上 下
19 / 29

第二十話

しおりを挟む
 そのあとはあっというまだった。
 竜人であるルーベンスくんと話したけど、盛り上がることなく、ぼくは酔っぱらいギルの愚痴を聞く羽目になった。手元にあったワインに口をつけると、また眠くなって限界に達してしまう。

 急用ができたというレインが早々と引き上げ、ぼくたちは落穂ひろいのような会話を交わして解散することになった。
 ちなみにレインはちゃっかり全員と連絡先を交換して帰っていき、あとで教えてあげるねと耳元で囁いてウィンクして帰っていった強者だ。
 恋人をつくるという大義名分を予定していたとおり、できるはずもなく、合コンという飲み会は幕を閉じた。

 ロンさんの姿がなくて心配になったら、どうやら酔っ払って獣化してしまったらしい。ギルがあわててかけよっていき、厄介事になるまえにはやく店をでろとジェスチャーをした。
 ルーベンスくんも追っていき、ぼくとアーサーくんは代わりに会計を済ませた。

 結局、ルーベンスくんがロンさんを送っていく旨が伝えられ、ぼくたちは二次会にいくこともなく解散することになった。
 別れ際、アーサーくんから次のデートに誘われた。どうしようと思ったが、東乃国エリアの知り合いがやっているしゃぶしゃぶらしい。
 にこっとリルくん似の笑顔をむけられ、両手でぼくの右手をつつむ。

「友人がやっているところなんだ。週末ひまなら一緒にいかない?」
「……ええと、はい。仕事終わりなら」
「よかった。うれしいよ。じゃ、あとで連絡するね。またね~!」

 そういうと手をぱっと離して、アーサーくんは長ったらしい話も披露せず、爽やかに去っていった。去り際はあでやかで、あっというまに姿がみえなくなった。
 ルーベンスくんもロンさんを抱いて運んで帰っていく背中がみえて、ぼくも家路につく。

 どこにもよらず、まっすぐにアパートに帰宅する。
 瞼が落ちそうになりながらも熱いシャワーを浴びて、パジャマに着替えて、脱いだものを洗濯物をドラムにいれようとして、ポケットにあった盗聴器に気づく。

 スイッチを入れたとたん、発見器が大音量で鳴りだして止まらなかった。

 ビービービービビビビビ!!

「うわわわわわわっ……!!」

 ビービーと目が覚めるような音を立てて、ものすごいバイブレーションで振動して、ぼくは飛び上がって尻もちをついた。
 寝室でもためしてみたらぶるぶると激しく震えて、爆発して壊れそうだ。天井や壁、床にむけてもビービーとどこにでも反応してしまう。

 念のためにクローゼットのちかくにむけると、音と振動が最大になって急いでスイッチを切った。

「わ、わわ…。びっくりした。これ、壊れてるかな……。自信作っていってたけど、もしかしたら欠陥品か失敗作かも……」

 おもわずぷっと笑いが噴きこぼれた。
 つぎにアーサーに会ったときに返しておこう。

 リルくんに似たアーサー。壊れたガラクタを渡して、しゃぶしゃぶに誘ってくれた。いい人だけど、薀蓄が長くて好みだけども、どうもしっくりこない。

 ……うーん、やっぱりだめだ。

 ごろんとベッドになだれ込むようにつっぷす。毎日リルくんを呼んでいたせいか、しんとした静かさがさびしい。

 リルくん。いま、なにしてるのかな……。

 そう思っても、プライベートな連絡先はしらないし、なにをしているなんて知るわけがない。
 会わないでいる時間がふたりをつくるというけれど、ふたりの関係をはっきりと明示させてくれるだけだ。

「……ぼくたちは恋人じゃないもんな……。でも、やっぱりあいたいな……」

 すぐにアプリを通してコールボタンを押したいところだけど、今日はもう電池切れで力がでない。
 週末だし、しつこい客だと思われてはむこうからチェンジされるのもいやだ。まぶたを閉じるとムズムズして、そろりと右手が下の方にいってしまう。

 アーサーくん、リルくんにちょっとだけ体型も似ていたなあ……。

「……んッ…、んんっ」

 つんとシャツの下で、胸の尖りがさわってくれとねだっていた。空いた手で片方をつまんでひっぱる。いつもならリルくんにひっぱられただけでイッちゃうのに今夜はそうでもない。

「…ふっ……、リルく……ん……、すき……」

 アーサーくんの話を聞きながら、リルくんのことばかり考えてしまっていたことに罪悪感がつのる。
 まるであの店のどこかにリルくんに見つめられているような熱い視線を感じて、全然頭に入らなかった。

 ……だめだな。店にリルくんがいるわけないのに。ぼくはなにを勝手に期待していたんだろう。突然現れて、あの合コンからきみはぼくのものなんだとヒーローのように連れ去ってしまうなんて妄想もいき過ぎだ。

 ゆるゆるとした動きから、右手の速度がはやまる。リルくんのものはもっと熱くて太い。
 すぐにおもらししてしまって、ここに栓をしたらといっていたっけ……。

「……ッ…、あッ」

 かなしいかな。ぼくはリルくんの声と顔を浮かべて、二回ほど達してしまった。たぶん、本当のぼくのことをリルくんが知ったら軽蔑するかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君の番として映りたい【オメガバース】

さか【傘路さか】
BL
全9話/オメガバース/休業中の俳優アルファ×ライター業で性別を隠すオメガ/受視点/ 『水曜日の最初の上映回。左右から見たら中央あたり、前後で見たら後ろあたり。同じ座席にあのアルファは座っている』 ライター業をしている山吹は、家の近くのミニシアターで上映料が安い曜日に、最初の上映を観る習慣がある。ある時から、同じ人物が同じ回を、同じような席で見ている事に気がつく。 その人物は、俳優業をしている村雨だった。 山吹は昔から村雨のファンであり、だからこそ声を掛けるつもりはなかった。 だが、とある日。村雨の忘れ物を届けたことをきっかけに、休業中である彼と気晴らしに外出をする習慣がはじまってしまう。 ※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。 無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。 自サイト: https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/ 誤字脱字報告フォーム: https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f

獅子王と後宮の白虎

三国華子
BL
#2020男子後宮BL 参加作品 間違えて獅子王のハーレムに入ってしまった白虎のお話です。 オメガバースです。 受けがゴリマッチョから細マッチョに変化します。 ムーンライトノベルズ様にて先行公開しております。

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

要らないオメガは従者を望む

雪紫
BL
伯爵家次男、オメガのリオ・アイリーンは発情期の度に従者であるシルヴェスター・ダニングに抱かれている。 アルファの従者×オメガの主の話。 他サイトでも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

見習い薬師は臆病者を抱いて眠る

XCX
BL
見習い薬師であるティオは、同期である兵士のソルダートに叶わぬ恋心を抱いていた。だが、生きて戻れる保証のない、未知未踏の深淵の森への探索隊の一員に選ばれたティオは、玉砕を知りつつも想いを告げる。 傷心のまま探索に出発した彼は、森の中で一人はぐれてしまう。身を守る術を持たないティオは——。 人嫌いな子持ち狐獣人×見習い薬師。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

処理中です...