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4話「レナ・ローゼン」

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 俺は慌ててカズミから離れる。

 カズミは目を開けて振り返る。

「前世の記憶が戻って早速イチャつくなんて!まぁいいんだけど!」

 石碑の影から覗き込む白いワンピースに銀髪ロングの少女。

 透き通るような白い肌。蒼い瞳に少しキツめにも見える長い睫毛の目元。間違いなく美少女だ。

 以前の俺には見慣れない瞳の色に、つい吸い込まれそうな感覚に陥る。いや、俺やカズミ、そしてお互いの家族みたいな黒い瞳の方がこっちでは珍しいと思うけど。

「え?誰?」

 俺は少女の姿を見て、カズミに視線を戻し、

「知ってる?」

 ブンブン首を振るカズミ。




「ちょっと!同じクラスのレナ!レナ・ローゼンよ!」

 レナと名乗る少女は、俺とカズミの間にお尻を割り込ませて座った。

「まぁ今日入学式で初めて会ったし、あなた達自己紹介の時寝てたしね」

 そう言って俺とカズミの腕を両手で抱え込む。あの……『そこそこふくよかな』お胸に当たってます。

「そして、同級生のレナ・ローゼンとは仮の姿……」

 俺とカズミを交互に見て笑う。

「本当はこの世界の女神、レナ様なのですよ!」

「「えーーーーー!」」

 ここにきて神様登場ですか。




「元の世界ではほんとごめんね。トラックに轢かれそうになって、ついつい魔術でトラックの進路変えちゃったのよ……」

 女神様を名乗るレナの話によると、俺達の世界に遊びに来ていた時に事故に遭いそうになり、その巻き添えで俺達が死んだらしい。

(あーやっぱあの時に死んだのか……)


「あぁ、あの時の女性か……いや、事故は仕方ない事なんですが……遊びに来てたって、この世界の管理とか大丈夫だったんですか?」

 この女神様、軽すぎる。

「一応、仕事の合間に……ね?つい十数年前に魔王的なものが退治されたから、次にそういう厄災的な事が起こるまであと100年はヒマ……かな?」

「ヒマ……なんですか」

 カズミが呆れたように言う。

「あの世界のカルチャーが好きで、以前からちょこちょこお邪魔してたのよ。アニメとかマンガとかゲームとか」

 オタク女神様ですかそうですか。

「でね?いくらなんでもれなのせいで死なせちゃったのが申し訳なくて……この世界に転生してもらったわけ。あなた達もこの世界に生まれて6年経つから、そろそろ前世の記憶が戻るかな?ってれなも同級生として潜り込んだのよ」

「なんでまた」

「そりゃあ……『幼なじみの男女が育む愛をそばで見守る』為よ!」

 あぁ、あの世界の恋愛マンガ大好き女神様でしたか。

「まぁ、本体はそれなりに仕事してるわよ?この身体は、れなの力の一部を地上に具現化したものだから。アバターってやつ?」

「いや、ちょっと違うと思いますが」

「取り敢えず向こう100年はヒマな筈だし、あなた達が死ぬまでそばで楽しませてもらうわ」

「「いや仕事してください!」」

 思わずカズミとハモったわ。




「この世界は元の世界の並行世界だと思ってくれれば。知ってる人に似た人も他に居るかも知れないわ」

 女神様の説明は続く。

「それで俺達は元の世界の家族と一緒に……」

 納得。

「ちゃんとれなが段取りしたのよ?こっちの世界でも前世と同じ家族の元に転生できるようにとか、あなた達二人が同じ村で生活できるようにもね」

 女神様がドヤ顔で言う。

「あ、ところで女神様」

 カズミが女神様の腕を引っ張る。

「レナで良いわよ。それに同級生なんだからもっと気安くして欲しいわね」

「じゃあ気安いついでに……なんかチート能力とか貰えない?」

「カズミ……」

 つい呆れた声を出してしまう俺。

「チートって……あなたラノベの読み過ぎよ」

 女神様改めレナも呆れてる様子。

「だって……知らない世界に放り込まれて……か弱い女の子がどれだけ不安だと思う?」

 あー自分で『か弱い』とか言っちゃったよカズミ。

「さっきも言った様に、この身体はあくまでもれなの極々一部なのよ。あなた達にチートを付与出来るほどの力は無いのよね」

「そっかー残念……」

 あからさまに残念そうな顔をするなカズミ。

「恋人が居るでしょ?れなの見たところ、彼はこの歳で将来剣豪になれる器の持ち主よ」

「そうなの?」

 カズミは俺をマジマジと見る。

「時代が時代なら、元の世界でも凄腕の剣士として活躍できた筈よ。まぁ平和そのものだったけどねあの世界って」

 掴んだ俺の腕をパンパンと叩くレナ。

「ヒロヤってそんな強かったんだ……てか恋人って!」

 急に顔を赤らめるカズミ。

「だってあの事故の時、あなたを庇うように倒れてたわよ彼。残念ながら二人ともダメだったけど。……恋人じゃないの?」

 レナは俺とカズミを見比べながら言った。

「そうなれればいいなぁとは思ってる……」

 ボソリと言った俺の言葉に、ますます顔を赤らめるカズミ。

「だよねやっぱり!さっきだってキスするところだったんでしょ?このマセガキ共が!」

 レナは笑いながら言った。いやあなたも今はそのガキんちょなんですが。

「まぁチートはあげれないけど、カズミは魔術の素質あるわよ。大丈夫、頑張れば良い魔術師になれるわよきっと」

「ほんとに?」

「ええ。なんなら同級生として色々教えてあげちゃう」

「やったー!」

 カズミが両手を上げて喜ぶ。

「あくまでも『同級生として』よ?いきなり上位魔術とか無理だからね?」

 そりゃそうだろうね。この年齢に見合った『魔力』ってのがあるだろうし、俺が『剣豪の器』と言われても、今は年相応の体力だろうし。

「ま、ゆっくり『異世界での第二の人生』を楽しむといいわ。そしてれなも楽しむつもりだし。二人ともよろしくね!」

 そう言って俺とカズミの頬に交互にキスをするレナ。

「「!」」

「そんなに驚かないでよ。チートはあげられないけど少しばかりステータス上げといたわ。『女神の祝福』だと思って」

 そう言って微笑むレナ。




「で……この世界でどう生きるの?取り敢えずヒロヤは将来領主様で、カズミは領主夫人?」

 レナがいきなり将来設計を聞いてくる。

「いや、こっちの世界の俺には兄が居て、多分領主を継ぐのはそっち。俺達は冒険者にでもなってこの世界を旅しようかって話をしてた」

「夫婦で冒険者稼業も良いね!れなもまぜて欲しいけど……やっぱりお邪魔かなぁ……」

「夫婦ってのは前提なんだ……」

「一緒に冒険者しよ!レナも居ると頼りになりそうだし、なによりこの世界の事誰より知ってる筈だし心強いよ」

 カズミがレナの腕を掴んでブンブン振る。

「うん。俺も女神様が一緒とか心強い。将来一緒にパーティー組もう?」

 カズミに同意した俺を見るレナの色白の顔が少し赤らんだ。

「し、仕方ないなぁ!そこまで頼られちゃ……ご一緒させてもらうしかないじゃない」

 そして照れたように笑った。




 それから三人で長閑な村を見下ろしながら、学校生活の事とかを色々と話してた。

「で、レナはこの村で普通の子供として生活してるんだろ?家族とかは?」

 俺は気になってた事を聞いた。やっぱり普通の村の夫婦の元に産まれてきたって感じなのか、それっぽい夫婦や家族を記憶操作して居着いてるのか。

「パパとママと三人で暮らしてるよ。あなた達の前世の記憶が戻った時にそばに居たかったから、もう3年ほど前からね」

 素敵な笑顔で答えるレナ。

「それって……人間の両親なの?里親的な……」

「違うよ!本当のパパとママだよ!」

 カズミの質問に食い気味に答える。

「れなが小さい時、二人ともいつも忙しかったから……あんまり家族で過ごした事なかったの……だからここで家族三人で暮らせてるのがとても嬉しい」

「それって……この村に神様家族が住んでるって事?」

 思わず俺の声も震える事実。

「うん!この村で治療師やってるの。遊びに来る?」

「……どうするカズミ?」

「会ってみたい……気もする……」

 夕暮れまでまだまだ時間ありそうだし。

「じゃあ行こうよ!」

 レナは立ち上がって俺とカズミの手を引っ張る。

 俺達三人は手を繋いだまま、走って丘を下っていった。


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