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185話「取り敢えずの帰還」

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 目を開けると、巨木の洞のとなりに転送されていた。
 
「あら、おかえりなさい。どこまで行けたの?」
 
 足元の発光した転移陣の輝きが薄れると、その向こう側にミリア校長が立っていた。
 
「ただいま戻りました。第三階層に入ったところに『避難部屋セーフティーゾーン』がありましたので、そこから転移魔導具で帰ってきました」
「うん。理想的な場所だわ。詳しい話を聞きたいからこっち来てもらえるかな?」
 
 ミリア校長がリズに微笑みかけて、俺達を木造兵舎横の石造りの建物に案内する。
 
 ◆
 
「なるほど。第一、第二は未踏破箇所も少し残ってるけどほぼ踏破できたのね」
 
 マルティナから手渡された地図を見るミリア校長。
 
「──規模はそこそこってところかしら。第二階層は大きいとはいえ、それでもウェルニア大迷宮に比べると半分ぐらいね」
「その分、階層数は多そうですけど……」
 
 その後、モンスターの遭遇状況や戦利品等を説明するリズ。
 
「ふむ。盗賊シーフ運搬者ポーターは必須。ランク的にはE冒険者でバランスの取れた六人パーティーは必要ってところね」
「第二階層までは。ですけどね」
「ギルドへの報告もあるのに、二度手間みたいになっちゃってごめんなさいね」
 
 そう言って、別テーブルに並べられた戦利品に目をやるミリア校長。
 
「魔石は……一番大きいので小金貨一枚ぐらいか。後は小銀貨一枚~銀貨二枚ぐらいの価値。この一番大きいのはフロアボス?」
「それは『双頭蛇』。第二階層のフロアボスでした」
「……まぁそのへんの冒険者の収支はギルドが考える事だしね。わたしは──この短剣が気になるわ」
 
 アルダ達三姉妹がオークを斃した部屋で出てきた戦利品の短剣二本を手に取って、リズに見せる。
 
「こんな意匠、見たこと無いのよね。かなり古い物だと思われるんだけど……」
 
 ミリア校長が、その実戦向きではなさそうな短剣をしげしげと眺める。
 
「よし。これ二本で金貨五枚出しちゃう。売ってくれない?」
「アタイだけじゃ決められないけど……みんなどう?」
 
 後ろの俺達を見渡すけど、みんな驚いて口を開けたままだ。だって見た目は変わってて意匠も美しいけど、古びた短剣二本に金貨五枚、前世の価値で50万円だもん。俺も驚いてる。
 
「武器や装飾品としてはそこまでの価値は無いと思うけど……」
 
 アルダが鍛冶師としての意見を述べた。
 
「確かにね。でも、このダンジョンの年代的なものを調べる上でね。学術的価値はそれぐらいあるのよ」
「ミリア様がそれでよければ」
 
 リズの言葉に、喜んでローブのポケットから金貨五枚を手渡すミリア校長。
 
「商談成立ね。まぁ出来たばかりのクランの運営資金にでも充ててちょうだいな」
 
 ◆
 
 俺達は急ピッチで建造されつつある『新ダンジョン駐留地』を後にして、ようやく村への帰路についた。
 
「他の戦利品がどれだけの価値になるかはわからないけど、短剣二本分だけで今回のお手当分配できそうだね」 
 
 ハヤに跨る俺の後ろでカズミが嬉しそうに言った。
 
「あれはイレギュラー的な収入だからね。低階層を何度も行き来しての収入はあまりアテにしない方がいいかもね。寧ろ『鍛錬』と考えた方が」
「だね。今後はギーゼ達で低階層に潜ってもらうつもりだけど、そっちの収入はアテにするなって事だね」
「まぁ、その分俺達が深い部分目指して潜るから、そっちの収入でみんなの給金を稼げると思うんだけど……」
 
 どんなモンスターが現れるか、その魔石の価値は、戦利品がどんなものが出るか。次第なんだけどね……
 
「今回のは全部で幾らになるかな。それをみんなにボーナスとして分配するつもりなんだけど」
「魔石はギルド、鉱石類はアルダに見てもらうとして……宝石の原石とか貴金属のアクセサリーとかはどうする? かなり古ぼけた物だったけど」
「あ、その辺はゼット商会に持ち込んでみる。冒険で手に入れた物は鑑定の上買い取ってもいい。ってサーシャさん言ってたから」
 
 今は交代部隊とともに商隊キャラバンを率いて城塞都市ムンドに向かってる筈。
 
「……帰ってきたら、ちゃんと『慰労』してあげないと──ね?」
 
 耳元で囁くカズミ。
 
「でも、今夜は……私達を『慰労』してね?」
「え? 『達』って?」
 
 ふふふ。と笑って、何も言わなくなったカズミは、俺の腰をいっそう強く抱き締めた。
 
 ◆
 
 陽が傾き出した頃、村に帰り着いた俺達は、先ずギルドに顔を出した。
 細かな報告は明日行うということで、魔石を買い取ってもらった。全部で小金貨七枚と銀貨五枚。まぁ結構斃したからね。ハイゴブリンやハイオークも多かったし。
 魔石の買い取りだけを済ませて、ようやく屋敷へと帰った。
 
 ハンナさんとノーちゃん、ウーちゃんがお出迎えしてくれて、早速料理に取り掛かってくれた。
 
 先ずは身体をきれいにしたいという事で、女性陣全員はお風呂に向かう。
 
「お食事の支度を!」
 
 と言うスーちゃんを無理やり連れて。……運搬者ポーターだけじゃなく、食事まで面倒見てくれたスーちゃん。今夜ぐらいはゆっくり休め。と。ほんと働き者だ。
 
 ◆
 
「ほんと、大きいお風呂でよかったよ」
「女性陣13人……ッスか。それだけの人数が一度に入れるんッスからねここ」
「男三人だけじゃ……広すぎますけどね」
 
 俺とゴージュ、ノリスで湯船に浸かって疲れを癒やす。
 
「ノリス、今回はほんとお疲れ様。ゴージュも色々とサポートありがとね」
「僕は凄く勉強になったので逆にありがたいですよ」
「師匠や姐さん達が控えてくれてたから安心して戦えたッス」
 
 次からは二隊に分かれて探索するけどね。
 
「次からはノリス達だけで行ってもらうけど……四人じゃキツイだろうし、ゴージュやアスカは俺達と第三階層以降の探索についてきて欲しいしな」
「その辺、またリズ姐さんに相談するッスよ」
「ですね」
 
 充分に疲れを取った俺達は、風呂を上がった。
 
 ◆
 
「鉱石類はアルダ達が精製して買い取るよ。……ちょっとお安くしてね?」
「後の宝石の原石とか古びたアクセサリー類は、明日私がゼット商会に見てもらってくる」
 
 食事の後、残りの戦利品の処理方法が決定した。
 
「それらの買い取りが決まったら、今回の探索のお手当として分配します」
 
 カズミの言葉に、みんな拍手をする。
 
「……あんまり期待しないでね。ミリア校長が短剣を買い取ってくれた額が多いから、それなりの金額にはなると思うけど」
 
 みんなの喜びように、カズミはちょっと申し訳なさそうにそう付け加えた。
 
「しばらくはあのダンジョンに通いたいんだけど……良いでしょうか?」
 
 ギーゼが手を挙げてリズにそう言った。確かに良い訓練にもなるしね。
 
「まぁ、あの新ダンジョンがギルドから発表されてからだね。多分、アタイ達の持ち帰った情報を精査して……二、三日後にはなると思うけど」
「分かりました。それまではギルドの依頼をこなします」
「いや、その間ぐらいゆっくりしても良いと思うよ?」
「あ、明日は……や、や、休ませてもらうけど……」
 
 カリナ姉さんがギーゼの隣でおずおずと話す。
 
「はい。一日休んで、ギルドの依頼を受けてきます。クランのメンバーとして世話になってる分、少しでも貢献したいと思います」
「わたしとノリスも一緒に行きたいです」
 
 ロッタが手を挙げてギーゼに訴えた。その隣でノリスも頷いている。
 
「……ほんと真面目だなアンタらは……」
 
 リズが呆れたようにルーキー組のみんなを見た。
 
「わかったよ。ダンジョンに潜るアンタ達の編成は明日考えようか。流石に四人だけじゃ……ね。運搬者ポーターも必要だし」
 
 真面目で働き者ばかりだ。……見習わなきゃね。
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