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第二十四話
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☆☆
「こっちこっち~!」
ぶんぶんと手をふるアーサーくん。
店に入ると二階へ案内されて、ぼくは軋む階段を上がりながら、個室に通された。
すでに隣も予約で入っていて、だれからも見えないように部屋は閉じられていた。
「す、すみません……。仕事を片づけていたら遅くなってしまって」
「いいよ。いいよ。だいじょーぶ。そういうの慣れているし、きょうはゆっくりおいしいものたべよ~」
すでに両手鍋がセットされていて、ネットで調べたいかがわしさはない。おいしそうな赤みの肉が丸皿にのせられ、野菜がこんもりと盛ったあった。
アーサーくんはぼくに並々と注がれたグラスを手渡して言葉を継ぐ。
「この店さ、物騒なところに立ってるでしょ。だからいっつも心配でさ。できればもっといい立地に引っ越せっていってるんだけどさ。全然聞いてくれなくてさ。ニアちゃんもポメがきたら挨拶しにきたらなんかいってやって~」
「ええと、そのまえにポメっていうと……?」
「ああ、ごめん。ポメラっていう名前でポメってよんでいるんだ。幼稚園舎から一緒で初等部のときにポメが引越して音沙汰なかったんだけど、上官とこの店に入ってばったり再会してね。それから通っていまや常連なんだ」
「素敵な友情ですね。ええと、ポメさんはずっとここでしゃぶしゃぶをやってらっしゃるんですか?」
「うーん、そうみたい。まあ、とにかく物騒だしさ、僕みたいな騎士団の一人がいたらへんな客もよりつかないんだ。だから通っていたらいつのまにか常連客だよ」
「アーサーさんはポメさん想いなんですね」
ポメさんのことを褒めると、ほんのりと顔を赤くしてアーサーくんはポリポリと顔を掻いた。
確かにここは歓楽街では有数の治安の悪さを誇る地区だし、脱泡ドラッグや違法ドラッグなど関係者がいるという噂が絶えない。
正直なところ、さっき一人で歩いてきたけど、へんな人ばかりで怖かった。
ポメさんという友人のために用心棒として通うなんてちょっとカッコイイ。
「あ、あの…アーサー……。料理を運んできたんだけど……」
いつのまにか例のポメさんが飲み物を運んでやってきていた。小柄なオメガの男性で、こまった表情が庇護欲を駆り立てそうな弱々しさを感じた。
「うわっ、ポメ! ごめん!」
「いいんだ。えっと、その……楽しんでね……」
彼は簡単な挨拶をして、すぐに隣の部屋へいってしまった。心なしか元気がなさそうに見えたけど、週末なので店も繫盛して忙しいせいかもしれない。
ぼくたちは運ばれてきたビールで乾杯して、改めて膝をむけて挨拶を交わす。
箸のほかにトングも用意されていたが、アーサーくんは慣れた手つきで箸で野菜を鍋に入れはじめた。
「こないだの合コンはありがとう。実はレインちゃんにも誘われていたんだけど、あれからニアちゃんが気になってさ。急に誘ってごめんね」
「い、いえ……べつに……。ぼくこそ誘ってくださってありがとうございます」
実は断ろうとしてたなんて思ってごめんなさい。と心のなかで謝る。
「僕さ、アルコールはいるとペラペラ趣味の話をしちゃうんだよね。ずっと機器とかメカの話をしちゃってたでしょ。あれからルーベンスにいやみをいわれちゃってさ。正直、眠たかったでしょう?」
「い、いや……。すごくためになりました。ええと、そういえばあの発見器なんですけど……、ちょっとなんだか壊れているみたいで……」
おずおずと鞄から例の発見器をだして見せると、リルくんがびっくりした顔になった。
「え、壊れてる? そんなばかな……」
ずいっとリルくん似の顔がよせられて、気のせいか背後からピシッとラップ音がなった。建付が古いといっていたけど、気のせいだろうか。
「ええと。その、大変言いにくいのですがスイッチを押したとたん、ずっとブザーが鳴りっぱなしなんです。その、……大事なものですし、お返ししますね。ぼくの部屋には盗聴器なんて縁もゆかりもないので必要ないですし」
「えええ! そんなバカな。ちょっとみせて。うーん……、おかしいところはないけど……」
アーサーくんは手にとってしげしげと眺めて誤作動がないか確かめはじめた。
スイッチを押すと、かすかに反応があった。アーサーくんが個室をぐるぐるまわって、盗聴器発見器を空中にふりながら反応を確かめている。
ビビビッという鋭い音がして、アーサーくんが壁掛けの絵をひっくり返す。
「誤作動ではないよ。ほら、ここをみて。東乃国エリアでは掛け軸っていうんだけど、ここにひとつだけあった。盗聴器なんてどうして店にこんなものを仕掛けたんだろう」
長方形の絵のうらに黒くて小さなものがはりつけられていた。
アーサーくんはそれを剝ぎ取ってぐしゃりと指で潰す。そしてぼくのほうをむいて言葉を継いだ。
「ニアちゃん。きみさ、だれかに狙われてない?」
「こっちこっち~!」
ぶんぶんと手をふるアーサーくん。
店に入ると二階へ案内されて、ぼくは軋む階段を上がりながら、個室に通された。
すでに隣も予約で入っていて、だれからも見えないように部屋は閉じられていた。
「す、すみません……。仕事を片づけていたら遅くなってしまって」
「いいよ。いいよ。だいじょーぶ。そういうの慣れているし、きょうはゆっくりおいしいものたべよ~」
すでに両手鍋がセットされていて、ネットで調べたいかがわしさはない。おいしそうな赤みの肉が丸皿にのせられ、野菜がこんもりと盛ったあった。
アーサーくんはぼくに並々と注がれたグラスを手渡して言葉を継ぐ。
「この店さ、物騒なところに立ってるでしょ。だからいっつも心配でさ。できればもっといい立地に引っ越せっていってるんだけどさ。全然聞いてくれなくてさ。ニアちゃんもポメがきたら挨拶しにきたらなんかいってやって~」
「ええと、そのまえにポメっていうと……?」
「ああ、ごめん。ポメラっていう名前でポメってよんでいるんだ。幼稚園舎から一緒で初等部のときにポメが引越して音沙汰なかったんだけど、上官とこの店に入ってばったり再会してね。それから通っていまや常連なんだ」
「素敵な友情ですね。ええと、ポメさんはずっとここでしゃぶしゃぶをやってらっしゃるんですか?」
「うーん、そうみたい。まあ、とにかく物騒だしさ、僕みたいな騎士団の一人がいたらへんな客もよりつかないんだ。だから通っていたらいつのまにか常連客だよ」
「アーサーさんはポメさん想いなんですね」
ポメさんのことを褒めると、ほんのりと顔を赤くしてアーサーくんはポリポリと顔を掻いた。
確かにここは歓楽街では有数の治安の悪さを誇る地区だし、脱泡ドラッグや違法ドラッグなど関係者がいるという噂が絶えない。
正直なところ、さっき一人で歩いてきたけど、へんな人ばかりで怖かった。
ポメさんという友人のために用心棒として通うなんてちょっとカッコイイ。
「あ、あの…アーサー……。料理を運んできたんだけど……」
いつのまにか例のポメさんが飲み物を運んでやってきていた。小柄なオメガの男性で、こまった表情が庇護欲を駆り立てそうな弱々しさを感じた。
「うわっ、ポメ! ごめん!」
「いいんだ。えっと、その……楽しんでね……」
彼は簡単な挨拶をして、すぐに隣の部屋へいってしまった。心なしか元気がなさそうに見えたけど、週末なので店も繫盛して忙しいせいかもしれない。
ぼくたちは運ばれてきたビールで乾杯して、改めて膝をむけて挨拶を交わす。
箸のほかにトングも用意されていたが、アーサーくんは慣れた手つきで箸で野菜を鍋に入れはじめた。
「こないだの合コンはありがとう。実はレインちゃんにも誘われていたんだけど、あれからニアちゃんが気になってさ。急に誘ってごめんね」
「い、いえ……べつに……。ぼくこそ誘ってくださってありがとうございます」
実は断ろうとしてたなんて思ってごめんなさい。と心のなかで謝る。
「僕さ、アルコールはいるとペラペラ趣味の話をしちゃうんだよね。ずっと機器とかメカの話をしちゃってたでしょ。あれからルーベンスにいやみをいわれちゃってさ。正直、眠たかったでしょう?」
「い、いや……。すごくためになりました。ええと、そういえばあの発見器なんですけど……、ちょっとなんだか壊れているみたいで……」
おずおずと鞄から例の発見器をだして見せると、リルくんがびっくりした顔になった。
「え、壊れてる? そんなばかな……」
ずいっとリルくん似の顔がよせられて、気のせいか背後からピシッとラップ音がなった。建付が古いといっていたけど、気のせいだろうか。
「ええと。その、大変言いにくいのですがスイッチを押したとたん、ずっとブザーが鳴りっぱなしなんです。その、……大事なものですし、お返ししますね。ぼくの部屋には盗聴器なんて縁もゆかりもないので必要ないですし」
「えええ! そんなバカな。ちょっとみせて。うーん……、おかしいところはないけど……」
アーサーくんは手にとってしげしげと眺めて誤作動がないか確かめはじめた。
スイッチを押すと、かすかに反応があった。アーサーくんが個室をぐるぐるまわって、盗聴器発見器を空中にふりながら反応を確かめている。
ビビビッという鋭い音がして、アーサーくんが壁掛けの絵をひっくり返す。
「誤作動ではないよ。ほら、ここをみて。東乃国エリアでは掛け軸っていうんだけど、ここにひとつだけあった。盗聴器なんてどうして店にこんなものを仕掛けたんだろう」
長方形の絵のうらに黒くて小さなものがはりつけられていた。
アーサーくんはそれを剝ぎ取ってぐしゃりと指で潰す。そしてぼくのほうをむいて言葉を継いだ。
「ニアちゃん。きみさ、だれかに狙われてない?」
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