振り向いたんだっけ?と今までの仕返しとして聞いてやろうと思ったけど
「振られたら本当に死ぬからね」
と自殺宣言されてしまえば、何も言えなくなる。
いや、そんな事で自殺するとか言わないで欲しいと、諸々の事情故に悲しくなっていたのだが、その事情をこの段階で口にするわけにはいかなかったので
「私ってそんなに愛されてるのね」
と心にも無かったはずだけど、言うと奴が笑顔になる魔法の言葉を言って、自殺という単語をすぐさま忘れさせた。
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