愛しの君へ

秋霧ゆう

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第1章

第26話 暴行

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 旭のバイト先を出て5分。蒼は誰かにつけられてることに気がついた。
 バイト先から出来るだけ離れ人が少ない、とある高架下にやってきた。

「ねぇ、いつまで追いかけてくるの?」
「気づいてたのか」
「そんなに殺気溢れて追いかけてきたら誰だって分かるでしょ」
「へえ」

 戦場に居たからこそ殺気には敏感に反応出来る。
 そして問答無用に蒼に殴りかかる不良共。
 1対6で普通なら蒼が負けると思うも、荒れていた翠を力ずくで止めたこともあり、蒼は結構強い。
 ほんの数秒で蒼の勝ち。

「これで勝ちだと思うなよ」

 不良達は去って行った。

「何だったんだ?」

 次の日。

「蒼ー!昨日はありがとな!!」
「宿題はちゃんと終わった?」
「終わんなかった…」
「あ、そう」
「今日も放課後居残りだ…」

 嫌な気持ちが全面に出ている旭。

「それでさ、蒼」
「何?」
「今日も…」
「バイトの代行?」
「うん…」
「はぁ、良いよ」

 特に客も来ないし暇な数時間。蒼も本を読むことは好きで、店長からも客が居ない間は本を読んでいても構わないと言われたため、むしろ有意義な時間が過ごせると思いOKを出した。

「それで、あとどのくらい残ってるの?」
「俺は冬休みの間ちゃんと勉強してたからあと、20ページだ!」
「…結構、残ってるんだね」
「でも30ページは終わったぜ。矢島はまだ45ページ残ってるからな」
「いや、残りすぎでしょ。5ページしか進まなかったってこと?」
「みたいだな。金城せんせーにも白い目で見られてた」
「桐生さん…」
「桐生さん!?なに、矢島」
「カンニング、させて下さい」

 蒼の席の横で土下座を再びする矢島。
 矢島は数学がとにかく苦手で典型的な文系なのである。

「このままじゃ俺、一生居残りだよ!」
「矢島、良いこと教えてあげようか」
「良いこと?」

 下を向いていた矢島が蒼の顔を見る。
 不気味な笑みを浮かべる蒼に大声でお願いする矢島。

「桐生さん、カンニングを!!させて下さい!!!!」
「矢島ー!!!!!」

 矢島は大声で蒼にカンニングを頼むも、丁度通りかかった金城先生に一瞬で見つかり、連れていかれた。

「良かった…」

 矢島と一緒になって土下座からのお願いをしていたら旭もまた連れていかれることになっていたため安堵の声が出た。

「それじゃ旭、頑張ってね」
「蒼もな、悪いけど頼んだ!」
「うん、任せて」

 今日もまたボロボロの店でヨボヨボなおじいちゃん店長が切り盛りしている書店にやってきた。

「待っていたよ、桐生あお君」
「あはは」

 相変わらず人は来ない。

「あお君、お茶飲む?」
「いえ、大丈夫ですよ、お気遣いなく」
「ふふっ」
「どうしたんですか?」
「旭君と全然違うね」
「え?」
「旭君だったら間髪入れずに飲むって答えるからね」
「旭っ」
「人それぞれ良さがあるからね」

 そんなたわいもない話をしていると、外に昨日出会った不良達が居る。店長はまだ気づいていないようだ。

「店長、すみません。ちょっと外出てきても良いですか?」
「お客さんも誰も居ないし大丈夫だよ」
「ありがとうございます!」

 外に出てまた少し移動する。

「昨日は世話になったな」
「世話って、君達が勝手に僕に喧嘩を売って、勝手に僕にやられただけでしょ」
「そんな訳で今日は少し仲間を連れてきた。お前強いし、少し増えても良いよな」
「自分で自分が弱いなんて言えるの才能だね、……カハッ」

 蒼が煽っていると、昨日とは別のガタイの良い男に横から腹を殴られた。
 蒼は倒れ、腹を抑え咳き込んでいる。
 息が乱れ、ガタイの良い男を睨みつける。
 ガタイの良い男は蒼の髪を引っ張る。

「うぐっ」
「昨日は部下が世話になったな。お前をぶちのめしに来た」

 蒼は男に唾を吐き、男は蒼の手を緩めた。その瞬間蒼は男の顔に蹴りをいれ、男から離れた。

「へえ、やるじゃん」
「これは、まずいね」

 そして、周りには男の仲間が集まっていた。総勢100人だろうか。
 そこからは殴って殴られて蹴って蹴られて、減らしても減らしても出てくる状況。
 倒して、逃げて、倒して、逃げてを繰り返しているうちに、人は誰も居ないような場所に追い込まれてしまう。
 そして、目の前には見覚えのあるあの男が。

「お前、何でここに」
「何でって、会いに来たんだ」

 唾を飲む蒼にニコニコの笑顔で近づいてくる仙道椿。

「はぁ、嫌になっちゃうよね。せっかく見つけた玩具なのにクソババアのせいで僕、いや俺は転校させられた。転校先はクソ田舎でお前みたいな玩具が無い」
「僕は玩具なんかじゃない」
「いいや、玩具だ。俺の玩具。痛くても辛くても俺に文句一つ言えない玩具」
「それはじいちゃんとばあちゃんが人質になってたから」
「それだけか?お前、俺のこと見てから、手が震えてるぜ?」

 蒼は左手で右腕を掴む。

「震えてなんかっ」
「いいや、震えてる、欠陥品だな」

 椿と話していると背後から鉄パイプで頭を強打され、意識を失ってしまった。
 目を覚ますと、廃工場で猿轡さるぐつわを噛まされ椅子に縛られていた。

「あ、目覚めた?」

 椿に何か言おうも猿轡のせいで何も言い返せなかった。

「無理無理、何も喋れないよね。さあ、話の続きをしようか。これからお前はまた俺の玩具になるわけだ。こっちに来てからずっと我慢してた。なあ血を流せよ」

 椿を蒼の太ももにカッターで刺した。

「うぐっ」
「ああ、良い。これだこれ。最高だ。懐かしいこの感じ。この血が出てくるこの感じ」

 蒼は椿を睨む。

「おお、怖い怖い」

 椿は蒼に付けた傷口を押す。
 声にならない蒼の叫び声が響く。

「お前軍人だろ。軍人がこの程度の傷に叫ぶのか?」

 軍人と言っても前世の話。今世では普通の高校生として生きてきた。叫ばないなど無理な話である。

「あー、うるせ。ああ、そうか。前世は人質が居たからな、人質が入れば静かになるのか?確かお前には妹が居たよな?妹を人質にお前を痛めつける、それも良いな」

 椿がそう言うと、蒼はどうにか抜け出そうともがくが、椿は蒼の顔に体にカッターで傷をつけ始める。
 お前らも殺れ、そういうと、蒼を追い詰めた不良共から蹴られ殴られ、そうして1時間以上が経った。
 蒼は全身から血を流していた。もう叫び声など出ない。

「これはさすがにやりすぎなんじゃ…」
「あ?お前もこうなりたいの?」
「いえ、すみませんでした」

 誰でも引くレベルの状態だった。

「でもそうだな、静かすぎてつまらねぇよな」

 椿は不良が持っていた鉄パイプを奪い取り、蒼の頭をぶん殴った。
 けれど、蒼からは何も声が出なかった。それどころか完全に意識がなくなったようだった。
 そんな時扉が開いた。


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