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162話「アルダとお風呂とクランの運営」(視点・アルダ→ヒロヤ)

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「ん……んんっ……ヒロくん……♡」
 
 寝返りをうって、隣に居るだろうヒロくんにしがみつこうとしたら腕が空振り。ベッドの端で強かに打った衝撃で目が覚めた。
 
「夢……だったのかな……?」
 
 不安になって布団を捲る。
 
(よかった……ショーツ履いてない……)
 
 ……ってとんでもない事実でホッとする自分自身に赤面する。
 それに、まだソコにヒロくんのアレが挟まってるような感覚が……昨夜の出来事がリアルであった事を教えてくれる。
 
(じゃあどこに行っちゃったんだろう……)
 
 朝までは一緒に居られると思ってた分、少し不安になる。
 
(どこ行っちゃったのヒロくん……)
 
 布団から抜け出し、ベッドのへりに腰掛けた。──その時、扉が開いて上半身裸のヒロくんが入ってきた。
 
「あ……起きた? まだ夜明けまで結構あるよ」
「……隣に……居なかったから……すごく不安だったんだよ」
「あ、ごめん。いつもこれぐらいにトレーニングしてから二度寝するんだ」
 
 確かにこの寒いのにすごい汗だし……身体からは湯気が立ち昇っている。
 
(ヒロくんのあの強さは、ちゃんとした努力の結果なんだね……やっぱ格好いいよ♡)
 
 ぽーっとヒロくんを見つめてると、ヒロくんが照れたように頭を掻く。
 
「今から自分の部屋に、着替え取りに行くんだけど……お風呂行こうかなって……どう?」
「いく!」
 
 食い気味に返事して、急いで荷物から着替えとタオルを取り出した。
 
◆ 
 
「あの……さ」
「ん?」
 
 二人で身体を洗いっこした後、湯船に並んで浸かる。アルダは、とにかく昨夜の事を謝りたかった。
 
「気持ちが……ぼ、暴走しちゃって……ヒロくんをガッチリ抑えつけちゃって……無理矢理……膣内なかに……」
 
 チラッとヒロくんを覗き見ると、真っ赤な顔で俯いてる。……お風呂のせいじゃないよね?
 
「あれ……さ? 直前で、カズミが『避妊コントラセプティヴ』かけてくれたから……大丈夫」
「カズミが? ……って……」
「うん。アルダが心配だからって……『不可視インビジブル』で覗いてたみたい」
「!」
 
 ──ボンッ!
 
 音を立てるほどに顔が赤くなったのが、自分でもわかる。
 
「ほ……ほら、アルダも俺とマルティナとの……アレを……覗いてたし……」
「それは……そうだけど……」
 
(み、見られてたんだ……)
 
 頭に血が上り過ぎたせいか、一瞬意識が遠のきそうになる。
 
「アルダ!?」
 
 湯船の中に沈んでいきそうになったのを、ヒロくんが抱き起こしてくれた。
 アルダもヒロくんの首に手を回して身体を支える。
 ……すぐ目の前に、ヒロくんの顔。
 
 ──ちゅっ♡
 
 すぐそこにある唇が欲しくて、気が付いたら自分の唇を重ねてた。
 
 ──くちゅ♡ くちゅ♡ じゅるっ♡ ちゅぱっ♡
 
 キスがこんなに気持ちいいものだなんて、知らなかった。ヒロくんと舌を絡め合う事が、こんなにえっちだなんて知らなかった。
 
「……アルダ……ヒロくんのものに……なったんだよ……ね?」
「うん。アルダはもう俺のものだから」
「……あ、あのね?」
「?」
「ま、また……しようね?」
「うん。俺もまたアルダと……したい」
「……たまにでいいなんてもう言わない。これからも……ずっと愛してね♡」
「うん。アルダ……大好きだ」
 
 ようやく通じた想い。凄く満たされた気持ち。
 
(あぁ……この人のものになれたんだ……)
 
 アルダは、ヒロくんの胸に顔をうずめて……少しだけ泣いた。
 
 ■□■□■□■□
 
「昨夜はお楽しみでしたね♡」
 
 朝、食堂に降りると、カズミが定番のセリフで出迎えた。
 
「カズミ酷い! ……覗いてたなんて……」
 
 俺の後ろからアルダがカズミに食って掛かる。
 
「あれ? 私が居なかったら大変な事になってたと思うんだけど?」
「そうそう。まだヒロヤくんをパパにしちゃいけないんだよ? れなもびっくりしちゃったし」
「レナも?!」
「あたしは覗く権利あるんだもん!」
「ま、マルティナちゃんも?!」
「しっかし……風呂で見たときも思ったけど、ほんとドワーフの女ってえっろい身体してるよな……ヒロヤ、やばいくらい興奮したろ?」
「り、リズも?!」
 
 既にテーブルについていたレナ達も、アルダを見てニマニマ笑っている。
 ここは変に反応しちゃだめなんだ。絶対に揶揄われる流れなんだから。
 
(無だよ……無……)
 
 無表情を装ってテーブルにつく。これで全員揃ったので、ウルフメイド達がハンナさんの作った朝食をテーブルに並べてくれる。
 
「ヒロヤ様、スーちゃん達の群れなら九歳でパパでも問題ないですよ?」
「ノーちゃんも、強い子種……いつでも待ってるの!」
「ウーちゃんだって待ってるんだよ!」
「ぶっ!」
 
 ……無理だ。平静なんて装えなかった。彼女たちに苦笑いで応えて、俺はパンにかじりついた。
 
 ◆ 
 
「ドロシーちゃん達、いつ頃帰ってくるのかな……?」
 
 朝食を終え、テーブルに肘をついてマルティナがボソリと呟いた。
 
「ゴブリン十匹程度なら、昨日のうちに片付いてると思うぜ? 向こうで夜営して……昼には帰ってくるんじゃないか?」
「だよね。アスカも居るし、ギーゼもそこそこ強いんでしょ? ……メルダが『盾師タンク』初挑戦なのが不安だけど」
「帰ってきたら、カリナの魔術練度がどんなもんか聞いてみないとね。れなが教えるに値するかどうか」
 
 マルティナの呟きに、リズ、カズミ、レナが反応する。
 
「アルダ的には、クロスボウでも売りつけたいな」
 
 ……カズミの次ぐらいに商魂逞しいアルダさん素敵です。
 
「そういやさ……クランで受けた報奨金の分配ってどうするの?」
 
 俺は疑問に思ってた事をリズに聞いてみた。
 
「そういや考えてなかったな……」
「昨日、ロッタとノリス連れて行った採取依頼の時はどうしたの?」
「あ、あれは全部二人に渡したよ?」
「だめだよリズ!」
「ふぇ?」
 
 リズと俺のやり取りを聞いて、カズミが机を叩いて立ち上がる。
 
「クランはボランティアじゃないんだから! そりゃランクの低い子達に渡したい気持ちはあるだろうけど、そこはちゃんとケジメつけないと!」
 
 カズミがビシッとリズを指差す。
 
「うっ……なんかごめん……」
 
 リズが肩をすくめる。
 
「月給……いえ、それじゃつらいわね」
 
 腕を組んで考え込むカズミ。
 
「……よし! 週給にするか。私がみんなの一週間の働きを見て、それぞれの活躍に合わせた報酬を決めるから」
「大丈夫か? 結構大変そうだけどさ……」
「やるっ! ただ、私やレナ、リズ、マルティナ、ドロシー、ヒロヤには見合った報酬は払えないかもだよ? ここの生活費優先にするから。それに、やっぱり低いランクの子たちにまとまった報酬渡したいし」
 
 リズはこういった細かい事は苦手そうだし、カズミに任せておけば大丈夫だろう。
 
「という訳で、ダンジョン制覇も頑張らなきゃだけど、生活の為の冒険も頑張らなきゃね! みんなキリキリ働くんだよ!」
 
 鬼社長誕生の瞬間だった。
 
 ◆
 
「そういや『小鬼の森』のダンジョンって、冒険者的に旨味はないの?」
「ん? なんでだ?」
 
 俺の質問に、リズが疑問で返す。
 
「いや、ダンジョンっていったら『アイテムや金貨の入った宝箱』ってイメージあったからさ。そういうのを目当てにダンジョンに潜るんじゃないの?」
「いや、あそこにもあるはずだぜ?」
「ウンウン。『迷宮核ダンジョンコア』の基本仕様のひとつだからね。アイテムや金貨、珍しい鉱石やら宝石とか色々。そういうのが自然発生するのもダンジョンの基本仕様なんだよ。そういうのもダンジョン主が勝手に変更出来ない仕様のひとつだよ」
 
 リズの答えに、マルティナが補足説明してくれた。
 
「でも、前に潜った時は……」
「あの時は、攻略第一だったからな。そこまで時間掛けなかったんだよ」
「部屋のどこかに絶対発生してるんだよ。そういうのが入った宝箱みたいなのが。それを探したり開けたりするのもあたし達『盗賊シーフ』の仕事だからね」
 
 なるほど。
 
「ふむ。最深部のダンジョン主討伐目的じゃなくても……潜るのアリだね」
「まぁな」
 
 カズミが腕を組んで考える。ビジネスとして『ダンジョン探索』を捉えだしたな?
 
「よし。ギルドの依頼もこなしつつ、ヒロヤが中心となってダンジョンでの宝探しも進めようか」
「イエスマム!」
 
 立ち上がってカズミに敬礼した。お任せください。
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