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第九話

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『僕がサブスクアルファにですか……』
『ああ、よろしくたのむ。きみしかいないんだ』

 上官は深くうなづいて、一枚の羊皮紙を残してシュッと煙のように姿を消した。
 重大犯罪局ならではの立ち去り方といっていい。 

『ソフィア』

 もともとは対オメガの抑制剤だった。幻覚作用と高揚感がつよく作用するため、ヒート以外にも使用するものが増え、いまや夜の街にまで跋扈している違法魔法薬物となっている。
 警察局刑事部での捜査は難航し、魔法取締局も手こずっているらしく、主犯は尻尾すらださない。その慎重ぶりに上層部は頭を悩ませていた。
 にっちもさっちもいかない捜査に見かねた高官エリートの参事官により、とうとう宰相管轄重大犯罪局特命係に白羽の矢が立った。
 すぐにドラッグディーラーのアジトと元締めをみつけろという命令が下され、僕たちが動く羽目になってしまった。

 アジトはすぐに目星をつけることができた。先月に逮捕された客のオークの足取りから、それらしいアパートが候補に挙がったのだ。
 そのアパートを拠点として、魔法薬を調合し、キャバクラや風俗店を媒介にオメガ性の獣人や人間に売りつけているらしい。

 おまけに警察内部に元締めがいるという情報もつかんだ。わかるのはただ一つ、オメガ性だということだけ。
 ただし、警察内部にオメガ性は何人も存在する。僕たち特命係はアジトとその元締めについてさらなる情報収集の任務を課せられた。

 アパートの場所は二階の角部屋で、ふだんは見張りが一人だけ。隣人は警察官だが、オメガ性でかなりあやしい。黒にちかいグレーともいえ、内部協力者かもしれない。
 隣室に大量の違法ドラッグを抱え、隣室にディーラーを呼び寄せて夜の街で売りさばいているという可能性もある。

 僕たちが一番に目をつけたのが隣人であるその警察官だ。
 魔法省事刑事局生活保安課風俗係第三課。ニア・パタル。第二の性はオメガ。中種のチンチラで、地の精とのハーフ。
 趣味は土いじり、恋人はいない。
 勤務態度はよく、真面目で無口な警察官。アジトの隣に住んでいるがそれがたまたまなのか、故意なのか……。
 とにかく警戒心だけはつよいオメガを誘きだせるように頭をひねり、彼が魔防法対象者にちかいことにヒントを得た。
 この国では必ずオメガは番いを持たなければならない。

 それなら、お試しにサブスクでアルファがくればいいんじゃない? 

 同僚のリリーが笑いながら僕の脇腹をつついたのがきっかけだった。

 そういう経緯もあり、僕たちは偽のデリヘル店をつくり、大型店店舗と称してディーラーを呼び寄せることにした。簡単な広告を打ち出し、信用に値する情報を流せば老舗店として誕生できる。

 元締めならばすぐに目をつけて、客として利用しながら、近づいてくるはずだ。

 それとなく警察内部に情報を流したところ、その彼がサブスクアルファを始めるらしい。うまく釣るため、僕たちの店にアクセスできるようにスマフォをハックして、利用できるようにして誘きよせるのとに成功した。

 そんなわけで僕はサブスクアルファに扮し、隣室のアジトの様子を探りつつ、その隣人が元締めであるか調べていた。


「……んっ」

「ニアさん、すごく熱いね。ここ、入口なのに触れるだけでキュッてなってるよ?」

「……ぁっ……あっ……はずかしい」
 
 彼のうなじが桃色に染まり、ふわりと透明感のあるアンバーな香りが弾ける。くらりときそうになるのを堪えた。
 僕は五本指で一番長さがある中指があらぬ場所をいったりきたりする。もったいつけて往復するたびに締めつけて、ほんのりと浅くなった膝がガグガク震えるのをみて満足してしまう。
 
 ……やばい。すごくかわいい。

「ニアさん、このまま僕の上にのってもらっていい? シックスナインしようよ」

「ひゃッ……ごめん……変な声でた。しししっくすって……はずかしいよ……」

「ふふふ。もっと恥ずかしがってよ。それにもっと声だして。身体がいかないでって締めつけてるのもかわいいけど、もっとニアさんにきもちいいっていってほしいからさ」

 本当はもっともっと欲しがって、求めてほしい。
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