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再会と急接近
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「じゃあ私、オフィス棟に用があるから、少し外します」
夕方、朱夏はチームの人員たちにそう言い残し、研究棟を出た。
すぐ隣にある地上三十階建ての自社ビルは、いつ見ても圧倒される存在感だ。朱夏はそのガラス張りの外壁が反射する西日に目を細めながら、ビルの中へ足を進めた。
新年度を来月に控え、ナチュール・デコレの海外事業の拠点であるロンドン支社にいた社長の息子が帰国した。
将来社長となる彼はこれを機に専務に就任するそうだが、なぜか朱夏に挨拶したいと言っているらしい。
朱夏はそれらしい人物に心当たりがなかったが、彼女も三年前まではロンドンの研究室にいたので、どこかですれ違っていたのかもしれない。
疑問に思う部分はあれど、次期社長からの呼び出しに逆らえるはずもない。朱夏はエレベーターに乗り、重役の部屋ばかりが集まった高層階へ向かった。
内線で話した秘書課の女性には、彼のいる専務室に直接向かえばいいと言われている。そんな場所に入るのは初めてのことなので、朱夏はドアの前で一度深呼吸をし、気持ちを落ち着けてからドアをノックした。
「どうぞ」
朱夏は一瞬、ドアを開けるのを躊躇った。
この声、聞き覚えがあるような。
やはり、ロンドンで顔を合わせたことがあるのかもしれない。朱夏はそう思いつつも、なぜだか胸がざわめいた。
「失礼します」
ドアを開け、一礼してパッと顔を上げたその時だ。彼女の全身の血が、沸騰したように熱くなったのは。
「久しぶりですね、朱夏さん」
「貴人、くん……?」
なぜ、彼がここに? 帰国した社長の息子ってまさか――。
朱夏は身動きも取れず、ゆったり歩み寄ってくる彼を呆然と見つめた。
直線的な眉の上で分けられた、艶のあるショコラブラウンのミディアムヘア。少し長めの前髪から覗く、色素の薄い瞳。形のよい唇はいつも悪戯っぽく口角が上がっている。
あの頃の彼は確か二十五だったから、今は二十八か。三年会わなかっただけで、一気に大人っぽい男性に変貌を遂げたようだ。
夕方、朱夏はチームの人員たちにそう言い残し、研究棟を出た。
すぐ隣にある地上三十階建ての自社ビルは、いつ見ても圧倒される存在感だ。朱夏はそのガラス張りの外壁が反射する西日に目を細めながら、ビルの中へ足を進めた。
新年度を来月に控え、ナチュール・デコレの海外事業の拠点であるロンドン支社にいた社長の息子が帰国した。
将来社長となる彼はこれを機に専務に就任するそうだが、なぜか朱夏に挨拶したいと言っているらしい。
朱夏はそれらしい人物に心当たりがなかったが、彼女も三年前まではロンドンの研究室にいたので、どこかですれ違っていたのかもしれない。
疑問に思う部分はあれど、次期社長からの呼び出しに逆らえるはずもない。朱夏はエレベーターに乗り、重役の部屋ばかりが集まった高層階へ向かった。
内線で話した秘書課の女性には、彼のいる専務室に直接向かえばいいと言われている。そんな場所に入るのは初めてのことなので、朱夏はドアの前で一度深呼吸をし、気持ちを落ち着けてからドアをノックした。
「どうぞ」
朱夏は一瞬、ドアを開けるのを躊躇った。
この声、聞き覚えがあるような。
やはり、ロンドンで顔を合わせたことがあるのかもしれない。朱夏はそう思いつつも、なぜだか胸がざわめいた。
「失礼します」
ドアを開け、一礼してパッと顔を上げたその時だ。彼女の全身の血が、沸騰したように熱くなったのは。
「久しぶりですね、朱夏さん」
「貴人、くん……?」
なぜ、彼がここに? 帰国した社長の息子ってまさか――。
朱夏は身動きも取れず、ゆったり歩み寄ってくる彼を呆然と見つめた。
直線的な眉の上で分けられた、艶のあるショコラブラウンのミディアムヘア。少し長めの前髪から覗く、色素の薄い瞳。形のよい唇はいつも悪戯っぽく口角が上がっている。
あの頃の彼は確か二十五だったから、今は二十八か。三年会わなかっただけで、一気に大人っぽい男性に変貌を遂げたようだ。
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