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第1章
第1話
しおりを挟むそれは薄暗い夜道だった。
時間は午前2時を回った頃だろうか…。
生ぬるい空気が漂う広い公園の中を俺はがむしゃらに走っていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
息を上げながら俺は走り続ける。
得体の知れない何者かが後ろから追いかけてきていた。
「ほんと…なんなんだよっこれは…!」
この状況をうまく飲み込めない俺は混乱していた。
これは夢なのか、現実なのか。
それさえもよく分からない。
そのことを確認する間も与えない緊迫した状況なのである。
あの得体の知れない何者は考える時間すら俺に与えず追いかけてくる。
「シュワァァァ…グジュッグジュバピョ」
この世の物とは思えない気持ち悪い音を立てて追いかけてくる。
一体なんなんだこれは。
なんで追いかけられているんだ俺は…!!
気持ち悪すぎるだろ…!!!!!
気持ち悪いのは音だけではない。その姿、形も定まっていないのである。
そう、まるでスライムのような…変幻自在に形を変えて追いかけてくる。
そいつは周りの液体を器用に取り込みながら大きくなっていた。
「げっ…さっきより大きくなってるじゃん…」
何故こんなに追いかけられるのか。
未だに状況がわからないままである。
この公園、最悪なことに周りには多くの川や池があるため、この得体知らんちゃんの好都合な場所なのだ。
しかし、俺の体力が底をついて走れなくなるのも時間の問題である。
何故こんなにも必死に逃げなくてはならないのかよく分からないが、俺はこのままじゃ追いつかれると焦りを感じていた。
追いつかれると、命さえも危ない気がすると本能が警告を発している。
液体がなさそうなところに逃げれば少しは楽になる…はずである。冷静に考えれば思いつく簡単な答えさえも思いつかないほど俺は追い詰められていた。
何か…もっと速く逃げるためには…
俺は辺りを見渡して速く逃げられそうなものを探した。
自転車…自転車…自転車はねえがっ…!!
頭の中は自転車でいっぱい。
どうしよう…見当たらねぇ…それに近いものはないかないか…!!?!
よそ見している場合ではないがこのままではやばい。
そこでふと公園に置き忘れしたであろうキックボードが目に入った。
あ、あれだったら少しは楽できそう…!
「お借りします!後で返しまっす!」
俺は見つけたキックボードを拝借し、俺は今まで以上に地面にかける力を強くして走った。
「よしっっ…これならなんとか距離を遠ざけられただろう…」
謎の安心感を持ってしまった俺は遠くなったであろう得体知らんちゃんを振り返って見た。
って待ってえええええ!?
さっきより大きくなってる!?
さっきより大きくなってる!!!
最初はバイクくらいの大きさだったのにトラックの大きさまでに巨大化してしもうてる…!!!
「グジュボジャシュシュグニュバチュッ」
気持ち悪い吐息は相変わらず、さらに速度を上げて距離を縮めてきた。
「やばい、やばい!マジで近い!」
俺はキックボードではもう逃げきれないと感じ、間も無く差し掛かるであろう駐輪場で自転車を拝借しようと考えた。
視界が悪い。月明かりでなんとか薄暗く辺りを把握できるが自転車置き場はどこだったのだろうか。いつもであればすぐに見つかるであろう馴染みの公園なのに何故か今まで来たことがない様な感覚を覚えた。
しかし、必死に探すも見当たらない。
「ビャァァァッチュニュチャギャヒュ!」
やだ…まだ大きくなるの…!?
得体知らんちゃんはさらに大きくなるばかり。自転車置き場はいったいどこなの…!!
すると、急に目の前に薄暗く怪しい光を発した背の低いガレージと共に自転車置き場が現れた。
「うぉぉぉっと…!!いきなりすぎるじゃん…!?!?こんなところにあったのかよ…!!」
ようやく見つけた自転車置き場に取り残された自転車を数台確認した。
よし、あとはこれで差をつけて逃げれば…!!俺はキックボードよりも速く移動できる自転車に希望の思いを大きくしながら自転車止めを外し、ペダルを踏み込んだ…。
「行け…!!!」
この自転車は俺の希望を背負い進んでくれる…そう思った俺は次の一瞬で絶望の淵に立たされる。
ガチャッ!!!
大きい音を立てて自転車は止まった。
「えっ…」
事態を把握しきれない俺はあって欲しくない現実を逃避しようともう一度ペダルをこいだ。
ガチャッ!!!
それでも自転車は進むことはなかった。
畜生!!!?!?
ロックかかっているじゃん…!!
自転車動かねぇじゃん…!!!
随分ここで時間を食ってしまってあいつはもうすぐそこじゃないのか…!!?
焦った俺は後ろを振り向きやつを探し…
「ブハァァァァァ」
今までで1番気持ち悪いと感じる生暖かい空気を顔にかけられた俺は一瞬で現実に引き戻された。
やばいやばい…飲み込まれる…!!!
生暖かい空気が出てきたその口からは鋭い歯が多く見られ、興奮を抑えられないのか涎がその歯の隙間から漏れ出している。
あ…。これはもう無理だ。
逃げられねぇ…。
一気に気が抜けた俺は呆然としたままそいつを見つめたまま自転車から転げ落ちた。
これは…死んじゃうのか…?
俺はあと少しで終わるであろう自分の人生を振り返り悲観していた。
まだ…やりたいこと…いっぱいあったんだけどな…
得体知らんちゃんは大きく口を開けてゆっくりと俺を包み込もうとした。
そこで俺の意識はプツン、と切れたのである。
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