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38話「これからどうする?」

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「……お、これかな?」

 先程マルティナを助けた現場まで戻って、淫魔の死体が四散した付近で『黒く輝く石』を見つけたので拾い上げた。
 リズ曰く「せっかく淫魔を討伐したのだから、その証明も拾っておかないと」との事。

 その足で最初に俺が淫魔を倒した場所へと赴く。

「あったあった」

 夜の闇の中でも、弱くではあるが輝きを放つ黒い石。なんでも『妖魔の体内にある魔瘴気の塊』なんだそうだ。子供の(つまりは俺の)握り拳大の石。俺は2つの石を拾って馬車へと戻る。

(いくらなんでも終わってる……よな……)

 カズミとレナが馬車から降りてきて、そこに俺達が居たら流石にバツが悪いだろうと、手分けして周辺の探索を行う事にした。ついでに妖魔の石を拾っていたのだ。



 馬車に帰る途中でリズに会う。

「お帰り。あった?」

 腰のポーチから2つの石を取り出してリズに手渡す。

「この大きさ、やっぱり高位淫魔だ。……よく倒せたもんだわ……」

 リズもポーチから2つの石を取り出して見せる。

「王都に行ったらギルドで換金できるし。アタイの冒険者ランクも上がっちゃうかもね」

 そう言って笑うものの、俺と目を合わそうとしないリズ。まぁ、俺もまともに見れないんだけどね。

「で、御者さんや商人さん見つかった?」
「……」

 俺の問いに無言で首を振るリズ。
 二人で並んで馬車に向かう。

「……やっぱ淫魔に殺られたかもね。アタイが奴らと戦う前には、既に姿が見えなかったし」
「そっか……」
「やつら、男には用が無いからね。食っちまってお終いだ」
「そっか……」

 沈黙……

「あ、あのさ……」

 リズが真剣な目で俺を見る。うん。ちゃんと目を見てる。俺も。

「ヒロヤにあんな事しちゃったから……その……ちょっと照れがあってな。……よそよそしくしてスマン」
「いや、俺もちょっと……ごめん」

 二人でお互いに頭を下げる。

「……身体……つかあんな場所、男に触られたのは、は、初めてでさ……あ、淫魔はノーカンな」
「うん」
「アタイ、アレスの事気になってんのに……ヒロヤにあんな事させたのが……は……恥ずかしくて……申し訳なくて……さ」

 真っ赤な顔で俯くリズ。

「……ごめん……」
「いや!ひ、ヒロヤは悪くねーんだ!……だからその……アタイこそすまん!」

 また頭を下げるリズ。

「うん。……俺もリズも、お互い『無かった事』には出来ないけど……」
「そうだな。でも、今までどおり仲良くしよう。『姉貴分』と『弟分』として」
「ああ。もちろんだよ。これからもよろしく」

 そう言って、ようやくお互いの顔を見合って笑った。



 馬車に戻ると、マルティナとレナが泣いてるカズミを必死に宥めてた。

「もう私、お嫁にいけない……」

 ……いや、俺んとこに嫁に来るんだろカズミ。
 俺とリズが戻ってきたのに気がついたカズミが、一段と泣く。

「ヒロヤに知られちゃったー!」

 ……いや、もうとっくに知ってますよカズミが自慰してるの。前に言ってたじゃん。
 レナも俺を見るやいなや、真っ赤な顔をして俯く。

「なんかごめん……」

 もう、俺の存在自体が罪である様な気がしてきた。



「とにかく気にすんなって。淫魔の仕業なんだから抗えないって。誰も責めたりしないし、気にもしてないから」

 これからどうするか?を相談する為に、焚き火を熾して囲んだ。
 リズが必死にカズミを宥めるのを横目で見ながら、レナに小声で聞いてみた。

「……女神様でも欲情したりすr……」

 最後まで言い終わらないうちに、レナが後頭部を叩く。

「……これは人間の身体なの。だから仕方ないの」
「……ごめんなさい。気になっちゃったから」

 そうこうしてるうちに、しゃくり上げながらもカズミがなんとか泣きやんだので、本題に入る……と思った時に、マルティナが手を挙げて口を開いた。

「ちょっと良いかな?大切な話なの」

 俺は知っているけど、カズミ、レナ、リズには伝えておかなきゃいけない大事な事。

「あたし……記憶が戻ったんだ。……その……あの屋敷であった事も……」
「「「!」」」
「大丈夫なの?」
「頭痛いとかない?」
「気分悪くないか?ちゃんとアタイ達の事わかるか?」

 三者三様の心配の仕方に、俺とマルティナは顔を見合わせて笑う。

「……屋敷での出来事以外の事は、夏休みの終わりぐらいから徐々に思い出してたの。……でも、みんなとの関係が終わっちゃう気がして……言えなかった」

 マルティナが俯く。そして、さっき起こった淫魔との出来事をぽつぽつと話し出した。



「あの野郎!ぶっ殺してやる!」
「落ち着いてリズ……もう俺が殺したから……」
「あ……ああ、そうだったな。それにしても卑劣な事しやがる!」
「……でも、全部思い出せて良かったって思うんだ……」

 マルティナが微笑みながら俺を見る。

「こんなあたしだけど……みんなと一緒に居て良いのかな?」
「何言ってるの!」

 カズミが立ち上がってマルティナに怒鳴った。

「私達がマルティナと一緒に居たいの!もうマルティナは私達の友達、仲間、いえ……家族なの!あなたが居ないなんて……私自身が考えられないのよ!」
「……でも……あたしは……あたしの身体は、ゴブリンに穢されて……汚れて……」
「汚れてなんかないよ」

 リズがマルティナに微笑みかける。

「ん、れなも汚れてるなんて思った事ない」

 レナがマルティナの膝に頭をのせる。

「俺もそんな風に思った事なんてないよ」
「ほら。みんなマルティナの事大好きなんだから!」

 カズミがドヤ顔でマルティナを見つめる。

「……みんなと手を繋いでもいいの?」
「もちろん!」
「……ヒロヤ兄ちゃんの事、今までみたいにギュッとしていいの?」
「あ……それはちょっと」
「いいよ」

 俺はためらうようなカズミの返事に被せるように答えた。

「ヒロヤ!……まぁ仕方ないか」

 一瞬、頬を膨らませたカズミだったが、笑って許可した。

「……わかった!これからもみんなの事ギュッてする!」

 涙を流してはいるものの、マルティナは最高の笑顔で答えてくれた。



「でだ……これからどうするか?なんだけど」

 リズが焚き火に薪を焚べる。

「四頭立ての馬車が二台。護衛が使ってた乗馬が四頭……」
「あたし馬車使えるよ」
「あ、アタイも」

 腕を組んだカズミにマルティナとリズが手を挙げる。

「じゃあ馬車で次の宿場町までは行けそうだね」

 カズミが両手でビシッと二人を指差す。

「まぁ宿場町まで行けば、馬車の中継所も有るだろうし。そこが御者を手配してくれれば、アタイ達はそのまま王都に向かえばいいし……だめなら……」
「お馬さんで行く?れな乗れるよ?」

 席を外していたレナが、馬を一頭連れてリズに提案する。

「この子たち賢いよ。馬車に並走してちゃんと付いてきてくれると思う」

 レナに鼻先を撫でられた馬が軽く嘶いた。そういや、護衛が交代で休憩する時もカラ馬で付いてきてたよな。

「あ、俺見たよ。人が乗ってなくてもちゃんと付いてきてくれてるの」
「でしょ~?」

 レナが得意げに胸を反らした。

「じゃあ取り敢えず、宿場町までは馬車で行くという事で」

 リズが結論を出した。

「……商人さん達の荷物も運んであげたいしね」

 カズミがボソリと呟いた。このままここに放置するのもなんか辛いよな確かに。

「よし!明日の為に寝るか!頑張って明日の夜までには着くよ!」
「「「おー!」」」

 リズが焚き火を消し、俺達は馬車に入って行った。

「あのさ……今日はマルティナの膝で寝ていいかな?」
「あー!れなもそれ考えてたのに!」

 馬車に戻ると、早速マルティナの奪い合いを始めるカズミとレナ。

「じゃあカズミ姉ちゃんはこっち。レナ姉ちゃんはこっち」

 マルティナが両太腿をポンポンと叩く。あ……俺も膝枕してもらいたかったな……。

「来るか?少年」

 リズが太腿をポンポンと叩く。

「……いや、たまには一人で寝ます」

 非常に魅力的なお誘いだけどね。少しシュンとしたリズに笑いかけてから俺は毛布を被った。
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