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27話「小鬼の森」(アレス視点)

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「アレス、ここら辺までは以前とそう変わり無ぇんだな?」

 今回の探索任務を任された臨時パーティーのリーダー『盾師タンク』のグイドが先頭を歩く。

「ああ。モンスターの種類もそう変わらねぇ。周囲はどんな様子だ?」

 俺はグイドの背中に向かって答え、その横を歩く男に状況を聞く。

「うん。『探知ディテクション』の範囲内にも、そう変わったモンスターの気配は無いみたいだよ」

 グイドの隣で周囲を警戒している『盗賊シーフ』のマーティーが答えた。

「お前らも結婚が決まった途端に、厄介な任務に巻き込まれちまったな」

 前を向いたまま、グイドが声を掛ける。もちろん相手は『戦士シファイター』アイザックと『魔術師マジシャン』ロアナだ。

「俺達がこれから世話になる村の為だ。志願してでもこの任務に就かせてもらったさ」

 そう言うアイザックの横でロアナも頷く。

「まぁ、心配要らねぇよ。領主様おやっさんからは『くれぐれも無理をするな』と念を押されてるからな」

 グイドが努めて明るく言うものの、この森に入ってからここまでずっと『警戒態勢』を続けているんだ。精神的疲労はかなり溜まってるはずだ。

「ここまでゴブリン7体にワイルドボア12匹。森の外周にしては多い方だとは思うが、まだ手に負えない程じゃないな」

 オレは誰に言うともなく呟いた。

「そうは言うけどさアレス、村の襲撃時にオーガーが居たってのがヤバイよね。1体2体ならなんとかなりそうだけど……ねぇグイド、それ以上の数と遭遇したらどうするの?」

 オレの呟きに反応し、『複合弓コンポジットボウ』の弦の張りを確認するリズが先頭のグイドに声を掛ける。

「もちろんその時は逃げる事を優先する。『無謀の先は落命しか無いのが冒険者稼業』が領主様おやっさんの口癖だ。無茶は絶対しねぇ。お前らも命最優先だからな」

 最年長のベテラン冒険者らしくグイドが答えた。



 今回のパーティーは『小鬼の森』のモンスター環境の調査。『ダンジョンバースト』を起こしたダンジョン周辺が最終目標の予定だ。
 ベテランであるリーダーのグイドとマーティーが冒険者ランクB、オレがC。リズ、アイザック、ロアナがD。ラツィア村に於ける(領主様や守護騎士ミュラー殿を除いた)現時点での最高戦力だろう。
 冒険者ランクEではゴブリン相手が関の山だろうし、F、Gクラスだと居ても足を引っ張るだけだ。そして、通称『駆け出しの村』と呼ばれるラツィア村の冒険者の殆どがそんな低ランクなのだ。

「こうなると、ヒロヤ坊にカズミやレナが居ると心強いんだがな」

 三人の強さをここの誰より知ってるオレだ。あの子達は間違いなくランクD、いや、ヒロヤ坊に至ってはヘタするとランクBに匹敵する腕前を持ってる。

「だよね……」

 リズが同意する。早く冒険者になって欲しいもんだぜ。



「さっきのアレスの話だが、そんなに凄いのか?その領主様おやっさんの坊っちゃんと守護騎士ミュラー殿のひとり娘に……治療院のルドルフさんところのお嬢ちゃんだったか」

 もう少しで森の中心部……ダンジョンを中心とした調査対象地域に差し掛かるというところで、軽い休憩をしている時に、グイドが話し掛けてきた。

「あぁ。アンタみたいな他所の……いや失礼、アンタとマーティーは領主様に是非にと王都から呼ばれたんだっけな」
「気にしなくていい。ひと仕事完了して、村に貢献するまでは他所者だからな」

 そう言って笑うグイド。そして話を急かすように続ける。

「で、どうなんだ?」
「多分、他所の冒険者たちに言っても鼻で笑われるだろうけどよ……この村の冒険者達はみんなその凄さを知ってるぜ。特にヒロヤ坊だ。まだ7歳にもなってねぇ子供だぜ?そいつが木剣の立ち合いで、俺から三本中一本取っちまうんだからな」
「よく言うよ。稽古最終日には二本取られたじゃねえか」

 リズがからかう。

「う、うるせぇ!……まぁとにかくだ。あれは天才、神童、いやバケモンかもしれねぇ。可愛い顔してるがな」

 まぁバケモンは冗談だ。あんな良い子達は他には居ないからな。

「それほどか。そいつは先々楽しみだな。オレもうかうかしておられん」

 ベテラン冒険者は顎に手を当てニヤリと笑った。
 


「前方に警戒。巨躯のモンスターが二体」

 木の上で周辺警戒していたマーティーが警告を発した。

「オーガーか……」

 グイドが大型盾を構えて立ち上がる。オレも腰の剣を抜き放ち、左手に盾を構える。

「アレスとアイザックは左右に散って身を潜めろ。マーティーはそのまま。敵に隙があったらそこから襲いかかれ。リズとロアナは後ろに下がって距離を取れ。攻撃と魔術はその都度自己判断で」

 それぞれグイドの指示に従う。

「オレが一体を引き受ける。その間にもう一体を集中攻撃だ。なる早で頼むぞ。オレもトシだからそうそう保たん」

 そう言って笑うグイド。



 やがて、木々の向こうからオーガーがその巨体を現す。二体。

「よっしゃぁ!」

 グイドの身体が覇気に包まれる。と同時に、左側のオーガーに突進した。
 その動きを合図に、オレはもう一体のオーガーに突っ込んでいく。視界の隅に同じ様に飛びかかるアイザックの姿が。タイミングはバッチリだ。

氷の束縛アイスバインド!」

 ロアナの声と共に、目前のオーガーの足が凍りだす。途端に動きの鈍るオーガー。

「右!」

 アイザックがそう叫んでロングソードを振りかぶった。
 アイザックの意図を察して、オレもオーガーの右足に狙いを定めてロングソードを叩きつけた。二本のロングソードを受け、オーガーの膝が鮮血を放つ。

「グァァァァァァッ!」
「アレス!任せた!」

 崩れ落ちようとしているオーガーのもう片方の足を狙うアイザック。
 任されたオレは、今や上段で届きそうなオーガーの頭部に一撃を叩き込む。ほぼ同時に左足と頭部を粉砕されるオーガー。
 どうっ!と倒れた巨体に即とどめを刺す。

(グイドは?)

 ふと目をやると、オーガーの巨躯から繰り出される巨大な棍棒の連撃をものともせず、巨大な盾で受け続けるグイドの姿が目に入る。

(やるなオッサン、やっぱ『盾師タンク』は頼りになるわ)

 そんなグイドを援護するリズの弓。同時に二本の矢をつがえるリズ。放たれた二本の矢は、一本は額、もう一本は右眼を貫く。

 激痛に唸りを上げるオーガー。
 凄まじい勢いで振り下ろされる棍棒を、頭上に掲げた盾で受け止めるグイド。あまりのパワーに、さしものグイドも片膝をつき、衝撃からか周囲に土埃が上がる。
 この隙を見逃さない。オレは、棍棒を大上段から振り下ろしたオーガーの脇腹めがけて身体ごとロングソードを突き立てる。
 その勢いで、オーガーが側方にもんどり打って倒れた。

「喰らえ!」

 アイザックの振りおろしたロングソードが、オーガーの頸部を捉え、その頭部を胴から斬りはなした。



「グイド、怪我はないか?」

 オレとアイザックはグイドの元に駆け寄った。

「あぁ、大丈夫だ。まぁ、盾がこの通りボロボロに……」

 立ち上がったグイドが突然、目の前から視界外に消える。

「あれは……トロールだ!逃げろ!投石してくるぞ!」

 木の上からマーティーが叫ぶ。
 横っ腹に自分の頭部大の投石を喰らい、ふっ飛ばされたグイドをアイザックが抱き起こす。

「グイドは大丈夫だ……早く逃げるぞ!」

 アイザックの指示で全員で走り出す。マーティーは木々を飛び移り移動する。
 踵を返して逃走するリズに投石が襲いかかる。

「リズッ!」

 オレは盾を構えてリズに駆け寄る。

(間に合え!)

 その身体に飛び掛り、藪の中に押し倒した。飛びついた時に、足に強い衝撃が走ったが気のせいだ。

「リズ、無事か?」
「アタイは……大丈夫だよ」
「マーティーが一番早い!他に目もくれず走れ!村に報告しろ!」

 藪の中からオレは指示をだす。

「お前も逃げろリズ」
「アンタもだろ!」
「負傷したグイドを連れて逃げるには殿しんがりが必要だ。オレが足止めする」

 藪から覗き込むと、緑色をしたオーガー並の巨躯が姿を現す。両手に巨大な石を手にして。

「早くいけ!」

 リズを突き飛ばす。そのリズ越しに、グイドを背負って走るアイザックと、その横を走るロアナが遠目に見えた。

「やだよ……」

 リズの瞳が潤む。

「良いから早く!少し粘ったらオレも逃げるから!幸いな事に、トロールはそう動きの早いモンスターじゃない」

 オレは胸当てからペンダントを取り出す。カズミが作ってくれたやつだ。

「オレはお前の『盾』なんだよ」
「っ!」
「わかったら早くいけ」

 リズは小さく頷くと、アイザック達を追って駆け出した。

「アレス!死んだらヤダよ!」

 振り返って怒鳴るリズ。

「死なねぇよ……」

 オレは小さく呟くが、この場を切り抜けるのは少々骨が折れそうだ。そもそも、さっきリズを庇ったときに投石の直撃を受けた左足の骨は折れてないだろうか……
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