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Under World

王室にて

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「そなた達は‥なぜここに来た?富か?強さか?」

「入口に入るときには特に目的はありませんでした。
 しかし今はあります」

「ほう、と言うと?」

「ただ‥この世界を知りたいだけです。地下世界はどういうものなのか、
 自分の今まで見えなかった地面の下はどうなっているのか、
 それが知りたいだけです」
高さ2~3mはありそうな黒みがかった椅子を相変わらず後ろを向かせたまま、
この王室にやけに透き通る太い声が椅子の後ろから聞こえる。
まだ姿は分からないが、その声から恐らくごつい体つきをしていると思われる。

「この世界を知りたいか‥。なかなか面白いではないか。確か
 そなた達は迷わずに洞窟の最深部にたどり着いたんだな」

「はい」
隣に座っているセイヤはなぜか緊張気味で答える。まあ、無理もない。
ゲームの世界とはいえ、いきなり地底世界の王との面会となると緊張も
少しくらいはするだろう。なぜか俺は緊張のかけらもないのだが。

「それで‥この世界についてそなた達はどのくらい知っている?
 ケーブから特に知っていないと聞いたが、それは本当か?」

「はい、本当です。僕たちは特に何も知らずにここに来ました、
 というよりたどり着きました」

「‥分かった。それならば今から私がこの世界の事情について
 説明しよう。おっと、その前に1つ忘れていたことがあった。
 先に渡しておきたいものがある」
そう言うと、その椅子はくるりと回転し、王の姿が明らかになる。
いやあれは多分、女王なのでは。確かケーブもアンダークウィーン様、
つまり地下の女王様とか言ってたような気がするし。頭の上には金で煌々と
輝く豪華な冠をかぶっているのに、顔から下は漆黒のルダンゴットらしきもの
を羽織っている。しかも手にはマイクを持ち、超笑顔でこちらを見て笑っている。
見たところ‥自分と同じか1,2歳上の少女の顔つき。

「あの‥その声つきで女性なんですか?」

「ハハハハハ!騙された??このマイク使うとごっつくて強い人に
 見えるから良く使うんだけど」
おそらく音声編集機能が付いたマイクを自慢げにこちらに向け、
相変わらず笑顔でこちらを見ている。

「そのマイク‥細工されてますよね?」

「いや、ただ変な機械を後で付け足しただけ。特に何もしてないよ」

「いやいや!それを「細工」って言うんです!!!」

「まあ、とにかくこっちに来なさいよ。渡したいのがあるんだから」
そう言うと女王は机の引き出しから何かを箱ごと取り出すと、
机の上に置く。行かないわけにもいかないのでとりあえず行ってみる。
階段を2段ほど上がり、机の上を見てみる。そこにはきらきらと青く輝く
小さい指輪のようなものが2つ箱の中に置いてあった。2つとも
それらの光はこの3人の顔を照らしている。

「どっちかとって指のどこでもいいからはめてみて」
言われたとおりに右手のひとさし指にはめてみる。すると、
突然ウィンドウが開き、
「<地底世界へようこそ>のイベントクリアにより、クリア報酬
 <防御の指輪>をゲットしました。防御態勢+30により、
 シスレベが31に上がります」

と同時に青い光は消え、ウィンドウもそれに続けて消える。
「ありがとう」

「これくらい当たり前よ。とにかく今からこの世界のことについて
 説明しなくちゃね。私はこの地下世界の女王、クールよ。よろしく」
握手を済ますと、クールはにこりと微笑えみ、左の窓の方を見る。

「この世界は‥知っての通り私が治める地下世界。地上と比べて
 特に街の雰囲気とかは変わらないけど‥1つだけ違うのは
 高度な魔法を習得できるってこと」

「<変身魔法>とか?」

「ああ、ケーブから聞いたの?」

「ここに来るときに」

「まあ、それもそのうちの1つ。他には<瞬間移動魔法>とか
 <物体転移魔法><招喚魔法>とかかな‥。もっとも高度なものは
 <時空移動魔法>、でもこれを使えるのはこの地下世界に1,2人くらいしか
 いない。それは私でも使えない」

「なんか‥凄い。じゃあ、修行をめっちゃしたらそういう魔法が使えるってこと?」

「その通り。でも‥それが使えるようになるためには‥相当の修行が必要
 になってくるから‥」

「難しい、てことか」
そう言う魔法が使えるようには確かになりたい。しかし今は
イベントを無事に終わらせることを最優先で行動するべきではないのか。
いや、それともこれらの魔法がつかえるようになったらイベントが
スムーズに進められる可能性だってある。モンスターとの戦闘中、
瞬間移動が必要になってくるかもしれない。これは迷うところだ。
修行をするのか‥それともイベント攻略を最優先でするか‥。

「でも、多分あなた達にはそれらを使えるようになるまで修行してもらわないと
 ‥私のお母さんを救う手伝いをできないわね。見たところ」
なるほど、理解理解。もう修行をやるしかないってことか。つまりこのイベントは
このクールの母の救出ゲーム。しかしこれは絶対に簡単そうなイベントではない。
ケーブがこの地下世界にはLv1000を超すモンスターもいるとか
言ってたことを忘れてはいけない。しかしそのモンスターと対等に戦えるように
なるためには一体どのくらいの修行が必要なのだろうか。

「ついでに‥その修行は一体何日かかるんだ?」

「常人だと4年はかかる。でもあなた達を見ているとそこら1~2年で修行を
 終えちゃいそうね」

「‥一体俺たちのどこを見たんだ?」

「レベルアップ歴」
一体、どうやって見たのかは知らないが、これだけは言える。
「あれは本当に偶然。嘘はついていない。本当に偶然だった」

「だからよ。その運が備わっているなら修行についてこられるはずよ」

ということで俺たちは修行をする、いや半強制的にさせられることとなった。
本当なら修行なんかより俺個人としてはセイヤと妹とのんびり地上で
狩りでもして楽しんでいたかったのだが、こうなってしまったのは仕方ない。
いや、とてつもなく凄いことなのかもしれない。
 この修行を終えることができれば凄い魔法が使えるようになるのだから。
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