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285話「緊張のラウラ」(視点・ラウラ)

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(シモーネ相談役……やっぱり凄いプロポーションだ……)
 
輝く絆ファ・ミーリエ』自慢の大浴場にも驚かされたけど、なによりシモーネ相談役の身体が……女のオレが見ても震えるような色っぽさに溜め息が出た。
 湯船に浸かる前に洗い場で身体を洗う。石鹸の泡に包まれたシモーネ相談役の身体をどうしてもチラ見してしまう。
 確か、彼女はアマゾネスだ。女性ばかりの部族でありながら、卓越した戦闘能力を持ち、傭兵や冒険者として活躍する者が多いという。
 そんなアマゾネスは頑強な肉体の持ち主だと聞いたが、オレが見る限りは……
 確かに筋肉質な印象を受けるものの、その女性的な部分はオレなんかよりよほど『女として』発達していた。たわわな胸、大きくて肉付きの良い尻、むっちりとした上腕や太もも。
 
「ん? どうしたんやラウラ」
 
 身体の泡を湯で流すシモーネ相談役がチラとオレを見る。
 
「い……いえ……素敵な身体だなぁって……」
「ふふっ……惚れたらあかんで? ウチの身体はもうヒロヤのモンやからな♡」
 
(ヒロヤさんは……シモーネ相談役まで虜にしてしまう男性なのか……)
 
 思わず『今夜』に期待して身体が熱を帯びる。
 
「隊長がここまで惚れこんでしまうなんて……」
「それだけ魅力あふれる御仁なのだな」
「ヘレーネ、ウチはもう『隊長』やあらへんで?」
 
 身体を洗い終わったヘレーネ隊長とフリーダ副隊長が、大きな湯船へと身体を沈める。彼女たちも女性として成熟した色気を放つ肉体の持ち主だ。
 戦闘はバスタードソードをぶん回すパワースタイルでありながら、そのふっくらと丸みを帯びた女性らしい身体つきのヘレーネ隊長。
 二本の『刀』を巧みに操り、その剣技と速度で敵を翻弄するフリーダ副隊長のスレンダーで引き締まった身体。
 
(いいなぁ……)
 
 身体の泡を流し、露わになった自分自身の身体を見下ろす。
 細身で、胸も小さい。お尻こそふっくらと丸みを帯びているものの、上半身の細さに比べて凄くアンバランス。
 
(オレの身体を見て……ヒロヤさん、ガッカリしないかな……)
 
 シモーネ相談役に続いて、オレも湯船に浸かる。温泉場と同じ湯を引いてきているというこのお風呂は、やはり身体の芯から温まるし、疲労も取れて全身に活力が蘇るような気がする。
 
「しかし、この屋敷の造りは良いですねシモーネ隊長」
「あぁ……なんやカズミが大まかな設計をしたらしいで? まぁ専門的な事は建築士に任せたんやろうけどな」
「やはり傑物ですねあの少女は。──ヘレーネ、我々もそろそろ……」
「うん。資金はある。近いうちにギルドか役所で建築士や大工を紹介してもらうつもりだ」
 
 隊長と副隊長の話は、以前クランで言っていた『薔薇の果実ローズヒップ』の本拠地の事だ。
 
「そうか。やっぱりここラツィア村に腰を落ち着けるんやな?」
「はい。クランのメンバーも、皆この村が気に入っております」
「『大迷宮』が発見された事はもちろん、皆『この村は優しい』と」
 
 隊長と副隊長の言う通り、この村の雰囲気をクランメンバーは皆『優しい』と口を揃えて言っていた。
 
「わかるわ。これからどんどん賑やかになって発展していくんやろうけど、穏やかでのんびりとした雰囲気は無くならんといて欲しいな」
 
 シモーネ相談役が、湯けむりが昇っていく天井を見上げた。その表情はとても優しくて穏やかで。まるでこの村そのものみたいだ。
 
「む、村の雰囲気というものは領主の性格で左右されると聞いたことがあります。オレ、この村に来た時にパーティー揃って領主様にお会いしたことがありますが……穏やかで優しいお方でした」
「英雄剣士『双剣の』シンジ・オブライエン様か。若い頃は散々浮名を流したって聞くけどな。ウチもここに来てから会った事あるけど……うん、ヒロヤに似てええ男やったわ」
「『双剣の』シンジ様……同じ『二刀流』の剣士として、是非一度お手合わせ願いたいものです……」
 
 フリーダ副隊長の瞳が輝いていた。
 
(オレもこの村は好きだ。王都とは違う、のんびりとした雰囲気が大好きだ)
 
 ヘレーネ隊長もフリーダ副隊長も、そしてオレも……シモーネ相談役と一緒に湯けむりが立ち昇っていく天井を見上げた。
 
 ◆
 
 風呂から上がると、カズミさんと赤いメイド服の『スーちゃん』だったか……が全員分のガウンを持ってきてくれた。
 
「服と下着は洗っておくね。明日にはちゃんと乾いてるから安心して。──ガウンだけでいいよね?」
「ありがとなカズミ。ガウンだけで充分や。どうせ下着なんていらんしな♡」
 
 そう言って「ふふふっ」と笑うシモーネ相談役。
 
「あ、ヘレーネさんとフリーダさんはシモーネの部屋を使ってね。あそこ広いから大丈夫でしょ?」
「あぁ、ウチの部屋は広いから問題ないで。前にアスカとゴージュの営みがやかましいから、他とは離れた部屋にしてもらったしな。──ほら、行くで♡」
 
 シモーネ相談役が、ガウンを羽織ったヘレーネ隊長とフリーダ副隊長の手を引いて脱衣所を出ていく。
 
「シーツ、新しくしておきましたから!」
「おっ、おおきにスーちゃん!」
 
 メイドちゃんにウインクして……行ってしまった。
 
「ラウラは……ヒロヤが部屋で待ってるからね」
「は……はいっ! で、でもホントにオレなんかを……」
 
 そこまで言ったところで、背伸びしてオレの口許に人差し指を突きつけるカズミさん。
 
「『オレなんか』は無しだよ。ラウラ、貴女は素敵ななんだからもっと自信をもって」
「はい。……でも、カズミさんの婚約者なのに……」
「貴女の心を救う方が大事。──優しくしてくれるから安心して♡」
 
 オレの腕を掴んで下へと引っ張るカズミさん。引かれて身体を屈めると……
 
 ──ちゅっ♡
 
 カズミさんが頬にキスをした。とても優しくて温かいキス。
 
「怖くならないおまじない。じゃあ行ってあげて」
 
 頬だけじゃなく、身体も、そして心まで温かくしてもらったオレは……カズミさんとスーちゃんに頭を下げてヒロヤさんの部屋へと向かった。
 
「羨ましいなぁ……わたしもいつかはヒロヤ様と……」
 
 そんなスーちゃんの言葉が聴こえた。
 
 ◆
 
(二階、オープンスペースに誰か居たりするのかな……?)
 
 階段を上がると、どうしても通らなきゃいけないのだけれど……誰か居ると流石に恥ずかしい。
 二階に上がって、ひょこっと顔を出して覗いてみる。
 
(ホッ……誰も居ない)
 
 既に薄暗く、壁に幾つか掛けられてある『魔導具ランタン』の薄明かりだけが灯っていた。
 静かに、極力音を立てないようにオープンスペースを抜けて廊下へと向かう。オレの盗賊シーフの技術を最大限に発揮した『忍び足』だ。
 廊下の一番手前、左側の扉。ここがヒロヤさんの部屋。ノックをする前に、深く深呼吸する。その時、パタパタと小走りに駆けてくる足音が。
 
「ラウラ……良かった間に合ったよ」
 
 振り返ると、ホッとした表情のカズミさんが。
 
「万が一があるからね。──『避妊コントラセプティヴ』」
 
 カズミさんが魔術を唱え、オレの下腹部が僅かに輝いた。
 
「これで大丈夫♡ じゃあ頑張ってね♡」
「は、はい……ありがとうございます」
 
 オレにウインクして、カズミさんは廊下の奥へと歩いていった。
 
(数居るヒロヤさんの恋人達をまとめる『第一夫人』的立場だったよな。幼いのに、こういう細かいところの気配りもできる凄い人なんだ……)
 
 オレは再度ヒロヤさんの部屋の扉と向かい合い、大きく深呼吸した。
 
 ──コン……コンッ……
 
「ラウラ……? どうぞ入って」
 
 緊張でガチガチになってるのが、自分でもわかる。オレはまるで不出来なゴーレムの様な動きで、扉を開けて部屋に入った。
 
 
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