愛しの君へ

秋霧ゆう

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第1章

第27話 病院

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 蒼は救急車で緊急病院に運ばれ、すぐに手術に入った。

「翠兄ちゃん!!」

 手術室の前で、蒼の無事を祈る蒼の家族の元に旭と暁が着いた。

「何があったの?」


 時は遡ること5時間前。
 旭の元に1本の電話が入った。

「あれ?店長、どしたの?」
「あお君がね、1時間くらい前にちょっと外に行くって行ったっきり帰って来ないんだよ。旭君何か知ってる?」
「いえ、何も…」
「荷物も置きっぱだし、帰ってこないってなると何かあったんじゃないかと思ってね」
「お、俺、店に行きますよ。そんで、その店までの間で蒼を見つけて連れていきます」
「そう?わかった。待ってるね」
「蒼、何やってるんだよ」
「旭、なんとなく、なんとなくなんだけど、早く見つけた方がいい気がする」
「それってまさか」
「うん、嫌な予感がする」

 旭はトイレに居たが、すぐに居残り中の教室に戻り荷物を持って帰ろうとする。
 
「九条、もう終わったのか?」
「いや、違うだろ。知っている、お前はまだ3ページしか進んでいないことを!!!」

 矢島に止められ、他の居残り連中や金城先生に見つめられる。

「すみません。本当にお腹痛くて、痛くて痛くて死にそうでこれから病院に行ってきます!!」

 廊下に飛び出る旭だが、鞄を引っ張り止める矢島。

「逃がさねぇぞ、九条」
「矢島手ぇ離せ!!!」

 矢島は旭の声の迫力に手を離す。

「何かあったのか?」
「何も」

 金城先生に聞かれるも何があったのかは伝えず旭は教室を飛び出した。

「まずはバイト先に行こう!」
「ああ」

 学校から旭のバイト先までは正規の道から向かうと人が結構居る。
 困っている人がいればすぐに助けに入る旭は商店街の皆から人気があり、皆から名前を呼ばれるも全員無視してバイト先へ向かった。

「店長!!」
「どうだった?あお君居た?」

 ヨボヨボの店長。心配をかけたら心労で死ぬんじゃないかと不安になる旭。
 全力疾走して汗だくな状態で、旭は嘘をついた。

「あー、居ました居ました」
「ほんと?良かった」
「でも、ここには戻って来れないみたいで、俺は荷物を受け取りに来ました!」
「そうだ、お茶飲む?」
「いえ、今日は大丈夫っす!」

 笑顔で店長と話すも内心は心臓バクバクですぐにも移動したい旭。

「はい、じゃあこれあお君の荷物」
「ありがとうございます」
「じゃあ、また明日」
「はい!あ、店長」
「なんだい?」
「あいつの名前、あおじゃなくてそうっすよ」
「え!?そうだったんだ。謝らないと」
「多分あいつなら笑って許してくれますよ」
「そうだと良いな」
「じゃあまた明日からよろしくお願いします!!」

 旭は店を出た。

「クソっ。蒼はどこ行ったんだよ!」
「旭、裏道は?」
「あんな人通りの少ないところか?」
「あいつ旭と違って結構強いからあの道通っても平気そうじゃないか?」
「暁、今バカにしたか?」
「…。そんなことより、早く行くぞ!」
「あーもー、分かったよ」

 裏道を進み一本道を走っていくと、高架下に辿り着いた。丁度電車が走っていて、不気味な雰囲気があった。
 ガシャン。目の前に知らない他校の男子高校生が吹っ飛んできた。

「誰が関東一だと?ざけんな。俺はな不良辞めたんだよ!!」

 と聞きなれた声が聞こえてくる。

「翠兄ちゃん!?」
「おー、旭」
「何してんの?」
「あ?こいつのこと知らねえのに俺を崇めてくるから叩きのめしてた」
「へ、へぇ」
「旭!そんなことより」
「そうだった。翠兄ちゃんさ、蒼見てねえか?」
「蒼?」
「うん。今日バイトの代行頼んでたんだけど、仕事中急にどっか行っちゃったらしくて、で俺もその後何度か電話してんだけど全然出なくて…」
「……」

 翠は一度黙り、殴った相手に声をかける。

「おいっ!」
「はい!」

 翠はスマホを取り出し、スマホに保存してる蒼の写真を見せた。

「こいつ見なかったか?」
「知らないっす」
「そうか。じゃあ見つけろ」
「え…?」
「聞こえなかったか?お前俺のこと崇めてんだろ。だったら早くこいつを見つけろ」
「は、はい!!」

 殴られた男子高校生は不良校、第三高校の頂点に君臨しているらしく、すぐさま手下達に連絡を入れた。見つけ次第、自分に連絡するようにと。

「旭は学校周辺とか家周辺とか探してくれるか?」
「翠兄ちゃんは?」
「俺はこいつとバイクで探してみる」
「分かった」
「そんで今から1時間以内に見つけられなければ警察に連絡しよう」
「分かった」
「頼むぞ」
「うん」

 旭と翠は別れた。
 その後、捜索をするも見つけられず警察に電話。旭と翠と警察。そして学校も巻き込み、蒼の捜索が始まった。
 夕方だったはずの空は真っ暗になる。
 警官に旭は家に帰りなさいと言われるも無視して探し続けた。
 そして、翠から連絡が入る。


 -現在に戻り。

「翠兄ちゃん!!」
「蒼は廃工場で縛られて大量に血を流した状態で見つかったんだ」
「え…」
「でも、そこに蒼をそんな目に合わしたやつは居なかった。あんな状態で放置しやがった」

 椿とその一行は、痛めるだけ痛めつけて、意識がなくなった蒼はそのままにして帰って行ったのだ。
 旭と暁には同じ人物が頭に浮かんでいた。犯人は絶対に仙道椿だと。
 泣いている蒼の家族を横目に、旭は怒った表情で病院を出る。そんな旭をすぐに追いかける翠。

「旭。犯人が分かるのか?」
「断定は出来ない。けど、おそらく」
「そうか、なら俺も行く」

 旭と翠がカチコミに行こうとするも金城先生と高槻先生に止められた。

「金城…」
「え、」

 普段学校で見る姿とは遥かに違う様子の翠に驚きが隠せない高槻先生。

「犯人は分かってるのか?」
「ああ、絶対にあいつだ。あいつは蒼を殺そうとした。今も昔も」
「それは誰だ?」
「椿、仙道椿」
「いやそれは」
「お前達が殴った相手でやっと双方で話がついたんだ。お前の勘違いだろ」
「勘違いじゃねえんだよ!!」
「何故言い切れる」
「だからさっきも言っただろ。あいつは蒼をずっと昔から狙ってるんだよ。何度も何度も殺そうとしてんだよ!!」
「……」
「金城、俺はお前てめえの言う通りに入学して勉強して生徒会長になった。だがな、これだけは従えねえ、いや、従わねぇんだよ。俺は家族が一番大切だからな!!!」

 先生と言い合いをしていると、そこへ翠の手下Aがやってきた。

「総長!」
「総長じゃねえ!!」
「弟さんをボコしたやつ見つけました」
「誰だ!!?」
「…」
「おい、聞いてんのか!」
「ヤクザです」
「は?」
「ヤクザの、仙道組の連中が数時間前、あの廃工場から出るところを見た人が何人か居たとのことです」
「そうか、良くやった」

 旭と翠は歩き出す。そんな2人を全力で止める先生。

「ダメだ、ヤクザには手を出すな」
「殺されるぞ」
「上等だ」
「ここからは警察の仕事だ」
「同じ学生ならともかくヤグサが相手ならそれは警察に任せるべきだ」
「牢屋にぶち込んでもらえ」

 金城先生、高槻先生はなんとか旭と翠を止めることに成功した。絶対に何があっても牢屋に送ることを約束して。
 2人が手術室前に戻ると、丁度中から先生が出てきた。

「手術には成功しました。しかし、油断を出来ない状態です」

 蒼が死ぬかもしれない。その状況に旭は目の前が真っ暗になった。

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