上 下
29 / 77
第三章 借金漬けにされるとは、情けない!

29

しおりを挟む

「よし、これで僕の4連勝だ!」
「勇者様はギャンブルの才能がおありのようですわ」
「ふふふ。それなら何よりだ」

 お金をかけるようになっても僕の勝利は続いていた。勝てる勝負を確実にモノにして、負けそうな勝負はさっと引く。これを繰り返しているだけだけなんだけど、結構うまくいっている。
 トータルでは50メダルぐらいしか勝っていないけど、危険を冒さず、着実にメダルの数を増やしていく。それが僕には合っているのかもしれない。

「この様子なら大丈夫そうだ。私は用事があるから少し席を外す。後は頼んだぞ」
「承知しましたわ、ハロルド様」

 あれ?ハロルド様は席をはずすのか。まあ、忙しい方だし仕方ないか。僕がそんなことを考えているうちに、ハロルド様は足早に部屋を出て行った。
 その瞬間、今まで口を閉ざしていたサラさんが大きなため息をついた。

「はぁーあ。勇者様って、つまんない男なのね」
「なっ…!」

 いきなり侮辱の言葉を浴びせられて、僕は咄嗟の言葉が出なかった。
 
「勝ち方もチマチマしていて…っていうか絶対童貞でしょ?さっきなんて、ママのおっぱいジロジロ見過ぎて笑っちゃったんだけど」
「し、失礼だな!それに…賭け事には、関係ないじゃないか!」
「あはは!何その反応?やっぱり童貞じゃん」

 この子はいったい何なんだ。さっきまでは王様の前だから猫をかぶっていたというのか。というか、いくらなんでも失礼じゃないか。僕は普段怒るようなタイプではないけど、流石にイライラしてきたぞ。

「こら、サラ!やめなさい!…エルド殿、娘の非礼は母である私の責任でもあります。申し訳ございません」

 ドロシーさんが娘を戒め、そして、僕に頭を下げた。サラさんの態度にはムカムカするけど、お母さんに謝られてしまうと許すしかない。なんだかモヤモヤするけど、ここは場を収めるしかない。

「い、いえ…ドロシーさんが謝るほどのことではないです。それに、僕もついかっとしてしまいました」
「それなら良かったですわ」

 ドロシーさんの顔がぱっとにこやかになる。そして、クスクスと口を手で抑えて、上品に笑い始めた。

「ふふふ。それにしても…勇者殿が童貞だったとは…」
「あはは!ママも笑っているじゃん!」
「すみません、勇者様。女性1人満足させたことのない殿方が、世界を救おうとしていると思うと、何だか滑稽で…」

 ドロシーさんまで僕のことを笑い始めた。その瞬間、僕の心の怒りの導火線に火がついた気がした。もう腹が立ったぞ。この失礼な母娘をけちょんけちょんにしてやるんだ。
 幸い今の手札には最強の役が揃っている。この役を倒せるのは、最弱の役だけ。最弱の役は他のどの役よりも弱いけど、最強の役より強いという仕組みなわけだ。
 だけど普通そんな役を揃えたりはしない。よし、ここで大きくお金を張って、目にもの見せてやろう。

「僕はこの勝負、メダル100枚を賭けます!」
「あはは!すぐムキになるところも、やっぱり童貞だね!」

 僕が今日1番のメダルを賭けたことに、サラさん…いや、サラは大笑いしている。今に見てろよ。僕は場に最強の役のペアカードを伏せた。

「うふふ。では勝負に乗りましょう」

 ドロシーさんも勝負を降りない。僕と同じように、場に2枚のカードを伏せた。これは決まった。僕の勝ちだ。

「それでは、カードオープン!」

 サラの掛け声に合わせて、僕とドロシーさんがカードを裏返す。

「そ、そんな!?」

 驚きの声を出したのは、僕の方だった。そこには、ドロシーさんの出したカードは最弱の役。ということは、僕の負けだ。

「あら?勝ってしまいましたわ」
「うわ、だっさ…!最弱の役で勝った時は、賭け金が倍になるから、あと100枚出してよね」

 あっという間に僕の手持ちのメダルは350枚から150枚へと減ってしまった。たった一回の敗北で、形勢は大逆転。この時、初めて僕はギャンブルの恐ろしさを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~

ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。 僕はどうしていけばいいんだろう。 どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。

悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。

ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

俺の彼女が『寝取られてきました!!』と満面の笑みで言った件について

ねんごろ
恋愛
佐伯梨太郎(さえきなしたろう)は困っている。 何に困っているって? それは…… もう、たった一人の愛する彼女にだよ。 青木ヒナにだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

寝取られた義妹がグラドルになって俺の所へ帰って来て色々と仕掛けて来るのだが?(♡N≠T⇔R♡)

小鳥遊凛音
恋愛
寝取られた義妹がグラドルになって俺の所へ帰って来て色々と仕掛けて来るのだが?(♡N≠T⇔R♡) あらすじ 七条鷹矢と七条菜々子は義理の兄妹。 幼少期、七条家に来た母娘は平穏な生活を送っていた。 一方、厳格ある七条家は鷹矢の母親が若くして亡くなった後 勢力を弱め、鷹矢の父親は落ち着きを取り戻すと、 生前、鷹矢の母親が残した意志を汲み取り再婚。 相手は菜々子の母親である。 どちらも子持ちで、年齢が同じ鷹矢と菜々子は仲も良く 自他共に認めていた。 二人が中学生だったある日、菜々子は鷹矢へ告白した。 菜々子は仲の良さが恋心である事を自覚していた。 一方、鷹矢は義理とは言え、妹に告白を受け戸惑いつつも本心は菜々子に 恋心を寄せており無事、付き合う事になった。 両親に悟られない淡い恋の行方・・・ ずっと二人一緒に・・・そう考えていた鷹矢が絶望の淵へと立たされてしまう事態に。 寮生活をする事になった菜々子は、自宅を出ると戻って来ない事を告げる。 高校生になり、別々の道を歩む事となった二人だが心は繋がっていると信じていた。 だが、その後連絡が取れなくなってしまい鷹矢は菜々子が通う学園へ向かった。 しかし、そこで見た光景は・・・ そして、菜々子からメールで一方的に別れを告げられてしまう。 絶望する鷹矢を懸命に慰め続けた幼馴染の莉子が彼女となり順風満帆になったのだが・・・ 2年後、鷹矢のクラスに転入生が来た。 グラビアアイドルの一之瀬美亜である。 鷹矢は直ぐに一之瀬美亜が菜々子であると気付いた。 その日以降、菜々子は自宅へ戻り鷹矢に様々な淫らな悪戯を仕掛けて来る様になった。 時には妖しく夜這いを、また学校内でも・・・ 菜々子が仕掛ける性的悪戯は留まる事を知らない。 ようやく失恋の傷が癒え、莉子という幼馴染と恋人同士になったはずなのに。 古傷を抉って来る菜々子の振る舞いに鷹矢は再び境地へ・・・ そして彼女はそれだけではなく、淫らな振る舞いや性格といった以前の菜々子からは想像を絶する豹変ぶりを見せた。 菜々子の異変に違和感をだらけの鷹矢、そして周囲にいる信頼出来る人物達の助言や推測・・・ 鷹矢自身も菜々子の異変をただ寝取られてしまった事が原因だとは思えず、隠された菜々子の秘密を暴く事を決意する。 変わり果ててしまった菜々子だが、時折見せる切なくも悲しげな様子。 一体どちらが本当の菜々子なのか? 鷹矢は、菜々子の秘密を知る事が出来るのだろうか?

処理中です...