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俺から見た世界
二十三日目
しおりを挟む今日はいつもより体が重い。昨日会社を何社か予め目印をつけておいて、今日面接を受ける予定だ。
三社くらい受けようとは思っているが精神的に持つか分からない。
俺は重い体を布団から起きあげようと腕に力を込めて体を持ち上げた。
何とか布団から出たが、まだ体が重い。
フラフラになりながら洗面台に立ち、顔を洗って髪型を整える。
(なかなか体のだるさが取れないな?)
パジャマを脱ぎ、スーツに着替えようとした時だった。
違和感は服を脱いだ時、確信に変わった。
「ぎゃっ!」
何かが落ちたような鈍い音が聞こえた。
体の重みがスっと取れたと同時に床に死神が転がっている。
「……何してんの?」
「………」
「おーい」
「……」
なかなかこっちを向きたがらない死神を大きく揺さぶるが、返事がない……
なにか怒らせたっけ?
不安になり頭を撫でてみたりしっぽで遊んでみたりほっぺをつまんでみたりお腹をくすぐってみた。
が、やっぱり反応がない。
深く溜息をつき、しゃがみこんで死神の耳元で囁いた。
「ずっとそうやってるとソフトクリーム屋に連れて行ってあげないからな」
がばっ!!
勢いよく上半身を起こして死神がすごい気迫で足を掴んだ。
「わかった! わかったから支度をさせてくれ! 遅刻する!!」
無理やり足から死神を引き剥がしてスーツに着替える。
家から出てマップで会社までの道のりを表示させながら向かう。
「えーーっと? まずは△△会社からだな」
趣のある外観でつい帰りたくなるほど圧を感じる。まるでラスボス前の長い階段に向かって歩いていく道のように感じる。
「すみませんお電話させていただいたものですが……面接を受けに来ました」
「かしこまりました。上の者にお繋ぎ致しますのであちらのお席でお待ちください」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お待たせ致しました。では面接を始めたいと思います。まずは三十秒ほどで自己アピールからお願いします」
「はい。私の長所は忍耐力と真面目なところです。常にどのようなことをすれば相手の方に伝わりやすくなるかを考えており、前の職場では書類をまとめ、わかりやすくプレゼンをする他、事前準備も怠らず丁寧に物事を進めることを致しました。また、短所は人に流されやすいところです。ですが、その分人の話をきちんと聞き、人それぞれの意見をまとめることが出来るのは利点だと思います」
「うん。ありがとう。いくつか質問してもいいかな?」
「はい!」
「前の会社はなんで辞めたの?」
「前の会社はですね……えっと……会社の方針が私には合わないと感じたからです」
「他には?」
「えっと……他は……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おわったー! 何もかも終わったー!
答えられなかったー! 面接官の人めっちゃ顔怖かったー!
むり! 耐えられない!
表面上は笑顔を貼り付けているが絶対にあれはダメだったよな……
よし!気を取り直してもう一社!
「前の会社はなんで辞めたのですか?」
「前の会社は……」
「前の……」
!全・滅!
なんでこれで受かると思ったんだ俺!
ろくに練習していなかったつけが回ってきた。どこの面接官からも同じような質問をされ、毎回答えられないか、いい苦しい言い訳を続けていたので多分もう気づかれているだろう。
「お疲れ様ー!」
頭の上から死神に話しかけられる。面接を受けている間は集中が切れたら困るのでどこか遊べるところで時間を潰してもらっていた。
「ありがとう。お疲れ様……」
「どうしたの? 浮かない顔して」
「いや……それがな?」
俺は面接を受けた時の様子を事細かに死神に説明した。
「あちゃーそれはやっちゃってるねー」
「だよなー……これで受かってたらもう奇跡だよ」
「じゃあ今日は面接に勝つためにカツカレー行っちゃう??」
「いいねぇ! 賛成!」
「その前に……」
朝言ったこと忘れてないよね? と言われ、焦った。
なんか言ってたっけ……とりあえず誤魔化すためににっと笑う。
「もっもももっちろん! あれだよな! 覚えてるぞ!」
ボソッ
「ソフトクリーム……」
「あ! あー!! ソフトクリーム! ソフトクリームだったよな! よし! 買いに行こー! 抹茶が美味しいところがあるんだよ!」
苦し紛れに言い逃れをするが無意識で口数が多くなる。
目が挙動不審に動き回るから絶対死神に気づかれていた。
ジトっとした視線を浴びせかけられながらソフトクリームを買って家に帰る。
ソフトクリームを買ってあげたからかさっきまでの機嫌を治してくれたのは良かった。
溶ける前に食べきって、カレーの準備を始めた。
野菜を角切りにしてゴロゴロじゃがいものカレーを作る。ルーが残り少なかったけど足りる量でよかった。
「全然材料確認してなかったからなぁ。スーパーにも寄ってなかったし……他にいるもんは……?」
カツがなかった。
カツカレー。気合を入れるためにわざわざカツカレーを指定したのに主役がいないとは何事か!?
「俺はカツを買ってくるからすぐ戻ってくるから!カレー焦げないように回しとけよ!!」
「言われなくても!」
死神が横で今か今かとカレーの歓声をまちかまえてくれたおかげでスムーズなバトンタッチが出来た。
俺はスーパーに向かって走った。
カツを買うために。
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