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284話「グーニラとロミィ3」(視点・グーニラ)
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翌朝早く、村の中央広場へと足を向けた。前回運搬者として働いた経験から、わーはまだ荷物に余裕がある事がわかったのでもう一つショルダーバッグを購入し、自分の荷物を入れたショルダーバッグと両掛けに下げた。
あと、本当ならちょっとした革製の防具が欲しいところだったけど、わーもロミィもサイズが特別なので、これはオーダーメイドしなきゃならない。代わりに厚手の布でできた外套を購入した。ロミィは子供用、わーは一番大きいサイズでなんとか着れる物があった。
「あーしらは運搬者とはいえ、戦闘に巻き込まれちゃう事がよくわかったもんね」
外套の内側に予備の矢を収納しながらロミィが言った。
「こぃがねどわーらは死んでまってた……」
シモーネさんとギーゼさんから貰ったクロスボウを手に取り、腰にぶら下げる。
「あーし達がもっと戦えたら……あのパーティーは全滅しなかったのかな……」
「それはぢがうわロミィ」
わーはロミィの肩に手を掛けた。
「わー達が戦うのは、あぐまでも自分の身ぃ守るだめだぁ」
「そっか……そうだよね」
ロミィが肩に乗せたわーの手に、自分の手をそっと添える。
「よし! んじゃ屋台で朝食を食べてからギルドに行こうか!」
ロミィがわーの手を取って走り出した。
◆
受付の女性に運搬者の仕事がないか聞くと、すぐに紹介してくれた。
戦士二名、魔術師一名、盗賊一名の四人パーティーだった。みんなランクDらしく、第二階層のフロアボスが目標らしい。
「明日の昼まで探索の予定なの。食事はこっちで用意してるから、一人辺り銀貨七枚でどう?」
盗賊の女性が条件を提示した。実質一日半の仕事だ。戦利品も均等に分けてくれるらしい。
「あーしらはそれで大丈夫です。よろしくお願いします」
「よろすくお願いすます……」
盗賊の女性がニッコリ笑い、握手で契約が成立した。
その後、乗り合い馬車で『ラツィア大迷宮駐留所』に到着。パーティーが迷宮探索の受付をすませ、わー達は先日お世話になったギルド受付嬢のカミラさんに挨拶した。
「今回も元気に帰ってきてね」
そう言って、笑顔で送り出してくれるカミラさん。わー達は手を振って返し、迷宮へと潜った。
◆
「土の束縛!」
三体のゴブリンと一体のハイゴブリン。第一階層のフロアボスだ。魔術師がハイゴブリンを魔術で拘束し、リーダーの戦士が抜刀してそちら目指して駆けていく。
もう一人の戦士は、残りのゴブリンを相手にロングソードを振るう。盗賊の女性は──
──ンギィィ!
いつの間にかゴブリンの背後に回り込んでその首を掻き切っていた。
残った二体のゴブリンも、戦士があっという間に切り倒した。
ハイゴブリンを相手にしているリーダーの戦士も、相手の振り下ろす棍棒をロングソードで受け流し、そのままハイゴブリンの胴を横薙ぎに斬り捨てた。
◆
第二階層に降りてからも順調で、道中の遭遇も部屋のモンスターも難なくクリアしていく。
今日中には第二階層のフロアボスまで到達できないだろうという事で、わー達が避難部屋へと案内した。
「はー順調順調。貴方達のおかげでルート選択もスムーズに進んでるわ」
「君たち、この迷宮は初めてじゃないんだね」
夜食を食べながら、盗賊の女性とリーダーの戦士が話しかけてきた。
「あーしら二回目なんです」
ロミィがスープを啜りながら答える。
「そっか。運搬者として雇ったけど、案内人としても役にたってくれたのね。ありがと」
盗賊の女性がそう言って、他のパーティーの人たちと一緒に頭を下げた。
「こ、ここからだと確か三部屋抜けるとフロアボスのホールでしたよ」
お礼を言われて、少し照れたロミィが頭を掻く。
「フロアボスは確か……双頭蛇だったか」
「わー達の時は二体出現すた」
「ふむ……二体だとキツいかもね」
リーダーに、わーの時のフロアボスを教えると、女盗賊が腕を組んで首を傾げた。
「だな。ホールを覗いて一体なら戦おうか」
「二体以上だと……帰還するか」
もう一人の戦士と魔術師がそう提案する。
「だな。魔石も戦利品もそこそこ入手できた。一日半の探索としてはいい儲けが出てるしな」
パーティー内で結論が出たところで、それぞれ備え付けのベッドで就寝した。
◆
「……二体だったよ。引き返して避難部屋から転移陣で帰るか」
朝からロミィの案内で回廊を進み、フロアボスのホールを偵察にいった女盗賊が報告する。
「そうか……じゃあ次の機会に。だな」
リーダーがそう判断した。
「次は盾師と戦士を探して六人パーティーで挑もうか」
「あと何日かすれば、ラツィア村に冒険者が溢れるだろうし……すぐ見つかりそうだぜ」
魔術師と戦士も加えてそんな会話をしながら、わー達は来た道を引き返した。
◆
魔石は『ラツィア大迷宮駐屯所』のギルド出張所で換金し、村に戻って宝飾品も換金した。鉱石は鍛冶屋が閉店中だったのでギルドで換金してもらう事になった。
「魔石と戦利品の分け前は一人小金貨五枚と銀貨三枚。それと、貴方達の報酬が二人で小金貨一枚と銀貨四枚ね。合わせて……金貨一枚に小金貨二枚か。──はいこれ。ありがとね。おかげで捗ったよ」
女盗賊からロミィが報酬を受け取る。
「ありがとうございます!」
「またよかったら頼めるかな?」
「……すいません……あーしら、続けるかはわからないんです」
リーダーさんに、ロミィは頭を下げた。
「そうか……残念だけど仕方ないな。んじゃ」
「気が変わったら、声掛けてね」
四人はギルドから去っていった。
◆
「ロミィ……決めだんだなぁ」
温泉場で湯に浸かりながらロミィに話し掛けた。
「グーニラもそうでしょ?」
「そうだ……」
湯船にもたれ掛かって、夕暮れの空を見上げる。
「このまま雇われで運搬者を続けても……大迷宮の深いところまでは行けないと思うんだ」
「んだの」
「怖い思いも……死ぬ思いもしたけど──あーし……もっと先に行きたい。見た事のない景色を見たい。……今は冒険者としても運搬者としても未熟だけど……」
「わーも……もっと冒険がすてぇ」
(やっぱりロミィもわーと同じ気持ちだったんだな)
嬉しくなって隣を見ると、ロミィもわーを見上げて笑っていた。
「お風呂上がったら……宿、引き払おっか?」
「んだの」
「荷物まとめて……『輝く絆』に行こっか?」
「んだの。あそごならわーらも遠ぐへ行げる」
(初めは生活の為だったけど……わーもロミィも……やっぱり冒険者なんだ)
だって、冒険と迷宮の事を考えるだけで──こんなにも胸が熱くなってる。
「んじゃ善は急げだよグーニラ!」
「んだ! 今だば、んめぇ夕食さ間に合う!」
わー達は急いで温泉から上がって、宿へと帰った。
あと、本当ならちょっとした革製の防具が欲しいところだったけど、わーもロミィもサイズが特別なので、これはオーダーメイドしなきゃならない。代わりに厚手の布でできた外套を購入した。ロミィは子供用、わーは一番大きいサイズでなんとか着れる物があった。
「あーしらは運搬者とはいえ、戦闘に巻き込まれちゃう事がよくわかったもんね」
外套の内側に予備の矢を収納しながらロミィが言った。
「こぃがねどわーらは死んでまってた……」
シモーネさんとギーゼさんから貰ったクロスボウを手に取り、腰にぶら下げる。
「あーし達がもっと戦えたら……あのパーティーは全滅しなかったのかな……」
「それはぢがうわロミィ」
わーはロミィの肩に手を掛けた。
「わー達が戦うのは、あぐまでも自分の身ぃ守るだめだぁ」
「そっか……そうだよね」
ロミィが肩に乗せたわーの手に、自分の手をそっと添える。
「よし! んじゃ屋台で朝食を食べてからギルドに行こうか!」
ロミィがわーの手を取って走り出した。
◆
受付の女性に運搬者の仕事がないか聞くと、すぐに紹介してくれた。
戦士二名、魔術師一名、盗賊一名の四人パーティーだった。みんなランクDらしく、第二階層のフロアボスが目標らしい。
「明日の昼まで探索の予定なの。食事はこっちで用意してるから、一人辺り銀貨七枚でどう?」
盗賊の女性が条件を提示した。実質一日半の仕事だ。戦利品も均等に分けてくれるらしい。
「あーしらはそれで大丈夫です。よろしくお願いします」
「よろすくお願いすます……」
盗賊の女性がニッコリ笑い、握手で契約が成立した。
その後、乗り合い馬車で『ラツィア大迷宮駐留所』に到着。パーティーが迷宮探索の受付をすませ、わー達は先日お世話になったギルド受付嬢のカミラさんに挨拶した。
「今回も元気に帰ってきてね」
そう言って、笑顔で送り出してくれるカミラさん。わー達は手を振って返し、迷宮へと潜った。
◆
「土の束縛!」
三体のゴブリンと一体のハイゴブリン。第一階層のフロアボスだ。魔術師がハイゴブリンを魔術で拘束し、リーダーの戦士が抜刀してそちら目指して駆けていく。
もう一人の戦士は、残りのゴブリンを相手にロングソードを振るう。盗賊の女性は──
──ンギィィ!
いつの間にかゴブリンの背後に回り込んでその首を掻き切っていた。
残った二体のゴブリンも、戦士があっという間に切り倒した。
ハイゴブリンを相手にしているリーダーの戦士も、相手の振り下ろす棍棒をロングソードで受け流し、そのままハイゴブリンの胴を横薙ぎに斬り捨てた。
◆
第二階層に降りてからも順調で、道中の遭遇も部屋のモンスターも難なくクリアしていく。
今日中には第二階層のフロアボスまで到達できないだろうという事で、わー達が避難部屋へと案内した。
「はー順調順調。貴方達のおかげでルート選択もスムーズに進んでるわ」
「君たち、この迷宮は初めてじゃないんだね」
夜食を食べながら、盗賊の女性とリーダーの戦士が話しかけてきた。
「あーしら二回目なんです」
ロミィがスープを啜りながら答える。
「そっか。運搬者として雇ったけど、案内人としても役にたってくれたのね。ありがと」
盗賊の女性がそう言って、他のパーティーの人たちと一緒に頭を下げた。
「こ、ここからだと確か三部屋抜けるとフロアボスのホールでしたよ」
お礼を言われて、少し照れたロミィが頭を掻く。
「フロアボスは確か……双頭蛇だったか」
「わー達の時は二体出現すた」
「ふむ……二体だとキツいかもね」
リーダーに、わーの時のフロアボスを教えると、女盗賊が腕を組んで首を傾げた。
「だな。ホールを覗いて一体なら戦おうか」
「二体以上だと……帰還するか」
もう一人の戦士と魔術師がそう提案する。
「だな。魔石も戦利品もそこそこ入手できた。一日半の探索としてはいい儲けが出てるしな」
パーティー内で結論が出たところで、それぞれ備え付けのベッドで就寝した。
◆
「……二体だったよ。引き返して避難部屋から転移陣で帰るか」
朝からロミィの案内で回廊を進み、フロアボスのホールを偵察にいった女盗賊が報告する。
「そうか……じゃあ次の機会に。だな」
リーダーがそう判断した。
「次は盾師と戦士を探して六人パーティーで挑もうか」
「あと何日かすれば、ラツィア村に冒険者が溢れるだろうし……すぐ見つかりそうだぜ」
魔術師と戦士も加えてそんな会話をしながら、わー達は来た道を引き返した。
◆
魔石は『ラツィア大迷宮駐屯所』のギルド出張所で換金し、村に戻って宝飾品も換金した。鉱石は鍛冶屋が閉店中だったのでギルドで換金してもらう事になった。
「魔石と戦利品の分け前は一人小金貨五枚と銀貨三枚。それと、貴方達の報酬が二人で小金貨一枚と銀貨四枚ね。合わせて……金貨一枚に小金貨二枚か。──はいこれ。ありがとね。おかげで捗ったよ」
女盗賊からロミィが報酬を受け取る。
「ありがとうございます!」
「またよかったら頼めるかな?」
「……すいません……あーしら、続けるかはわからないんです」
リーダーさんに、ロミィは頭を下げた。
「そうか……残念だけど仕方ないな。んじゃ」
「気が変わったら、声掛けてね」
四人はギルドから去っていった。
◆
「ロミィ……決めだんだなぁ」
温泉場で湯に浸かりながらロミィに話し掛けた。
「グーニラもそうでしょ?」
「そうだ……」
湯船にもたれ掛かって、夕暮れの空を見上げる。
「このまま雇われで運搬者を続けても……大迷宮の深いところまでは行けないと思うんだ」
「んだの」
「怖い思いも……死ぬ思いもしたけど──あーし……もっと先に行きたい。見た事のない景色を見たい。……今は冒険者としても運搬者としても未熟だけど……」
「わーも……もっと冒険がすてぇ」
(やっぱりロミィもわーと同じ気持ちだったんだな)
嬉しくなって隣を見ると、ロミィもわーを見上げて笑っていた。
「お風呂上がったら……宿、引き払おっか?」
「んだの」
「荷物まとめて……『輝く絆』に行こっか?」
「んだの。あそごならわーらも遠ぐへ行げる」
(初めは生活の為だったけど……わーもロミィも……やっぱり冒険者なんだ)
だって、冒険と迷宮の事を考えるだけで──こんなにも胸が熱くなってる。
「んじゃ善は急げだよグーニラ!」
「んだ! 今だば、んめぇ夕食さ間に合う!」
わー達は急いで温泉から上がって、宿へと帰った。
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