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第二十六話
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……クソ。なにもできないのはもういやだ。ニアさんの疑いは晴れたし、そろそろすべてを打ち明けたい。
彼の日常は手にとるように把握していたけど、会えない日がこんなにふたりの関係をはっきりさせるなんて思いもしなかった。
ニアさんが合コンにいくと知って、リリーが絶対に偵察にいくといいだし、ぼくたちは変装して彼を監視した。
ニアさんがアーサーと話す様子を眺めて、僕は嫉妬で狂いそうになった。
しかもなんだ。リリーが冗談で眠り魔法をかけたら、こくりこくりしてしまって僕はすぐに魔法を解いた。眠って、お持ち帰りされたらどうする。
そのあと、途中から抜けたレインを別部隊があとをつけて、彼がソフィアの元締めであることがようやく判明した。
アジトに潜入するためもあり、まだ隣室であるニアさんを様子見で監視は続けることになっていたがそろそろ手を引かなければならない。
ニアさんはしゃぶしゃぶなんてところに誘われるし、ダイナー(簡易食堂)だと思ってネットで調べたら東乃国エリアではノーパンシャブシャブなんて卑猥な店だし、今日まで気が気じゃなかった。
落ちつけ、自分。
とにかくレインを捕まえればすべて解決する。あとすこしで終わるんだ。
冷静になるために顔を洗って、パチンと頬を叩いた。
僕はトイレからでて部屋にもどろうとしたとたん、廊下でだれかにぶつかった。
「あ……」
ギシリと床板がきしむ。
「ニアさん……」
相手の顔をみるやいなや、僕は本能的にかれを胸に閉じ込めてしまった。ぎゅっと抱きしめて、おもいっきり彼の香りをかぐ。
「り、りるくん?」
十日も言葉を交わしていない。すぐそばにいるのに、触れられなくてつらかった。
合コンから連絡もこなくて、アーサーを闇夜に紛れて殺めてしまいそうだった。
「会いたかった、ニアさん」
「あ、あの……」
「あっ……ごめんなさい。ずっと会ってたけど、ちゃんと触れたかったからさ。その、……きょうはお食事ですか?」
「う、うん……。そうなんだ。その、きみは?」
ニアさんはキスしそうな距離で訊いてきた。どうしよう。このまま唇を重ねてぜんぶ洗いざらいしゃべってしまいたい。
隣であなたの言葉を一語一句聞き逃さず、見守っていたと。
「……僕もです。同僚がこの店の評判を聞きつけて、連れてきてもらったんですよ」
リリーを恋人と勘違いさせたくなくて、きっぱりとした口調でいう。
「そ、そっか。ここのお酒、東乃国エリアから取り寄せているみたいだよ。さっき飲んだらほんのりあまくておいしかった」
ほんのりと頬を赤く染める顔もかわいい。ぼくがニアさんのほっぺをなでると、さらに赤くなった。
「いいな。僕もニアさんとお酒飲んでみたい。そうだ、こんど外でお食事しませんか? じつは話したいことが……」
「オーウェン!」
いいかけたところで、リリーの声が背中にかかった。
ふりかえると、満面の笑みでこっちを見ている。緊急事態発生。はやくもどってこい。濃いマスカラの目元にはそんな意味が含まれていた。
「ごめん、ニアさん。またね」
「うん。またね……」
名残惜しくて、最後にまたぎゅっと抱きしめて匂いを脳内に教え込む。
愛してる。
つよく気持ちをこめてぼくは彼から離れた。
そして部屋に戻ったとき、元締めが追手を振り切って姿を消したという情報が入っていた。
僕たちは追手から届いた情報をまつことにして、上官からの指示をまつ。
リリーがまくし立てるようにキレた口調でしゃべって、スマフォの相手に同情してしまう。
そして予定よりも早く隣にいたアーサーとニアさんは切り上げ、僕たちが話し合っている間に部屋をでていった。
「もうっ、さいあくだわ。追跡がばれてアジトは空っぽよ。薬がどこにもないらしいの。あるのは壁だけよ。やられたわ。結局、相手のほうが一枚うわてだったわね。こうなったら撤退じゃなくて、アジトごとぶっ壊すつもりなのかしら」
「どうだろう。もしそうならニアさんが危険だ」
「そうね。渡されたやつが睡眠薬で眠ったまま爆破よ。死んだら、ぜんぶ面倒事を押しつけるんじゃないかしら。壁をぶっこわして、アジトと行き来できるようにしたら、それこそ確たる証拠で死人に口なしよ?」
「……すぐにあのアパートにむかって彼を救出するよ。きみは他の捜査員とレインを探してほしい。もしかしたらまだこの周辺をうろついているかもしれない」
そのとき、スマフォに連絡が入った。
サブスクアルファ「ララバイ☆サブスクアルファ~魔防法の前にお試しアルファの恋人(仮)~」の退会のお知らせが届いていた。
『リルくんへ。いままで素敵な時間をありがとう。きみのことはずっと忘れません。ニアより さようなら』
遺書みたいなメッセージが添えられて、最後にさようならの文字があった。
ぼくは彼のアパートに無我夢中で急いだ。
このままでは本当に最後の別れになってしまう……!
彼の日常は手にとるように把握していたけど、会えない日がこんなにふたりの関係をはっきりさせるなんて思いもしなかった。
ニアさんが合コンにいくと知って、リリーが絶対に偵察にいくといいだし、ぼくたちは変装して彼を監視した。
ニアさんがアーサーと話す様子を眺めて、僕は嫉妬で狂いそうになった。
しかもなんだ。リリーが冗談で眠り魔法をかけたら、こくりこくりしてしまって僕はすぐに魔法を解いた。眠って、お持ち帰りされたらどうする。
そのあと、途中から抜けたレインを別部隊があとをつけて、彼がソフィアの元締めであることがようやく判明した。
アジトに潜入するためもあり、まだ隣室であるニアさんを様子見で監視は続けることになっていたがそろそろ手を引かなければならない。
ニアさんはしゃぶしゃぶなんてところに誘われるし、ダイナー(簡易食堂)だと思ってネットで調べたら東乃国エリアではノーパンシャブシャブなんて卑猥な店だし、今日まで気が気じゃなかった。
落ちつけ、自分。
とにかくレインを捕まえればすべて解決する。あとすこしで終わるんだ。
冷静になるために顔を洗って、パチンと頬を叩いた。
僕はトイレからでて部屋にもどろうとしたとたん、廊下でだれかにぶつかった。
「あ……」
ギシリと床板がきしむ。
「ニアさん……」
相手の顔をみるやいなや、僕は本能的にかれを胸に閉じ込めてしまった。ぎゅっと抱きしめて、おもいっきり彼の香りをかぐ。
「り、りるくん?」
十日も言葉を交わしていない。すぐそばにいるのに、触れられなくてつらかった。
合コンから連絡もこなくて、アーサーを闇夜に紛れて殺めてしまいそうだった。
「会いたかった、ニアさん」
「あ、あの……」
「あっ……ごめんなさい。ずっと会ってたけど、ちゃんと触れたかったからさ。その、……きょうはお食事ですか?」
「う、うん……。そうなんだ。その、きみは?」
ニアさんはキスしそうな距離で訊いてきた。どうしよう。このまま唇を重ねてぜんぶ洗いざらいしゃべってしまいたい。
隣であなたの言葉を一語一句聞き逃さず、見守っていたと。
「……僕もです。同僚がこの店の評判を聞きつけて、連れてきてもらったんですよ」
リリーを恋人と勘違いさせたくなくて、きっぱりとした口調でいう。
「そ、そっか。ここのお酒、東乃国エリアから取り寄せているみたいだよ。さっき飲んだらほんのりあまくておいしかった」
ほんのりと頬を赤く染める顔もかわいい。ぼくがニアさんのほっぺをなでると、さらに赤くなった。
「いいな。僕もニアさんとお酒飲んでみたい。そうだ、こんど外でお食事しませんか? じつは話したいことが……」
「オーウェン!」
いいかけたところで、リリーの声が背中にかかった。
ふりかえると、満面の笑みでこっちを見ている。緊急事態発生。はやくもどってこい。濃いマスカラの目元にはそんな意味が含まれていた。
「ごめん、ニアさん。またね」
「うん。またね……」
名残惜しくて、最後にまたぎゅっと抱きしめて匂いを脳内に教え込む。
愛してる。
つよく気持ちをこめてぼくは彼から離れた。
そして部屋に戻ったとき、元締めが追手を振り切って姿を消したという情報が入っていた。
僕たちは追手から届いた情報をまつことにして、上官からの指示をまつ。
リリーがまくし立てるようにキレた口調でしゃべって、スマフォの相手に同情してしまう。
そして予定よりも早く隣にいたアーサーとニアさんは切り上げ、僕たちが話し合っている間に部屋をでていった。
「もうっ、さいあくだわ。追跡がばれてアジトは空っぽよ。薬がどこにもないらしいの。あるのは壁だけよ。やられたわ。結局、相手のほうが一枚うわてだったわね。こうなったら撤退じゃなくて、アジトごとぶっ壊すつもりなのかしら」
「どうだろう。もしそうならニアさんが危険だ」
「そうね。渡されたやつが睡眠薬で眠ったまま爆破よ。死んだら、ぜんぶ面倒事を押しつけるんじゃないかしら。壁をぶっこわして、アジトと行き来できるようにしたら、それこそ確たる証拠で死人に口なしよ?」
「……すぐにあのアパートにむかって彼を救出するよ。きみは他の捜査員とレインを探してほしい。もしかしたらまだこの周辺をうろついているかもしれない」
そのとき、スマフォに連絡が入った。
サブスクアルファ「ララバイ☆サブスクアルファ~魔防法の前にお試しアルファの恋人(仮)~」の退会のお知らせが届いていた。
『リルくんへ。いままで素敵な時間をありがとう。きみのことはずっと忘れません。ニアより さようなら』
遺書みたいなメッセージが添えられて、最後にさようならの文字があった。
ぼくは彼のアパートに無我夢中で急いだ。
このままでは本当に最後の別れになってしまう……!
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