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第三十話
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「あ、なんかおつまみ的なものある? お腹空いてきちゃった☆」
「ええとポットローストならあります。温めてもってきますね」
昨日の夕食の残りがあった。ぼくはキッチンに移動し、鍋を温めて皿に盛りつけた。トレーにのせて戻るとレインがスマフォを勝手にいじっていて、おもわず熱々の肉を放り投げるところだった。
「レイン!」
あわててトレーをテーブルに置いて、スマフォをレインの手から奪うようにとる。勝手に人の携帯画面をみるなんてありえない。いくら同僚でもさすがにやりすぎだ。
眉をつり上げてレインを見ると、てへぺろと小さな舌をだしてる。
「あは☆ ごめん、勝手にスマフォ見ちゃった。退会しようとしてたんでしょ? メッセージも送っておいたよ」
「うそ……」
ひゅっと息が止まる。
「ほ・ん・と☆ ご指名は画面にあったリルくんでしょ。お気に入り登録ひとつだったからすぐわかったよ。だから、ニアっぽく丁寧な文章で退会メッセージもだして送っちゃった☆」
「な、なんてことを……」
膝から力が抜けて、愕然と天井を仰ぎみた。
天使が舞い降りてきそうなくらい、ひどいショックを受けて打ちのめされる。そんなぼくの肩をレインがポンっと叩いてグラスを差しだしてきた。
「まままま。泣いていたって失恋でしょ。今日は飲もうよ。あ、そうだ。あげたビタミン剤って飲んだ? あれ、飲むと気分がとっても上がるんだよ。ほら、いま飲んでみなよ」
「い、いまって……」
「うん、いま! 同じのやつがあるから、いま特製のやつ作ってあげるね」
とくとくとグラスに水を注がれて、慣れた手つきで白い粉を振りかけて、ぐるぐるとスプーンでかき回す。
「……レイン、ビタミン剤なんていらないです。もう夜も遅いし、帰ってください。お酒も持って帰ってゆっくり家で休んでください。明日はぼくが交通フェアにでますから」
「いいのいいの。ぼくのことは気にしないで。ね、これ飲んでぐっすり眠って」
「いや、だから……」
「いいの、ぼくのことはいいの。気にしないで。ごくっと一気飲みしちゃって」
「レイン……ぐっ……ちょっと……」
レインがグラスをもった手を傾けて、ぼくは一気に薬が混ざったものをむりやり飲まされる。
「このビタミン剤はね、ちょーっと眠くなる効果があるんだ。じわじわ効いてきて、目覚めたらお花畑にいるかもしれないぐらいにね☆」
「……そ、そうなん……ですか……」
グラスの中のものが胃の中に押し込まれて、ぜんぶ飲み切った。
気のせいか、ふわっとした浮遊感につつまれ、気のせい視界がぼやけて見える。眠くなってきた。
そのときだった。玄関扉のブザーがけたたましく鳴り響いた。
「うわっ! こんな夜中にだれだろう!?」
なんどもなんどもブザーが鳴る。
眠気がふっとび、ぼくは急いで玄関にはしる。ブザーが鳴り止まない。おまけに激しくノックしてくる。もしかしたら隣から苦情がきたのかもしれない。
玄関扉をあけようとしたら、レインが心配そうにぼくのあとをついてきた。
「ニア、開けないほうがいいよ。きっとヤバいやつだよ……」
「でも……」
「あの……、アプリから連絡いただいているララバイ☆サブスクアルファのものです。ニアさん、開けてください……」
「うわっ、ありえない。退会届けだしてから五分もたってないよ。こわっ! ニア、夜中に突然くるなんてあやしいよ。やめときなよ~」
レインがぼくの背後に立っていった。
たしかに退会してから数分しかたってない。扉のむこうからするリルくんの声に、ドアノブをつかむ手がふるえる。
どうしてこんな夜中にやってきたんだろう。それほど大事な話なのだろうか……。
でも、いまはレインがいる。今夜は夜も遅いし、挨拶だけ交わして、ちがう日に約束と取りつければいい。
「ニアさん、開けてください。だれかいるんですか? いま、あなたと話がしたい」
リルくんの悲痛な声が胸をしめつけ、おもわずドアを開ける。そこには捨てられた仔犬というよりは殺気せまる目のリルくんがいた。
「リ……ルくん……?」
「あーあ、やっぱり。もうバレちゃったか。お役ごめんだね、ニーア。せっかく大量のお酒を買ってきて、失恋中にODして死亡っていうシナリオが台なしじゃーん! おしぼりで指紋も消したのにざんねんだなぁ」
上体がうしろに引き倒されて、レインの細い前腕が喉を潰すようにホールドした。
そして、ぼくは首にヒヤリと硬くて鋭利なものが当たるのを感じた。ちょうどそこは頸動脈だ。
「ニアさん——……!」
もしかして、ぼくは玄関でグサッされちゃうのだろうか。
「ええとポットローストならあります。温めてもってきますね」
昨日の夕食の残りがあった。ぼくはキッチンに移動し、鍋を温めて皿に盛りつけた。トレーにのせて戻るとレインがスマフォを勝手にいじっていて、おもわず熱々の肉を放り投げるところだった。
「レイン!」
あわててトレーをテーブルに置いて、スマフォをレインの手から奪うようにとる。勝手に人の携帯画面をみるなんてありえない。いくら同僚でもさすがにやりすぎだ。
眉をつり上げてレインを見ると、てへぺろと小さな舌をだしてる。
「あは☆ ごめん、勝手にスマフォ見ちゃった。退会しようとしてたんでしょ? メッセージも送っておいたよ」
「うそ……」
ひゅっと息が止まる。
「ほ・ん・と☆ ご指名は画面にあったリルくんでしょ。お気に入り登録ひとつだったからすぐわかったよ。だから、ニアっぽく丁寧な文章で退会メッセージもだして送っちゃった☆」
「な、なんてことを……」
膝から力が抜けて、愕然と天井を仰ぎみた。
天使が舞い降りてきそうなくらい、ひどいショックを受けて打ちのめされる。そんなぼくの肩をレインがポンっと叩いてグラスを差しだしてきた。
「まままま。泣いていたって失恋でしょ。今日は飲もうよ。あ、そうだ。あげたビタミン剤って飲んだ? あれ、飲むと気分がとっても上がるんだよ。ほら、いま飲んでみなよ」
「い、いまって……」
「うん、いま! 同じのやつがあるから、いま特製のやつ作ってあげるね」
とくとくとグラスに水を注がれて、慣れた手つきで白い粉を振りかけて、ぐるぐるとスプーンでかき回す。
「……レイン、ビタミン剤なんていらないです。もう夜も遅いし、帰ってください。お酒も持って帰ってゆっくり家で休んでください。明日はぼくが交通フェアにでますから」
「いいのいいの。ぼくのことは気にしないで。ね、これ飲んでぐっすり眠って」
「いや、だから……」
「いいの、ぼくのことはいいの。気にしないで。ごくっと一気飲みしちゃって」
「レイン……ぐっ……ちょっと……」
レインがグラスをもった手を傾けて、ぼくは一気に薬が混ざったものをむりやり飲まされる。
「このビタミン剤はね、ちょーっと眠くなる効果があるんだ。じわじわ効いてきて、目覚めたらお花畑にいるかもしれないぐらいにね☆」
「……そ、そうなん……ですか……」
グラスの中のものが胃の中に押し込まれて、ぜんぶ飲み切った。
気のせいか、ふわっとした浮遊感につつまれ、気のせい視界がぼやけて見える。眠くなってきた。
そのときだった。玄関扉のブザーがけたたましく鳴り響いた。
「うわっ! こんな夜中にだれだろう!?」
なんどもなんどもブザーが鳴る。
眠気がふっとび、ぼくは急いで玄関にはしる。ブザーが鳴り止まない。おまけに激しくノックしてくる。もしかしたら隣から苦情がきたのかもしれない。
玄関扉をあけようとしたら、レインが心配そうにぼくのあとをついてきた。
「ニア、開けないほうがいいよ。きっとヤバいやつだよ……」
「でも……」
「あの……、アプリから連絡いただいているララバイ☆サブスクアルファのものです。ニアさん、開けてください……」
「うわっ、ありえない。退会届けだしてから五分もたってないよ。こわっ! ニア、夜中に突然くるなんてあやしいよ。やめときなよ~」
レインがぼくの背後に立っていった。
たしかに退会してから数分しかたってない。扉のむこうからするリルくんの声に、ドアノブをつかむ手がふるえる。
どうしてこんな夜中にやってきたんだろう。それほど大事な話なのだろうか……。
でも、いまはレインがいる。今夜は夜も遅いし、挨拶だけ交わして、ちがう日に約束と取りつければいい。
「ニアさん、開けてください。だれかいるんですか? いま、あなたと話がしたい」
リルくんの悲痛な声が胸をしめつけ、おもわずドアを開ける。そこには捨てられた仔犬というよりは殺気せまる目のリルくんがいた。
「リ……ルくん……?」
「あーあ、やっぱり。もうバレちゃったか。お役ごめんだね、ニーア。せっかく大量のお酒を買ってきて、失恋中にODして死亡っていうシナリオが台なしじゃーん! おしぼりで指紋も消したのにざんねんだなぁ」
上体がうしろに引き倒されて、レインの細い前腕が喉を潰すようにホールドした。
そして、ぼくは首にヒヤリと硬くて鋭利なものが当たるのを感じた。ちょうどそこは頸動脈だ。
「ニアさん——……!」
もしかして、ぼくは玄関でグサッされちゃうのだろうか。
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