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196話「お仕事の査定」(視点・ヒロヤ→カズミ)

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「ほ、ほ、本当に……こ、こちらのお食事は……お、お、美味しいです!」
 
 朝食を終えて、黒メッシュのウーちゃんが持ってきてくれたお茶をひと口飲むカリナ姉さん。
 ……つか、もう普通にウチに入り浸ってるよね姉さん。隣の家ってに帰るだけみたいな。
 
「まぁ、みんな今日はゆっくり休むといいよ。カズミはゼット商会に、アルダは家に帰って、それぞれ『ダンジョンの戦利品』の価値を調べてきて。それが済んだら、カズミの査定でみんなに報酬だよ」
 
 リズの言葉に、みんなから笑みが溢れる。
 
「俺はカズミとゼット商会に行ってくるよ。──カズミ、ハヤで行こうか」
 
 俺は席を立って、カズミの手を取って厩へ走った。
 
 ◆
 
「確かに貴金属の宝飾品だけれども……こんなに傷んでて、しかも古いものなのに……」
 
 カズミが唖然としている。もちろん俺も。
 
「貴族の好事家様の間では結構な人気なのですよ『迷宮からの発掘品』は。しかもアクセサリー類は特に喜ばれます。まぁ、もちろん我が商会の職人が再生するのですがね」
 
 ゼット商会の番頭を務めるワレリー ・ゲーゲンバウアーさんがルーペを外す。
 
「ネックレス三点にブローチ二点、ブレスレットが一点。これに金貨四枚は妥当だと思いますよ。あとは……」
 
 次は、四つある宝石の『原石』を指差す。
 
「これも悪くないですね。加工すれば、ちゃんとした宝石になります。こちらは金貨二枚で引き取らせて頂きたいのですが」
「ま、まぁ本来なら交渉の余地もあるんでしょうけど……今回は『ゼット商会・ラツィア本店』の創立を祝って……そちらの言い値でいいですよ」
 
 カズミは多分、交渉する気マンマンだったんだろうけど……予想外の買取額が提示されたので、はっきり言って気勢をそがれたみたいだ。
 
「なにを仰いますカズミ様。貴女の御尽力で順調に本店の移転・立ち上げが進んだのですよ。──そうですね。全部で金貨六枚と小金貨五枚お出ししましょう。如何です?」
「……成立ね」
 
 そう言ってワレリーさんに右手を差し出すカズミ。
 
「ダンジョンでの戦利品は、いつでもウチに持ってきてくださいね」
 
 ワレリーさんがカズミの右手を握り返し、奥から女性従業員が持ってきたトレイを俺達に差し出す。
 
「こちらが買取金額です。どうぞお納めください」
 
 ◆
 
「ミリア校長が買い取ってくれた短剣二本が金貨五枚。魔石がギルドで小金貨七枚と銀貨五枚。そして古びた貴金属の宝飾品と宝石の原石が金貨六枚と小金貨五枚。……これって結構な収入になった気がするの」
 
 ハヤの背に跨り、クランハウス(もう、この呼び方でいいよね? ウチの屋敷)へ帰る途上で、後ろに跨るカズミがそう言ってきた。
 
「あとは鉄鉱石と銅鉱石か。合わせて10kg位はあったよね」
「その辺りの価値は判んないし、アルダ達任せだね」
「まぁ……16人が生命の危険を冒して三日間働いた報酬だと考えればそんなもんなのかな」
「そっかー」
 
 まぁ、思った以上の収入になった事は確かだ。みんな喜んでくれるといいな。
 
 ■□■□■□■□
 
 クランハウス(ヒロヤは私達の屋敷をそう呼ぶ事にしたらしい)に帰ると、アルダ、エルダ、メルダが先に居たので、二階のオープンスペースで話をする。
 
「鉄が7kg、銅が2kg。それぞれ鉄を小金貨二枚と銀貨五枚、銅を小金貨一枚で買い取るわ」
「それで損しない? アルダ達のお店は」
 
 私はアルダに念を押した。
 
「大丈夫だよカズミ」
「うんうん。大体、7kgの鉄でロングソードが4本は打てるの」
「メルダ達のお店でロングソードは一本の値段が小金貨三枚なんだよ」
 
 なるほど。彼女達の労働を加味しても利益は充分出るわね。
 
「銅の方が高いの?」
 
 ヒロヤが訊く。
 
「銅は食器や調理道具で重宝するんだ。あとは加工しやすいから、武器や防具の装飾部分でアルダ達は使ったりするよ」
「へぇーーー」
 
「……となると……」
 
 今回のダンジョン探索の収入は……全部で金貨十二枚、小金貨六枚か。ここから探索で使った食材や消耗品(主に『矢』)の経費を差し引いて……
 
(昼までには査定しちゃおう)
 
 俄然やる気になった。
 
 ◆
 
 自室で査定を済ませて、屋敷内で寛いでるみんなを食堂に集めた。
 
「さて、今からお給金をお渡しします」
 
 私の言葉にみんなから拍手が起こる。そんなみんなを微笑ましげに見るハンナさんは、ウルフメイド達とお茶を配っている。
 
「先ずは──マルティナ、ギーゼ、カリナ義姉さん、ノリス、ロッタ」
 
 呼ばれたメンバーが席を立って私のところに歩いてくる。
 
「……マルティナはもちろん斥候として、他のみんなは……今回は勉強の為とは言いながら、よく頑張ってくれました。それぞれ金貨一枚のお給金です」
「「「「「!」」」」」
「カズミ姉ちゃん、あたしそんなに貰ってもいいの?」
「ロッタ……僕達だけだったら、とても一週間で金貨一枚なんて稼げないよ……」
「ノリス……凄いよね」
「カズミさん、本当にこんな金額頂いていいのですか? ──無理はしてないですよね?」
「お、お、お金の事は……ぎ、ギーゼに任せてるから……よ、よくわからないけど……わ、私達が評価されたって事なのですね。う、う、嬉しいです!」
「うふふ。お疲れ様」
 
 トレイに乗せた金貨五枚を、みんなそれぞれ一枚ずつ手に取って頭を下げた。
 
「次は、リズ、ドロシー。あなた達はリーダー、サブリーダーとしてよく努めてくれました。小金貨五枚がお給金です」
「まぁ、今回はこれと言ってなにもやってないんだけどね」
「ええ。それに、ここで生活してると……自分のお金ってあまり必要としないですし」
 
 リズとドロシーが立ち上がってこちらに来る。
 
「それでも、これは儀式みたいなものよ。ちゃんと受け取るの」
 
 トレイに乗せた小金貨十枚を、それぞれ五枚づつ受け取って頭を下げるリズとドロシー。
 
「お疲れ様♡」
「あぁ、これからも頑張ってリーダー務めさせてもらうよ」
「微力ながらリズさんの補佐、務めさせていただきます」
 
 ◆
 
「そして残りの人たちはそれぞれ小金貨三枚です。ほんとにお疲れ様でした」
 
 ヒロヤ、レナ、アルダ、メルダ、エルダ、アスカ、ゴージュが、トレイに積まれた小金貨の山から、それぞれ三枚取っていく。そして、私も三枚取った。
 
「まだ残ってるよ?」
 
 ヒロヤが首を傾げながら私を見る。
 
「ハンナさん、スーちゃん、ノーちゃん、ウーちゃん。あなた達の分よ?」
「「「「え?」」」」
 
 テーブルでお茶を飲んでいた四人が驚いている。
 
「わ、わたしは何もしていませんよ?」
「ノーちゃんもなの」
「ウーちゃんもです」
「スーちゃんは付いていきましたけど……」
 
 慌てる四人に私は頭を下げる。
 
「いつもお屋敷の事ありがとうございます。それに留守を預かるのも立派なお仕事ですし、スーちゃんも探索で運搬者ポーターのお仕事だけじゃなく、食事の支度等、色々頑張ってくれました」
 
 そう言ってスーちゃんに視線を移すと、照れ臭そうに頭を掻いている。嬉しそうに尻尾を振っているのが可愛い。
 
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「スーちゃんの頑張りはあなた達みんなの評価としましたよ。今回のお給金は、もちろんメイドさんとしてのお給金とは別のものです」
 
 私はハンナさん、スーちゃん、ノーちゃん、ウーちゃんに小金貨を三枚ずつ手渡した。
 
「あ、ありがとうございます。……スーちゃんもお疲れ様」
 
 ハンナさんは私に頭を下げ、スーちゃんの頭を撫でた。
 
「「ありがとう(なの!)(です!)」」
 
 ノーちゃんもウーちゃんもスーちゃんの頭を撫でた。
 
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 ◆
 
「あと、金貨一枚を『鍛冶屋フリーベリ』の装備メンテナンスの委託料としてお支払します」
 
 私はアルダに金貨一枚を差し出す。
 
「いや、こんなに貰えないよ!」
「普段だけならいざ知らず、冒険中にも武器や防具の面倒を見てもらっているのですから、これでも足りないぐらいだと思ってますよ。アルダ、エルダ、メルダ、ありがとうね」
 
 そう言って、アルダに金貨を握らせた。
 
「……収入少なかった時は無理しなくていいからね?」
 
 アルダは上目遣いにそう言って、金貨を受けとってくれた。
 
「皆さん、本当にお疲れ様でした。今回のダンジョン探索の総収入は金貨十二枚と小金貨六枚でした。残った金貨二枚は、この屋敷『クランハウス』の維持とクランの運営費、探索の食糧や消耗品などの支出に充てさせてもらいます。なので──」
 
 ここで、コホンと咳をひとつする。
 
「──みなさんクランメンバーは、この屋敷『クランハウス』の設備を自由にご利用くださいね。お風呂、三階の寝室、そしてハンナさんとウルフちゃんたちの作る自慢のお食事♡」
 
 ここで、ギーゼ、カリナ義姉さん、ノリス、ロッタが一番嬉しそうに手を叩いた。アスカも笑顔でうんうん頷いている。
 
「わたしもノリスも……ここに住み込んでも良いんですか?」
「ええ。二人の家族が村に呼べるようになるまで頑張ってね」
「ロッタはそのあいだに、れなが厳しく魔術の指導をしてあげるね」
 
 私とれなの言葉に、ロッタがポロポロと涙を流した。ノリスが慌ててハンカチを差し出している。
 
「わ、わ、わたしたちが……が、頑張って運営費を、か、稼げば……え、え、遠慮せずにハンナさんの、お、お食事が……ヒロヤとも、な、仲良く……」
 
 小さく呟いた言葉の最後の方が、少々不穏な感じがしないでもないが、グッと両手を握り締めてるカリナ義姉さんが可愛い。まぁ、そもそもカリナ義姉さんは『ヒロヤの姉(偽)』という立場を利用して入り浸ってるよね?
 
「あ、そうそう。二階は絶対ウロウロしちゃダメ。私達とヒロヤの邪魔すると……」
 
 私は喜ぶみんなに睨みをきかせた。
 
「そうそう。そんな事したらクラン脱退でもしてもらおうかね」
 
 リズがニヤリと笑うものの、その笑顔にそこはかとない恐怖を感じたのか……ルーキー組のみんなが軽く震え上がってた。
 
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