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240話「低階層組の出立」

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「それじゃ、頑張ってくんだよ。──しつこいようだけど、絶対無理だけはすんなよ?」
 
 クランハウスの前に、メンバー全員が集合している。これから『低階層組』が『ラツィア大迷宮』へと出発するのだ。
 
「大丈夫です。自分が責任を持ってみんなを指揮します」
「アンタはちょっと気負い過ぎやねんけどな──まぁ、ウチもついてるから心配しぃなやリズ」
 
 馬車の手綱を取り、少し緊張した面持ちで答えるギーゼに、ヤレヤレと言った表情で呟き、リズに向き直るシモーネ。
 
 ギーゼの馬車にカリナ姉さん、エルダ、ノーちゃんが乗り込み、シモーネの馬車にノリス、ロッタが乗り込む。ゴージュは既に愛馬に騎乗している。
 
「頼んだよシモーネ……」
「まぁ、よっぽどの事が無い限り、この子らは無傷で帰ってくるわ。ウチが保証したる。それに、その『よっぽどの事』対策でウチとゴージュがついていくんやろ? だから、アンタもそんな心配しぃなって」
 
 自分がついていけないから、よっぽど心配なんだろう。俺にもそんな気持ちが表情に見て取れるリズに、シモーネが笑って答えた。
 
「訓練も、実践も完璧です!」
「み、み、ミーティングも重ねました……」
「僕達、自信もついてます!」
 
 ロッタ、カリナ姉さん、ノリスがリズに声を掛ける。みんな、リズの心配顔が気になるんだろう。
 
「エルダはこのメンバーに入るのは初めてだけど……みんなとても連携が取れてるし、大丈夫だよリズちゃん」
「ノーちゃんも頑張ってくるの~」
 
 エルダとノーちゃんが、カリナ姉さんの後ろから顔を出す。
 
「んじゃ、行くッスか!」
 
 ゴージュが愛馬の手綱を取り、馬首を巡らせた。
 
「ま、まてゴージュ……!」
 
 見送るメンバーの前に出たのは……アスカ。
 
「ほ、頬を出せ」
「こうッスか?」
 
 馬上から身体を乗り出して頭を下げたゴージュに……アスカが軽くキスをする。
 
「──!」
「お……おまじないだ」
 
 新婚夫婦が見せつける。
 
「そ……そうだ……か、カズミさん!」
 
 そんな二人を見て、ギーゼがカズミを呼ぶ。
 
「ん?」
「アレを……お、おまじないを……!」
 
 えっと……以前は『くだらない』と一蹴してたよね?
 
「ふふふ♡ やっとギーゼもわたしの『おまじない』の効果をみとめたのね」
 
 カズミはギーゼの馬車の御者台に飛び乗り、その頬にキスをした。
 
「わ、わ、わたしも……!」
「もちろんエルダにもだよカズミちゃん」
「ノーちゃんもカズミ様の『おまじない』欲しいの~」
「はいはい♡」
 
 御者台側に顔を出したカリナ姉さん、エルダ、ノーちゃんにも『おまじない』をするカズミ。
 
「えっと……なんやねんそれ?」
 
 もう一台の馬車の御者台で固まるシモーネ。
 
「『輝く絆ファ・ミーリエ』名物のおまじない。れなのもよく効くんだよ?」
 
 その隣に飛び乗ったレナがシモーネの頬に不意討ちでキスをした。
 
「んな!?」
「これでシモーネも大丈夫だよ!」
「わたしも!」
「ぼ、僕も良いんですか?」
 
 ロッタとノリスも御者台に顔を寄せる。自分も申し出たものの、ノリスの申し出には一瞬、頬を膨らませたロッタだったけど……「ま、まぁおまじないだし……」と呟いてから嬉々としてレナに頬を向ける。
 
「みんな気をつけてね」
 
 レナはそう言って、みんなの頬にキスをした。
 
「れ……レナさんに……ち、ちゅーされた……」
 
 頬を赤らめて呟くノリスが、ロッタに後頭部を叩かれたのは言うまでもない。
 
◆ 
 
「それでは……行ってきます!」
 
 ギーゼが俺達に手を挙げて、馬車がクランハウスを離れていく。ゴージュの騎馬とシモーネの馬車も後に続く。
 馬車の後ろから手を振るみんなの腕には、レナが新しく作った『クランの腕輪』が光っている。以前作った『現在位置の確認』が出来る魔導具だ。『探知ディテクション』の魔術を使う事によって、腕輪をつけた者の現在位置を把握できるように改良されている。
 そんなみんなに手を振り返し、出立する『低階層組』を見送った。
 
◆ 
 
「ギーゼ……良い顔をしていた」
 
 屋敷内へと入る途中で、アスカに声を掛けられた。
 
「うん。少し緊張してたみたいだけど、出発する際の顔は自信に満ちてたよ」
 
 そう返してチラリとアスカの顔を窺う。優しい表情だ。師匠というより、姉みたいな立場なのかな。
 
「今朝早く、風呂で一緒になってな。……良い事があったそうだ」
「そ、そうなんだ……」
 
 なんか、全部知られてるような感じがして、ちょっと照れてしまう。
 
「良い成果が期待できるな。アタシ達もうかうかしてられないぞ」
 
 俺に微笑みかけてから、アスカは屋敷内へと入っていった。
 
(そういえば、俺とカズミが起きた時には……もうベッドに居なかったもんな)
 
 昨夜は俺とカズミに挟まれるように眠ったギーゼだったけど、早く起きてお風呂にいってたんだな。ほんと真面目というか何というか……
 
◆ 
 
「じゃあメルダはお店に行くね! 叔父さんも結構早めに着くみたいだし。お店を案内してから、店番任せてすぐこっちに戻ってくるね。それからダッシュで準備するよ」
「慌てなくてもいいよ。メルダの分もアルダが準備しておくから」
 
 メルダが急いで屋敷を出ていく。その後ろ姿にアルダが声を掛けて、メルダは背中越しに手を挙げて走っていった。
 
「じゃあ、あたしとドロシーは買い出しに行ってくるね!」
「ウーちゃん、何を買ってくればいいですか?」
「ウーちゃんも一緒に行くです。クランハウスの食材と日用品もついでに買うです」
 
 マルティナとドロシーがウーちゃんを連れて馬車で村の市場へと出かけていった。
 
「私は早めに準備して、後はハンナさんのお手伝いするけど……ヒロヤは?」
「俺ももう準備しとくかな。──レナとリズはどうするの?」
「アタイとレナは探索の打ち合わせをする予定だよ。第三階層からのアタックだからね。──アスカも来るかい?」
「あぁ。そういう話し合いがどんなものか見てみたい」
「……決まったら、午後にでもみんなでミーティングするから。──ほら、リズもアスカも行こっ!」
 
 リズとアスカはレナに手を引かれて、二階へと上がっていった。
 
「あ、ヒロくん……良かったらちょっと付き合ってくれないかな?」
 
 アルダが俺の服の裾を引く。
 
「良いけど……どうしたの?」
「ヒロくんの防具……ちょっと改良してみたんだ。それを合わせてもらおうと思って……」
「え? ほんと? なんかめっちゃ嬉しいんだけど!」
「んじゃ、私は自分の部屋に行くね」
 
 カズミも二階へと上がっていった。
 
◆ 
 
「これ……なんだけどさ……」
 
 三階に上がって左奥の円筒部屋、アルダたち三姉妹の部屋に案内されて椅子に座って待ってると、アルダが目の前のテーブルにある木箱を開けた。見慣れた防具が入っていたけど……少し形が変わっている。
 
「ヒロくんの動き易さと受けた防具のダメージを考えて、肩部分の装甲は無くしたんだ。その代わり、何度か腹部に蹴りを受けたって話聞いたから……左脇腹に革製の装甲を追加した。あと、両手甲は新しく作り直して……ってあれ?」
 
 各パーツを箱から取り出しながら説明してくれていたアルダが、首を傾げながら箱を探る。
 
「あー! 手甲は作り直したから……お店に置いたまんまだった!」
 
「どうしよう……」と慌てるアルダ。
 
「取りに行こうか? ついでに俺、叔父さんにも挨拶したいし……」
「そうだね。アルダも今の間にヒロくんに合わせてもらって、合わない箇所があったら調整しときたいな」
「じゃあ……行こうか」
 
 俺はアルダの手を引いて部屋を出た。
 
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