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180話「新ダンジョン探索・第二階層(その1)」

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 『あの』ギーゼに飛びつかれて抱きつかれて、流石に慌てた。
 
「ヒロヤ殿の……ヒロヤ殿のおかげです!」
 
 声が震えている。そうか。ハイゴブリンを一太刀で仕留めて感極まったのか。
 
「い、いや……ギーゼは元々剣速も速いし、動き自体のスピードもあるから……『居合術』との、あ、相性も良かったし、ギーゼ自身が稽古頑張ったから……」
 
 俺、なんでカリナ姉さんみたいな話し方になってんだ?
 
「ぎ、ギーゼは……と、とても良く頑張って……くれてます。わ、わ、わたしを護る為に……い、いつもいつも……か、感謝してますよ」
 
 カリナ姉さんがギーゼの頭を優しく撫でた。
 
 <i633744|38618>
 
 ◆
 
「取り乱してしまい……申し訳ありません……」
 
 カリナ姉さんに宥められて正気に戻ったギーゼが顔を真っ赤に染めて項垂れている。
 
「帰ったら次の段階に進もうね。ギーゼの腕ならすぐにマスターできるよ」
「! ……は、はいっ!」
 
 いや、ほんとうに強くなるよこのは。
 
「こっち! この先階段になってるよ!」
 
 マルティナがホールから先に伸びた回廊から走ってくる。
 
「お! ようやく第二階層だね」
「慌てる事はありませんよ。取り敢えずここで昼食をとってから降りませんか?」
 
 はやるリズをやんわりと抑えるドロシー。こういうところサブリーダーの役割を果たしてるね。
 
「じゃあ支度しますね!」
「アタシも手伝うよ」
 
 スーちゃんが昼食の準備に取り掛かり、アスカ、カズミ、ゴージュが手伝う。
 
 ◆
 
「マルティナちゃん、ここに箱があるよ!」
 
 向こうでは、アルダ達三姉妹が見つけた箱を、マルティナがアドバイスしつつノリスが鍵を開けようと頑張ってる。
 
「魔術をタイミングよく使うにはね──」
 
 こちらでは、レナがカリナ義姉さんとロッタに魔術行使のアドバイスしている。
 
「なんか……いいよね」
 
 そんな言葉がふと口をついて出る。
 
「あぁ。いいクランだよ」
「このみんなで深階層に潜るのが楽しみです」
 
 リズもドロシーも優しい眼差しでみんなを見ている。
 
「いつか……自分達も深階層についていけるんでしょうか?」
 
 リズの隣でギーゼが呟く。
 
「いけるさ……今みたいに頑張ってたらすぐだよ」
 
 リズに肩を叩かれて、ギーゼは照れ臭そうに軽く微笑んだ。
 
 ◆
 
 ハンナさんに教わって作ったという、スーちゃんお手製のベーコンを軽く熱してパンに挟んだ昼食は、大好評だった。
 ダンジョンでここまで美味い食事を楽しめるって、ほんとありがたい事だ。
 
 ◆
 
「さて、腹ごしらえも済んだし……そろそろ出発しようか」
 
 リズが立ち上がり、みんなもそれに倣う。
 
 俺達はマルティナとノリスを先頭に、第二階層へと続く階段を降りていった。
 
 ◆
 
 第二階層の景色は、第一階層とさほど変わらないものだった。
 
 ただ……
 
「ヒロヤ! コイツには絶対噛まれるんじゃないぞ!」
 
 回廊での遭遇戦、前に出た俺とアスカは、鎌首をもたげた大型の蛇二匹と対峙していた。矢の残存数を考えて、最前衛の俺達が倒す事にしたんだ。
 
「ポイズンスネークよ。かなり大型だけど気をつけてね!」
 
 マルティナが後ろから声を掛けてきた。
 
「……まぁ、小さいヤツに不意討ちされるよりはマシだよね……」
 
 今にも飛び掛かってきそうな二匹の蛇が、大きく顎を開いて威嚇している。
 
「飛び掛かってきたところを斬る。でいいかヒロヤ……」
「だね──来るよ!」
 
 二匹同時に、俺とアスカそれぞれを目掛けて跳びかかってきた。
 俺とアスカは半身を逸して躱(かわ)し、アスカは上段から斬り下ろし、俺は抜き撃ちに斬り上げて蛇を両断した。
 
「毒持ちが第二階層で出てきたか。解毒剤か『解毒アンチドーテ』の魔術必須だな」
 
 手早くメモをとるリズ。
 
「第一階層のものより少し大きいのかな?」
 
 魔石を手にしたカズミが聞く。
 
「……微妙ね。価値的にはあまり変わらないかも」
「そっか。やっぱりこの小さい魔石は数集めないと利益にならないね」
 
 レナの返事にカズミが残念そうに呟いた。
 
 ◆
 
 道中で遭遇するモンスターは、第一階層より大きくなった巨大蟻ジャイアントアントかポイズンスネーク。ホールではハイゴブリンとゴブリンの集団か、ハイオークとオークの集団。確かに第一階層よりモンスターのレベルが少し上がっていた。
 
 流石にレベルの上がったホールのモンスターをルーキーチームだけに任せるわけにもいかず、俺とアスカも討伐に参加した。
 
「アルダ達も戦える事を忘れて欲しくないな」
「だよね。次はエルダ達に任せて欲しいよ」
「メルダも役に立ちたい!」
「んじゃ、次はアンタ達に任せてみるか」
 
 リズがアルダの背中をポンと叩く。
 
「「「はい!」」」
 
 ◆
 
「エルダ! メルダ! ハイオークは任せたよ!」
 
 三姉妹はホールに飛び込み、エルダとメルダが盾を構えてハイオークに向かって突っ込んでいく。
 アルダは脇のオークをハンマーで吹き飛ばし、そのまま振り回して後ろから飛びかかってくるもう一匹のオークをもぶっ飛ばす。
 
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「うわぁ……あんな派手にぶん回すのか……」
 
 その力任せな戦い方を呆れたように見つめるギーゼ。
 
「あれが彼女たちの戦い方だよ。ドワーフである『自分の長所を活かした』戦いだ」
 
 ギーゼは俺の説明に深く頷いた。
 
 ハイオークが振り下ろす強烈な棍棒の一撃を、頭上に掲げた盾で懸命に受け止めるエルダ。
 
「もらいっ!」
 
 その隙を突いて、手斧でハイオークの脚を斬りつけるメルダ。
 
 <i629781|38618>
 
 ──グブォォォォォ!
 
 悲鳴を上げながら次は棍棒を横に薙ぐも、力強く盾で受け止めるエルダ。横から受け止めたにも拘わらず、その立ち位置がびくともしない。
 
 <i629782|38618>
 
「もういっちょ!」
 
 メルダの手斧が、ハイオークの脇腹に突き刺さる。
 
「これで終わりだよ!」
 
 飛び上がってハイオークの頭部にハンマーを振り下ろすアルダ。
 ハイオークは頭部をかち割られて、そのまま地に臥した。
 
「「「やったね!」」」
 
 そのパワフルな戦いとは裏腹に、可愛く拳を握りしめた三姉妹。お見事。
 
「……俺達とパーティー組んでからも不完全燃焼が続いてたからね彼女達は……」
「鬱憤晴らしにしては……ど派手に暴れましたね……」
「アルダはS級ダンジョンでヒロくんがはぐれた時、不完全燃焼どころか大変な目に遭ったんだけどね……」
 
 ギーゼと話していた俺を責めるように睨みつけるアルダ。
 
「あ、あの時は悪かったよ……」
 
 オークの群れに犯される寸前だったらしいもんな。ほんとごめん。
 
 ◆
 
「箱の中は短剣が二本出てきたよ」
 
 マルティナが三姉妹に戦利品を手渡す。
 
「ふむ……武器としては大したことないけど、派手な意匠がいいね」
「そこそこの価値はあると思う」
「ウチの店で売ってみるよ」
 
 短剣はアルダ達に預けて、俺達は先に進んだ。
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