上 下
63 / 106
5章 潜入!魔族の国……な件

俺たちがシリアルだ!

しおりを挟む


 俺が魔王軍の陣地から踏み出すと、義勇軍側からも一人歩いてくるのが見えた。

「――よぉ、一ヶ月と少しぶりだな。魔断ちの斬れ味はどうよ?」

 俺たちの頼れる兄貴分・流さんであった。

「すげースパスパ斬れて、助かってんよ。特にアンデット無双の時とか」
「……まー、魔を断つ刀だしなぁ」
「ちなみにそっち監視役とか居ねーの?」
「教官ならその辺に転がってるぜ」
「――教官が死んだ!? この人でなし!!」
「死んでねーから! 荒縄で縛った上で昏倒魔術かけてるだけだっつの!」
「荒縄プレイとはまたマニアックな……」

 教官が新たな趣味に目覚めてしまうではないか!

「――とまぁ、小粋なトークはこの辺りにしとくか」

 コホンと咳払いをする流。ここからはシリアスモードという訳だな。俺も頷く。

「……で、何でお前が魔王側に居んの? あとシータちゃんは何処だ? 別れたのか、なら俺に譲れ」
「どさくさに紛れて願望がダダ漏れになってんぞ、流さんや。あとシータは正式に俺の彼女になりましたー。あげませーん」
「なん、だと……!?」

 ――俺たちにシリアスは無理だった。シリアルうまい。あとな、魔国の中心でプロポーズとかいう羞恥プレイまでして得た彼女をそう簡単に手放すものか!

「ちなみに魔王に全権委任されて、魔国の和平大使になったんでよろしく!」

 俺の宣言に目を丸くする流。
 正式決定ではないがウソは言ってない。遠からずそうなるんだからウソじゃねーのです。

「というわけで、ここで魔王軍と戦われると困る。一時的に魔国の保護下に入ってもらいたい」
「まー、お前がいるならアルスターの保護下よりはマシっぽいな、魔国」
「魔王も国民も基本的に平和主義者だからな。何処ぞの職業差別国よりは断然マシだ」
「根に持ってんなー。暗殺までされかけたんだから当然っちゃ当然だが」

 流さん「それにしても平和主義者の魔王とかwww」とか草生やしてらっしゃる。

「そういや甲斐先生はどうしたんだ? こういう交渉ごとだと真っ先に出てきそうなモンだが……」

 思えばおかしい。流はクラスの兄貴分ではあるが、今はあくまでも生産職連中のリーダーであって全体のまとめ役ではない。こっから見える範囲だと戦闘職の奴らもいるから、普通に考えれば全体のまとめ役である甲斐先生が出てこないのはおかしい。

 うん? いや、よーく見てみよう。

「……そういや、なんか、人数が、ちょっと、足りない、ような……」

 俺の途切れ途切れの言葉に流はバツの悪い顔をした。

「……それがな、勇者パーティーは先行して魔王の討伐に行っちまってだな……」

 勇者パーティーすなわち、勇者・早乙女、聖女・新名、聖騎士・石田、賢者・甲斐先生の四人である。聞くと一日先行して魔国入りしたとのこと。

「やべぇ、あの脳筋魔王絶対に即応戦しやがる!」

 アイツ、殴られたら殴り返す系! 全てが台無しになる前に止めねぇと。勇者と魔王が戦ったという既成事実を作っちゃイカン!

「あと、騎士団長が妙な動きしてんだわ。ジャックロットまで軍連れてきてたのに別行動とかあり得なくね?」

 ――別・行・動!

 ついさっき似たようなことがありましたね。シータさんったら、もしかして騎士団長を見つけた……? 俺たちよりはつきあい長いだろうし、奴らの行動パターンが読めてもおかしくない。問題なのは戦力がこちら側に極振りされているので、シータが一人で応戦している可能性が高いこと。

「――シータが危ない!」
「姿が見えないと思ったら、単独別行動させてたのかよお前!?」
「ちょっと様子見てきますねーなんて軽い調子で言われたら、『おう、わかった』としか言えねーよ!」
「どっちだ!?」
「ここから見て街の反対側だ!!」

 まるで示し合わせたかのようにドォンと大きな音が響いた。まさに今言った方角から上がった音。そして立ち上り始める煙。

「おい、神山! 俺は皆に事情話して誘導するから、お前も魔王軍にナシつけたら急いでシータちゃん助けに行ってこい!!」
「わかった!」

 義勇軍というかクラスメートの元にとって返した流と同時に、俺も魔王軍の責任者の元へと走った。

 事情を説明し、義勇軍は敵ではない事を伝えると俺は一目散に飛竜へと飛び乗る。向かうは戦闘が起こっていると思しき地点。だが今までにないほどの焦燥感。嫌な汗が吹き出して止まらない。


 無事でいてくれよ、シータ!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

SSS級宮廷錬金術師のダンジョン配信スローライフ

桜井正宗
ファンタジー
 帝国領の田舎に住む辺境伯令嬢アザレア・グラジオラスは、父親の紹介で知らない田舎貴族と婚約させられそうになった。けれど、アザレアは宮廷錬金術師に憧れていた。  こっそりと家出をしたアザレアは、右も左も分からないままポインセチア帝国を目指す。  SSS級宮廷錬金術師になるべく、他の錬金術師とは違う独自のポーションを開発していく。  やがて帝国から目をつけられたアザレアは、念願が叶う!?  人生逆転して、のんびりスローライフ!

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

(旧)異世界で家出して貴族にお世話になります

石コロコロ
ファンタジー
ある日、目が覚めると異世界! しかも赤ん坊!\(^o^)/ ウキウキしてた主人公の親はなんと! 虐待してくる酷いやつだったから 家出をした主人公! そして貴族になることになった主人公は、、( ̄▽ ̄)ニヤリッ さてどうなるのかな

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿
ファンタジー
神が人々の救済の為に創られた武器、オリハルコン。 それは世界の危機、種族の危機の度に天より人々の元へと遣わされた。 神の武器は持つ者によりあらゆる武器へと姿を変えた。 持つ者は神の力の一端を貸し与えられた。 そして持つ者の不幸を視続けてきた。 ある夜、神の武器は地へと放たれる。 そして赤子に触れて形を成した。 武器ではなくヒトの姿に。 「・・・そうか、汝が・・・求めたのだな?・・・母を」 そうしてヒトとなった神の武器と赤子の旅が始まった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 9/25 サブタイトルを付けました。 10/16 最近これはダークファンタジーに分類されるような気がしています。 コミカル風な。 10/19 内容紹介を変更しました。 7/12 サブタイトルを外しました 長々と文章を綴るのは初めてで、読みにくい点多々あると思います。 長期連載漫画のように、初期の下手な絵から上手な絵になれたら嬉しいですね。 分類するのであれば多分ほのぼの、ではありますが、走っている子供がコケて膝小僧を擦りむいて指を差しながら「みて!コケた!痛い!血でた!ハハハ」みたいなほのぼのだと思います。 ・・・違うかもしれません。

処理中です...