俺と可愛い死神

ヴルペル

文字の大きさ
上 下
30 / 53
俺から見た世界

二十三日目

しおりを挟む


今日はいつもより体が重い。昨日会社を何社か予め目印をつけておいて、今日面接を受ける予定だ。
三社くらい受けようとは思っているが精神的に持つか分からない。
俺は重い体を布団から起きあげようと腕に力を込めて体を持ち上げた。
何とか布団から出たが、まだ体が重い。
フラフラになりながら洗面台に立ち、顔を洗って髪型を整える。

(なかなか体のだるさが取れないな?)

パジャマを脱ぎ、スーツに着替えようとした時だった。
違和感は服を脱いだ時、確信に変わった。

「ぎゃっ!」

何かが落ちたような鈍い音が聞こえた。
体の重みがスっと取れたと同時に床に死神が転がっている。

「……何してんの?」

「………」

「おーい」

「……」

なかなかこっちを向きたがらない死神を大きく揺さぶるが、返事がない……
なにか怒らせたっけ?
不安になり頭を撫でてみたりしっぽで遊んでみたりほっぺをつまんでみたりお腹をくすぐってみた。

が、やっぱり反応がない。
深く溜息をつき、しゃがみこんで死神の耳元で囁いた。

「ずっとそうやってるとソフトクリーム屋に連れて行ってあげないからな」

がばっ!!

勢いよく上半身を起こして死神がすごい気迫で足を掴んだ。

「わかった!  わかったから支度をさせてくれ!  遅刻する!!」

無理やり足から死神を引き剥がしてスーツに着替える。

家から出てマップで会社までの道のりを表示させながら向かう。

「えーーっと?  まずは△△会社からだな」

趣のある外観でつい帰りたくなるほど圧を感じる。まるでラスボス前の長い階段に向かって歩いていく道のように感じる。

「すみませんお電話させていただいたものですが……面接を受けに来ました」

「かしこまりました。上の者にお繋ぎ致しますのであちらのお席でお待ちください」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お待たせ致しました。では面接を始めたいと思います。まずは三十秒ほどで自己アピールからお願いします」

「はい。私の長所は忍耐力と真面目なところです。常にどのようなことをすれば相手の方に伝わりやすくなるかを考えており、前の職場では書類をまとめ、わかりやすくプレゼンをする他、事前準備も怠らず丁寧に物事を進めることを致しました。また、短所は人に流されやすいところです。ですが、その分人の話をきちんと聞き、人それぞれの意見をまとめることが出来るのは利点だと思います」

「うん。ありがとう。いくつか質問してもいいかな?」

「はい!」

「前の会社はなんで辞めたの?」

「前の会社はですね……えっと……会社の方針が私には合わないと感じたからです」

「他には?」

「えっと……他は……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おわったー!  何もかも終わったー!
答えられなかったー!  面接官の人めっちゃ顔怖かったー!
むり!  耐えられない!

表面上は笑顔を貼り付けているが絶対にあれはダメだったよな……
よし!気を取り直してもう一社!

「前の会社はなんで辞めたのですか?」

「前の会社は……」

「前の……」

!全・滅!

なんでこれで受かると思ったんだ俺!
ろくに練習していなかったつけが回ってきた。どこの面接官からも同じような質問をされ、毎回答えられないか、いい苦しい言い訳を続けていたので多分もう気づかれているだろう。

「お疲れ様ー!」

頭の上から死神に話しかけられる。面接を受けている間は集中が切れたら困るのでどこか遊べるところで時間を潰してもらっていた。

「ありがとう。お疲れ様……」

「どうしたの?  浮かない顔して」

「いや……それがな?」

俺は面接を受けた時の様子を事細かに死神に説明した。

「あちゃーそれはやっちゃってるねー」

「だよなー……これで受かってたらもう奇跡だよ」

「じゃあ今日は面接に勝つためにカツカレー行っちゃう??」

「いいねぇ!  賛成!」

「その前に……」

朝言ったこと忘れてないよね?  と言われ、焦った。
なんか言ってたっけ……とりあえず誤魔化すためににっと笑う。

「もっもももっちろん!  あれだよな!  覚えてるぞ!」

ボソッ
「ソフトクリーム……」

「あ!  あー!!  ソフトクリーム!  ソフトクリームだったよな!  よし!  買いに行こー!  抹茶が美味しいところがあるんだよ!」

苦し紛れに言い逃れをするが無意識で口数が多くなる。
目が挙動不審に動き回るから絶対死神に気づかれていた。
ジトっとした視線を浴びせかけられながらソフトクリームを買って家に帰る。

ソフトクリームを買ってあげたからかさっきまでの機嫌を治してくれたのは良かった。
溶ける前に食べきって、カレーの準備を始めた。

野菜を角切りにしてゴロゴロじゃがいものカレーを作る。ルーが残り少なかったけど足りる量でよかった。

「全然材料確認してなかったからなぁ。スーパーにも寄ってなかったし……他にいるもんは……?」

カツがなかった。

カツカレー。気合を入れるためにわざわざカツカレーを指定したのに主役がいないとは何事か!?

「俺はカツを買ってくるからすぐ戻ってくるから!カレー焦げないように回しとけよ!!」

「言われなくても!」

死神が横で今か今かとカレーの歓声をまちかまえてくれたおかげでスムーズなバトンタッチが出来た。

俺はスーパーに向かって走った。
カツを買うために。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...