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2.初めて選びたいと思ったのは、君だけだった

追憶 13/彼女に逃げられることになるなんて、夢にも思ってなかった

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彼女との、2回目の待ち合わせの日。
前の予定が押してしまい、待たせてしまうという失態をしたが、同時にチャンスも得た。

彼女が、俺を待っている間に読んでいた雑誌で特集されていたのは川越の神社。
縁結びで有名であることは、俺でも知っている知識。
そんな特集を、彼女は食い入るように見ていた。
何を見ているのかと、彼女に気づかれないように、こっそり覗いてみると、浴衣を着た女性の写真だった。
俺は、彼女の浴衣姿を瞬時に想像してみた。

恥ずかしそうに、微笑むだろうか。
それとも、とびきりの笑顔を向けてくれるだろうか。

考えただけで、胸が熱くなった。
それに、川越には縁結びの神様がいるパワースポットでもあると、記事に大きな文字で書かれている。

(決めるなら……ここだろうか……)

本当なら、もう少し距離を縮めてからの告白という流れが良いのかもしれない。
だけど、彼女にはそんな時間すら惜しいと思った。
メッセージのやり取りを重ねてきて、この仮説はより核心へと変わった。
彼女はやはり、恋愛に関する話を徹底的に避ける傾向がある……と。

昔見たアニメの話や俺の趣味の話であれば、長い時間メッセージのやりとりも付き合ってくれる。
だけど、そこに少しでも恋愛……俺の彼女への想いを匂わせる言葉を送っても、それについては一切返ってこない。
徹底的に。
まるで、そういう内容だけ、完全にブロックしているんじゃないかと思う程。

悩んでしまった結果、ついこの間……ある人に相談してみた。
友達の話だと前置きをした上で。
すると、その人からはこう返ってきた。

「むしろ嫌われたくないからなのでは?」

と。
その人曰く。
本当に恋愛対象として自分のことを見られたくない場合は、そもそもメッセージすら適当に流すケースの方が圧倒的。
だけど今回の場合は、メッセージはむしろ長く続く。
そこから推測したその人の仮説は

「恋愛の話になると逃げ越しになるってことは、そこで関係が崩れるのが嫌と考えている可能性は、十分にある」

ということだった。

その人の仮説がもし正しいのであれば……俺に対して恋愛相手として彼女が意識している可能性が、十分にあるということでもある。

何とかして、少しでも距離を縮めたい。
願うなら、彼女に俺の気持ちを知って欲しい。
受け入れて欲しい。

その思いが膨らみ始めたタイミングが、まさに今だった。

「森山さん、その雑誌は……」

あえて俺は、その雑誌の内容を知らないフリをして、話しかけた。

「川越の。縁結びで有名みたいですよ」

優花から、縁結びという言葉が出たのを、俺は逃さなかった。

「いつがいいですか?」
「……いつが良い……とは?」

俺が無理にでも川越の予定を決めようとしたからだろうか。
彼女は戸惑いを隠せていなかった。
分かっていたが、俺も引くわけにはいかないと、押した。
そうして、最終的には彼女の趣味……SNS映えする写真が撮れるというメリットを提示することで、ようやく頷かせることはできた。

それからの俺の行動は、早かった。
この時を特別な日にしたいと思った。
彼女にとっても……俺にとっても。
だからこそ、気合いを入れたかった。

どうやって彼女に俺をもっと異性として意識してもらおうか。
川越の神社の力を、どんな風に借りようか。
どこで食事をして……どんな風に告白をしようか。

きっと、他の男性であれば、子供の頃に体験するであろう、このソワソワとした気持ちを、俺は40にもなって、ようやく味わう事になってしまった。
女性の事で右往左往する自分がいるなんて、この歳まで知らなかった。
でも、そんな自分は、嫌いじゃないと思った。
彼女の為なら悪くない。

でも、まさかこの時は、当日彼女に逃げられることになるなんて、夢にも思ってなかった。
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